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女神の盾

作者: すなアザラシ

入院中で連載がストップしているのにも関わらず、思い付いたのでリハビリ代わりに投稿してみました。

かつて善なる神々と、悪しき神々との戦いがあり、その中で女神と邪神は熾烈な戦いを繰り広げていた。


美しくも猛々しい戦女神と、悪に染まり、邪神と化したかつての女神だった者の戦いは、何時果てる事も無く続いた。


その戦いの余波で大地は割れ、海は荒れ、空は雷鳴が轟いた。


幾度となくお互いの剣を交えながら、一歩も引かぬ女神と邪神。


各々の身体には幾多の傷が付き、身に付けている装備にもあちこち破損が目に着くようになった。


そして、決着の時が来る。


邪神の捨て身の一撃は、女神に致命的な傷を与えた。

だが、邪神も女神に致命の一撃をその身に受けていた。

女神と邪神は相討ちになり、その身を消失させた。


神々の戦いは、悪しき神々を消失させた善なる神々の勝利に終わったが、戦いの代償は多くの神々の消失と、癒えるまでに永い時を必要とするであろう、深い傷を受けていた為に、善なる神々は眠りに着かなくてはならなかった。


神々の戦いが終わり、地上にも平和だが、戦いの余波によるダメージを回復する為の時間が必要となった。



それは女神の盾であった。

戦女神とその盾は幾つもの戦いを共にし、勝利を挙げてきた。

しかし、盾は女神を最期まで守る事が出来なかった。

邪神の捨て身の一撃は、女神の盾を貫き、女神の身体をも貫いてしまった。

邪神の剣はその衝撃で折れ、女神はその隙に最後の力を込めて反撃をし、相討ちという形で戦いは決着した。


守るべき女神を失った盾は、力を失った女神の手から離れ、地上に落ちていった。

盾は女神を失った事により、自身の存在意義も失ってしまったのだ。


守るべき者を失った盾は地上に落ち、そのまま永い眠りに着いた。

傷付いた盾にも戦いの傷を癒す時間が必要であったのだ。



永い時が流れ、地上には幾多の生命が生活を営むようになった。


神々の戦いは永い時の流れにより忘れ去られ、神々が自身の姿を模倣して創造されたとされる人族や獣人、エルフやドワーフ等の亜人達が地上に溢れ、国を作り、ある時には国家間で争いも起こるようになっていた。


そんな地上のとある人族の冒険者と言う者達が、邪神が産み出したとされる魔物を駆除する為に、深い森の探索をしていた。


「ああ、俺の盾が壊れちまった・・・。」

四人組の冒険者の内、頑丈そうなハーフプレートメイルを身に着けた若い男が、魔物との戦いでボロボロになった自身の盾を見て嘆いていた。

彼は冒険者達の中で、盾役(タンク)と呼ばれる云わば、自らの身体を張り仲間を守る事を専門とする役割を担っていた。


彼が魔物からの攻撃を一身に受けとめる事により、彼の仲間達は魔物に攻撃する事に専念出来ていた。


そんな盾役の彼の盾は、この森に潜む強力な魔物達の攻撃を受け続けた事により、ボロボロになってしまっていたのだ。


盾役の相棒とも言える盾を失った彼は、仲間から予備の盾を借り、森の中の探索を続けていく中である物を見付ける。

 

