新聞デビュー
新聞デビュー
翌日、朝食を済ませ、吾輩がいつもの日課、PCでの情報収集をしておると、チャイムが鳴る。
「コペオちゃ~ん、新聞記者さんよ~。昨日のマイクさんの件で~、共同取材させて欲しいって~」
「ふむ、吾輩に聞かずとも、あの者に直接聞けばいいものを。そして、納得できたわ。この、先程から周囲に漂っておった気配は、そやつらであったか」
「どうする~?」
「昨日と一緒でよかろう。10万だ」
「は~い」
「ん? ユリ! ちょっと待て!」
吾輩は、今まさに玄関の鍵を開けようとしている、ユリを呼び止める。
「……、よし、その位置で良かろう。では、通してやるが良い」
「は~い、お待たせしました~」
入って来たのは、30歳前後の、二人のスーツ姿の男女であった。
「反町よ。適当新聞の美人記者とは私の事ね」
「日田です。どうでも新聞の敏腕記者とは僕の事です」
ふむ、二人共、マイクとやらの足元にも及ばぬが、人間にしては、それなりの魔力と言えるであろう。
ユリは、吾輩の先程の指示通り、二人をリビングのソファーにかけさせ、テーブルを挟んだその正面に吾輩が陣取る。
二人は、腰を下ろすと、それぞれ携帯録音機をテーブルに並べ、ペンと手帳を取り出し、吾輩に向く。
ふむ、これで取材準備完了という訳だな。
「では、始めに言っておくが、吾輩の時給は高い。1時間10万だが、それよいのか?」
「ええ、構わないわよ」
「はい、どうせ経費で落としますから」
ふむ、こやつらも金払いはいいと。
新聞社とは、そんなに儲かるものなのであろうか?
「じゃあ、早速だけど、貴方、人間なの?」
「早速ですが、何種のペンギンですか?」
「それは、昨日も申した通りだが? そなたら、あの番組を見ておらぬのか? もっとも、途中からはCMだけになったであろうが」
「いいえ、見て無いわ」
「バラエティー番組なんて、見ませんよ」
ぬお?
こやつら、昨日の件について取材しにきたのであろうが?
それを見ていないとは!
吾輩が絶句しておると、二人は胸を張る。
「私達の信条は、『取材は、足を使わず頭を使って』、よ!」
「なので、わざわざ僕達がここに来たことに、感謝すべきですね!」
吾輩は、即座にこやつらをこの星の衛星にしてやろうかと思ったが、思い留まる。
そう、ユリに言われておったわ。ここは我慢せねばな。
「で、では、そなたら、何故昨日の件を知っておる?」
「ネットで見たからよ!」
「居酒屋で、隣の人が噂してたんで」
もう、何も言うまい。
「ま、まあ、良かろう。吾輩は人間ではない。当然ペンギンでもない。色々あって、別世界から来た、魔王である」
「信じられないわ」
「信じられませんね」
「ふむ、その反応は理解できるので、信じるも信じないも、好きにするがよかろう」
すると、二人は意外な返答をしおった。
「いいえ、貴方は私達に、貴方が異世界の魔王であるという事を、証明する義務があるわ」
「そうですね。貴方は、嘘を吐いている可能性がある。なので、今の言葉が嘘でないと証明して下さい」
は?
へ?
何故、吾輩が、そんな面倒な事をせねばならん?
「そなたら、吾輩には理解できぬのだが? 吾輩は、そなたらが信じなくても、一向に構わんのだぞ?」
「いいえ、誤解を放置しておくのは良くないわ」
「ええ、この世は、真実という歯車で回っていますから」
う~む、何やらもっともそうな事を言いおるが、先程から、こやつらからは嘘の波動が多分に放出されておる!
ふむ、あれを使うか。
「対象、吾輩の半径5m! ライアースキャン!」
一瞬、この部屋のほぼ全体が、淡い緑色に包まれた!
