表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王コペオの独裁日記  作者: BrokenWing
2/19

とある水族館での異変

        とある水族館での異変



 吾輩の目の前には、プールがあり、その奥は、巨大なガラス窓で隔てられている。

 そして、その窓の向こうには数人の人間。

 続けて辺りを見回すと、吾輩の同族と思われる魔族が4~5人おり、そのうちの何人かは、そのプールで気持ち良さげに泳ぎ回っている。


 更に、その巨大な窓の外からは、人間の話す声が聞こえる。

 見ると、人族の母娘のようだ。


「ママ~、あのペンギンさん、可愛い! あの、おでこの真っ赤なお星さま、あたしも欲しい~」

「あら? あんなの、さっきまでは居なかったわね。変異種かしら? でも、確かに可愛いわね~。サヤちゃん、きっとお土産物屋さんに、あのペンギンさんのぬいぐるみがありそうよ。後で買ってあげましょうね~」

「ママ、ありがとう!」


 どうやら、吾輩のこのチャームポイントの話をしていることは分かる。しかし、ペンギン? 何の事だ? そして、此処は何処だ?


 吾輩が戸惑っていると、更に声が響く。


「そろそろ閉館時間となりました。お客様は、出口へお急ぎ下さい。ご来館頂きまして、ありがとうございました」

「あら、もうそんな時間。サヤちゃん、お土産物屋さんが閉まっちゃう前に出るわよ」

「は~い」


 閉館時間? お客様? 土産屋?

 そして、その言葉と共に、ガラス越しの人間共は、足早に去って行った。


 吾輩は首を捻る。


 ふむ、吾輩は、あいつらの口振りからも、魔法で何処かに転移させられたのは確かだろう。

 ならば、ここがその地球という世界か?


 しかし、あいつらに出来たという事は、その気になれば、吾輩にもきっと可能な筈だ。

だが、どういった魔法のことわりなのかが分からない。

 まあ、そのうち分かるだろうし、慌てる事もなかろう。吾輩に勝てる奴には、今まで会った事もないからな。幸い、ここには吾輩の同族も居るようだし。


 なので、吾輩は早速、近くで腕をぱたぱたさせている奴に訊く。


「おい、貴様、此処は何処だ? 吾輩は魔王コペオ。もっとも、吾輩の事は知っているだろうが」

「アオ~、グアッ!」


 あ~、こいつは、人族の言葉はまだ話せないようだ。

 吾輩は、魔法翻訳スキルをオンにする。

 これは、魔力によって、相手の発声した言葉の中に込められた意思を読み解くスキルだ。当然、吾輩の意思も相手に伝わるし、文字にも通用する。魔族の中には、まともに言葉を話せない者も多かったので、このスキルは何気に重要である。

 

 ふむ、ちゃんと伝わったようだ。


「マオウコペオ? あ~、貴方、新入りさんね、私はミミーよ。人間にはそう呼ばれているわ。そして、ここが何処かって? そんなの、私にも分からないわ。海も無い、狭いだけの場所ってことしか」


 う~む、こいつにも分からないと。

 ならば、後は自力で確認するしか無さそうだ。


 吾輩は、再びミミーを良く見る。

 ふむ、結構美人だな、ってそれはどうでもいいか。

 ん? こいつには大した魔力は無いようだ。

 あの世界の人族にも劣るだろう。

 では、こいつは、見た目はそっくりでも、吾輩とは違う種族だな。

 吾輩の種族、『皇帝』種で、こんなに魔力が低い奴は、子供でも居ない。魔族かどうかも、かなり怪しい。


 周りの奴も確認してみるが、どいつもこいつも、このミミーとやらと同じようだ。

 顔付きだけは、全員、美男美女なんだがな~。


 そして、この周囲を歩き回った結果、確認できた事がある。

 此処は、こいつが言ったように、数十メートル四方の、限られた空間。岩山を模したオブジェのある、ちょっと広めのプールのついた部屋ってところだろう。岩山の奥には、格子のついた扉があるだけだった。


 しかし、この扉に何か意味があるのか?

 吾輩が、軽く腕で押すと、簡単に外れた。ふむ、吾輩の部屋の襖と同じと考えていいようだ。

 まあ、この部屋の外の散策は後で良かろう。今は、こいつらから情報を入手する事が先決だ。

 吾輩は、再びミミー達から何か聞き出すべく、プールの前に移動する。


 そこへ、岩山の裏から声がした。


「あら? この扉、壊れてるわね? まあ、それは後でいいわ~。は~い、皆、ご飯ですよ~。喧嘩しないで、ちゃんと並んで頂戴~」


 ふむ、これは人族の声だな。どうやら、雌のようだ。

 吾輩は、あのモモレンジャー、もとい、勇者を思い出し、少し身構える!