「これは・・・、盾じゃないか?」

永い年月を経て、それは人族の冒険者により発見された。


「盾?みたいだけれど、何故岩に刺さっているのかしら?」

彼のパーティメンバーの女性の神官(クレリック)も不思議そうに盾らしき物を眺めていた。


盾役の男はその盾らしき物に魅せられたように、岩に近づくと、仲間達の制止を押し切り岩から引き抜いてしまった。


それはあっさりと岩から抜け、彼等にその姿を見せた。


それはラウンドシールドと呼ばれる円形の盾であった。

ただ、盾全体が灰色をしていて、どこか寂しさを感じさせた。


「こいつは随分と古いが、どこも壊れていないし、大きさの割にとても軽いな・・・。」

盾役の男は、森の中で放置されていたにしては何処も壊れていないばかりか、鉄より遥かに軽く丈夫な謎の物質で出来ているであろう、この盾を一目で気に入ってしまった。


「この馬鹿~! 呪われていたりしたら、どうするのよ!」

女神官は、彼の迂闊な行動に対して怒りを顕にしていた。

「大丈夫だと思った。」彼のその言葉は彼女を含め、他のメンバー達からもお小言を頂く事になった。

彼が所属するパーティは、彼が思う以上に結束が固いようであった。

また、女神官が彼に友情以上の感情を持っている事は、パーティの彼以外は知っていた。


そして再び誰かを守る為に、人の手に渡ったかつての女神の盾であった物は、彼とそのパーティと共に同じ時間を過ごす事になった。


冒険者達は様々なクエストをこなし、時には危険な目にも遇いながら、沢山の依頼を達成し、有名なパーティとして知られていく。


だが、始まりがあれば、終わりも訪れる。


冒険者達のリーダーが水竜の討伐依頼に受けた傷が元で戦えなくなってしまったのだ。


十三才の時から十数年、彼等も冒険者としてベテランと言われる年齢になっていた。


彼等は話し合いの末、パーティを解散すると共に、故郷に帰ることにした。


パーティのリーダーは、同じ故郷の幼馴染みである魔法使いと帰ることにし、盾役の男は、孤児院出身の女神官と共に彼の故郷に帰ることになった。


この時には盾役の男は女神官と恋仲になっており、彼女を妻として故郷の親や親族、顔馴染みの者達に紹介した。


男は田畑を耕し、作物を植え、育てる。

妻は男の子を産み、やがて子の数は男女四人程になり、幸せな家庭を築いていた。


子供達は、ある程度育つと、冒険者を夢見る者や、町に働きに出たり、父母の元に留まる者とに分かれた。


父からの冒険譚を聞いて育った次男は、父に憧れ、父と同じ盾役として守る術を磨き、冒険者として旅立つ前に、父から盾を譲り受け、意気揚々と旅立って行った。


女神の盾は、人族の男の手から、その息子の手に渡り、彼と彼の所属するパーティを守る事になった。


彼も憧れた父のようになるべく立派に戦い、味方を守り続けた。

そして、彼が所属するパーティは、護衛依頼で護衛対象であった高位貴族に気に入られ、彼は騎士として仕えるようになった。


平民出身であり、最初は貴族出身の騎士に馬鹿にされていたりしたが、彼は腐らず、どんな危険な任務でも前線に立ち、幾人もの仲間や人々を守った。

それは、平民であろうと貴族であろうと、関係無く、只ひたすら憧れた父の名を汚してはならないと、守るべき者を必ず守りきる強い意志を持ち、立ち続けた。


その姿に、彼を平民出身であるからと、見下す者は居なくなっていた。

最初に彼を見下していた貴族出身の騎士達は、彼に危ない所を助けられ、その生き方に感銘を受け、「奴こそが真の騎士だ。」と言う程にまで心変わりしていた。


彼は父から譲り受けた盾と共にあった。

見習い騎士から、騎士に、上級騎士になり、やがて聖騎士(パラディン)と呼ばれる存在になった。


そんな彼にも恋人が出来、恋人から妻になった伴侶との間に子を授かり、年老いた父母を貴族の領都に建てた屋敷に引き取り、妻と子供達と共に幸せな家庭を築いていた。



そして数年が経ち。

「おじいちゃん。 あの話をして。」

可愛い孫がワシの冒険譚をねだってくる。


「そうじゃのう。 今日はワシがゴブリンの集落を仲間と潰した話をしようかのぉ。」

孫はキラキラした目をワシに向けていた。

孫もワシの息子のように、冒険者になるのじゃろうか?

そんな事を思いつつ、ワシは孫に聞かせるよう、ゆっくりと話し始めた。


「おじいちゃん! ボク、おじいちゃんのような皆を守れるような冒険者になりたい!」

かつてワシにもあった、希望に満ち溢れ、どんな者にでもなれると信じていた少年期。

この子はどんな存在になるだろうか?

