異世界の街
あれから少し一悶着あったが、無事二人の人外の部位を消せたので、俯瞰していた崖から降り、今、俺達は整地された道を歩いていた。
街の近くというのもあってなのか、魔物の気配っぽいのとかは感じられず、旅の商人らしき者や荷運びの馬車っぽいのがちらほらと見受けられる。
いやぁ、良いね、ファンタジー感がより出てきた。
今までファンタジーを感じられる瞬間って、大抵が一歩間違えれば死に直結しそうな場面ばかりだったからね、うん。
転生事故を起こしたり、目の前が天変地異並みの戦闘起こってたり、暫く人間に会えなかったり…多分幸運値が低いんだろうな、泣けてくるぜ。
所々では商人同士で会話してたり、物を売り買いしたり、物々交換したりしてるのも見受けられる。
結構自由が高そうだ。あぁ言ったのって制限されてたりしそうなものだが、街道の真ん前で行ってるのを見る限り、そういったのもきっと無いのだろう。
そんな光景を物珍しそうに見ながら歩いていれば、唐突に後ろから小突かれた。
「しゃんとしておけ、田舎の出だと馬鹿にされるぞ」
「いや、だってよ。感動的じゃん、仕方ねぇじゃん。人だぞ、人。それにあのやり取りとかThe・中世みたいな感じじゃん、目も引かれるって」
「いや…えっと…そ、そうか……」
グラニアは俺が周りに馬鹿にされぬ様にと気遣って窘めたのに、逆に引きそうなレベルで力説してくる俺に言葉を詰まらせる。てかホントに若干引いてるな、お前。
「阿呆な事しとらんでさっさと歩かぬか、もう目の前ぞ。ほれ」
「いッッ_!!」
グラニアでは俺を強く説得出来ないと判断したのだろう、フェミリアが急かすようにして俺の背を少し強めに叩いてくる。
「ッ〜〜…ゴリラがよぉ…」
「ごりら、と言うものを儂は知らぬが褒めておらぬことは理解出来るの、もう一発いっておくか?」
「だー!! わーったよ、さっさと行こうぜ!」
スッともう一発叩けるように手を上げた彼女に、流石に折れるしかなく半ばやけくそ気味にズンズンと街の門へと向かって歩き始める。
そんな俺を後ろの二人は眺めながらフェミリアはグラニアの方へと視線を向けた。
「あの阿呆相手に真面目に付き合っていては埒が明かんからの、そこらはお主よりも儂のほうが良さそうじゃな」
「あぁ…そのようだな、昔のお前を相手している気分になった。…いや、今でもそう変わらん気がするな」
「……やはり放っておいても良さげじゃな、お主は」
心配した自分が馬鹿だったと言うように深いため息をつく相手に、クスクスと笑いを零してから、グラニアは少し先へと行ってしまったイツキの後を追うため相手を少し急かして歩き始めた。
* * *
「__入れないってどういうこった…?」
俺は二人よりも先に街へ入る列に加わって、順番を待ち、いよいよ周ってきたという所で何故か足止めを食らっていた。
理由を聞きたいため、他にも門兵は居たし、目の前のおっさんを捕まえて列から抜け出し、話を聞いていた。
「どうもこうも、出土不明の不審なやからを街に入れることは出来んと言ってるのだ」
「他の奴らは確認とかされずとも入れてるじゃねぇか」
「あの人らはちゃんと記録が残っている、何よりも俺達が覚えているからな。だからこそ確認無しに通ることが出来ている」
あぁ、成る程、記憶力お化けってことか。異世界の住人スペック高ぇな。
「ん〜…んじゃ、どうすりゃ入れてくれんだ?」
「身分を証明すれば良い。何処出身だ、お前は」
「地球」
「……巫山戯てるのか?」
俺の安全性やら何やらを記録する為なのだろう、羊皮紙を取り出し、質問の答えを書き留めようとしていたペンが止まり、ジト目でこちらを見てくるおっさん。
男のジト目ってそこまで需要がねえって言われてるけど、成る程な、確かにねえわ。
「大真面目だっての。地球出身日本国生まれ生粋のジャパニーズマンだ」
「今の発言でお前の怪しさは十割増しだな」
「何故にっ!?」
無慈悲とも取れるおっさんの容赦ない言葉に愕然とした表情を浮かべる俺。
そして会話は出来るものの、こちらの文字を知らない俺だが、今羊皮紙書かれた文字は何となく分かるな。
絶対「怪しい男」だ。
読める…読めるぞ…!