 岩山の裏にあった扉から、青と黒の、全身にフィットするような衣装に身を包んだ、一人の人間が出て来た。

 短めの黒髪に、軽くパーマをあて、少し丸顔。チャームポイントは、左眼の横にある泣きほくろか? 人族の中では、かなりの美人だ。胸もでかい。年も、あのモモレンジャーと同じくらいだろう。あいつも、あんな恰好なぞせず、こういう色の髪にしていれば、もう少し痛々しくはなかったはずなのだが。



 その女が、大きなバケツを二つぶら下げて、吾輩達の方に歩いてくると、皆が一斉にその女を囲む!


「ご飯~♪」

「早く食わせろ!」

「マイト! あたしが先よ!」


 もっとも、こいつらの声は、吾輩が翻訳したものだ。実際には、クエ~とか、クアッとか、奇声を発している。


「は~い、皆、並んでね~。って、あれ? いち、にぃ、さん…、え~っ? 一羽増えてる~っ! あたし、そんな話聞いてないわよ~。あ~、きっと連絡ノートに何か書いてあるはずよね~。後で、ちゃんと読んでおかなきゃ、また叱られちゃうわ~」

「ふむ、人数の確認か。どうやら貴様、見たところ、この部屋の管理人、いや、給仕のようだな。そして、貴様が混乱するのも当然だ。吾輩は、ここではイレギュラーな存在のようだしな。だが、安心しろ。吾輩が今から説明してやろう。だが、その前に……」


 すると、その女がいきなりバケツを放り出して、吾輩の元に駆け寄る!


「あら? あら~? あらら~? ペンギンが喋った? う、嘘よね?! え? この額の赤い星? それに、よく見ると、確かにコウテイペンギンそっくりだけど、ちょっと違うわ! その羽、羽毛が生えていないじゃない!」


 ふむ、やはり吾輩とこいつらは別種だったようだ。そして、こいつらの種族名は、コウテイペンギンと。皇帝だけは一緒のようだ。

 また、吾輩もそこまで注意して見てはいなかったが、こいつらには毛が生えているようだ。しかし、吾輩のお肌はすべすべだ。


「だから、落ち着け! 吾輩は、コウテイペンギンではなく、『皇帝』種だ! そして、我が名は、『魔王、コペオ』だ! あまり騒ぐようなら、一生喋れなくしてやっても良いのだぞ?」

「え? でも、落ち着けと言われても? あ! あたしがおかしいのよね? きっとそうよね?! あ、分かったわ! あなた、ちょっと、後ろを向いて!」


 ふむ、何だろう?

 後ろを向くくらいで、この女が大人しくなるなら、それくらいは構わないだろう。


「あら~? ジッパーがないわ~? ちょっと、じっとしててね~」


 その女は、背後から吾輩を抱きかかえる。


「う~ん、重さもペンギンと同じくらい。人間じゃ、ここまで軽くはないわよね~」

「だから、吾輩はペンギンではないと言ったであろう! そして、気安く吾輩を抱くでない!」

「あ、あら、ごめんなさい。でも、このすべすべ感、最っ高~! ちょっとぷにょぷにょしているのが、またいいわ~!」


 女は、吾輩を離さず、頬ずりしてきやがる!

 ふむ、この女には少し躾が必要だな。


 吾輩は、迷わずフリッパーで、女の頬を、軽~くはってやる。


「ぶぎゃっ!」


 女は、そのまま岩山に吹き飛んだ!

 ま、こんなもんだろ。

 かなり手加減してやったが、本気なら、こいつの首から先は無くなっていた筈だ。


「ちょ、ちょっと、痛いじゃな~いっ! でも、これで、あたしもやっと理解できたわ! その怪力、貴方、人間じゃないわね!」


 ふむ、頬を擦りながらも、ちゃんと立ち上がったので、良い加減だったようだ。人間にしては頑丈だな。

 そして、この女、人族の基準では、結構な美人だと思っていたが、かなりのアホと見てよかろう。


 だが、取り敢えずは一歩前進だ。吾輩は、このアホに、吾輩がペンギン族でも、人族でもないことを理解させる事には成功したようだ。


「ふむ、これ以上痛い思いをしたくないのであれば、黙って吾輩の話を聞いてくれるか?」

「そ、そうね~。なんか良く分らないけど~。ええ、任せてね~。あたし、聞き上手だって、皆、褒めてくれるの~」


 アホ女が、吾輩の前に正座して、聞く姿勢を見せてくれたので、経緯を説明する。

 ちなみに、その間に、こいつが放り投げたバケツの中身は、ペンギン達によって、綺麗に無くなっていたが。


「なんか~、良く分らないけど~、コペオちゃんが、異世界から来た、お偉いさんだということだけは理解できたわ~」

「うむ、吾輩は力があるだけで、決して偉くはないのだがな。まあ、苦労はしたが、貴様だけでも理解してくれて何よりだ。残念ながら、あの者達に、吾輩の理を理解させるのは厳しかろう」


