芸能界デビュー
芸能界デビュー
翌日、昼食を済ませ、吾輩がユリの膝の上で、のんびりと紅茶を啜っていると、チャイムが鳴った。
「あら~? またお客様ね~。今度は誰かしら~?」
「昨日の者達ならば、遠慮なく通してやるがよい。あの者達、まだ、特別サービスを受け取っておらぬでな」
「は~い」
ユリがインターホンを取る。
「え~っと、テレビ局の人みたい~。あの動画を見て、是非、出演して欲しいって~」
「ふむ、ギャラ次第だな。1時間10万と伝えるがよい!」
そう、吾輩は、昨日の一件で味を占めたのである。
「それでいいみたい~。じゃあ~、通すわよ~」
入って来たのは、二人連れの男で、南田と北野と名乗った。
ふむ、昨日といい、覚えやすいではないか!
きっと、誰かが手抜きしていることは、吾輩にはよく分かる。
早速質問攻めに会うが、この者達には、ここで魔法とかを披露しないでいいようだ。
「では、コペオさんは、異世界から来た魔族で、ダンテヒュマ大連邦の魔王、年齢は150歳。という設定でいいですね? 今晩、7時からの生放送に、特別ゲストという事でお願いします。後、その着ぐるみ、収録中だけでいいです。絶対に脱がないで下さいね!」
ふむ、せっかく色々と答えてやったのに、吾輩の事を信じていないようだ。
昨日の者達とはえらい違いだな。
もっとも、あの者達には、国家がバックについていたのだから、情報量が違うのであろう。
「うむ。信じる信じないは、そなたらの自由であるしな。それでよいぞ」
「快諾、ありがとうございます。では、早速宜しいでしょうか? ここからなら、車で3時間くらいですから。あ、ギャラは、全部で50万でいいですかね? 基本的に、局までの移動時間は含まれないので」
ふむ、何とも金払いのいい、あっさりした連中であるな。
やはり、テレビ業界というのは儲かるのであろう。
「うむ、構わん。では、ユリ、支度をするがよい。済まぬが、吾輩はこの世界の常識に疎いのでな」
「あ~、確かにユリさんは美人ですし、これはいいですね。是非、コペオさんと一緒にお願いしますよ」
「は~い」
吾輩とユリは、連中の車に乗せられ、移動する。
思ったよりも道が空いていたようで、2時間くらいで着いたようだ。
もっとも、その間、二人共後部座席で爆睡しておったが。
局に入ると、早速楽屋という、控室に通され、そこで待たされる。
そこへ、スタッフが来て、小道具が居るかとか、何かリクエストはないか等聞かれ、スタジオに被害が出ない程度の魔法を使って欲しいと頼まれる。
途中、簡単な食事と飲み物が出され、テレビもあったので、特に退屈はせなんだ。
6時くらいに、その番組の司会を務めるという者が来た。
ふむ、打ち合わせであろう。
「初めして。俺は、マイク・ハナサン。今日のMCだよ~。あ、二人共、テレビは初めてだよね? でも、こんなのすぐ慣れるから」
ん? この者、出来るな。
打ち合わせと称して、吾輩達の緊張をほぐしに来たのであろう。
実際、この者に指示されたのは、彼の会話にちゃんと合わせてくれという事のみであった。それも、面白おかしく、常ににこにこしながら話しかけてきおる。
「それで、龍鳳院さんは、どうしよっか? 実名は流石に不味いよね? え? 龍鳳院? どっかで聞いた事が……、あ、ごめんごめん。じゃあ、名前だけ、ユリちゃんでいいかな?」
「は~い。それでいいわ~」
その男は、結局5分くらい話しまくった後、慌ただしく出て行った。
「ユリ、あの者は見どころがあるな。魔力も、そなたの10倍くらい…ん? そなた、魔力が僅かだが増えておるな。これはどうしたことか?」
「え~、そうなんだ~。でも~、魔法が使えなきゃ、意味ないわよ~? それで~、マイクさんは超有名人だし~、凄いのは当然じゃないかしら~?」
ふむ、そんなものであろうか?
