魔王、お金を稼ぐ
魔王、お金を稼ぐ
翌日、吾輩は、目覚めてすぐに、パソコンの前で首を捻っている。
もっとも、前日の午後の殆どを、ユリと一緒にこの世界の理解に費やしたので、吾輩の認識は、飛躍的に向上したと言えよう。
なので、今、吾輩が悩んでいるのは、これからの事についてである。
昨晩も、ユリの胸の谷間で色々と考えたが、吾輩が元の世界に戻る手段は、現在無さそうだ。
なので、帰れる可能性が潰えた時の事を考える必要があろう。
その場合、下手をすれば、吾輩がこの世界を統治せねばならない事態になるとも限らない。
当然、今すぐに、この世界を吾輩が統治してしまう事も考えた。
だが、そうすると、もし吾輩があの世界に帰れた場合、この世界を見捨ててしまう事になる。何故なら、吾輩は、元々はあの世界の魔王であるからして、あの世界を放り出すような、無責任な真似は出来ないからだ。
流石の吾輩でも、同時に二つの世界を統治するのは厳しかろう。
う~む、やはり結論が出んな。
まあ、今はユリが居てくれるので、特に問題もなかろう。
「コペオちゃん、おはよ~。また、何か悩んでいるの~? 考えすぎは、お肌に毒よ~」
「うむ、ユリ、おはよう。しかし、そなたには悩みが無さそうで、羨ましいぞ」
「え~、あたしだって~、悩みの一つや二つはあるわよ~。お仕事辞めちゃったから~、これからの生活が結構ピンチなの~。このままじゃ、実家に帰らないといけなくなっちゃうわ~」
ふむ、実家とやらの事はまだ聞いておらぬが、そのような事も言っておったな。
「しかし、それはあの男のせいではないのか? あの男に、損害賠償請求とやらをすればよかろう」
「う~ん、あの人のせいだけじゃないから~。あたしの目的が達成されちゃったというか~。とにかく、コペオちゃんのおかげで~、あたしはもう満足なの~」
「う~む、良く分らぬが、この世界では、金は結構重要であろう」
「そうね~、でも、当分は大丈夫かしら~? ネットでバイトとかも探してみるし~」
ネット?
お~、そうだ!
この世界には、インターネットという、凄まじく便利な存在があることを思い出した!
「ふむ、ならばユリよ。吾輩と一緒に金を稼ごうではないか。協力してくれるな?」
「は~い。なん、よく分からないけど、コペオちゃんの言う通りにするわ~」
吾輩とユリは、朝食を済ませると、早速取り掛かる。
先ずは、吾輩の自己紹介からだ。
「拝聴せよ! この世界の、全ての命ある者共よ! 吾輩はコペオ! 吾輩は、こことは別の世界から来た、『魔王』である! ちなみに、ペンギンではない!」
まあ、こんなものだろう。
吾輩達は、現在、ユリのマンションのベランダで撮影中である。
正面には、スマホを持ったユリが、この吾輩の雄姿を画像に収めてくれている。
「コペオちゃん、可愛いわ~。じゃあ~、次ね~」
「うむ。そして、吾輩が異世界から来たという証拠を、今から披露してやろう。この世界の人間共は、魔法が使えぬそうだが、吾輩は違う! 括目するが良い! ファイアキャノン!」
吾輩の腕先から直径50cm程の火球が出現し、それが空に向かって弾け飛ぶ!
これでも、かなり出力は抑えてある。
吾輩が本気を出せば、撃ち出す前に、このベランダごと焼き尽くしてしまうからな。
「続けて、サンダーランス!」
空に稲光が走り、その雷線が、吾輩の左腕に収束していく!
「ふむ、周囲に被害を及ぼさぬようにと、目標を吾輩自身にしてみたが、ちと、痺れたか?」
吾輩の左腕から、少し煙が立ち上るが、これくらいはどうということもない。
「コペオちゃん、あまり無理しないでね~。それで、これでいいの~?」
「うむ! ユリも大儀であった! 撮影はこれでよかろう。では、次だ!」
吾輩は、ユリに抱きかかえられ、パソコンの前に座る。
「よし、今の画像を、ユーチューブとやらにアップしろ! 銀行口座の設定を忘れずにな」
「は~い。アカウントはもう持ってるわ~。じゃあ~、ちょっと確認するわね~」
ユリは、手慣れた手つきでスマホから先程の画像をPCに送信し、それを再生させる。
「本来ならば、もっと広い場所で大規模にやりたかったのだが、吾輩がこの姿を直接晒すと、些か不具合なのも理解しておる。うむ、これで良かろう」
「じゃあ~、アップするわよ~」
待つこと数十分。
「凄いわ! コペオちゃん! もう再生回数が一万を超えたわ! これなら、広告収入も期待できるわ~。流石はコペオちゃんね!」
「うむ! これは、もしもの場合、この世界を吾輩が統治せねばならぬ事をも考慮しておる。吾輩の存在を知らしめておく方が、都合が良いのでな」
そして、早速、かなりのコメントがついたようだ。
もっとも、大半は、『良く出来た特撮だ』とか、『コペオ可愛い~』とか、『あの着ぐるみいいね~』、『動物虐待では?』等、信じてはくれぬ内容ではあったが。
稀に、『遂に異世界転移が可能に!』とか、『コペオ様、私は貴方の僕です!』、『魔法を教えて下さい!』等のコメントもあったが、これも本心かどうかはかなり怪しい。
「ふむ、信じる信じないは、皆の勝手であろう。現状、吾輩達は、これが収入になればよいのだからな」
「そうね~、この調子だと~、暫くは困らないわ~。今晩はお寿司にしましょうね~」
『本日昼前、天文台より、国籍不明の軍事用と思われる人工衛星が、地上から発せられた何かに衝突し、太平洋上に落下したとの報告がありました。幸い、怪我人や死者は出ていないようです』
夕食時、吾輩は、ユリと一緒に寿司をつまみながら、テレビでニュースを見ていた。
「ふむ、何か引っかかる気がするのは、吾輩の思い過ごしであろうか?」
「そうそう~、コペオちゃんは~、気にしなくていいのよ~。でも~、魔法を使う時は~、周りに注意しましょうね~」
ユリは軽く微笑み、チャンネルを変えた。




