魔王と勇者
魔王コペオの独裁日記
魔王と勇者
吾輩は魔王、この世界を生きる、数多の生物の頂点に立つ者である。
吾輩の元、魔族と人間が共存するようになって、そろそろ3年が経つ。
元々はこの世界、魔族と呼ばれる、様々な風貌に進化した我が同族と、人間と呼ばれる種族が覇を競い合っていた。
それを、吾輩の力で魔族を束ね、人族を屈服させたのだ。
その結果、この世界では、概ね、魔族と人族がお互いを認め合い、些細なトラブル等は発生するものの、以前のような戦乱からは脱出できたのである。
「魔王様! 魔王様に面会を求めるアホ共がおります!」
吾輩の部下の一人が、王の間に転がり込んで来た!
なに、『王の間』と言っても、そんな大層な物ではない。吾輩は庶民派だ。なので、この部屋は、20畳程の和室の中心に、魔力式コタツが置かれているのみである。
もっとも、コタツの中心に盛られたミカンは、常に補充されるが。
「ふむ、吾輩に会いたいという者を、アホ呼ばわりはあまり感心せんぞ? そして、貴様もそう慌てず、ここに入るが良い。して、どういった輩で、何の用件だ? 順を追って説明するが良い」
「はっ! では、失礼して少しだけ」
部下は、そう言いながら吾輩の正面に腰を落とし、足先だけをコタツに入れる。
こいつの名前は、『アオべエ』。分類としては、『魔族』門、『巨人』目、『サイクロプス』科、『ブルーサイクロプス』属、『ちょっとお馬鹿だけど真面目な巨人』種である。そう、こいつらは、身長が3m以上あるので、腰まではこのコタツに入りきらないのだ。
ちなみに、吾輩の外見は、魔王としての風格に満ち満ちている。
身長は1m程しかないが、黄金色に輝く鋭い嘴を備え、つぶらな瞳。また、オールのようなフリッパーと呼ばれる腕に、20cm程の、足鰭のついた雄々しい足。そこへ、白黒ツートンの少しぽっちゃり体型が、更に吾輩の威厳を増幅させている。最後に、額の、赤いワンポイントの星が、吾輩のチャームポイントである。
アオべエは、コタツの上に常備してあるミカンを、皮も剝かずに、矢継ぎ早に口に放り込みながら説明する。
「モグモグ、ゴックン。それで、面会を求めているのは、あの、『勇者』と呼ばれる、以前、魔王様が処罰を下した者達なのです! あ、用件は、まだ聞いていませんでした。テヘペロ♡」
う~む、そのいかつい一つ目で、『テヘペロ♡』って言われてもな~。
だが、相手はあの勇者達か。なら、用件も想像がつくというものだし、アオべエがアホというのも納得だ。
大方、再び吾輩と勝負して、この世界の実権を握りたいとか、たわけたことを抜かすのであろう。
「まあ良い。用件は聞くまでもなかろう。全く、あいつらも懲りんな~。次は、何処で働かせてくれようか」
「はっ! どうやらそのようで……」
そこで、いきなり部屋の襖が乱暴に開け放たれる!
「ペン…じゃなかった、魔王コペオ! 今までの恨み、晴らさせて貰うわ! あたし達と勝負しなさい!」
やはりか。
開け放たれた襖からは、3人の見知った顔。
叫んだのは、ピンク色の髪をツインテールに纏めた、人間で言う所の、コスプレ、もとい美少女キャラ。見た感じ、20歳を過ぎていそうなのに、よくやるわ。
まっピンクのローブを羽織り、ハート型の装飾をした、ピンク色の杖を振り翳していやがる。これで、お仕置きがどうとか喚き出したら、即刻退場させるしかあるまい。
そして、その女の右隣には、真っ青な鎧に身を固め、これまた真っ青な盾と、青白く輝く剣を携えた、青髪のイケメン男。
また、左隣の男は金髪で、かなりのデブ。真っ黄色な鎧で身を固めてはいるが、その鎧はかなり窮屈そうだ。両腕には、先端に黄色い炎を纏った槍を握りしめている。
「また貴様らか。しかし、その様子じゃ全く反省していないようだな。そもそも、貴様らの討伐を吾輩に頼んできたのは、人間共だぞ? 吾輩は、この世界の治安の為、それを引き受けたに過ぎん! で、刑期は終えたのか?」
そう、こいつらは、『勇者』と呼ばれる、人間共が魔力を集中させ、異世界から召喚した連中だ。何でも、人間の分際で、凄まじい魔力と戦闘力があるようで、魔族と人族で争っていた時期、最終兵器として呼び出されたらしい。
もっとも、吾輩の魔力には敵う訳も無く、二度ほど成敗してやったのだが。