ワシは孫の頭を優しく撫でながら、「ああ、ワシも息子もお前の夢を叶えてやる為に手を貸す事を惜しまんよ。」笑顔でそう答える。

さて、ワシに残された時間を全て可愛い孫に費やすとしよう。

ワシは、孫にありとあらゆる技術を提供した。



俺はあるお墓の前で死者に祈りを捧げている。

「じいちゃん、俺、冒険者になって、沢山の経験をしたよ。 今は勇者パーティのタンクとして、魔王の本拠地に向かい、最後の戦いに赴く事になったよ。 この戦いが終われば、この国は元より、沢山の人々に平和をもたらす事が出来る。」

俺はルシェル。

『堅牢』の冒険者ルシエルの孫にして、『鉄壁』の聖騎士ロシエルの息子でもある。


じいちゃんは俺が冒険者になって旅立つ日に先に亡くなってしまったばあちゃんの元に旅立ってしまった。


俺の手には聖騎士を引退した父から受け継いだ盾がある。

じいちゃんが見付けてから、今に至るまでずっと誰かを守ってきた盾だ。


とても頑丈で、軽く、どんな攻撃にも耐えてきた不思議な素材で出来た歴戦の盾だ。


また、使うものを選ぶのか、じいちゃん、父、俺にしか使えないらしい。

この盾は尋常じゃ無く重いみたいだ。


らしい、みたいだと言うのは、俺がこの盾から目を離した隙に盗もうとした輩からの証言だからだ。


話が逸れたが、数年前から、魔王とやらが極北の地より現れて、全ての生命を脅かしている。


俺はじいちゃんのような冒険者を目指して色々な地を巡り、様々な冒険をしてきた。


気付けばSランクの冒険者になっていて、二つ名も『人間要塞』と呼ばれていた。

俺はガードスキルが異常らしく、父の聖騎士スキルも合わさり、もはや要塞と代わりないと言われる程になっていた。


そんな俺に勇者パーティからメンバー参加の打診があった。


「君の力を僕に貸してくれないだろうか?」

キラキラした金髪碧眼の少々女顔のイケメンが俺みたいな一介の冒険者に頭を下げている。


俺は慌てた。

何せこの金髪イケメン、この国の王子様じゃないか!


そんな存在に頭を下げさせたと知られたら、俺の首なんて直ぐに飛んでいってしまう!


俺は、話を聞くから頭を下げないで欲しいとお願いした。


「頼む。 この世界に魔王という脅威が迫っている。 だけど、神託を受けた勇者である僕だけの力では強大な力を持つ魔王を倒す事等出来ない。 弱き者達を守る為に、僕と一緒に戦ってくれ。」

勇者は誰よりも平和を望んでいた。

俺はこの国の王子様が王になってくれれば、きっと良い国にしてくれるだろうと思った。


俺は了承した。

俺の直感が彼を死なせてはいけないと告げていたからだ。


最初は勇者と二人だけの旅だった。

旅をする内に、聖女が仲間になったり、魔女や、女エルフ、女剣士、料理人兼レンジャーの女が仲間に・・・。


あの、勇者さん? イケメンオーラで女性ばかり集まっちゃっているんですが・・・。


偶然? 偶々? なんか、勇者さんの所にだけ皆が集まっているのは気のせいでは無さそうですが・・・。


まあ、このメンバーで魔王四天王の火のガデスに、水のエリーヌ、風のディオスに、土の・・・、アレ? あの「俺はガデスよりも遥かに強いぞ!」とか強者ムーブをかましていた金色の土の奴誰だったっけ?


「ダモンで良いんじゃないかしら?」

「確かクモンだったような?」

「え? コモンですよ!」

「違いますわ! カモンですわよ。」

「・・・ゴール〇ライタ〇よ・・・。 もしくはエス〇ポリスの印象に残らない金の奴?」

魔女、女剣士、エルフ、聖女、レンジャーが口々に土の奴の名前を言うけど・・・。

「アモンだから!レンジャー! 弾けすぎだからな!」

金髪イケメンが慌てている。

「・・・運営に怒られちゃう?」

なにやら、レンジャーが勇者に首をかしげながら聞いている。


「くっ、お前・・・。 少しOHANASIしようか・・・。」

勇者はレンジャーと一緒に少し離れた所に行ってしまった。


おーい、勇者く~ん。

ハーレムメンバーは平等にね~!

そんな俺をギロッと睨み付けてくる魔女と聖女。

「コイツ気付いてないわ・・・。」

(わたくし)達の狙いはコイツなのに・・・。」

何やらブツブツ言っているけど、なんだろうね?


