ユリと間男、もとい、魔王
ユリと間男、もとい、魔王
翌日、吾輩は、朝からずっとユリのパソコンの前である。
ユリが朝食を持って来てくれたので、その場で馳走になる。
ふむ、サンドイッチか。これも美味であった!
ちなみにユリは、朝食を済ませると、制服を返しに行くとか言って、あの、『水族館』という施設に赴いたようだ。
そう言えば、あの者達と、あの部屋の事も調べておかねばな。
ふむ、本当に、このパソコンという代物は便利だ!
だが、様々な情報を統合していくうちに気付いたが、この技術は、吾輩の世界では不可能であろう。出来たとしても、最低でも50年はかかりそうだ。
ならば、この世界のIT関連の技術者とやらを連れて帰るか?
いや、それだけでは無理であろう。
本気でやるならば、この、日本という国の国民を丸ごと…、も流石に無理であるな。
未知の世界に、自ら進んで行く者も少なかろう。
まあ、それに、吾輩があの世界に帰れるようになってからの話であるしな。
そして、その為には、先ずは情報収集である!
最悪、吾輩が帰れない事態も考慮せねばなるまい。
その場合は、あの世界の、あのアホタレ勇者共が心配ではあるが。
「ふむ、昨晩のユリの話でも理解できてはいたが、これで確証が持てた。この世界では、人族が頂点に立ち、他の、全ての種族を支配しておるようだ。そして、あのペンギン共は、人間の観賞用と、更なる支配をする為の、研究用に拉致されておったと。う~む、ならば、あの者達を解放するのは容易ではないな。だが、この世界の人間共は魔法を使えない……」
「コペオちゃん、只今~。これで、全部終わったわ~。ついでに、お昼も買って来たわよ~」
ぶつくさ言いながら考えを整理していると、ユリが帰ってきたようだ。
「うむ、ご苦労であった。では、吾輩も少し頭を休めよう」
「そうよ~。頑張り過ぎは、お肌に悪いわ~。じゃあ~、リビングで、お昼にしましょうね~」
気付くと背後にユリが立っており、吾輩を抱きかかえ、頬ずりしてくる。
あまり気安くして欲しくないのではあるが、これも約束であったな。
まあ、吾輩も悪い気はせぬし。
ちなみに、昼食はラーメンというものであった。
これは、箸という食器を駆使して食べるのであるが、この食器の扱いは結構難しく、吾輩は失礼してフォークで頂く。
「それで、ユリ、そなたは、まだ吾輩の部下でもないのに、何故ここまでしてくれる? それに、普通は、地図などは国家の最重要機密。おいそれと、吾輩のような異邦人には見せられぬものであろう?」
食事中、昨日からの吾輩の疑問を、ユリに素直にぶつけてみる。
もっとも、吾輩には、ユリの本心は既に察しているつもりなのだがな。
「え~、そんな事、考えた事もないわ~。そうね~、コペオちゃんが可愛いから~。それじゃダメ~?」
むむ?
やはり、この者には、嘘を吐いている波動が感じられぬ!
では、吾輩の憶測が間違っていたという事か?
それとも、この異世界で、吾輩の魔力に異常が出たという事か?
だが、昨晩の感じでは、吾輩の魔法は、以前通り問題無く使えた。
ふむ、もう少し突っ込んでみるか。
「いや、そなた、吾輩を利用して、この世界を支配したいのであろう? その為に、あのような情報を、惜しげもなく吾輩に見せたのではないか?」
すると、ユリは箸を置き、正面から吾輩を睨みつける!
むむ、これは、怒りの感情を感じる!
だが、同時に、悲しみの感情も多分に感じられる。これは一体…?
「コペオちゃん! あたしは、コペオちゃんの為になってあげたいだけなの! コペオちゃんを利用するとか、この世界を支配するとか、考えた事もないわ!」
「ぬお?! やはり、そなたからは、嘘の波動が微塵も感じられぬ! こ、これは吾輩の勘違いであったようだ! ユリ! 吾輩は、そなたに対し、大変な失礼をしたようだ。そして、そなたがこの謝罪を受け入れぬのであれば、吾輩はここから立ち去ろう」
吾輩もフォークを置き、ユリに対し、頭を下げる。
すると、ユリの表情が一気に緩む。
「あら~? コペオちゃんの勘違いだったのね~。良かった~。あたし~、信じてくれないのが、少し悲しかっただけなの~。だから~、頭を上げて欲しいわ~。あたしは、ず~っとコペオちゃんの味方よ~」
「ふむ、吾輩を許してくれると申すか。ならば、吾輩も誓おう。吾輩も、ユリの味方であると!」
すると、ユリは立ち上がり、吾輩の横に来て、吾輩の頭に手をかける。
そして、吾輩の額にキスをした。
「嬉しいわ~。じゃあ~、このお話はこれで終わりね~」
「う、うむ。では、引き続き、また教えてはくれぬか? 実は吾輩、あの水族館のペンギン達に頼まれごとをしてな……」
ユリは席に着き直し、真剣な表情で吾輩の話を聞いてくれる。
「う~ん、それは難しいわね~。確かに、人間のエゴであの子達をあそこに閉じ込めているのは、事実よね~。なので、あたしも~、あの子達には出来る限りの事をしてあげていたわ~。でも~、あたしも、あそこは辞めちゃったから~」
「ふむ、やはりあの者達を解放するには、吾輩がこの世界を、いや、最低限、あの水族館を支配せねばならぬという事か。あまり、強制はしたくなかったのであるが。しかし、ユリよ、そなた、あそこを辞めたとは?」
「ピンポーン」
ん? 背後から音がしたな。
そして、扉の外に、微弱な魔力を感じる!
