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[19] いざ出陣

 わたしが靴を履いていると、今起きてきたらしいサクラが、目を擦りながら聞いてきた。


「あれ、お姉ちゃん、出かけるの?」

「ええ、ちょっとね。もしかしたら、遅くなるかもしれないわ」


 わたしは瑠衣を騙しているであろう男をとっちめてやる気満々だった。


 確かに、ちょっとぼーっとしたところのある子ではあるが、瑠衣はとてもいい子だ。


 あんないい子に、エッチなゲームを押しつけてやらせるような男、ロクなものじゃないに決まっている。


「こんな朝早くから? あ、もしかして、男っすか?」

「違うわよ」


 にしし、と笑うサクラのパジャマ姿を見ながら、わたしは小さく息をつく。


「あんた、また夜更かししてたの? お休みだからって、いつまでも寝てるんじゃないわよ?」

「わー、お母さんみたいなこと言って。最近お姉ちゃん、お母さん化してるよね」

「むしろ、あんたが成長してないのよ。三つしか変わらないんだから、もっとちゃんとしなさいよね」


 ちょうど、わたしが高校を卒業した後、サクラは新入生として同じ高校に入学した。


 しかも、当時私がいた部活にそのまま入部したらしく、学校でもダラダラと生活しているらしい。


「瑠衣のところに行くのよ」

「ああ、例のお隣さんがストーカーな人」

「そ。お昼いらないから」


 途中でなにか買って、瑠衣の家に持っていくつもりだ。


 サクラは気合をいれているわたしを見て、なにやら不審そうな眼差しを向けてきた。


「お姉ちゃん、もしかして、そのストーカーやっつけよう、とか思ってない?」

「それは状況次第ね」


 親友が悪い男に引っかけられようとしているのを、黙って見ていられるほど、わたしはお人よしではない。


 サクラはえー、と眉をひそめると、懸念を示してきた。


「危ないよー。すごい怖い人とかだったら、どうするのさ」

「そりゃ、相手によるだろうけど。でも、一言言ってやらないと気が済まないわ」

「お姉ちゃんは昔からそんなだからなー」


 苦笑しながら、妹は大げさに肩をすくめてみせる。


「覚えてる? あたしがまだ高校入る前にさ、変なヤツが通学路にいるって、噂になった時のこと」

「……忘れるわけないなじゃない」


 どちらかと言うと、忘れたい記憶だが、忘れられていない、というのが正解だろう。


 サクラはにしし、と笑いながら、その時のことを思い出すように腕を組んで目を閉じる。


「その時、お姉ちゃん生徒会長だったじゃん? だから妙に気合入れちゃって、犯人捕まえてやるんだ―って、張り込み紛いのことしてさ」


 そう。

 あの時のわたしは、妙な使命感に駆られていたのか、自分が犯人を捕まえるべきだと意気込んでいた。


「そしたら、怪しい奴めー、って、全然関係のない新入生をとっ捕まえちゃって」

「……うるさいわね。実際、怪しかったのよ」


 田舎から出て来たばかりの新入生で、まだこちらの土地に慣れておらず、妙にきょろきょろしながら歩いていたのを、わたしが勘違いしてしまったのだ。


 いきなり背後を取り、ねじ伏せ、なにが目的なのだと問い質した記憶がある。


「わたしの人生の中でも、ベスト3に入る黒歴史よ……どれだけ謝り倒したことか……」

「しばらくずーん、って落ち込んでたもんねー」


 ちなみに、本物の不審人物はその後、スカート盗撮疑惑で別の人物が捕まっている。


「とにかく、あの時みたいに暴走しないようにね。お姉ちゃん、思い込むと一直線なんだから」

「……気をつけるわ」

「いきなり出合い頭に、真空跳び膝蹴りとかしちゃダメだからね?」

「…………」

「え? マジ? そのつもりだったの?」


 サクラがドン引きした顔でこっちを見てくる。


 さすがにそこまでするつもりはなかったが、相手と遭遇した際、また暴走しない自信はない。


「もし相手のストーカーに会ったら、まず深呼吸」

「深呼吸ね」

「真空跳び膝蹴りは、それからね」

「そうね。そうするわ」


 行ってきます、と残して、わたしは家を出る。


 土曜日の空は、突き抜けるような蒼が広がっていた。


 天気予報では、降水確率ゼロパーセント。ピクニックでも出かけたら、さぞ気持ちのいい日だろう。


「ま、一緒に行く相手がいないんだけどね」


 苦笑を一つ浮かべてから、わたしは瑠衣の家に向かうことにした。


 しかし、そのストーカーはどんなヤツなのだろうか。


 瑠衣に目をつける辺り、センスは悪くないのだろうが、いかんせんリンゴと共に告白するとか、エッチなゲームを渡すとか、あり得ない言動が多過ぎる。


 年齢は同じくらいと瑠衣は言っていたが、果たして、どんなヤツなのだろうか。


 ホストみたいなチャラい風体なのか。それとも、道路現場のお兄さんみたいにガテン系のヤツなのだろうか。


 そんなことを想像しながら歩いていたところで、


「――――あれ? レン先輩?」


 わたしは、懐かしい声に肩を叩かれたのだ。


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