 そう、ペンギンと呼ばれた連中も、バケツの中身を頬張りながら、一緒に吾輩の話を聞いていたのだが、皆、きょとんとした顔をしている。


「それで~、コペオちゃんは~、これからどうするの~? 良かったら、此処に住んでていいわよ~?」

「ふむ、それは遠慮したい。ここは寒いし、あの者達からは、この世界の事をあまり聞き出せないようだしな。なので、貴様、吾輩を匿って、この世界の事を教えてはくれぬか? それならば、吾輩も、これ以上、面倒な説明をしなくて済む」


 うむ。未だここがどんな世界かは良く分らぬが、この女ならば、聞き出すのに苦労はしないであろう。もっとも、かなりアホなようだが。


「コペオちゃん、貴様ではなくて、ユリよ~。そうね~。でも、条件があるわ~」

「ふむ、ユリとやら、申してみるが良い。吾輩に可能な事ならば、叶えてやらぬでもないぞ?」


 まあ、ユリが人族の女王になりたいとか程度ならば、吾輩の力を貸してやれば、それ程難しくはなかろう。

 見たところ、ユリの魔力は、あの世界の人間の一般と同じ程度なので、この女を基準に考えるのであれば、この世界の人族を征服するなど、吾輩にとっては造作も無かろう。

 もっとも、あの勇者と呼ばれた召喚者共はそれなりにあったが、あの者達も、あの世界ではイレギュラーな存在であったしな。


 すると、ユリは満面の笑みで吾輩を抱きかかえる。

 ふむ、この女の胸が首筋に当たる感触がして、吾輩も適度に心地いい。


「そんな大層な事じゃないわ~。こうやって~、毎晩、コペオちゃんを抱かせてくれるだけでいいの~」

「ふむ、そんな事でいいのか? しかし、毎晩はちと面倒か? まあ、吾輩が暇な時は、こうやって抱かせてやろう。それでは不満か?」

「ありがと~! じゃあ~、これからコペオちゃんは~、あたしの家で飼ってあげるわ~。なので、ずっ~とあたしと一緒よ~。じゃあ~、ちょっとここで待っててね~。あたし、残ったお仕事を済ませてから、此処に戻って来るから~。2時間くらいかしら~?」

「いや、飼うではなく、かくまう、なのだが? そして、それくらいなら待っていてやろう。さっさと済ませるが良い」



 ユリが立ち去ると、今度はペンギン族に囲まれる。


「なんかよく分からないけど、コペオさんは、あたし達とは違うみたいね」


 ミミーが口火を切る。


「うむ、どうやら、吾輩と貴様達は、全く別の種族のようだ」

「それは残念ね。あたし、コペオさんになら、あたしの卵を預けられると思ったのに~」


 すると、他の連中も口々に騒ぎ立てる。


「なんだ、そうなのかよ。せっかく仲間が増えたと思ったのにな~。あ、俺、ペンタね」

「ミミーちゃん! こ、この僕はどうなったんだい! さっきも、僕の分のアジ、あげたじゃないか!」

「あら、ミミーちゃん、抜け駆けは狡いわ! コペオさんは、あたしも狙っていたのよ!」

「キャンディーちゃん、それはないよ~!」


 ふむ、今一つ、まだ理解できてはいないが、この者達も、吾輩を同族と勘違いしていたようだ。


「皆、済まんな。だが、ここで会ったのも、何かの縁だ。なので、そなた達、もし何か吾輩に望みがあるのならば、聞いてやらぬでもないぞ?」


 すると、一人のペンギンが進み出て来た。

 先程、キャンディーと呼ばれていた雌のようだ。


「なら、聞いて! 私達を南極に戻して! ここも悪くはないのだけど、全く落ち着かないの! ここでは、エッチする気分になれないのよ! これでは子孫が残せないわ!」


 それを聞いて、ミミーも追従する。


「あ、それは私も一緒よ! マイト、今までごめんね」


 ふむ、良く分らんが、この者達を、その南極とやらに連れて行けばいいのだろう。


「よし、願いは聞いたぞ。だが、吾輩には、その南極は元より、ここが何処なのかも分からぬのだ。しかし、先程のユリとやらを足掛かりに、何とかなるのではないかと考えておる。なので、約束はできぬが、それでも良いか?」

「「「「はい! お願いします!」」」」


 ペンギン達は、それで気が済んだらしく、皆、揃ってプールに入り、はしゃぎだした。

 うむ、魔王として、何としてでも、この者達の願いを叶えてやらねばな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