「よし、後十日程で魔王城だ。」

頑張ろうぜ。

この日は、このまま夜営する事にした。

聖女の結界って凄いなと、改めて思った。


俺達は、目的地に近づくほど強力になる魔物を倒しつつ、とうとう魔王城に辿り着いた。


「・・・これがバ〇モス城・・・。」

「レンジャー、緑のカバっぽい奴は居ないからね・・・。」

勇者とレンジャーは何時も仲良しだな~。

敵の本拠地なのにこの余裕。

流石勇者だな。


「ほら、ボケてないで行くわよ!」

女剣士がピリピリしてる。

やはり適度な緊張感はないとね。


城の中に入る。

「魔物だらけだな。 おら! 掛かってこいや!」

俺はタウントのスキルを使う。

敵の注意や、敵愾心を俺に集中させる。


「おらぁ! ブッ飛べ!」

俺に向かって集まってきた魔物に対してスキル『シールドバッシュ』をぶちかます。

決して壊れる事の無い巨大なラウンドシールドによる激しい打撃は魔物の骨を折り、意識を刈り取る。

俺は後ろに魔物を通さない。

俺はタンクだ。

それが俺の役目。

守りきる。それが俺の憧れたじいちゃんや父から受け継いだものだ。


魔物を駆逐するのは、頼りになる仲間達だ。

俺が魔物を食い止めたそこに魔女の火炎魔法や、聖女の聖魔法、エルフと、レンジャーの弓から放たれた矢が突き刺さり、勇者と剣士が自慢の剣技で魔物達に止めを刺していく。


このパーティは最高だ。

ただ、俺以外は全員勇者のハーレム要員だけどな。


俺はそんな空しい事を考えから消し、仲間達と魔王城の中を慎重に進む。


レンジャーのスキルで罠を回避し、不意打ちをしようとしていた魔物を先に発見し、魔女の魔法で先手を取る。


レンジャー便利だな。

「うう、私だってそれくらい出来るもん・・・。」

エルフがいじけている。


いや、二人で索敵しているから、前後の敵に対応出来ているんだよ?

それに精霊ちゃんも役立つし、弓の扱いとか凄いし・・・。


俺はエルフを慰める。

何かネガティブなんだよな。

折角可愛い顔なんだから、暗い顔はしない。 

エルフは機嫌が直ったらしい。

おい勇者。 これはお前の役目だぞ?


「・・・くっ、薄いのがお好みか・・・。」

聖女さん?

「そうか、ルシェルは薄いほうが・・・。」

勇者? 何を言っているんだ?


そんな事より、魔王の討伐だ。

気をつけて行こうぜ!

俺は皆に注意を促した。


魔王城の探索は続き、今は3階に何故かあった宝物庫に辿り着いていた。


「ルシェル、この鎧似合いそうだから着てみて!」

剣士が手にしているのは、胸と両肩の辺りに骸骨の頭部、他が骨で作られているであろう、ハーフメイルだ。


「どう考えても呪われているだろうが! 見ろ、胸の辺り、微妙に蠢いているぞ!」

あ~あ~言ってるし・・・。

剣士は「ひゃあ!」と悲鳴を上げると、ボーンメイルを遠くに放り投げた。


「ルシェル! これ! 賢者の石!」

魔女が赤い石を渡してくる。

「ん? 何か書いてあるぞ。」

『ケンちゃん』と書いてある。

「どうやらケンちゃんの石らしい。」

「・・・ケンちゃんの石・・・、フム〇ムからのプレゼントかしら・・・。」

N〇Kの教育番組で、ねえねえケンちゃん。 なんだいフ〇フム。とかのやり取りをするのかしら?とか言っているレンジャー。

勇者! レンジャーが混乱しているぞ!


「レンジャー! 眠たそうな少年と、同じく眠たそうなピンクのワンコはこの世界には居ないぞ!」

お前もショーワから来たのか!とか、N〇Kは出しちゃダメ!とか言っているけど、勇者も混乱しているのか?

やっぱりあの二人は仲が良いな。

「でっ〇るっかな? でっ〇るっかな? さてさてふ・・・。」

宝を漁るレンジャー。

「やーめーてー!」

叫ぶ勇者。

聖女、二人にキュアを掛けてあげてくれ・・・。


「エヘヘ・・・、ペアリング・・・。 これで二人はゴールイン・・・。」

聖女さん、エルフさんもおかしいです!

「放っておきなさい・・・。」

はあ、(わたくし)が見付けましたのに・・・。

疲れた顔をしている聖女さん。


そんなに指輪が欲しかったのかな?