「え? 貴方、今、何か意味不明な発言をしたわね!」
「今の言葉の意味を、説明して下さい!」
「そなたらに教える義理はないが、ちょっとした魔法だ。そして、そなたら、これからの発言には、注意した方がよかろう。これは忠告である!」
そう、この魔法は、嘘を吐くと、身体の一部、人間ならば、頭頂部が淡く光る。
「貴方に忠告される謂れはないわ!」
「魔法って言いましたね。では、今のが魔法であると証明して下さい」
「だから、勝手に判断すれば良かろう! では、吾輩の質問に答えるが良い。さすれば証明できるであろう」
う~む、そろそろ限界であるな。
キッチンを覗くと、ユリが、またしても心配そうな顔をして、茶の用意をしてくれていた。
うむ、ここは我慢である!
「いいえ、質問するのは私達よ!」
「そうですね。僕達は金を支払うのですから」
「あ~、ならば、勝手に質問するが良い! 但し、そなたらがどう判断するかは、吾輩の知った事ではない!」
ふむ、こやつらもやっと理解…、いや、諦めたようだ。
「では、質問するわ。貴方は、何故マイクさんを蹴飛ばしたのですか? マイクさんは貴方を訴えなかったようですが、本来ならば傷害罪です。あのテレビ局から、鼠人間ランドまで約10キロ。さぞかし痛かったでしょうに。私は、彼に同情するわ」
ぬお?
この女の質問はそこなのか?!
普通は、10キロも飛ばされて、無傷であった事に疑問を抱くはずだが?
そして、それを聞いてくれれば、吾輩の魔法も証明できたのであるが?
そして、ここでこの女の頭が淡く光る!
ふむ、同情はしていないと。
「あの者が吾輩を挑発し、吾輩がその挑発に乗っただけだ。あの程度で済んだのは、全て、ユリのおかげと心得よ」
「でも、先に手、いえ、足を出したのは貴方ですよね? 僕なら、そんな暴力、到底振るえませんよ」
ここで、今度は男の方の頭が淡く光る!
ふむ、こやつは振るうと。
「それで? あの者は、あれで納得しておったようだぞ?」
「でも、暴力を振るったのは事実よね? 貴方は、彼に謝罪する義務があるわ!」
「そうです! 今、ここで貴方が僕達に謝罪すれば、彼に伝えてあげますよ」
今度は、二人共光る。
ふむ、謝罪する義務はないし、伝える気も無いと。
そもそも、何故、ここで吾輩がこやつらに謝る必要がある?
「いや、それには及ばんし、そもそも吾輩は、あの者を、あれで許してやったのだ。吾輩が謝罪する道理では無い!」
「ふ~ん、貴方がそのつもりならそれでもいいわ。この事は、しっかりと記事に書くから」
「貴方は、今、謝罪しなかった事を、きっと後悔する事になるでしょう!」
う~む、これは、吾輩は脅迫されておるのか?
「好きにするがよかろう。そもそも、吾輩は、吾輩に非があったとは思っておらぬからな」
「そう。貴方、いい覚悟ね。私達を敵に回して、無事に済むと思ってるの? もっとも、私達は、真実を伝えることしかできないけど」
「僕達は、第四の権力と呼ばれる、報道機関ですよ? もっとも、僕達は、その力を民衆の利益の為にしか使いませんけど」
またもや光る。
ふむ、真実は伝えないし、権力を民衆の為には使わないと。
「吾輩は、そもそもそなたらを敵とも思っておらぬし、第四の権力とやらにも興味は無いのでな。では、次に移るが良かろう」
「いえ、これでもう充分ね」
「はい、これで貴方の事は理解できました」
ぬお?
たったこれだけでいいのか?
なんか、こう、もっと突っ込んだ事を聞かれると思っておったのだが?
