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2-6 シフウェヌニクス・フィルサークレアは知らない道を歩きたがる

 昼下がり。

 「ごばっばっばっば? ごばーっばっばっばっば♪」シフが以前考えたイケてる笑い方を試しながらベルドゥラルタ商会のギルドホールに顔を出すと、腕組みしてポスターを眺める男がいた。金髪髭面、山賊のように極悪な顔のおじさんだ。

 シフは掲示板の依頼を軽く眺めてから声をかける。金髪おじさんは他のキャラバンのメンバーだ。

 「良いポスターだろう? ごば?」

 「イカれているとしか思えん」

 「ごばっばっばっば」

 「イカれているのはいつものことか」

 ポスターはシフのキャラバンのメンバー募集のものであり、スィラージ謹製。金髪ツインテール、アレな魔法少女がドヤ顔決めポーズで「アタシのハートを燃やしてくれるガード(護衛)求む。世界を面白くするフィルサークレアキャラバン」

 「まだコレ募集してんのか?」

 「うむ、募集してるぞ? スィラージの希望だと残像剣くらいは使える奴が良いそうだ」

 「そんな若手が居たらこっちが雇いてえよ。他にも募集を掛けてんのか?」

 「一応ハロワ(ハローワーク)にも求人出した」

 「このポスターも?」

 「ふざけるなと却下されたよ」

 「がはは、そりゃそうだ」

 「シフ!」鋭い女の声が飛んできた「お姫様の様子はどうだい?」

 シフは振り向いて「今日は焼肉カルビ炒飯をウマウマ言って食べてました」

 身なりの良い女がツカツカと歩いてきた。赤みのある長髪を靡かせ、赤縁の眼鏡を輝かす「そりゃ良かった」まだ幼いゼアリスに代わり、商会を実質運営するギルマス代行のマリーダ・ベルドゥラルタである。まだ20代で美しいが、むさ苦しい年上の男相手に一歩も引かない強さがあり、気持ちを受けとめるしなやかな眼差しがある。アイシャと同じ猫帽子を着用。

 「アイシャのメシは美味いから。もう猫まっしぐらです」

 マリーダが頷く「確かに。あんなに出来たコがスィラージの妹なのかと思うと、生命の神秘を感じずにはいられないよ」

 金髪おじさんも頷く「おまけに美人だしな。おじさん狙っちゃおうかな」顔は極悪だがおどけた口調である。実は独身。

 マリーダが嗜める「冗談でも駄目。前も言ったけど、あんたには似合いの相手をちゃんと探してきてあげるから、もうちょっと待ちなさい」

 「よろしく頼む」

 シフが口を挟む「母ちゃんオラは?」

 「その辺の畑でも掘って探してきたら?」

 「なんだそれは徳川埋蔵金かよ、ぺっ!」

 「あははは」

 金髪おじさんが尋ねる「俺はまだ会ってないが、そのお姫様は魔法使いなんだよな?」

 シフは自慢げに答える「ああ、詳しくは言わないが、結構な凄腕だぜ?」

 「なるほど、頼れる仲間を見つけたんだな」

 一人魔法使いがいるだけで、キャラバンの実力は大きく底上げされる。

 「そんな寂しそうな顔すんなよ、また手伝いに行くからさ」シフは金髪おじさんの肩を叩く。

 「別に寂しくねえんだが、な」それでも金髪おじさんは嬉しそう。バン、とシフの肩を叩き返す。

 シフはよろけて「ぐばっ! 相変わらずの馬鹿力」

 「がはは、その言葉おぼえたからな」金髪おじさんは普通に街で会ったら絶対話したくないくらいに極悪な顔だが、可愛いところがある。そして優しくて信用できる男だと、シフは知っている。

 「さてシフ、応募してきた新人が2人いるんだが、そっちの事務所に回して良いかい?」

 「あらま早速」

 「また癖の強そうな奴が来たよ」

 金髪おじさんが愚痴る「ほう、羨ましいな。ウチの募集はなかなかん」

 「やっぱりこんな怖そうな顔したおっさんがいたら、普通の奴は来ねえよ」シフは遠慮無く指摘する。

 「怖がらせるつもりはないんだが」

 「うふ、ちょっと笑ってみてくれよ」

 金髪おじさんは悲しげ「そんなに怖いか」

 「俺はラズのおっさんが信頼できるイイ男だってこと知ってるけど、やっぱ人間、第一印象て奴が大切なんだよ。だからちょっと笑ってみてくれよ。新人を優しく見守る感じでさ」

