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2-8 スィラージはデリカシーが無い。通常運転だ

 唐突にシフは立ち上がる「今回の旅のハイライトシーンはルシール救出劇です皆拍手拍手!」

 「ぃーやっほうぅー!」パチパチパチパチ! スィラージが過剰反応する。

 ルシールは嫌そうな顔。

 シフはノリノリで始める「コホン、物語はアレクサンドリアの遥か南、ラングーン、正しくはランベリーゲイトから始まります。山を越えた歴戦の旅人、一時の憩いを求めて立ち寄ったその街は、愛と憎しみの坩堝、終わりなき輪廻の船着き場」

 「たっ、助けてください! 旅の人!」スィラージが合いの手を入れ、二人の寸劇が始まる。

 「どうしたんだいお嬢さん? ァ保苦妬の文句は俺に言え!」

 「悪漢に追われているんです!」

 「何ィ! 許さん! バキッ! ドガッ! ぎゃー! あっはっはっはっは」シフが笑いだす。

 マリーダも無意味に大笑い「あはははははははは」

 シフは続ける「襲い来る悪漢共を千切っては投げ」

 スィラージが応じる「ピンクのトランクスを履いた変態豚野郎に食い込む縄、愛それは苦しみ」何故なセクシーポーズをとる爽やかゲスイケメン。

 ルシールがげんなりした顔で「きもい」

 「だは」ガボルアが口数少なく笑う。

 シフはガボルアを示し「そういう彼は手頃な椰子の木を持ってきて煙突に突っ込んだ。曰く筋トレらしい」

 「相変わらずどうかしてるとしか思えないねえ」マリーダは楽しそうにもぐもぐ。

 「同感だ」ガボルアがごっくんプリーズ。

 「あんたもだよ、まったく」

 「シフさんもっと詳しく、具体的に」アイシャが素晴らしい食い付きを見せる。

 シフは今更な問い合わせ「えーと、つまり金はあるけど変態キモオタな超絶豚野郎と無理矢理に結婚させられそうになったから、逃げてきた、で良いんだよな?」

 ルシールは皆を見回して「あー、ものすごいざっくりだけど、まあそれで良いよ」

 スィラージが声をあげる「嫌がる乙女を無理矢理! なんてことだ! 羨ましいけしからん!」

 マリーダが注意する「こらスィラージ! そういうとこだぞ! そういうとこォ!」

 「あっはっはっはっは」シフは大口開けて笑う。

 スィラージはきょとん。

 マリーダが教える「そういう馬鹿みたいにデリカシーの無いところだよ」

 スィラージがガタンと立ち上がり「そうか分かりました! ルシールゥ! 好きだ! 愛してる! やってやるやってやるぞ俺は!」腰を落としてにじりよる。デリカシーという言葉を取り違えた男。

 「あっはっはっはっは! 全軍突撃パンツァーフォー!」シフは煽って遊ぶ。

 「あんたらは本当に全く」マリーダはやれやれと酒を呑む。

 「うふ」ルシールが小さく笑う。

 アイシャが見つけて「兄さん、笑ってる! 大丈夫だよ行ける!」

 ルシールは即答「いえムリです」

 「ぎゃふん」

 ルシールも大口開けて笑う「あっはっはっはっは」

 ガンテツは呆然。

 スィラージがよろよろと着席。

 シフが相棒を元気付ける「泣くなスィラージ! 今度食べかけのパンあげるから」

 「貴様この豚野郎! ごおおおおおおお!」

 「あっはっはっはっは、それにしても、毎度彼のケツにアイスランスが刺さったのは神ってたよなあ」

 「わざとだろ」

 ルシールが弁解する「たまたまだよ」

 シフは呟く「刺すことが愛」

 スィラージが補足する「倒したらすぐ刺す!」

 「さすが世紀末覇者」

 「はー、あんたも苦労するねえ」マリーダが息をつく。

 ルシールが頷く「……そうでもあります」わかりあう女たち。

 「ところであんた、結構凄腕の魔法使いだって聞いたけど?」

 ルシールは肩を竦めて「アタシなんか全然大したことありませんよ。触媒を使ってようやく少し、氷と癒しの術が使えるくらいです」

 「そうかい?」

 スィラージが口を挟む「それなら早速出番だよ、傷ついた俺の心を癒してくれないかな」

 ルシールはニコッと笑う「じゃあ口開けて。あーんしてあげる」

 スィラージとシフが揃って大口を開ける。

 「あはははは、まったくどうしようもない連中だよ」マリーダはさらに酒盃を重ねる。

 「じゃあ行くよ♪ まずスィラージ♪」ルシールはニコニコしながら皿を取って唐揚げやコロッケを口の中に突っ込んでいく。覚悟しろ手掴みだ!