「聖女、手を出して。」

「いきなり何ですの?」

俺は彼女の手のひらに指輪を載せる。


「この前に潜ったダンジョンで見付けたんだけど、俺には合わないから聖女にやるよ。」

「え? え? え? わ、(わたくし)に・・・。」

聖女はこのあと魔王と戦うまで、顔を合わせないばかりか、話し掛けもしてこなかった。

まあ、いきなり好きでも無い奴から指輪なんて貰ったら引くよな。

俺は反省しつつ、目の前の魔王と対峙していた。



それは悪意の固まりであった。

かつての邪神の一部が永い時の中で、魔王として再生したのだ。

あの女神め! 我の美しい身体を塵にした忌々しい女神め! 貴様は最早存在しない。 この身体でもこの世界を壊す力ぐらいはあるぞ!

忌々しき女神よ! 神々よ! お前達が必死に守ろうとした世界が壊れていく様を遠くから見ておれ!

先ずは、我の前に現れた勇者のパーティとやらを粉々し捻り潰してやろう!


それは人と変わらない背丈でありながら、黒い二対の翼を持つ黒髪黒目褐色の肌をした女性だった。

ただ、元々が美しい造形をしているであろう、その顔には憎しみの感情が溢れ、禍々しさが先にくる。


「我が魔王と呼ばれる者。 この世界の全てを破壊する者。 この世界の全てを憎む者なり!」

魔王は何処からか漆黒に輝く剣を出現させた。


「さあ、脆弱なこの世界の生き物達よ。 少しでも我を楽しませておくれ・・・。」

魔王は無造作に剣を振るう。


黒い衝撃波が俺を含む勇者パーティを襲う!

「皆、俺が皆を守る! 俺の後ろに居ろ!」

俺は「ガーディアンディフェンス!」聖騎士スキルを発動する。


蒼白い光の壁が俺達を包む。

「聖女! 剣士、エルフにホーリーウェポン! 魔女は溜めに溜めた最大威力の魔法を! レンジャーは聖女と魔女にポーションを! 勇者! 魔女の魔法の後にぶちかませ!」

俺は魔王が此方を舐めている内に此方の最大威力の攻撃を当てる作戦を出した。


「神々よ! 勇敢なる者に聖なる加護を! ホーリーウェポン!」

聖女がホーリーウェポンを発動する。

この時、魔王の斬撃は俺の張った防御壁に衝突し、激しい衝撃が俺の盾を揺るがす。

「流石魔王の力だ。 これ程とは・・・。」

油断していても、この威力か・・・。

「だが、この程度なら耐えられる。 やれ! 剣士、エルフ!」

「剣士! 私の全魔力を貴女に! レインボーエンチャント!」

エルフの火、水、風、土、無、太陽、月の属性エンチャントが剣士の刀と呼ばれる武器に加わる。

「東方剣術奥義、『神滅絶牙』!」

極太の斬撃が魔王を襲う。

剣士の1日一度の大技が魔王の闇のバリアと右の翼二枚を消滅させる。


「食らいなさい! 『女神の裁き(ジャッジメント)』!」

魔女は、ほぼ全ての魔力を使い、魔法を放つ。

何処までも澄んだ光の柱が魔王を包むと、直後に爆発を起こした。


「やったか?」

魔王の初撃を凌ぎ切った俺はそれが間違いだと気付いた。

まだ魔王は倒れていない!

