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サーフェイスな僕らのラブコメ  作者: TANAL タナル
1/2

ラブコメになんてなる気配がしない。

一応青春ラブコメです。

処女作です。宜しくお願いします。

 僕らはいつだって表層で生きている。

 まるでさわらぬ神に祟りなしとでも言わんばかりに僕らは言葉を恐れてる。


 そんな独白を脳内で吐きながら、一人ぼっーと頬杖をしてつまらなそうに板書もせず黒板を眺めていた。


 ここ、県立赤瀬南(あかせみなみ)高校は海に面したそこそこの進学校だ。

 そしてさっき脳内モノローグを披露していた俺はその学校の生徒の一人、高校二年生の宇田津上真(うだつあがま)という。


 名前の由来は“うだつが上がらない”から来ている。

 名字が宇田津だったのでうだつが上がるようにと(あが)、そして真っ直ぐの()を取って上真というわけだ。


 結構安直な名前だが十余年も付き合っていると、案外悪くないかもと思ってくるものだが…名前の由来とは裏腹に“うだつが上がらない”毎日を送っているので素直に喜べない部分もある。


 そんなしょうもない一人語りを脳内で繰り広げながらこのつまらない授業をやり過ごそうと一人思案していると、不意に目を向けた先に彼女の姿が見えた。


 俺はそっと視線を机に戻し、さっきまで読みもしなかった教科書の文字列を必死に読もうとする。


 しかし内容は頭に入ってこず、意思とは裏腹に()()()()()()()()()()()()()()をふと思い出してしまった。


 人によっては「何だ、そんなことかと。」笑いの種にでもしようとする輩もいるかもしれないが、俺にとっては今でも心を蝕むくらいには嫌な出来事だった。


 そうやって嫌な思い出との再開を果たしていると、救いの手のように授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 教師が終わりの号令をかけると、俺は教科書を机の中にしまいそそくさと教室から出ていった。


 別に用を足すでもなく、別段他に用事があるわけでもないが…。


 言ってしまえば、教室にいるのが居心地悪いのである。更に言うと友と呼べる人がいないのである。(ドヤ)


 別に得意気にいう事でも無いし、普通に悲しい事なのだが、こんな調子でいないと俺のヒビの入ったメンタルでは耐えられない。


 たまに客観視して普通に落ち込む。


 ともあれ時間を潰すために俺はいつも通っている場所へ向かう。


 うちの学校は旧校舎と新校舎どちらも三階建てなのだが、俺が所属している二年B組は旧校舎の二階に位置している。


 そこから階段を使って一階まで降り、裏門の近くにちょっとした庭みたいな物がある。


 そこにある東屋(あずまや)が俺の特等席だ。いい感じに自然に囲まれているここは俺が唯一と言っていいほど学校内で安心出来るスポットといっても過言ではないだろう。


 しかし、普段なら昼休みとか時間に余裕がある時にしか来ないのだが授業中に()()()を思い出してしまったがためにここに足を運ぶことになってしまった。


 俺は一息つくとふと考える。


 (今、ここでなら、彼女との因縁…と言うには大袈裟(おおげさ)過ぎるが回想には浸れるかもしれない。)


 そう考え、俺は中学校での彼女との出来事…いや、憐咲(あわれざき)(さき)との()()()を苦い顔になりながら反芻(はんすう)していく。


 それは中学生活にまで遡る。

 今でこそ独りボッチ街道を我が物顔で突き進んでいる俺だが、数名の友と呼べる生徒がいた。


 その時つるんでいたグループは所謂(いわゆる)根暗オタクグループというもので、その中で俺は楽しくアニメ、マンガ、サブカルチャーについてその数名の友と議論をしながら語り合っていた。


 言ってしまえばそれは決して薔薇色(ばらいろ)の青春時代ではないと思う。けれどそんな灰色でも俺にとっては掛け替えのない瞬間だったと今なら声を大にして言える。


 そんな俺達の対極に位置していたグループが“憐咲咲”が所属していた、スクールカーストトップに君臨するグループだった。


 俺と彼女はこんな正反対のような存在なのに交流があったのは彼女と俺が同じ図書委員だったからである。


 本が好きだから、そんな単純な理由で立候補した図書委員で彼女と役職が同じになった時は(終わった…)。本当にそう思っていた。


 彼女はスクールカーストトップ片や俺は根暗なオタク。良くても無視、悪ければ仕事を全部押し付けられる。そんな最悪な想像をしていた。


 でも、それは全くの杞憂だった。

 最初の仕事で彼女は親切に自己紹介をしてくれたし、その時に受けた第一印象は麗しいとか御淑やか(おしとやか)とかだった。


 今まで俺は彼女の事を視てこなかったばかりに勝手な妄想や偏見が多分に入り交じっていたことを恥じた。


 よく彼女を見れば、絹のように細く腰辺りまであるロングの黒髪を持っていて、穏やかそうな目は閉じた時にその長いまつ毛を(あらわ)にする。日本人にしては高い鼻に少し湿って艶やかな唇。彼女はどこに出しても恥ずかしくない立派な美少女だった。


