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魔王コペオの独裁日記  作者: BrokenWing
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魔王の後始末2

       魔王の後始末2



「おう、コペオ君! 久しぶりの街頭演説だ! 俺っち、待ち切れなくて、こうやって迎えに来てやったぞ! さあ、行くぞ!」


 現在、吾輩とユリは、玄関先で、例の元首相、源波とやらを迎えている。

 こやつは自らビールケースを抱え、かなりご満悦のようである。

 ちなみに、先日のSPは相変わらず、その背後で吾輩達に対し、何度も頭を下げておった。


「ふむ、約束したから付き合いはするが、あの愛護団体、あのやり方は、ちとどうかと思うであるぞ?」

「あはは。コペオ君、君は政治とかには疎いようだが、本来、デモとはああいうものだ。力の無い民衆が力を合わせて強者、いや、権力に対峙する。それがデモだ!」

「だが、あれでは、もはや脅迫であろう。吾輩は、ああいうのはあまり好かぬな。やるならば、より多くの民衆への理解を求め、人間の群れる場所で、あまり迷惑をかけずにするのが良かろう。いや、当事者に直接訴えるという趣旨も、理解できるのではあるが……」

「細かい事は気にするな! 俺っちは、そのデモからのし上がった男だからな! もっとも、いざ自分が権力を握っちゃうと、抑えるのに苦労したがな」


 う~む。まあ、これはこれで、帰ってからの吾輩の統治における参考としよう。



 その後、ユリと共に、秘書とやらが運転する車で、演説予定のとある駅に向かう。


「今の与党のやり方はあまりに独裁的だ! 確かに俺っちも、あの災害での対応に問題があったのは、認めます! だが、俺っちはこうやって頭を丸め、一から出直すと決めたのです! さあ、皆さん! 再び一緒に闘おうじゃありませんか! 今の政治は腐敗しきっている! これを正せるのは、俺っちと、それを支持する皆さんの力だけです!」


 源波は、ビールケースの上からメガホンを口にあて、根限り叫ぶ!

 吾輩とユリは、その背後で、秘書に手渡されたたすきをかけ、黙って突っ立っている。


 しかし!

 吾輩の目に映るのは、この男と、明らかに駆り出されたと思われる、吾輩達と同じ襷をかけた数人の老人のみ。


 ふむ、これがこの民主主義という政治体系の元で、一度完全に信用を失った者の末路であろう。そう考えると、何ともやるせないではないか。

 なので、吾輩も少し憐れみを感じながら、その背後から手を振ってやる。


 すると、道行く人間の何人かの目に留まったようだ。


「おい、あの人、まだ頑張ってるんだ。まあ、俺は絶対に入れないけどな」

「あら? でも、あの後ろに居るの、魔王コペオちゃんじゃない! か、可愛い~!」


 その、つがいと思われる、若い二人がこちらに駆け寄って来る!


「魔王コペオさんですよね! テレビで見ました! 番組が中止になるって、凄いマジックですよね! 是非サイン下さい!」

「あら? あなた知らないの? あれ、本当の魔法って噂よ! なのでコペオちゃん、あたし、もう貴方の大ファンよ! あ、あたしもサインちょうだ~い!」


 二人は、バッグから分厚い紙切れを取り出し、揃って吾輩に差し出す!

 ちなみに、その後ろでは、源波がなんとも羨ましそうな視線を吾輩に向ける。


「ふむ、吾輩はサインなどした事はないのでな。それに、今は、この源波とやらの応援である!」


 しかし、その二人は色紙を引かず、逆に問うてきた。


「え~っ? コペオさん、こんな奴の応援してるの?」

「あたし、コペオちゃんなら応援する! コペオちゃんは立候補しないの?」


 あ、源波の目の端に、何やら光るものが!


 更に、この騒ぎを聞きつけたのか、人間が群れて来る!


「ママ~、あたち、クリスマスプレゼントは、あのコペオちゃんが欲しい~」

「サヤちゃんには、もうぬいぐるみがあるでしょ。あ、じゃあ、後でママがあのお星さまを入れてあげるわね~」

「ママ、ありがとう!」


 むむ? この母娘はどこかで見たような?

 そして、更に人間が集まってきた!


「お、コペオだ! あんた、選挙に出るのかよ! なら、俺はあんたに入れるぜ!」

「魔王コペオさんなら、きっとあのマジックでこの国を楽しくしてくれるだろ!」

「いや、あれ、マジモンらしいぞ!」

「え? そうなの?」

「コペオちゃん、サイン下さい! それで、選挙も頑張って下さいね!」


 もはや、吾輩の周りは、黒山の人だかりだ!


「う~む、吾輩にはそもそも選挙権とやらが無いのでな。勘弁されよ。だが、もし吾輩がこの世界を統治せざるを得ない状況になった場合、そなた達の事は、覚えておくであるぞ!」


 しかし、皆は納得しておらぬようだ。

 皆、揃って吾輩の名前を連呼する!


「「「「「コ~ペ~オッ! コ~ペ~オッ!」」」」

「う~む、これでは収拾がつかぬな。源波とやら、吾輩は、少しでもこの騒ぎを抑える為に、この者達にサインとやらをしていよう。その間、そなたは演説を続けるがよかろう。これ、押すでない!」

「お、おう! お、俺っち、とっても悲しいけど頑張る! 皆さん! この国の政治は……」


 ユリが気を利かせて、背後から吾輩を抱き上げる。


「は~い、皆、ちゃんと並んでね~」


 すると、全員、行儀よく吾輩の前に列を為し、順番に色紙を吾輩に差し出す。

 吾輩はそれに嘴でつついて、魔王コペオと穴を開けてやる。


「コペオさん、ありがとう! 宝物にするわ!」

「コペオ! 選挙頑張れよ~!」

「ユーチューブ、またアップしてね!」

「よし! これ、オークションでいくらの値が付くかな?」


 中には不謹慎な者もおるようだが、悪い気はせぬし、良かろう。

 もっとも、源波は完全にいじけてしまい、最後は涙声であったが。



『本日昼過ぎ、とある駅で、あのマイクさんを蹴飛ばした件で、一躍時の人となった、魔王コペオさんが選挙活動をしていると、一時駅前は騒然となりました。もっとも、彼は選挙権が無いと否定していましたが、民衆の期待に応えるかどうかがこれから注目されます。また、同時に演説をしていたと思われる元首相、源波氏には……』


 現在、吾輩はユリと一緒に、鮪のしゃぶしゃぶという、この国ではかなりの贅沢に現を抜かしておる。


「ふむ、源波とやらには、ちと悪い事をしたかのう?」

「どうかしら~? でも~、コペオちゃんは気にする必要は無いかも~。はい、あ~んして~」

「うむ! 鮪の目玉も美味である!」


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