「勇者! ブレイブブレイドだ!」

だが、それは遅かった。

黒い稲妻が俺と勇者以外に直撃した。

「皆!」

勇者の悲痛な叫びが魔王の間に響く。


「安心なさい。 この我の身体を傷付けた許せない者達ですが、死なない程度には手加減してあげましたよ・・・。」

魔王は生きている。

「効いている。」

魔王の二対の翼は消失し、闇のバリアも消え、その身体には無数の傷が出来ていた。


「本当なら、直ぐにでも八つ裂きにしたいところですが、翼の再生の為に一人一人の魂を頂かなくてはならなくなってしまいました・・・。」

魔王は無表情で淡々と話す。


「人間の勇者よ。 取引をしましょう。」

「取引だと?」

「我はお前とそこの男の二人位なら楽に殺す事が出来る。 ですが、貴方達二人を見逃す代わりに倒れている五人を見捨てるのです。」

そうすれば、貴方達二人だけは生き残る事が出来る・・・。

魔王は酷薄な笑みを浮かべる。


「魔王、お前はアホだな。」

「ルシェル!」

「お前、実は余裕が無いだろう? だから、回復の時間稼ぎをしているんだよな。」

俺は断言する。

殺す気なら、もうとっくに俺と勇者は殺されていると思う。


「魔王、お前は俺達を侮った。 初手で気の抜いた一撃を放ったのがなによりの証拠だ。」

「そして、仲間達の最大威力の攻撃をモロに受けたお前は、力の源である二対の翼を失った。」

「お前は追い詰められている。 だからいきなり取引を持ち掛けた。」

俺達を確実に殺すために仲間の魂を喰らい、力の源である二対の翼を復活させるのだ。

仲間の魂を食べれば、魔王は我々の手に負えなくなるだろう。


「魔王よ、確かにお前はこの場に居る俺と勇者を殺す事が出来るかも知れない。」

だが、

「翼を失っている以上、ウチの最大戦力の勇者の一撃を受けたらどうなるかな?」

俺は悪い笑みを浮かべ、魔王を見詰める。


「さあ、取引の答えはNOだ。」

俺は盾を構え、勇者の前に立つ。


「魔王よ。 俺達の仲間に攻撃を加えようとするなよ。 その攻撃の内に勇者の刃がお前を捉えるだろうから・・・。」

お前には俺と勇者の二人を同時に倒すしか勝ち目は無いんだよ。

勇者のブレイブブレイドは神速の一撃。

その一撃を最大限に発揮するのなら、相手が最大の攻撃を放った後の硬直を狙う。

だから俺は魔王を最大限に煽る。


「さあ魔王さんよ。 たかが人間二人ぽっち殺せないような事は無いよな?」

「さあ、やってみろよ。 掛かってこいや!」

俺は魔王相手でもタウントのスキルを使用した。

これで完全に倒れた仲間は狙われない筈だ。


「矮小な人間の分際でよくも・・・。」

魔王は憤怒の表情をうかべ、「貴様の魂なぞ要らん! 消え去れゴミが!」突き出された両手から、巨大な黒い魔光が放たれた。


俺はこの魔光を見た時、初めて「死ぬかも知れない。」と思った。

だけど、「ルシェル、人が強くなれるのは、誰かを守りたい、背負ったものの大切さを知った時、初めて強くなれると思うんじゃよ。」じいちゃんの言葉。

「父さんがどうして強いかって? それはお母さんやルシェル達がいたからさ。 だってそうだろう? お前達と言う『守りたい者達』が居たからこそ、お父さんは何処までも守り続ける事ができるんだよ。」

それって凄く大事な事だと思わないかい?

父がはにかみながら、俺に語った言葉。

「今なら分かるよ。」

俺はじいちゃんと共に戦い、父と共に戦い、そして今はここにある盾を構えた。

「俺は大事な者達を守る為に生まれたんだ!」

そして、俺は一人じゃない!

気付けば、沢山の人達が俺と盾を支えていた。

「そうか、俺も守られていたんだ・・・。」

俺は今まで使うことが出来なかったスキルを使った。

『女神の(ヴァルキリア)

魔王の全力の魔光が俺の構えた盾に直撃する。


だけど、不思議と大丈夫な感じがした。

隣にじいちゃんが居て微笑んでいた。

なんだ、じいちゃん、俺を守ってくれていたのかよ。

明滅する光の中、俺は確かにじいちゃんと一緒に仲間達を守っていた。


長いような短いような時間。

じいちゃんは俺に冒険譚を話していた時のニカッとした笑顔を向けて消えてしまった。


じいちゃんありがとう。

涙が出そうになりながら、「出番だ勇者! ぶちかませ!」俺は叫んだ。

光と化した勇者の一撃は、魔王の身体を切り裂き、魔王を形成するコアも切断していた。


「な、何故そこに忌々しい女神の盾がある!」

倒れ付した魔王が憎しみの視線を俺の持つ盾に向けていた。


「そうか、あの女神は死ぬ時に、それを地上に残していたのか・・・。」

コアを切断されてもなおも立ち上がる魔王。


「我が魂の一部を残したように、奴はそれを残したのか・・・。」

「ククク・・・、我の負けだ女神よ。」

だが、

「タダでは済まさん! 我の全てを使い、貴様らを道連れにしてくれるわ! 後三分でお前達は死ぬ。 満身創痍のお前達では脱出もままならないだろう! アハハハハハハハッ!」

魔王は全てを込めて自爆するつもりだ!