 「なるほど…………こうか?」ラズおじさんがニヤリ。まるで山賊が格好の獲物を見つけた時の顔になった。裏通りでやったら人攫いに間違われてもおかしくない。

 「……ぐふっ」マリーダが吹き出した。

 「あっはっはっはっは、やっぱおっさんは最高だぜ! 濡れちゃう! 抱いて!」

 マリーダが諭す「昔も言ったと思うけど、男は顔じゃない。あんた行動で示した方が良いよ」

 「やれやれ」ラズおじさんは溜め息をついて「じゃあな」と出て行った。後ろ姿にそこはかとなく哀愁を漂わせて。

 シフは話を戻す「で、なんだっけ。新人の面接ですか。そうだなあ、ここで面接させて貰いたいです」

 「了解。明日の昼過ぎで良い?」

 「うん」

 「ふむ、お姫様も目覚めたことだし、新人も来た。そろそろ働く気になった?」

 「働きたくないでござる」

 「脱線禁止、ちょっと来なさい」マリーダがシフの手を掴み、ギルマス執務室へ連行する。

 シフが叫ぶ「たっ、助けてくれーww」

 「だから脱線禁止」

 受け付けの職員たちは苦笑い。むさ苦しい顔の男が多い。



 執務室の窓の外から笑い声が届く。ラズおじさんと少年ゼアリスの声だ。

 商会の未来を担うゼアリスは皆に可愛がられている。日頃多様な人間に接するせいか驚くほど物怖じしない。

 「よし見せてやるか、真のマッスルスパークって奴をよ」

 シフは何の話か全く理解できない。

 「行くよおじさん!」

 「良し来い、おりゃ!」

 「うぎゃあああああっはっはっはっはっはっは」



 執務室の自席に着席したマリーダは溜め息「あの子、またサボってる」立派な机の上には何も無い。

 その前に立つシフ「たまには良いと思います。真面目なだけじゃ息が詰まる」

 いつの間に現れたのか、部屋の隅に直毛男グラミーカヴが直立不動。ギルマスのガード(護衛)だ。無言だがその眼が語る「手を出したら殺すぞ豚野郎!」と。

 マリーダが切り出す「そろそろ仕事する気になった? あんたの好きそうな仕事があるんだけど」

 「具体的に言うと?」

 「龍血」

 ぴくり、シフは思い出す。先日のアレか。

 先日の紅海南部を回った旅もそうだが、シフは変わった仕事を持ちかけられると好奇心の虫が疼いて仕方無い。

 彼の主催するフィルサークレア・キャラバンはスィラージと二人だけの小さな組織で、規模の大きなキャラバンを単独では組めない。商会の依頼で他のキャラバンの手伝いに付くことが多かったが、特に難しい仕事に割り当てられることが多かった。それは好奇心を満足させる仕事でもあり、二人は文句を言いながらも結局楽しく取り組んだ。多彩なスキルと行動力、それに朗らかさ。商会では最強の助っ人コンビとして、時に隊長すら代行するほど信頼を集めている。

 マリーダが続ける「龍血を1斤欲しい」

 「アテはあるんですか?」

 「シリアまで行けば扱う店があるのは知ってるが、物が物だけに在庫があるかは分からない」

 「でも探しに行けと」

 「そうなる」普通の交易商が扱う仕事ではない。

 「返事は明日でも?」

 マリーダが頷いた「人手が要るなら応じるから」

 他にも幾つか質問しておく。あとで親父にも聞いておくか。

 


 「若」執務室を出ると声をかけられる。受付からむさ苦しい男どもが顔を出す。今はギルド職員だが昔の仲間だ。シフの親父が引退するまでは同じキャラバンだった。そういう昔の仲間は今5人ほど。

 「ごば? ってもう若はやめてくれよ」

 「この度は御結婚おめでとうございます、いや本当に目出度い」

 「持ち込まれる縁談を千切っては投げ千切っては投げ、難攻不落の男と言われた、あの、若が! ついに……わしゃあ、もう感無量じゃ」

 シフは少し呆れる「あの、気が早いよ? 別に結婚してないし恋人でもない」

 「若もイイ歳だし早く孫の顔を見せて貰わないと」

 皆、シフと血の繋がりは無いが息子のように可愛がってくれる。

 「孫って歳でもないだろうに。そうだ旅の打ち上げをしないとな」いつものことだがシフは脈絡無く話を変える。

 「打ち上げ?」

 「ああ、ガボルアが捉まると良いんだが」

 「あいつなら昨日今日は護身術教室をやってた筈だが」近隣の奥様から結構人気の習い事。筋肉モリモリ且つ理性的で穏やかな言動がウケているらしい。あのガボルアがと思うと笑うしかない。ストレスが溜まるとも言っていた。誘えば来るだろう。

 何故かモヒカンで、気でも狂ったようなピンク色の服を着たおっさんがやってきた「結婚式の余興の歌を練習しとこうかの」モヒカンの端には、毒々しく赤黒いリボンが結ばれている。表情は穏やかで狂気は欠片も無い。

 「あれか、必殺の『てんとう虫のサンバ』か」おっさん達が盛り上がる。

 「だからお前らは気が早いんだよ」シフは満更でもない顔をして言った。

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