魔王の後始末1
魔王の後始末1
その後、吾輩達が外に出ると、まだあの者達が頑張っておった。
「動物を大切にしよう!」
「動物虐待は犯罪です!」
ふむ、熱意は分かるが、これでは、やはり迷惑であろう。やるのはいいが、このように、直接利害が出る場所では不味かろう。
振り返ると、館長が縋るように吾輩を見ている。
「うむ! 皆の者! 問題は全て解決した! そなたらも大義であった! 引き上げるがよかろう!」
すると、予想はしていたが、連中は引かないようだ。
「いや、せっかくここまで来たんだ! 俺達は今日一日、ここで抗議活動を続ける!」
「そうだそうだ! 虐待はんた~い!」
「あら? あなた、この拉致犯人に骨抜きにされたわね!」
「そうよ! この、裏切り者~!」
う~む、これでは収拾がつかぬであるな。
ふむ、ならば……。
「対象この者達! ウィルアップ! そして、アンリミテッドトランスレート! 期間2分!」
吾輩は、この者達全員に、意思力を増幅させ、更にその意思を、周囲の全ての知性ある動物に伝わるようにしてやった。
「ならば、今ここで、その思いのたけを解き放つがよい! もう、吾輩は何も言わぬ!」
「ん? 今、何かしたか? でも、そういう事なら遠慮なく行くぜ! 皆! もう源波さんは関係ない! ここで、俺達の動物愛を叫ぼうじゃないか!」
全員、目を輝かせ、そのリーダーに追従する!
「我々は、人間のエゴで動物を利用する事に反対する! 動物園反対! 水族館反対! 捕鯨反対! ヴィーガン万歳!」
「そうよ! 私達の動物愛が世界を変えるのよ!」
「そうだ! 俺達には、人間よりも動物の方が大事なんだ!」
「動物たちに愛を!」
「「「「「「我々の動物愛は、地球より重い!!」」」」」」
ふむ、中には若干危ない者もおるようだが、これは見ものであるな。
数分後。
「え? ちょっと、何これ?」
「わわ? な、何だ?」
「げ? これは?」
ふむ、この者達の愛が伝わったようであるな。
周囲から、一斉に野良犬や野良猫、そしてカラス共が、群れをなしてこの者達を取り囲む!
「ワン!ワワン!バウ!」(コペオ訳:何ていい人達だ! 俺達は、一生あんた達について行くぜ!)
「ニャ! ニャニャ、ナ~ゴ~」(コペオ訳:あたし達もよ! そして、人間に見捨てられたあたし達にご飯頂戴! ってか、あたしを飼って~!)
「カーカー、ア~ホ~!」(コペオ訳:拙者らも感謝するでござる! そうだ! これからゴミ出しは、直接道路にバラ撒いて欲しいでござる!)
全員、野良動物達に囲まれて、とても嬉しそうであるな。
皆、手足を滅多やたらに振って、喜びのダンスを踊っておる!
「では、ユリ、帰るぞ! あの者達も、感激のあまり、もはやデモどころではなかろう」
「は~い。後~、コペオちゃん、あの人達、絶対に家に入れないでね~」
「うむ!」
ユリは吾輩を抱き、困惑している館長を残し、タクシーを拾った。
「こ、こら、それ以上寄るな! あ~! つつかないで~っ!」
「ちょ、汚いわね! この、特別仕様のデモ隊装備が汚れるじゃない!」
「か、痒い! ダ、ダニがぁ~っ!」
「こっちはノミがぁ~っ!」
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
何事も、程々が良かろう。
『本日昼過ぎ、『ちょっと過激な動物愛護団体』が、デモ抗議中に、動物を虐待している映像が撮影されました。皆、群がって来る動物達に対し、殴る蹴るの暴行を加え……』
現在、吾輩とユリは、ステーキという、肉の塊を堪能している。
「ふむ、ちとやり過ぎであったか?」
「どうだろ~? でも~、あの人達も動物に慕われて満足なんじゃな~い?」
「うむ! この動物の肉も美味である!」