少し釈然としないが、今は仕事であったな。
「では、今日の特別ゲストは、ユーチューブでの再生回数、100万回を誇る、異世界からの来訪者、魔王コペオさんと、その飼い主、じゃなかった、相方のユリちゃんで~す!」
吾輩達が舞台に出ると、早速マイクが紹介し、それを、後ろの席に居た共演者達が、拍手で迎える。
「じゃあ、早速だけど、コペオさんの居た世界は……」
ふむ、先ずは吾輩の自己紹介のようだ。
吾輩は、包み隠さず答えてやる。
それを、マイクがにこにこしながら頷き、共演者達も同様の反応だ。
「うんうん。では、その世界を支配したという、ご自慢の魔法を見せてくださ~い!」
一斉に拍手が巻き起こる!
「うむ。では、そなたは少し下がっておれ! そして、括目するが良い! 無対象! 出力最小! フレイムブラスター!」
吾輩の腕から、3m程の炎の帯を前方に放出する!
そして、一斉に歓声と拍手が巻き起こる!
うむ、丁度良い加減であった。何も燃やさずに済んだな。
「これは凄い! そのスーツの中には、一体何が仕込まれているのか?! それとも、これが本物の魔法なのか?! 謎は深まるばかりだ!」
「まあ、信じたい者は信じれば良かろう。それで、これで終わりで良いのか?」
「なんと! 魔王さんは、これだけでは、まだ見せ足りないようだ! 確かに、この程度では、とても世界を支配できない! 我々が見たいのは、そんな究極魔法だぁ~っ!」
むむ?
これは予定とは違うのではないか?
スタッフの話では、2回ほど、しょぼい魔法を使ってくれとのことだったが?
「ふむ、それは構わぬが、この建物ごと、いや、この街ごと消し飛ぶぞ? 吾輩も、無駄な殺生はしたくないのでな」
「お~っと! これは出し惜しみか?! それとも、実は、魔王というのははったりだったか?! 本当に出来るのならば、是非ともお願いしたいものです!」
背後の席からは、一斉に笑いが起こる。
しかし、その中で唯一人、ユリだけが心配そうに吾輩を見る。
「おい! 貴様! 図に乗るのもいい加減にせぬか! 貴様、この地を灰にしたいのか?! そして、その場合、貴様にその責任を取る覚悟があるのか? 吾輩にとっては、この世界はどうでも良いのだぞ? 吾輩が統治している訳ではないのだからな!」
マイクの顔が一瞬氷付き、背後の者達は、一斉に顔の向きをずらす。
そして、マイクが凄い剣幕で吾輩に迫る!
「おい、あんた! いや、中身はガキだろ?! 今まではキャラ創りとして、認めてやっていたが、もう限界だ! おう! 出来る物ならやって貰おうじゃないか! ああ! 全ての責任は俺が取ってやるよ! ったく、親の顔が見たいぜ!」
「ふむ、本当に良いのだな。では、貴様はここに残るが良い。後の者は全員、この建物から、今すぐ出るが良い! そして、この建物内とその周辺の者、全て避難させろ! 貴様の覚悟に免じて、加減だけはしてやろう! そして、ユリ! 吾輩の背後に回れ! そこが最も安全であろう」
ふむ、大半の者が吾輩の本気度を理解したようだ。
皆、一斉に席を立ち、スタジオから駆け出していく!