 「もがあっ!」

 「まだまだ行くよ♪ あんたの本気を見せてみろ♪」

 「がぼぼぼdばおだjtgつっはうでゅrhfるh-!」スィラージが全力で咀嚼する。

 シフは応援する「頑張れスィラージ! 男の中の男! 栄光はもうすぐそこだ!」

 「だっはっはっはっはっはっは、本当に馬鹿だなお前らは」ガボルアが楽しそう。

 「いや、あんたも口開けようとしたでしょ」マリーダの冷静な指摘が飛ぶ。

 シフとスィラージは別としても、たった数ヶ月でも苦楽を共にした彼らには、強い連帯感が生まれていた。

 アイシャがちらり、羨望や諦念の絡んだ複雑な表情を見せる。マリーダが微かに頷き意を交わす。

 「もぐもぐ、うがあっ! 実は俺! ずっと前から君のこと!」がくり。スィラージは健闘空しく息絶えた(絶えてない)。

 「あっはっはっはっは」

 「次は俺だな!」シフは舌を蛇のようにチョロチョロさせる。

 「キモいから嫌だ」ルシールが即答する。

 「ぎゃふん」シフも撃沈。

 しかし本当に綺麗になったな、とシフは思った。今にも消えてしまいそうな、儚い美しさがある。同じ屋根の下で起居しているというのに、まったくそういう雰囲気にならないのは、その辺に理由があるのだろうか。自分でもわからない。

 スィラージが突然口説き始める「と、ところで君、綺麗になったね。いや前から綺麗なんだけど。鼻毛切ったから?」キラリと歯を輝かせる残念イケメン。

 ルシールが眉をひそめる「安定のカス野郎」

 アイシャが袖を引く「兄さんそれはダメ!」

 ガンテツはドン引き。

 スィラージが納得の顔「そうかなるほど、どんな美女でも鼻毛抜く時は無防備になるからな。鼻毛だいじに」

 シフは問う「家政婦は見た?」

 「うん。旅の途中で何度かね。守りたい、君が鼻毛を抜く背中」スィラージはしてやったりのキメ顔だ。

 「ごおおおおおおおおおお!」ルシールが怒りの咆哮をあげる。

 全員爆笑。

 ガンテツだけはもう目を丸くしてびっくり仰天。



 二時間ほどしてスィラージが酔い潰れてしまう。困った男だ。良い時間なのでお開き。

 ガンテツとマリーダがギルドに帰り、残りのメンバーは途中まで帰り道が同じ。大通りの端を歩いていく。ところでマリーダのガードたる直毛男グラミーカヴは少し遅れて安定のストーキングで主を守る。

 酔い潰れたスィラージはガボルアが背負った。ルシールの足取りも怪しいのでシフが背負う。

 シフの背中でルシールが笑う「あー面白かった」

 「お前、病み上がりのくせに飲み過ぎなんだよ。しかし軽いなあ、もっと肉を食え肉を」

 ガボルアの背ではスィラージが苦しそう「ぬぅ、好きだぜルシール愛してる結婚してくれマジやばい」ガボルアの首にキュッと抱きつく。酔った勢いでしかし間違えて告白する男。

 「…だってさ」シフもさすがにほろ酔い気分。

 「一応断ってるんだけど」

 「そこをなんとか」アイシャが粘る。

 「うふ、良い兄妹だね」

 「うえっぷ…意外に君、筋肉質なんだな」スィラージがガボルアの首や肩をぺたぺた触る。

 「ガボルアさん、いつもすみません」アイシャが謝る。

 「大丈夫だ、筋トレと思えば」

 「アタシ実は筋トレしてるんだよ」シフはルシールの口真似をする。

 「嘘はよくない」ルシールがシフの肩を揺する。

 「あっはっはっはっは」

 皆ひとしきり笑って余韻を嚙みしめる。心地好い夜風だ。どこかの酒場から笑い声がする。アレクサンドリアの夜空も星が美しい。

 「改めてようこそ、世界を面白くするフィルサークレア・キャラバンへ」シフは静かに言った。

 アイシャとガボルアが優しい顔でルシールを見る。

 「ま、俺はメンバーじゃないんだが、しっかりやれよ」とはガボルア。

 ルシールは最初困り顔でしばらく考えてから、よろしくではなく「ありがとう」と応じた。その微妙な表情を仲間たちは見たが、彼女を背負うシフだけには見えていない。



 と、一人の女が足早に歩み去る。

 「待てよ頼む待ってくれ! 真面目になるから!」若い男が追い縋るも返事は無く、やがて呆然と立ち尽くす。

 大きな溜め息「……死にたくなるぜ」と呟くのが聞こえた。

 一行は追い越しながら声をかける。

 「ほら特製サキイカ食え。うまいぞ」とはシフ。

 「安心しろ、俺も大体フラれてるから」スィラージが嬉しくない言葉で慰める。

 「ツラいですよね」アイシャが率直に共感する。

 「元気だせ、筋トレで発散しろ」ガボルアが発散方法を教える。

 「また新しい出会いがあるよ、きっと絶対」ルシールが未来について確信めいたことを言った。

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