後三分。 俺が出来る事は・・・。

俺はブレイブブレイドを使って動けなくなった勇者を抱えると、何とか動けるようになっていたレンジャーが仲間を纏めてくれたので、そこに勇者をそっと横たえる。


「・・・ルシェル死ぬ気でしょう?」

レンジャーが俺を見詰めながら呟く。

「何を言ってるんだよ。 俺が死ぬわけなんて無いだろう?」

俺は自信満々に彼女に言う。


「嘘だ! だってルシェルは・・・。」

やっぱり彼女は騙せないか・・・。

一日一回限りのスキルを使用し、今までに発動した事の無いエキストラスキルも使用していた。

何より、戦いの連続で身体にガタがきているのを隠していた。

実はもう立っているのが精一杯だったりする。


だけど、俺は皆に笑顔を向けた。

そして彼女達を守る為に、何時ものように盾を構えようとして、「あれ?」落としてしまった。


もう盾を持てない程、疲弊していたんだ・・・。

半ば他人事だったけど、俺には最後のスキルがある。


『最後の献身(アブソルトガルド)

使用者の命を代価に発動するスキル。


俺は両手を大きく広げ、魔王の前に立ちはだかる。

「さらばだ。 我を破りし勇者のパーティよ・・・。」

魔王も穏やかな顔をしていた。

魔王の身体が輝く。

「俺が必ず皆を守る!」

俺もスキルを発動した。


時が止まったように、いや、ゆっくりと流れているようだ。


聖女、レンジャーはライバルとしては強敵だが、勇者は王子だし、側室でもかまわないのなら、別に争う事は無いと思うぞ。

勇者は分け隔て無く、大事にしてくれそうだしさ。


剣士、お前は国に婚約者が居るんだから、浮気はダメだぞ!

まあ、勇者は女顔だけど、イケメンだから、気持ちは分からないでもないぞ。

ああ、俺もイケメンに生まれたかったな・・・。


エルフ、お前は長生き出来るんだから、勇者との子供は諦めて、聖女か魔女、レンジャーが生んだ子供と結婚したらどうだ?

エルフの20年なんて屁みたいなもんだろ?


魔女、お前も強敵のレンジャーが居るが、毒殺とかはダメだからな!

どんな理由があろうとも、正々堂々だぞ!

後、折角綺麗なんだから、たまにはローブ以外のおしゃれをしような。


レンジャー、お前はよく分からないが、勇者と一番仲良しなのはお前だから、俺が死んだ後は、落ち込むであろう勇者を気に掛けてくれよな。


最後に勇者よ。

何故かお前から良いにおいがしたり、宿屋でも一緒の部屋で寝ていたり、夜営のテントで寝ているお前の寝顔にドキドキしたりしたけど、俺はノーマルだからな!

俺はなんでこんなに必死になっているんだ?

まあ、これから大変だけども、奥さんの尻に敷かれないよう、頑張るんだぞ。

それと勇者パーティに誘ってくれて、ありがとうな。

騒がしかったけど、楽しかったよ。

次に会える時が来たら、また冒険に誘ってくれな。


俺の盾。

最後までありがとうな。

不甲斐ない持ち主だったと思うけれど、お前と一緒に冒険出来て楽しかったよ。

最後にじいちゃんに会えたしね。

でも、じいちゃんに怒られちゃうかな?

曾孫見せられないでごめんね。


ん? 俺の盾が光っているし、浮かび上がっているんですけど・・・。

なんて優しい光だろう。


これは盾の記憶?

