魔法教室
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翌日、吾輩とユリが朝食を済ませ、ソファーで寛いでいると、またしてもチャイムが鳴る。
「コペオちゃ~ん、あのマイクさんみたい~。先日のお詫びだって~」
「ふむ、あの件は、あれで済んだのであるがな。律儀な者よ。まあ、そうでなくては、あの世界、のし上がれぬということかの? うむ、通してやるがよい」
マイクは、あの、南田と北野を従え、入って来た。
「魔王コペオさん、先日は、大変失礼しました! そして、これが俺の詫びの印です!」
南田と北野が、マイクの背後から進み出て、巨大な鮪を一匹、吾輩の目の前に差し出す。
「うむ、苦しゅうないぞ。そなたの誠意は、もう充分に伝わっておる。ギャラもちゃんと振り込まれておったようだしな。なので、そんな物は必要ないのだぞ? それに、あれの修理費も、それなりについたであろう」
「いえ、それでは俺の気が済みません! それに、コペオさんが加減して下ったので、あれくらいなら、俺のポケットマネーで何とでも。局内では、『魔王の爪痕』として、永久保存しようかって声まで出ていましたし。もっともそれは、俺が止めましたけどね」
「ふむ、好きするがよかろう。ならば、吾輩も、遠慮なく頂くとしよう。そこの者達、その鮪をそのまま抱えておるがよい! 動くで無いぞ!」
吾輩は、軽く腕を数回振る。
うむ、うまく三枚に捌けたな。
「では、それをキッチンに頼もう。ユリ! ちゃんとラップしておくがよい」
「は~い」
キッチンにユリとマイクのお引きが籠り、吾輩とマイクは、ソファーに腰を下ろす。
「それで、本当に厚かましいお願いなんですが、コペオさん、聞いて頂けないでしょうか?」
「うむ、内容にもよるがな。話すがよかろう」
マイクの話は、大したものでは無かった。
あの一件全てを、吾輩とマイクの、共同での手品だったことにして欲しいとのことだ。
ふむ、ならば、あの穴を永久保存させないというのも納得である。
「うむ、好きにするが良かろう。但し、何故真実を隠す必要があるか、述べるがよい」
「いえ、ちょっと、かなり上からの圧力がかかってしまいまして。勿論、俺は、あれが魔法の結果だって分っています。あの場に居た連中の大半も、コペオさんは嘘を吐いていなかったって、信じてますし」
「ふむ、能ある蛸は色を変えるというからな。あまり目立つなということであろう。昨日のアホ記者共からも納得できるわ」
「え? 能ある…? い、いえ、何でも無いです。そして、あれはそういう事でしたか。はい、何でも、コペオさんを巡って、戦争にまで発展する可能性があるらしいです」
う~む、吾輩にとっては、あの程度、子供騙しなのだが。
まあ、戦乱を呼ぶのは、吾輩も本意ではない。
「うむ、好きにするが良かろう」
「ありがとうございます。そ、それで、も、もし、良かったらなのですが、俺に魔法を教えては頂けないでしょうか?」
ふむ、この者が、何故ここまでしたかの意図が理解できたな。
吾輩は腕を組む。
「う~む、そなたのその熱意に免じて、伝授してやりたのではあるが、吾輩からは無理であるな」
「やはり、そう簡単に教えられるものでは無いと言う事ですか……」
「うむ。吾輩の世界では、魔法の伝授は、普通、親から子等、相手を重要な存在だと認めた者だけに行われる。でなければ、師弟関係を結ぶか、主従関係内でのみだ。だが、吾輩は、まだ弟子を取る気は無い。なので、残るは主従関係なのだが、残念ながら、吾輩にはこの世界において、そなたに、臣下として与えられる、領地や仕事が無いのだ。そもそも、そなたには、既にタレントという、立派な仕事があるからな」
マイクは、残念そうにうな垂れてしまった。
ここで吾輩は、鮪の目玉をくり抜いているユリに振り返る。
「まあ、待て。最後まで聞くが良い。吾輩は現在、ユリだけを、吾輩の重要な存在だと認めておる。なので、ユリが望めば、吾輩がユリに教えるので、そなたはユリに頼んで、その場に同席させて貰えばよかろう。ユリは、あの世界の人間ではないからな。勿論、これはユリには強要せぬし、その権利は吾輩にはなかろう」
マイクの眼が輝いた!