一度目は、その、魔族と人族との覇権を賭けた戦いで。
そして、二度目は、吾輩が人族だけの国を自治区として承認してやり、この世界の治安の礎が出来た後、去年の話だ。
「け、刑期はまだよ! 抜け出して来たわ! ま、あたしらの力じゃ、その気になれば、いつでも脱走できたのよ!」
まあ、そんなところか。
こいつらの力は、吾輩にはかなり劣るものの、人間共では太刀打ちできないのも事実だしな。
しかし、一年間は、ちゃんと服役していたと。こいつら、結構真面目だな。
その女の両隣の男達も、少しばつの悪そうな顔をしてから頷く。
ちなみに、吾輩の前に居たアオべエは、気を利かせてか、部屋の隅で急須セットを持ち出し、4人分の茶を用意してくれている。
「しかし、貴様ら、もう吾輩には勝てないことは理解できたであろう? 今更勝負しても意味はなかろう。ふむ、ちゃんと反省するのであれば、吾輩も鬼ではない。話だけでも聞いてやろう。せっかく部下共が作ってくれたこの部屋、灰にしたくは無いのでな」
「た、確かにそうね。流石は魔王コペオ、殊勝な心掛けだわ! じゃ、じゃあ聞いてくれるかしら?」
三人は、コタツに足を突っ込み、それぞれミカンを手に取り、皮を剥きだす。
そこに、アオべエが茶を注いでくれる。
話の内容としては、至って単純、只の愚痴だ。
あの後、如何に苦労したかとかを聞かされる。
ちなみに、ここまでの経緯は、以下である。
こいつら三人には、この世界の魔族と人族とで和睦が結ばれ、共存するとなった折り、吾輩がその力を認めてやって、人族を統治するように命令した。
そこまでは良かったのだ!
ただ、こいつらは己の力に溺れ、人族の自治区で、好き放題をやらかしたのだ!
このピンク色の、セーラー…、いや、魔法使いっぽい女は、15歳くらいまでの若い男をはべらせ、ショタコン三昧。
青髪の剣士風の男は、その逆、ロリコンハーレム。
最後に、黄色の狸、もとい、槍使いのデブは、グルメバイキング。
その結果、自治区の人間共が、吾輩に頭を下げに来たのである。
なので、吾輩がこいつらを捕縛し、鉱山での労働刑に処した。こいつらの力のおかげで、採掘はかなり捗ったと人間共には感謝され、吾輩の判断は間違ってはいなかったはずなのだが。
「でも、勝手にあたし達を地球から呼び出して、命懸けであなたと闘わせようとしたのよ? あれくらいの我儘、当然の権利だわ! それを、鉱山で働かせるって、横暴よ!」
「そうでそうだ! そもそも、あの子達も俺の側で、嬉しそうだったぞ!」
「そうだよ~。料理長も、料理を褒められて、満更ではなかったのに~」
ふむ、争いが終わったので、人間共には、無駄飯食いが不要になったというところか。
あの時は頭を下げに来た人間の話しか聞いていなかったが、こいつらの言う事にも、ほんの少しだが、理があるか?
「しかし、貴様ら、結局吾輩には勝てなかったではないか。なので、その権利とやらを主張するのは、図々しいと思うぞ。だが、貴様らには少し同情してやろう。なので、吾輩から人族の自治区に、今回の件は無かった事にし、刑期も終わらせてやるように命令してやろう。もっとも、流石にあの贅沢三昧の待遇は認められんな。これからは、その力を生かして、地道に働くが良かろう。それでは不満か?」
すると、三人は顔を見合わせる。
そして、三人揃ってコタツを出て、吾輩の正面に立ち、モモレンジャー、もとい、セーラー…、もとい、女魔法使いが口を開いた!
「う~ん、それなら不満はないのだけど、ここに来る途中、あたし達で話し合って、もっといい解決策を思いついたのよ。やっぱりあの生活は忘れられないわ!」
ふむ、一度覚えてしまった贅沢は、もはや捨てられないということか。
更に、アオレンジャーとキレンジャーもそれに続く!
「そう! コペオさんには、この世界から消えて貰う!」
「わ、悪いようにはしないよ。転移先は、コペオ殿に合った環境のはずだよ」
ん? 転移先、何の話だ?
吾輩が戸惑っていると、三人は俺の前でお互いの手を繋ぎ合う!
「あたし達がこの世界に召喚されたということは……」
「その逆も出来るということで……」
「僕らの魔力ならば……」
「「「合体魔法! 強制テレポート! 行き先は地球!」」」
吾輩の景色が変わった!