そんなどこぞの大佐のセリフを脳内で再生しつつ、羊皮紙の文字を見てから、俺は再びおっさんを見やる。
「おい見てくれよ、俺みたいに清廉潔白で人畜無害な男なんてそうそう居ないぞ。怪しさどころか危険度すら0だろ」
「そんな清廉潔白ならさっさと出土を教えろと言っているんだ」
「だから地球だって言ってんだろ、脳味噌が粘土で作られてんのかおっさん」
「三秒前にお前自身が発した言葉を、一切覚えて無さそうなくらいの暴言が出たなおい」
「はんっ! 確かに俺は清廉潔白かつ人畜無害ではあるが、同時に売られた喧嘩は買って何倍にも返す主義でもあるのさ!」
「とんでもねぇこと言いやがるなお前?!」
「はっはー! 何とでも言いやがれ、おっさ_ふげっ」
そんな不毛とも言えよう言い合いを、人目も憚らずワーギャーと騒ぎ立てていれば不意に俺の頭に衝撃が走り、何とも情けない言葉が口から漏れる。
「なーにをしとんじゃ、貴様は」
「っ〜〜、てぇー…何しやがんだフェミリア!」
「儂は当然のことをしたまでよ。して、もう一度問うが、門前で何をしとんじゃ貴様は」
「何もこれもねぇよ、このおっさんが入れねぇって言うから何でだよって問答してただけだ」
そんな言い分を聞けばフェミリアは、ハァ〜…と盛大な溜め息を吐き出す。
その反応はちと遺憾だ、異議を唱える。
「我の連れが失礼したな、だが街に入りたいのは確かだ。何が必要だ」
この有様では話すらまともに進まないだろうと判断したのだろう、グラニアが一歩前へと出ておっさんと話し始める。
おっさんの方も俺を相手にするよりかは幾分もマシだと判断したのか、グラニアとの会話に集中し始めた。
それからは早いものでトントン拍子に話は進み、街に入れることになった。グラニア様々である。
おっさんは最後の最後まで俺を入れることを渋る顔をしていたが。
「じゃあな、おっさん。次来たときは止めずに入れてくれよ」
「一応言っておくが俺はおっさんと言われる歳じゃねぇからな」
「そうかい、そいつは悪かったなおっさん。息災でな」
「次はぜってえ入れねえからな、クソガキ」
そんな言葉を聞こえなかったフリをして、肩を小さく竦めてから、街中へと歩きつつヒラヒラと手を振って別れを告げる。
全く失礼な話である。俺を入れるのに渋るくらいならこいつらを入れるのも渋れ、下手すれば街が消し飛ぶんだぞ。
まぁ、言葉にはしないが。
「一悶着あったが、無事入れたな。良かった良かった」
「全く、誰のせいじゃと…」
「この男と一緒だと苦労が多そうだな、短期間でこれなのだから」
満足気な俺とは違い、後ろの二人が口々に漏らしているが聞こえなかったフリをして俺は先を歩く。
異世界の街に来たなら先ず向かうのは__やはりあそこだな。
* * *
「やって来たぜ、冒険者ギルド!」
俺は天高々に両の拳を突き上げ、建物前で声を放つ。
くぅ〜〜、もし仮にRPGの世界とかに行けたら一度は行けたら良いなとか思ってたんだよな。それが現実になるとは…!
あ、冒険者登録とかはしねぇッス。死にたくないんで。
そんな俺を街行く人々はクスクスと笑ったり、奇異な目で見てきたりする。
が、残念だったな!ロマンに生きる男にんなもん効きやしねぇぜ!
「…儂、今だけ此奴とは他人のふりをしても良いかの」
「お前と同意見なのは業腹だが、我も同じく思うな」
「おい、そこ二人、さっさと行こうぜ。お前らが居なきゃ進められない話も多分あるからよ」
そう言って引き攣った顔をする後ろの二人を急かしてから、俺は冒険者ギルドの中へと入り、二人も渋々といった様子で中へと入った。