その後、ユリはそれ程魔法には興味が無かったようなのだが、マイクが見事なスライディング土下座をユリに敢行し、ユリも折れたと見える。もっとも、何かマイクに要求しておったようだが。
という事で、現在、吾輩達は、ユリのマンションの屋上に来ておる。
もっとも、マイクのお引きは、冷蔵庫に入りきらなかった鮪の処分を任せると、マッハで消えおったが。
「それで~、コペオちゃ~ん、魔法って、どうやるの~?」
ユリは吾輩と向き合い、そのユリの背後で、マイクがメモを取りながら、真剣に聞いていた。
「うむ、そう難しいものではないのだ。ただ、出来るかどうかは、素質にもよるがな。要は、己の精神力、魔力を込め、イメージを造成し、それを具現化する作業だ。ユリならば、必ずやできるであろう!」
「は~い。なんか~、コペオちゃんに言われると~、あたしも出来そうな気がして来たわ~」
「うむ、その意気である! では、先ずは吾輩の真似をすることから始めるがよい!」
吾輩は、片手を前に差し出し、その先に、直径50cm程の火球を作って見せてやる。
「この炎のイメージを己の中で造成し、腕先に意識を集中するががよい!」
ユリは、手の平を広げながら片手を突き出し、真剣な表情で目を閉じる。
マイクもユリの背後で、同様にしている。
ふむ、二人共、やれば出来るではないか!
何故、この世界に魔法がなかったのか、少し疑問であるな。
二人の手の先には、小さいながらも、炎が灯っていた!
「よし! そなたら、ゆっくりと目を開けよ! 決して、意識を腕先から逸らすで無いぞ!」
「は~い」
「は、はいっ! あ、あれ? 成功したと思ったんだけどな~」
ふむ、ユリの方は、そのまま炎を維持できておるが、マイクの方は、消えてしもうたか。
「では、ユリ! その炎を、空に向かって解き放つが良い! ファイアキャノン!」
「は~い。え~っと~、ふぁいあ~きゃの~ん」
吾輩とユリの腕先から、同時に火球が空に向かって撃ち出される!
ユリの方は、直径10cmも無いが、これは完璧であろう!
後は、魔力さえ増えれば…、ん? また、僅かだが増えておるな。
「す、すげぇ~っ!」
「あら~? あたし、出来たちゃったみたい~。コペオちゃんの言う通り~、簡単ね~」
その後、ユリの方は安定して成功するのだが、マイクの方は、炎までは出るのだが、撃ち出そうとすると、消えてしまいおる。
まあ、これはそのうち成功するであろう。精神の集中ができておらぬだけと見た。
「ユ、ユリさん、な、何かコツとかあるのでしょうか? お、俺、炎はちゃんと出ているみたいなんですけど…、ま、まあ、これだけでも充分ですよね! コペオさん、ユリさん、ありがとうございました!」
「うむ、苦しゅうないぞ。マイクとやら、そなたは…、おっと、いかんな。今の吾輩は、ユリに教えておるだけであった。まあ、吾輩の見立てでは、そなたは、人間にしては魔力のあるほうであるし、そのうち成功するであろう。他の魔法を知りたければ、またユリに土下座するがよい」
「はい! ありがとうございます! これで、新春かくし芸大会は完璧ですよ!」
マイクは満面の笑みで帰って行った。
『本日11時42分、『ロケットマン共和国』より、本州を横断し、太平洋に落下すると見られる軌道のミサイルが発射されました! しかし、日本海上空にて、地上から発せられた何かに衝突し、墜落した模様です。幸い、死者や怪我人等は無く、防衛省関係者も、それ以上はしらばっくれて情報を出しやがりません。また、専門家の話によると……』
現在、吾輩はユリと共に、飯よりも鮪の方が多い鮪丼に舌鼓をうちながら、テレビでニュースを見ている。
「ふむ、何か引っかかる気がするのは、吾輩の思い過ごしであろうか?」
「そうそう~、コペオちゃんは~、気にしなくていいのよ~。あ、お代わりあるわよ~」
「ふむ。ならば、お代わりである!」
ユリはにっこり微笑み、吾輩の差し出した丼を受け取った。




