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3日目の手紙

いつも読んでいただきありがとうございます!とても励みになります。

「ルナ……」


 部屋に帰ってきたルナは無言で、話しかけようとするオリヴァーを遮ると、悲しい表情を見せた。


「ごめんなさい、1人にしてくれる……?」


 バーからの帰り道からずっと、ルナは一言も会話をしようとしなかった。オリヴァーとチェスターは、肩を落としルナの部屋から出ていった。


***


 翌朝、ルナはバラの香りと共に目覚めた。


「ん…?んん?」


 ルナの部屋のダイニングテーブルが、ところ狭しと置かれたバラの花束によって埋め尽くされていた。ルナは見間違えではないかと何度も目を擦ったが、その景色が変わることはなかった。

 バラの中心には、昨日のように完璧な1人分の朝食と共に、一通の手紙が置いてあった。


「親愛なるルナへ


 昨日は貴女に恥をかかせる最低の行動を取ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。つまらないプライドを見せてしまった自分自身を恥ずかしく思います。貴女の美しさとワインに酔ってしまった私をどうか、許してほしいのです。


 謝罪を申し上げたく、貴女を今晩ディナーに招待させていただけないでしょうか。


 もし貴女の回答がイエスならば、外から見えるようにバルコニーにハンカチを結んでおいてくださいますよう。


 オリヴァー・モーガン」


 ルナは、手紙を置いて食事を取ると、服を着替え、使用人の仕事へと出発していった。

 

***

 

「昨日はディナーのあと街に行ったんですって?それで、ハドソン様のことはしっかり落としたんでしょうね?」


 屋敷の床の拭き掃除をするルナを見下ろしながら、義姉のイブリンは聞いた。時計の針はまもなく正午を差そうとしていた。


「……。」


(変に説明をしてオリヴァーの存在が怪しまれたら厄介だわ。それにお義姉様からはチェスターと金輪際話すなと言われていたし…。)


「ふぅん。あなた、ことの重大さが分かっていないようね。グリフィス家の将来がかかってるのよ!…まぁいいわ。しっかりやりなさいね。」


 イブリンはブロンドの髪の毛をかきあげると、鼻歌を歌いながら去っていった。イブリンはことのほか上機嫌の様子だった。それもそのはず、実はイブリンはこの日の午前中、白馬にまたがり、正装をして花束を持ったチェスターが、グリフィス家に到着するのを、庭園から遠目に見かけたのだった。


(あら、チェスター様!なんて素敵なお姿なのかしら。花束を持って、婚約者となったばかりの私をデートにお誘いするつもりなのね。そうに違いないわ。今話しかけるのも不粋ね。私は屋敷の方で待っていましょう。)


 そこでイブリンは急いで庭園から戻ってきて自分の部屋へと帰るところだったのだ。


「ルナ様!ちょっと…!」


 バタバタと走る影がルナの方に向かってきた。顔を上げると、エミリーが立っていて、慌てた顔をしてルナの部屋にあった手紙を持っている。


「ルナ様、失礼ながらお手紙拝見しました…。でもルナ様の部屋のバルコニーにハンカチがかかっていません!なぜですか?」

「ああ…。私の部屋の清掃に入って読んだのね。まだ返事をするか考えてないの。」


 ルナは表情を変えず、拭き掃除を続けながら言った。


「ルナ様が、オリヴァー様と何があったのか私には分かりません。しかしながら、あのバラの花とこのお手紙には、私の心を打つものがありました。もう正午です。いつオリヴァー様がいらっしゃって、ハンカチのないバルコニーを見て、悲しんで帰られるかも分かりません。このような真摯なお手紙にご返答されなかったら、ルナ様は必ず後悔します!どうぞもう一度この手紙をお読みになってください。そして早く決断なさってください。それだけルナ様に伝えに参りました。」


 ルナは拭き掃除の手を止めると、エミリーから手紙を受け取った。普段感情をあまり表に出さないエミリーがいつになく興奮した様子だったので、ルナは驚いた。


 エミリーは、感情を表には出さないものの、普段何を考えているか分かりやすいタイプの子だった。とても真面目に使用人の仕事をこなし、ルナはエミリーが文句一つ言っているのを聞いたことがなかった。その真面目さと、原石のような美しさの組み合わせが、彼女をひときわ魅力ある人間にしていた。ルナはエミリーに相応しい相手が見つかってほしい、と心からいつも願っていた。


***


 庭園の外れに、使用人の寄宿舎が建っていた。こぢんまりとしていて豪華なところは少しもなく、かなり古かったため見た目もボロボロでところどころ木の腐った部分を補修した跡があった。ルナとエミリーはこの寄宿舎にそれぞれ部屋を持っていた。


 エミリーは、昼食のために寄宿舎に戻るところだった。歩きながらまだオリヴァーの手紙のことを考えていた。


(あんなに素敵な手紙をくれる紳士が今の時代にいるのかしら。ルナ様は幸せ者だわ。うまくいくといいけれど。)


 エミリーが寄宿舎に戻ると、エミリーの部屋の前に純白のタキシードに身を包み、花束を持ったチェスターが立っていた。

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