[23] 襲撃者、来襲
――ピンポーン。
僕の部屋のインターホンなんて、宅配業者の人以外、押すことなんてなかった。
しかし、今は違う。
どういう因果か、お隣さんと知り合い、何故か付き合うことになったため、別の人が押すことがでてきた。
「はい」
先ほど瑠衣さんと廊下で会って、三十分ほど。
お昼を持ってくると言っていたので、おそらく瑠衣さんだろう。
そう思って、玄関のドアを開けた僕は、
「――チェストー!」
唐突に、真空跳び膝蹴りを腹部に喰らって、成す術もなく吹き飛んだ。
「ぶはっ!?」
ごろごろと廊下を転がり、リビングまで押し込まれて、僕の身体はようやく止まる。
なにがなんだか、わからないでいたところに、
「あんたね!? ウチの瑠衣を弄んだのは!」
そんな鋭い声が、痛みで転がっている僕に叩きつけられた。
頭を打ったのか、視界がぐるぐるする。
耳に届く声も、どこかぐわんぐわんと反響しており、女性の声だということくらいしかわからない。
けど、何故だろう。僕は、この状況に既視感があった。
「けほっ……けほっ……この真空跳び膝蹴り、どこかで……」
なんとなく、以前も喰らったことがあるような気がする。
あれは、高校入学直後のことだっただろうか。
不審者と間違われ、当時の生徒会長から容赦のない真空跳び膝蹴りを喰らい、ノックアウトされたことがある。
もちろん、勘違いからの冤罪だったのだが、しばらく保健室でうなされたのをよく覚えている。
そう、あの時、僕に真空跳び膝蹴りを叩き込んだのは――
「瑠衣は騙せても、この私は騙せないわよ、このストーカー! さあ、覚悟しなさい!」
びし、とこちらに指を突きつけてきたのは、その時の生徒会長――レン先輩だった。
転がっているこちらと、今にも追撃してきそうなレン先輩の目が、ようやくこの時合う。
この時点になって、レン先輩はようやく、僕を僕だと認識したようで、
「あ、あれ? 樫?」
「レ、レン先輩……」
咳き込んでいる僕を見て、レン先輩は一転、おろおろした様子で駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの、樫? なんでこんなところに……!」
「い、いえ、ここ、僕の家ですけど……」
「痛いの? 誰がこんな酷いことを……!」
「あ、あなたです……」
なにがどうなっているのか、むしろ僕が聞きたい。
けほけほしているのが落ち着いたところで、レン先輩は土下座せんばかりの勢いで頭を下げてきた。
「ご、ごめんなさい! 隣ってことしか聞かなかったから、きっと、反対側の隣に来ちゃったんだわ……!」
「と、隣……?」
よくわからないが、レン先輩は部屋を間違えた――ということだろうか?
そもそも、どうして僕の住むマンションにいるのか不明だが、レン先輩は僕の背中を必死にさすりながら、大丈夫? と繰り返し心配そうに尋ねてきた。
「本当にごめんなさい……! でも、樫でよかった……知らない誰かだったどうしようかと……」
「よ、よくはありませんが……」
「そ、そうよね、ごめんなさいっ」
水飲み鳥のように、レン先輩はぺこぺこと頭を下げてくる。
「けど、どうしたんですか……? 隣がどうの、とか言ってましたが……」
「あ、うん」
事情を説明しないわけにはいかない、といった様子で、レン先輩は僕に向き直ってきた。
「実は、友達がストーカーに纏わりつかれてるっぽくって」
「ストーカー、ですか?」
物騒な単語が、レン先輩の口から出てきた。
そういえば、今しがたもそんなことを叫んでいたような気がする。
神妙な表情で頷いたレン先輩は、右手の拳を握りしめながら続けてきた。
「そいつが、とんでもなく最低なヤツで。わたしの友達に強引に迫った後、自分のハレンチな趣味を押しつけようとしてるの」
「それは……酷いですね」
「でしょ!?」
前のめりに反応してきたレン先輩は、なにかを決意したかのように大きく頷くと、
「こうしちゃいられないわ! 被害が拡大する前に、とっちめてやるんだから!」
と叫んで、慌ただしく駆け出していってしまった。
まるで台風のような暴走具合のレン先輩を、僕はただただ見送るしかない。
「……行っちゃった」
しかし、あのまま行かせてよかったのだろうか。
隣を間違えた、というようなことを言っていたが、このフロアにストーカーなんているんだろうか?
そんなことを思っていたところで、再び玄関のチャイムが鳴らされた。
「はい?」
「こんにちは、雪斗さん」
玄関先にいたのは、お盆を持って笑顔を向けてくる、瑠衣さんだった。




