第二のクソゲーの始まり
__人生ってのはクソゲーだ。
死ぬまでの暇潰しに過ぎない。
こんな碌でも無い考えを常に持ち、日々を無為に生きてきた。
きっと神ですら、こんな奴の命は拾いたくないだろう。
俺だったら間違いなく、拾うなんて真平御免だ。
だが、奇特なモノは人間にもいれば、神にもどうやら存在したらしい。
捨てる神あれば拾う神ありってやつだ。こちらからすれば傍迷惑な話である
まぁ、そういった奴に限って大抵は同じ性格か質だ。類友みたいなあれ。
つまり何が言いたいか?簡単な話だ。
どうやら俺は、碌でも無い神の手によって二度目の人生を歩まされるらしい。
* * *
「遂にバグったか…クソゲー極まれりだな…」
俺は今、何故か目の前で起こってる訳の分からん怪獣大戦争を、胡座を搔き、頬杖をついて眺めながらポツリと呟いた。
「はぁー……異世界転生はラノベやなろうだけで十分だっての、何でそんな奇跡体験アン○リーバボーを俺がしなきゃならねぇんだ__っぶね、今掠ったぞ…」
盛大なため息をつきながら、頭をガシガシと掻いてぼやきつつ、弾丸の如く飛んで来て頬を掠めた礫に冷や汗を掻く。
何故そんな簡単に異世界転生だと決め付けたか。理由など些末なものだ。
俺は自殺をした。
あまりにも面白みのない世界、理不尽な事柄や社会のしがらみ、そして色味が全く無い無為に過ぎ去る褪せた日々。
在り来り過ぎる人生に嫌気が差し、生きる価値も意味も何も見出だせなかった。
死んだところで悲しむ奴は生憎と一人も居やしなかった。
知り合いや友達と呼べるやつは皆無だったからな。
だから、自殺をした。
屋上から飛び降りたのだ。異世界転生の鍵であるトラックじゃないからな?
この瞬間でも思い出せる記憶と感覚。
フェンスを乗り越え、体を前に倒すと一瞬の浮遊感。
天地は逆転し、頭から足先に掛けて空を切る感触。
長い間、浮遊感を楽しんだが、きっとあの時そう感じただけであって、実は刹那の出来事だったのかもしれない。
空が随分と遠いな、と思った次の視界に映った景色はただの黒であり、意識はそこで途絶えたのだ。
…自分で思い返しといて何だが、ちょっと気味が悪いな。背筋が寒くなった。
「……せめて異世界転生はもっとこう、主人公っぽい奴にでもやらせとけよ、やった神はあれか? 顔に節穴でも付いてんのか、生活とか大変そうだなおい」
思い返したのは自分だが、思考と感覚を追い出すように頭を振り、憎まれ口を叩いて誤魔化す。
まぁ、実際この憎まれ口は思ったことを素直に言ったまでだ。
だってそうだろう。大抵のなろう系で異世界転生物を見てみろ。
何か不思議空間に主人公が居て、目の前には神だか女神だか魔王だかのとんでも存在が居て、チートスキルなり武器なり身体なりえなりとかでぶいぶい言わせてるだろ?
後はあれか、秘められた力がーとか、見下されてたけど実は最強でーとか。
そんでハーレムとか築くんだろ。はい、なろうの主人公主人公。俺だって人外っ娘や獣っ娘ハーレムとか作りてぇよ。
ところがどっこい、こっちの神はどうだ。
不思議な力や装備どころか面会拒絶って。今の時代、即雇用は止めといた方が良いぞ、見切り発車は禍いの種だ。
俺の今の装備は自殺したときのラフなシャツにジーパンという着の身着のまま。
スキルっぽいのとか全然感じられん。ステータスとかあんの?この不思議世界。
そして極めつけがあれだ。
冒頭にも言った通り、何故か目の前でバカでかいドラゴンと狼が雌雄を決してた。
… 何 で あ れ の 近 く に 生 ま れ さ せ た ん だ 。
タイトルはあれだな、【クソ雑魚主人公 〜転生した先でドラゴンと狼の争いに巻き込まれ、秒で再転生〜】で決定だな。
長タイトルだ、なろうにぴったりだろう。クソが。
転生させろなんて頼んだ覚えはねぇし、せめてやるならもうちっとマシなとこに出せ。一生恨むぞクソ神。
手始めとして、まずはこれからはずっと無神論者でいこう、この決意を貫いてやる。
「ガァァアアアーーーッッ!!!」
「グルァアアッッッ!!!」
「ウルっせぇんだよッ!! 鼓膜破れるだうがッッ!!」
随分と長く闘っているのだろう。
互いに体のあちこちに傷を作り、血を流しているが、己を鼓舞する為なのか、それとも相手に俺はまだやれるぞという威嚇なのか、両者ともに大きな雄叫びを上げる。
だが、巻き込まれたこっちには互いの事情など知ったことじゃない。
五月蝿いったらありゃしないのだ。
なのであの二匹に届くわけもないが、抗議の言葉を投げつける。そうでもしなきゃやってられないし、気が済まない、
てか、あの咆哮で風圧っぽいのがこっちに届いてきたぞ。
あれだけでも漫画とかアニメなら建物が倒壊してるな、間違いなく。
はぁ…死ぬならさっさと死んで転生を……この世界ってド○クエやマイ○ラみたいに復活とかあるのだろうか。
…死ぬときは死ぬか、人間ってのは。
__てか待て、さっきまで聞こえてた戦闘音が聞こえなくなったのは何故だ???
思考の海から意識を抜け出し、恐る恐る怪獣大戦争が行われていた場所を見る。
するとどうだろうか。
先程まで互いのどちらかが死ぬまで止めそうになかった殺し合いが止まっており、二匹の熱い視線は今、俺に注がれているではないか。
あぁ…終わったかもしれねぇ……。