女神を守りきれなかったのを悔やんでいたんだな。

そうか、本当に女神の盾だったんだな~。

永い時の中で、破損した部分を修復しながら時を過ごしていたのか。


で、ようやく破損が直ったのに、誰にも発見されなかったんだな。

で、ようやくじいちゃんに拾われたと・・・。


何だか大変だったんだな。


悪いな、また所有者が死んでしまうような体験をさせてしまってよ。

こんな方法しか思いつかなかったんだよ。


なんつーか、皆の事誰も死なせたくなかったし、それだけ俺の中では大事な仲間だからさ・・・。


目が見えなくなってきたな・・・。


皆にさよならは言えなかったけど、これからは魔王に脅かされない平和な世界で暮らす事が出来る。


俺の家族にはルシェルは立派に魔王と戦ったと伝えてくれよな・・・。


温かな光の中、俺は意識を失った。



女神の盾はあの森で拾われてから、ずっと人の営みを見ていた。


女神よりも弱き者でありながら、女神と変わらぬ信念で他者の為に戦う者達の生きざまを見ていた。


常に仲間の先頭に立ち、どんな魔物の攻撃にも、一歩も引かない勇気ある者。

それゆえ、その身体は段々と悲鳴をあげていた。


それは女神を守りきれなかった盾から見ても、かなり過酷な戦いであると見ていた。


親子三代の生きざまを見ていた女神の盾。


女神の盾は今まさに、命を代価にしてまで仲間を守ろうとしている青年を死なせたくなかった。


今度こそ、主を守るのだ。


女神の盾は全ての力を解き放った。


女神の盾から、光が溢れ出す。

それはその場に居る全ての者を等しく包む。


かつて邪神だった者の一部は、消えていこうとする中、在りし日の姿を、女神であった時の姿を一瞬だけ取り戻して、穏やかな顔をして消失した。


女神の盾から出された光は、魔王の城とその周辺を包み、魔物を消失させ、魔王の魔力の影響で凶暴化していた動物達も元の穏やかな姿を取り戻していた。


女神の盾は、誰かに見られているような気がした。


懐かしい気配。

女神の盾は誰かに誉められた気がした。


最初の主の神気だと気付いた時には、その気配は消えていた。


女神の盾は、少し間眠る事にした。

力を使いすぎたようだ。


どうか主と主が命を掛けて守った人々が幸せでありますように・・・。


そう願いながら、女神の盾は眠りに付いた。



「ほへ?」

俺は真っ白な部屋で目覚めた。

俺は確か死んだ筈だよな?


俺はキョロキョロと周りを見回す。

これは、あれだ! 病院の個室ではないだろうか?

と、言うことは俺って生き残ったのか・・・。


よく見ると、窓が開けられ、白いカーテンが風に靡いている。

外からは子供とそれを追いかけているであろう母親らしき声が聞こえる。


魔王は倒したんだよな?

皆は? 無事なんだろうか?


俺はベッドから下りてみる。

身体がパキパキと鳴ったが、特に動けない程でもない。


身体の調子を確認していると、不意に病室のドアが開いた。


金髪碧眼の何処かイケメン勇者に似た女性が驚いた顔をして目を見開いている。


ま、まさか、俺、全裸では無いよな?

うん、パジャマらしき物は着ている。

うん。 問題ない!


そんな事を考えていた俺に、「ルシェル~っ!」金髪美女にタックルされてベッドに倒れ込んでしまう俺と美女。


「あ、あの、ど、どなたか存じませんが、ど、どちら様でしょうか?」

慌てる俺。


如何に勇者パーティの一員とは言え、旅の途中でこんな美女に手を出すような事はしないし、監視もあったから、娼舘にも行けなかったし・・・。


金髪美女は潤んだ瞳で俺を見ると、

「酷い、僕の事忘れたのルシェル。」

そう言った。


俺は男だと思っていた勇者が女である事にようやく気が付いたのだった。



「どうしてこうなった・・・。」

俺は白のタキシードを着ている。

そして俺の前には花嫁衣装を着た六人の女性達が・・・。

一人はいきなり乱入してきたし・・・。


オイ、剣士、婚約者はどうした?

はあ、浮気された。 それも三又、ヒドイな・・・。

でも、何故に俺なんですか?

現時点で五又で剣士を入れると六又になるんで、貴女の元婚約者の二倍ですよ?


まあ、本人が納得してるなら良いけど、ご両親は?

了承済み? 俺にも確認して欲しかったな・・・。


「良いじゃない! 僕の旦那になるから次期王だし、側室沢山でも問題無し!」

「ああ! 何故こうなった!」

「覚悟してね。 旦那様。」×6



「お爺様。 また冒険のお話をしてください。」

孫がまた俺の話をせがんでくる。

キラキラしたその金髪と碧眼は我が妻にソックリだ。


彼は孫である幼い少女に話し始める。


「これは一冒険者として、活躍し、丁度Sランクに昇格して数日経った時だったな・・・。」

彼は勇者との出合いから始める。

それを少女は黙って聞いている。


そんな二人を優しく見守るように、女神の盾と呼ばれた英雄王の盾は、静かに壁に飾られていた。


お読み頂きありがとうございます。


連載の方は退院したら投稿しようと思います。

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