残ったのは、カメラマンを含めて4~5人だ。
ユリは、当然、すぐさま吾輩の後ろに駆け寄って来た。
「ちょ、おい! お、お前、本気なのかよ? お、俺は、ただ番組を盛り上げる為に……」
「限度があるわ! そして、貴様、先程、責任を取ると言ったであろう? なので、吾輩は貴様でも取れる程度の被害に留めるつもりだ。なに、この建物、半分程が消し飛ぶ程度だ。それくらいならば、貴様にも可能であろう?」
「い、いや、た、確かにそうは言ったけど……」
「見苦しいわ! そして、吾輩は見誤っておったわ! そこそこに魔力のある者と思っておったが、中身はカラではないか! あの、アホタレ勇者共の方が、貴様なんぞよりも、余程骨があったわ!」
すると、マイクはいきなり吾輩の足元で、土下座した!
「す、すみません! あ、あんたの口調からは、本当にやっちまいそうだ! こ、この通りだ! 勘弁して下さい!」
「もう遅いわ! そして、貴様は暫くその姿勢でおれ! うむ、その方が安全であろう。パラライズ!」
吾輩は、問答無用に、相手を麻痺させる魔法をマイクに行使した!
「では、そこで黙って、この建物が吹き飛ぶさまを見ておるがよい」
すると、背後から吾輩の肩が叩かれた。
「コペオちゃ~ん、あたしも~、コペオちゃんが怒るのは当然だと思うけど~、この人、ちゃんと謝っているんだし~、もう、許してあげたら~?」
「ふむ、ユリよ。確かに、この者は、吾輩が直接手を下す前に屈服した。だからと言って、吾輩は、それを無条件に許す訳にはならぬのだ。この者に何らかのペナルティーを科し、この者も、それを受け入れて、初めてお互いのわだかまりが消えるのだ。この者も、あそこまで吾輩を愚弄したからには、当然覚悟はできておろう。しかし、ユリの恩情を無碍にもしとうないな。ふむ、パラライズカット!」
吾輩は、麻痺の魔法を解除してやる。
マイクは顔だけ上げ、縋るように吾輩を見る。
「ならば、マイクとやら、吾輩は貴様の謝罪を受け入れ、最小限の被害に留めることにしてやろう。貴様もそれで良いな?」
「は、はい! 本当に失礼しました! 建物の修理費は、俺が全額出します!」
「ふむ、吾輩の考えでは、貴様は、器だけはあるはず。なので、貴様ならば何とかなるであろう」
残った連中も理解したらしく、即座にユリの後ろに駆け寄って来る。
「では、ユリの恩情に感謝するが良い! 絶対物理障壁! 60秒間!」
マイクの身体が真っ黄色に輝く!
「では、動くで無いぞ! そして、今までの吾輩に対する貴様の非礼を、これで全て帳消しにしてくれるわ!」
吾輩は、躊躇わずにマイクを蹴った!
「あの程度ならば、修理も容易かろう。当然、あの者も無事のはずだ。では、ユリ、帰るぞ。吾輩を抱くが良い!」
スタジオの壁には、巨大な穴が、ぽっかりと空いている。
「よし! エアシールド! フライ!」
吾輩とユリは、その穴を潜り、外へ飛び立った!
『緊急速報です! 30分程前に、バラエティー番組の生放送中に、MCのマイク・ハナサンさんが、壁を突き破って、スタジオ外に蹴り飛ばされるという、ハプニングがありました! そして、そのマイクさんは、『鼠人間ランド』の旗竿に引っかかっているところを、全くの無傷で保護されたとのことです! もっとも、当のマイク氏によると、全ての責任はマイク氏にあり、マイクさんを蹴り飛ばしたと思われる人物、自称、魔王コペオさんには、何の非も無いとのことでした。また、『ユリさん、ありがとう!』と……』
吾輩達は、現在はユリの家に戻り、二人でコンビニ弁当を食べている。
「ふむ、あの加減ならば、あの飛距離と。そして、あの者、潔いと言えるであろう。あれならば、許してやった甲斐があったというものだ」
「そうね~、でも~、コペオちゃんは~、もうちょっと我慢しましょうね~」
「うむ。ユリがそう言うのであれば、心掛けてやろう!」
ユリは、にっこり微笑んで、吾輩の口元に一口カツを差し出す。
「うむ! これも美味である!」




