回想
いつも読んでいただきありがとうございます。本日、2本連続でアップ予定です。
オリヴァーが馬車の隊列でルナのところへ駆け付ける前日の夜のこと。
「オリヴァー、あんたかっこよかったぜ。あのハドソンの野郎に一発かましてやったな。ルナはちょっと怒ってるかもしれないけど、これでルナのこと諦めたわけじゃないんだろう?」
「はい、謝罪の気持ちをお伝えするために、明日お詫びのディナーにお誘いしたいと思っています。」
「さすがだぜオリヴァー!なんでも協力するから言ってくれよな。」
「では、チェスター、あなたも明日チェスターもエミリーをデートに誘っていただけませんか。私の友人が頑張るというのなら私も頑張れます。」
「おいおい、そうきたか…!はは、やるな。」
ハドソンとの口論によってルナと気まずくなり、泊まるところの無くなったオリヴァーに「ウチ来る?」と言って誘ったのはチェスターだった。
2人は街の中心地でひときわ目立つ石造りの豪邸へ、チェスターの白馬にタンデムで乗り付けると、ズズズ…と重い音を立てて屋敷の門が開いた。
「お待ちしておりました、チェスター様。そしてそちらの方は…まさかオリヴァー・モーガン様ではございませんか。」
黒のジャケットに蝶ネクタイを締めたモーガン家の執事が言った。
「ええー?オリヴァーのことを知っているのか?」
チェスターが驚いて聞いた。
「はい。本年の今日この日、オリヴァー・モーガン様という方がいらっしゃるので、ご当主様と同等のご待遇でお迎えし、何か望まれることがあれば必ずその全てを叶えるようにと、申し受けておりました。しかし、まさか本当にいらっしゃるとは…。大変失礼ながら半信半疑でおりました。…4代か5代前の執事からの言い伝えと聞いております。」
執事は、緊張した面持ちで、しかしはっきりとした声で言った。
「5代前から?オリヴァー、あんた、おかしいとは思ってたが本当に一体何者なんだ…?」
「チェスター、君には話しておかなければなりませんね。」
オリヴァーとチェスターの2人は屋敷に通されると、チェスターの部屋に入った。
「この部屋は…。」
オリヴァーは部屋をキョロキョロと見渡しながら歩き回った。隅にあった木彫りの馬を撫でると、目を細めた。やがて口を開くと、ゆっくりと話し始めた。
「チェスター、私はこの家に住んでいました。そしてこの部屋は私の部屋でした。私は、100年前からとある方の力によってこの世界にやってきました。気付いたら川で流されていて、死にそうになっているところをルナに助けられました。」
チェスターは真面目な表情でオリヴァーの話に聞き入っていた。執事の話を聞くと、オリヴァーの話していることを信じない訳にはいかなかった。
「しかしながら、何の目的で100年後のこの世界に来たのか、それが思い出せないのです。何かとてつもなく大事なことを忘れているような気がするのです。いつそうなったのか分かりません。100年前から飛んできた際になんらかの障害が出たのか、あるいは川で死にかけた際に記憶を失ったのか。」
「あんたは何か目的があってこの世界にやってきた…と?」
オリヴァーはチェスターの座る向かいのソファに腰をかけた。
「はい。100年もの時を往復するのは、大きなリスクが伴うはずです。それに値する使命が、きっと私にはあったはずなのです。ただ、この世界に辿り着いてから、全てが運命のような気がしています。正しいことをしているという直感があるのです。君に出会ったことも、ルナに助けられたことも、エミリーと知り合ったことも、何か前に進んでいるという実感があります。」
「うーん、どんな目的があるって言うんだ?さっぱり分からないな…。オリヴァーがモーガン家出身で、この時代に僕に会ったのが運命だと言うなら、やっぱりモーガン家に関連することなんじゃないか?」
「分かりません。でも、私もそのような気はしています。」
コンコン、とノックの音がした。
「夜分遅くに失礼いたします。オリヴァー様にお渡ししたい物がございます。」
執事に連れられて、オリヴァーとチェスターは屋敷の地下へと向かった。
***
3人は地下の執事室に入ると灯りを点け、執事は持っていた鍵で奥の隠し扉を開けた。その小部屋の中にはさらに小型の金庫があり、執事が慎重に仕掛けを外すと中から縦20センチ、横30センチ、厚さ5センチほどの木箱が入っていた。
「これをオリヴァー様にと。歴代の執事が預かって参りました。」
オリヴァー様が木箱を受け取ると、ずっしりとした重みがあった。5キロ以上はあるだろうか。蓋を開けると、中心には窪みがあり、年代物の金貨がぎっしりと詰まっていた。箱の上部には、真紅の宝石とその周囲にダイヤモンドのあしらわれた指輪が一つ、その横に金属のプレートがあり、文字が刻まれていた。
「これを目的のために。健闘を祈る。 -オリヴァー・モーガン」
オリヴァーの横から覗き込んでいたチェスターが感嘆の声をあげた。
「す、すげえ…!オリヴァー、それで何か思い出せたか?」
「いえ、それがさっぱりでして…。」
オリヴァーは首をかしげていた。
「うーん。僕に考えがあるぞ。とりあえず部屋に戻って話そう。」
***
二人はチェスターの部屋に戻ると、グラスにブランデーを注ぎ、再びソファに座って話し始めた。
「チェスター、君の考えとはなんでしょうか?」
「僕はさっきの箱に入っていた指輪がヒントになるんじゃないかと思ってる。あれはどう見ても婚約指輪だろう?あんな宝石のびっしりついた指輪を婚約指輪以外で見たことがない。真紅の宝石はきっとルビーだ。ルビーの石言葉は『情熱』。きっとあんたは100年前から、真実の愛を見つけるためにやってきたのさ。さっきの軍資金で明日のあんたとルナのディナーを盛大なものにしようぜ!」