国家の接触
国家の接触
翌日、吾輩達が朝食を摂った後、ソファーで寛いでいると、チャイムが鳴る。
「ふむ、ユリ、客のようだな。またあの男ならば、どうしてくれようか?」
「どうだろ~? とにかく、出てみるわね~」
ユリが、インターホンと何やら会話している。
「う~ん、良く分らないけど~、コペオちゃんに会いたいそうよ~? きっと、あの動画を見た人ね~。でも、どうして此処が判ったのかしら~?」
「まあ、話して見ぬことには。不逞な輩だった場合は、成敗してくれるだけだがな」
「じゃあ~、開けるわね~」
ユリが扉を開けると、そこには、二人の、サングラスをかけた、黒いスーツ姿の男達が立っていた。
先ずは右手に立っていた男が口を開く。
う~む、こいつら、並んで立たれると、全く同じ容姿なので、区別がつかぬな。
「え~っと、龍鳳院由梨さんと、魔王コペオさんですね? あ、我々は怪しい者ではありません。ちょっと、素性は明かせませんが、政府機関の者です」
「ふむ、その紹介からは、怪しさしか感じられぬが? して、吾輩に何の用だ?」
すると、左手の男が、割り込む!
「ほ、本当に喋った! 東田さん、やっぱりこいつは……!」
「こら、西野! 我々の事は極秘だ! 気軽に俺の名前を呼ぶな! 当然、首相の直属だという事もな!」
ふむ、こいつらは東田と西野と。もっとも、あまり区別はつかぬが。そして、どうやらこの国の最高権力者の部下のようだ。
しかし…、アホだな。
ユリといい勝負であろうか?
「ふむ、自己紹介はそれで良かろう。それで、何の用だと聞いておるのだが?」
「あ、す、すみません。そ、そうでした。しかし、ここでは何ですね。上がらせて頂いて構わないでしょうか?」
吾輩は、ユリに振り返る。
「は~い。コペオちゃんがいいなら、上がって頂戴~。狭いけど~」
「では、失礼して……」
こいつらの話によると、どうやら吾輩の詮索のようだ。
昨日、日本の上空にいた人工衛星が、何者かによって撃墜された。それを詳しく調べると、それは日本から発射されたと。更に調べて、ユリのアップした動画に繋がったと。
「ふむ、何やら迷惑をかけたようだな。吾輩も、この星の上空にそんなものがあるとは知らなかったのでな。もっとも、弁償しろとか言われても、困るのではあるが。ただ、元の場所に戻せとか言うのであれば、喜んでやってやろう」
すると、二人は揃って手を振る。
「い、いや、あれは日本のものじゃないですし。寧ろ、日本としては感謝したいぐらいです。そ、それで、その、あの魔法を、もう一度私達の前で見せて頂きたいのです!」
「なんだ、そんな事か。では、ついて参れ!」
吾輩は、再びベランダに出て、空に向かってファイアキャノンを放つ。今回は、こいつらへのサービスの為にと、少し大きめ、直径1mくらいにしてやった。
勿論、今回は上空の配慮も忘れない。丁度、この星の衛星が見えていたので、それを目標にした。
「東田さん! やっぱり、これ、本物ですよ! 早速首相に報告を……」
「だから、西野、我々の事は極秘だ! そ、そしてありがとうございました! あ、後、宜しければ、他にも魔法を見せて頂きたいのですが?」
ふむ、こいつらは信用してくれたようだ。
ならば……、と思ったが、良く考えてみれば、こいつらは、吾輩の部下でも何でもない。
ちなみに、ユリを部下にすることは諦めた。あの者は、もはや、吾輩にとって部下とは呼べぬ。言うなれば、パートナーであろう。
「それは構わぬが、流石に只で見せろとは、虫がいいのではないか?」
うむ、ここは、ユリの財布を膨らませてやるチャンスであろう。
すると、二人は顔を見合わせ、小声で相談する。
(西野、これ、経費で落ちるかな?)
(領収書とか、くれそうもありませんよね~。そもそも、我々の事は極秘ですし)
(だよな~。でも、秘書さんに言えば何とかなるだろ。で、お前、今いくら持ってる? 俺は2万だ)
(え~っと、僕は3万です。でも、絶対に返して下さいね!)
ふむ、いくら小声で話しても、吾輩には丸聞こえだぞ。
そして、どうやら話がついたようだ。
「で、では、1万円でどうでしょうか?」
「いや、貴様ら、併せて5万持ってるのであろう? けちけちせずに、有り金はたけば、吾輩も、特別サービスをしてやろうと思っていたのだが?」
再び連中がひそひそと話し出す。
(東田さん、読心術でしょうか? 全てばれています!)
(どうだろう? しかし、あの魔法を見る限りでも、こいつに我々の常識は通用しないと見ていい! ここは、黙って従おう)
(そうですね。特別サービス、いい響きですしね)
二人はそれぞれ財布を取り出し、皺くちゃの福沢諭吉を5枚差し出す。
それを、後ろで見ていたユリがマッハで掴み取る!
「コペオちゃん、今晩もお寿司よ~」
「うむ、苦しゅうないぞ。あれは美味であった。あ、吾輩はさび抜きでな」
「そ、そんな事より、早く、特別サービスです!」
「お、そうであったな。では、ユリ、いつものように、吾輩を抱くが良い。但し、絶対に離すで無いぞ!」
「は~い」
ユリが吾輩を背後から抱きかかえたので、吾輩は魔法を唱える。
「エアシールド! フライ!」
うむ、成功だ。
眼下には、あのベランダで、黒服二人が揃ってサングラスを落としている姿が伺える。
「す、凄いわ~。これなら交通費も浮いちゃうわ~。コペオちゃん、今度一緒に旅行しましょうね~」
「うむ、ユリ、なかなかの提案であるぞ。では、そろそろ降りるか。あの者達も、もはや吾輩を視認できまい」
高度1000mくらいまで上昇し、この辺りの地形を確認したところで、ベランダに向かって降りる。
連中は腰を抜かしていたが、初めて見るなら仕方あるまい。
もっとも、この程度、あのアホタレ勇者でも出来るのだがな。
「では、約束通り、これから特別サービスをしてやろう。どちらか一方、今のユリのように、吾輩を抱きしめる事を許可する! 良ければ、その首相とやらに、今から会ってやろうではないか。居場所を教えるがよい!」
だが、二人はへたりこんだまま、揃って首を振る。
「い、いえ、これで充分です! あ、ありがとうございました!」
「え、ええ。遠慮させて下さい! あ、また連絡しますので!」
う~む、この者達には、既にその気力は残っておらなんだか。
この、折角のチャンスを棒に振るとは、何とも残念な者達であったな。
二人は、這うようにユリの家を出て行った。
『本日10時頃、月に新しいクレーターが出来る瞬間が撮影されました! これがその映像です!』
夕食時、吾輩は、ユリと一緒に寿司をつまみながら、テレビでニュースを見ていた。
「ふむ、何か引っかかる気がするのは、吾輩の思い過ごしであろうか?」
「そうそう~、コペオちゃんは~、気にしなくていいのよ~。でも~、月に向かって撃つのもやめましょうね~」
ユリは軽く微笑み、チャンネルを変えた。




