[18] とあるゲームの動かし方
『――もしもし?』
「こんばんは、レンちゃん。今お時間よろしいですか?」
夜も遅い時間なので、申し訳ないとは思ったのですが、私はレンちゃんに電話することにしました。
案の定、レンちゃんは少し驚いた様子で、
『珍しいわね、瑠衣がこんな時間に電話してくるなんて?』
「はい。実は、レンちゃんにご相談したいことがありまして」
私は自分の部屋の机で広げているノートパソコンを前に、かれこれ一時間ほど唸っていました。
脇に置いてあるのは、先ほど雪斗さんの部屋から持ってきた、可愛い女の子のイラストが描かれているゲーム。
それで勉強をしようと思ったのだが、最初の最初で躓いてしまった。
「レンちゃん。ゲームってしたことあります?」
『ゲーム? まあそりゃ、したことくらいあるけど。スイッチとかの? それとも、スマホの?』
「いえ、どちらでもありません。パソコンのです」
『パソコンのゲーム……?』
私の話を聞いたレンちゃんは、なにか不穏なものでも感じ取ったかのように、声をわずかに落としてきました。
『私は、そういうのやったことないけど。パソコンも、レポート書くくらいしか使わないし』
「そうなのですか……」
もしかしたら、レンちゃんならわかるかと思ったのですが、経験者ではなかったようです。
それでも、ダメ元で聞いてみることにします。
「あのですね。今、パソコンのゲームをやろうとしているんですけど、私もパソコンってレポートを書くくらいしか使ったことがなくて。ソフトのインストール? っていうのを、どうやったらいいのか、わからないんです」
『インストール? アプリをダウンロードしてくればいいんじゃないの?』
「それが、ダウンロードではないみたいで」
ディスクが一枚入っているんですが、これは一体、なにに使うのでしょう?
それをレンちゃんに聞いてみると、端的な答えが返ってきた。
『そのディスクを使って、インストールするのよ。パソコンに入れれば、勝手にインストールしてくれるから』
「そうなのですか? でも、どこに入れればいいんでしょう?」
私のノートパソコンについている穴は、マウスを挿すUSBのポートくらいしかない。
私の反応から、レンちゃんはおおよその事態を察したようで、
『そういえば、瑠衣のノートって、ドライブついてなかったわね……外付けのドライブも持ってないの?』
「ドライブ? 車は免許がないので……」
『ええと、そうじゃなくて』
無知な私に、レンちゃんが懇切丁寧に教えてくれます。
どうやら、このディスクを読み込ませる機械が必要らしいのですが、生憎、私は持っていません。
それを伝えると、レンちゃんは残念、と伝えてきました。
『さすがにドライブがないとインストールはできないわね。どんなゲームか知らないけど、最近のゲームなら、ダウンロード版とかもあるんじゃない?』
「そうなのですか?」
『ドライブのついてないパソコン、増えてるしね。むしろ、メディアでインストールなんて、最近のソフトじゃあんまりないんじゃないかしら?』
私も、表計算ソフトや文書作成ソフトを入れた時は、全部ダウンロードした記憶があります。
レンちゃんが言うには、最近のソフトは大体、そうなっているそうです。
「じゃあ、探せば見つかるかもしれないんですね?」
『そうね。私もそういうの、あんまり詳しくないけど、検索してみたらいいんじゃないかしら』
「わかりました」
私はブラウザを起動させると、検索バーに情報を打ち込むことにしました。
「ええと……『5人の妹がお兄ちゃんを好き過ぎてヤバい ダウンロード』っと」
『……ちょっと待ちなさい』
早速、待ったがかかりました。
なにか、検索ワードが間違っていたでしょうか?
『……よく聞こえなかったんだけど、ダウンロードしたいゲームの名前、もう一回教えてくれるかしら?』
「はい。『5人の妹がお兄ちゃんを好き過ぎてヤバい』です」
『…………』
レンちゃんが、電話の向こう側で深呼吸しているのが伝わってきます。
もしかして、レンちゃんも知っているゲームなのでしょうか?
『……瑠衣。いい、落ち着きなさい?』
「はい。大丈夫です。落ち着いています」
『お酒とか飲んでないわよね? ダメよ、一応、未成年なんだから』
「はい。大丈夫です。アルコールの接種はしていません」
『お昼にも言ったけど、ネガティブオプションっていう詐欺があってね』
「はい。大丈夫です。送られてきたわけでも、押しつけられたわけでもありませんから」
いろいろと心配してくれるレンちゃんは、とても優しいお友達です。
ひとしきりレンちゃんの疑念を解消してから、私はこのゲームを入手した経緯について説明することにしました。
「実は、お昼にお話ししたお隣さんが持っていたゲームなんです」
『……まあ、男の子がエッチなゲームを持ってたって、そんなに不思議じゃないとは思うけど』
「はい」
男の方がエッチなアイテムを持っていることは、実に健全なことなのだと、私も教えられました。
むしろ、問題があるのは、そういったことに疎い私の方です。
『でも、それをどうして瑠衣が持ってるの? まさか……』
「いえ、単に私がお借りしてしまったんです。こういうのがお好きなようなので、私、勉強しなきゃいけないなって」
男女の関係は、維持するのに努力が必要なのだと言います。
誰かとお付き合いするのは初めてなので、その辺りの勝手がわからない私は、まず雪斗さんの好きなことを勉強しようと思います。
『なんて男なの……自分の歪んだ嗜好を、エッチなゲームを押しつけて学ばせようだなんて……!』
「? レンちゃん?」
何故か憤りを感じているらしいレンちゃんでしたが、すぐに気を取り直した様子で、こんなことを言ってきました。
『決めた! 瑠衣、明日時間ある?』
「明日ですか? はい、お休みなので、お部屋の掃除とか買い出しとか以外は特に」
本当は、雪斗さんとどこかへお出かけでもしたかったのですが、先ほどご予定を聞くのを忘れてしまいました。
それを聞いたレンちゃんは、強い口調でこう宣言してきます。
『明日、瑠衣の部屋に遊びに行くから! いいわね?』
「はい、それは構いませんが……」
レンちゃんは時々、ウチへ遊びに来てくれます。
一人暮らしが寂しい時は、レンちゃんが来てくれると、とても心の励みになって嬉しいです。
『じゃ、明日のお昼くらいに行くから! ちゃんと待ってなさいよ!』
「はい、わかりました」
約束をしてから通話を終えます。
スマートフォンを置いた私は、レンちゃんとの話を反芻し、こんなことを思いました。
「レンちゃんも、ゲームやりたかったんでしょうか……?」