「は~い。誰かしら~?」
ユリが立ち上がって、扉に駆けて行く。
「あ~、ユリちゃん、俺だよ。ミツル~。話がしたいんだ。開けてくれよ~」
表から返事が聞こえる。どうやら、人間の雄のようだ。
ユリの番であろうか?
「ダメ~。もう、貴方とは関わりたくないの~。だから~、あの水族館も辞めたの~」
ふむ、今のユリからは、嫌悪感が発せられておるな。
吾輩も心配になり、ユリの側に移動する。
「そんな事言わずにさ~。前みたいに、一緒にデートしようよ」
ユリは扉を開けず、扉の前で返事をする。
「イヤ~。もう、貴方とは終わったの! とにかく、迷惑だから帰ってくれる~?」
だが、ここでいきなり男の口調が変わる!
「へっ! そっちがその気なら、こっちにも考えがある! あの写真、ネットでばら撒いてやる!」
ふむ、意味は分からぬが、どうやら、ユリを脅迫しているようだ。
これは、吾輩も捨て置けぬ!
先程、吾輩はユリの味方であると宣言したばかりだしな!
「ユリ、扉を開けてやるが良かろう。吾輩が成敗してくれるわ!」
しかし、ユリは少し微笑んでから、首を振る。
「コペオちゃん、ありがとうね~。でも~、これはあたしの問題だから~」
「なんだ、ユリ、早速新しい男作ったのかよ! 見かけ通りの女だったんだな! おい、誰だか知らないけど、俺のユリから手を引け!」
チッ!
吾輩の声が聞こえたようだ。
だが、これで吾輩の方針は決まったな。
後は、この下衆に、如何なる処罰を下すかという事だけだ!
「ユリ、先程も言ったであろう。吾輩は、そなたの味方だと。そなたは、吾輩が信じられぬか?」
「あ~、それ、狡いわ~。あたしもコペオちゃんは信じてる~。じゃあ~、お願いしちゃお~っと。でも~、ちゃんと手加減してあげてね~」
「それくらい心得ておるわ! では、開けてやるがよかろう。今の吾輩が開けると、その扉の外には何も残らぬからな」
ユリは、扉についていたつまみを捻り、吾輩の背後に回り込む!
その途端、扉が開け放たれた!
「おい、お前! へ? 何故、ここにペンギンが?」
「吾輩はペンギンでは無い! そして、貴様は寝ておれ! スリープ!」
男が崩れ落ちる!
茶色い髪に、カラフルな防寒着。顔付きは、人族の基準ではまあまあというところか?
まあ、この場を収めるだけならば、これで充分なのだが、それでは吾輩の気が収まらぬ!
吾輩は、続けて魔法を唱える!
「アンチファイア!」
男の顔と手首から先が、一瞬黄色く光る。
「そして、これくらいで良かろう。対象限定! 出力微弱! フレイムブラスター!」
吾輩の腕の先から、真っ赤な炎がその男に伸びていく!
うむ、ちゃんと、アンチファイアも効いておるようだ。
その炎は、その男の衣服のみを焼き尽くす!
そして、素っ裸になった男を、吾輩はかる~く蹴って、扉の外に吹き飛ばす!
「へ? あれ? 一体? え? 俺、裸? 寒っ!」
ふむ、ここで気付いたようだ。
「ユリ、終わったぞ。扉を閉めるが良かろう」
「は~い。でも、その前に~」
ユリは、何やら、スマホという板切れをそいつに向けて翳す。
カシャリという音と共に、その板が一瞬光る!
「じゃあ~、もう二度と来ないでね~」
ユリが扉を閉め、つまみを捻った。
『本日昼過ぎ、この寒空の下、住民より、ストリーキングをしている男が居るとの通報があり、警察がその男を保護しました。男は、「ペンギン様の祟りが~」等と、意味不明な供述をしており……』
夕食時、吾輩は、ユリと一緒にテレビでニュースを見ていた。
「ふむ、何か引っかかる気がするのは、吾輩の思い過ごしであろうか?」
「そうそう~、コペオちゃんは~、気にしなくていいのよ~」
ユリは軽く微笑み、チャンネルを変えた。