 表面すらも視ていなかった俺は自分を強く心の中で叱咤(しった)し、彼女に誠実に向き合おうと心を入れ替えた。


 それから数週間経った後、図書室で貸し借りや本の整理の当番が回ってきた放課後のこと。憐咲さんは何気なく話しかけてきた。


「そういえば、どうして宇田津君は図書委員に立候補したの?」

「いや、別に理由らしい理由もなくてただ本を読むことが好きなだけなんだ。そういう憐咲さんは?」

「私も宇田津君と同じでただ本が好きなだけなの。」

「へぇー、どんな本を読んだりするの?」

「基本的には一般文芸が多かったりするかな。ジャンルは…、れ、恋愛物が好きです…。」


 恥じらいながらそう言う彼女に俺は微笑してしまった。


「な、何…?私が恋愛物読んでるのがそんなにおかしい?」


 恥ずかしそうにしながら頬を膨らませる彼女を見て、自分の頬が緩むのを感じながら弁解の言葉を繋いだ。


「いや、憐咲さんがそういう本を読んでることは文学少女ぽくて全然普通だと思う。けど何か意外っていうか…。い、いや本を読んでる姿とかは凄く似合ってると思うよっ。」


 本心から出た言葉だった。

 彼女が本を読んでいる姿はどこを取っても一つの絵画なり得るものだと思えたからだ。


「それって結局意外なの?普通なの?どっちなの?」


 俺の最初の言い回しが不明瞭(ふめいりょう)だったこともあり、その点に疑問を抱いてる用だった。


「いや、憐咲さん自身は文学少女ぽくて様になると思うんだけど…。ん〜何て言ったら良いのかな…世間体での憐咲さんには似合わないと言うか…。」


 俺自身自分が何を言いたいのか分かっていなかった。ただ、なんとなくそう思った事、感覚的な物だったので上手く言語化することが出来なかった。


「ん〜、つまり私個人で考えると本を読んでいる姿は想像出来るけど教室にいる私では想像出来ないってこと?」


 彼女が口にした解釈は俺の肺腑(はいふ)にストンと落ちた。


「そ、そう!そんな感じ!何か友達と話している時の憐咲さんからは想像がつかないって言うか…。というか、僕の曖昧な説明で良く理解することが出来たね。」


 彼女の推測する力には驚いたものだった。なにせ俺の説明の体を成していないあんな曖昧模糊(あいまいもこ)とした言葉の羅列から自分でも汲み取れなかった内心を他人である憐咲さんは理解した。これが文学少女兼スクールカーストトップの実力なのだろうか…。


「読んでるのは本だけじゃないからね…。」


 その言葉を口にした彼女は平素(へいそ)よりも少し物寂しそうな顔をしていた。そんな彼女の顔を見ていつもは口にしない冗談を交えた。


「え?なぞなぞ?ごめん俺そういう頭を使うの苦手でさ。自分のバカさ加減を晒したくないからさ、出来たらこれからはなぞなぞとかあんまり出題して欲しくないなぁ〜。な、なぁ〜んて…。」


(ヤ、ヤバい!普段はこんな軽口言わないから意味不明な返しになってしまった!よくよく考えたら適当に返事しとけば良かったじゃん俺!ほら憐咲さん口を開けてポカーンとしていらっしゃるよぉ〜。慣れないことなんてしなきゃ良かった…。)


「ぷっ、ふふ、ふふふっ。」

「え、え、ど、どうしたの?」


 急に顔を背けて笑い始めた彼女はそれから数秒体を小刻みに震わした後に少し頬が緩んだ表情のまま俺の方へ向き直った。困惑気味の顔だった俺は顔で説明を求める。


「い、いや凄く饒舌になるんだなって思って。第一印象はあんまり話さない人なのかなと思ったら急に早口でまくし立てるからびっくりしちゃって…ふふっ。」

「は、はぁ…。」


(や、やめて!その言葉はオタクに響く!早口で喋っちゃってごめんないぃ!だ、だからもう笑わないでぇ!羞恥でもう学校に来れなくなっちゃうぅ!)


 心の中で思いの丈を叫びながら羞恥と赤面を隠すため視線をずらしてフローリングの溝を見ていた。


「でも…、優しいんだね宇田津君って。」


 彼女がその言葉を口にした時の顔は今でも忘れない。


 その顔を見て教室での彼女の笑顔は愛想笑いとかの類いの物ではないのだろうか。そんな疑問を感じ取った。


 何となくこの笑顔が彼女の素ではないのだろうか、そんなことを思っていた。勝手な解釈でただの妄言かもしれないがそう思わせるほどにそれは輝きに満ちていて、オタクな中学生の心を揺さぶるには十分過ぎる物だった。

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