「ま、まあ、そなたらがそれで良いなら、吾輩は構わぬが?」
「ええ、後は適当に書くだけよ。それで、貴方、これで社会的に抹殺されるわね」
「はい、そもそも、取材なんてどうでもいいんですよ。僕達が書くことが真実になるのですから。なので、貴方には、もうこの国での居場所は無いでしょう」
ふむ、今度は光らんな。
「う~む、全く意味が解らぬが? 吾輩を社会的に抹殺して、そなたらに何の得がある?」
「当然じゃない。貴方のように、思い通りにならない、しかも、人間を10キロも飛ばせるような兵器、この日本に居させる訳にはいかないわ」
「そうですね。あ、でも、もし貴方が亡命したくなったら、その時は、喜んでお手伝いしますよ。亡命先も、僕が斡旋してあげましょう」
これも光らぬと。
まあ、大体この者達の正体は、理解できたがな。
「ふむ、吾輩は、別にこの国に拘るつもりも全く無いのでな。では、約束の報酬をお願いしよう。ユリ!」
ユリが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「コペオちゃん、お疲れ様~。あたし、嬉しかったわ~。じゃあ~、30分だから、5万円よ~」
ユリが二人に手を差し出すが、二人は軽くそれを無視して、鞄に荷物を仕舞い、扉に向かおうとする。
「おい! そなたら! 約束通り、支払って欲しいのであるが?!」
すると、二人は顔を見合わせてから、当たり前のように答える!
「え? そんな約束、した覚えはないわね?」
「そもそも、貴方、人間じゃないんでしょ? 人間以外との契約なんて、成立する訳ないでしょう?」
やはりか、薄々気付いてはいたがな。
「ふむ、流石の吾輩も我慢の限度を超えたわ! ユリ! よいな?!」
「は~い。あたしも~、これだけは許せないわ~。でも~、ちゃんと手加減しましょうね~」
「分かっておるわ! 対象、その二人! カンパルスレイブ! 期間終身!」
二人の身体が紫色に光る!
「そして、貴様ら二人に命ずる! 約束の報酬を支払い、今後、一切の嘘を禁じ、聞かれた事には必ず答えよ!」
「ふん! 何でそんな事をあんたに命令…、い、痛い痛い! 暴力反対!」
「な、何を馬鹿な事を…、あ、頭が…、わ、割れる!」
二人は、揃って頭を抱えて蹲る!
「これが、貴様らが信じなかった、魔法というものだ。身を持って味わうがよい! 先程の、吾輩の命令に従っている限りは、何事も無いがな。解ったら、さっさと支払うがよい! さすれば、その痛みからは解放されよう」
二人は観念したのか、財布を取り出す。
「こ、これは立派な脅迫よ! 訴えてやるから! それで、日田君、あんたが払いなさいよね! って、痛い痛い!」
「そ、そうです! 裁判になったら、うちには優秀な弁護士が居ますからね! そして、誘って来たのは反町さんじゃないですか! あ、頭が…」
そして、再び蹲る。
「全く、往生際が悪いにも程があるわ! ふむ、そうやって苦しんでおるがよい!」
「じゃあ~、コペオちゃん、今の映像、後でアップしていい~?」
ユリは、喜々として、キッチンに立てかけてあったスマホを回収する。
「うむ、これも再生回数が稼げるのは間違い無かろう」
「か、隠し撮りなんて卑怯よ! これこそ完全に脅迫だわ! い、痛い!」
「そ、そんな脅しには…! あ、頭が~っ!」
その後、埒が明きそうにないので、のたうち回る二人から、ユリが財布を回収する。
「コペオちゃ~ん、合わせても、2万しかないわ~」
「ふむ、ならば、残りの3万、日が暮れるまでに持って来るがよい! 今はそれで勘弁してやろう! もっとも、持って来なかった場合は、あの動画をアップして、代りにするだけだがな」
二人は真っ青な顔で立ち上がり、マッハで家を出て行った。
『先程、適当新聞と、どうでも新聞の、社長と編集長が揃って辞任するとの発表がありました。両新聞社の下っ端記者が、捏造記事を書いていたことを認める供述をしており、これを、会社ぐるみで容認していたと……』
現在、吾輩とユリは、すき焼きという料理に舌鼓をうちながら、テレビでニュースを見ている。
「ふむ、ちと効きすぎであったか? あの者達も、すぐに金を持ってきおったしな」
「どうだろ~? でも~、あの人達~、もう日本には居られないかも~」
「まあ、そこは吾輩の目論見通りだがな。うむ! このすき焼きも美味である!」




