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[17] よかれと思って

 電話の向こう側から、実に能天気な声で、サクラがこんなことを言ってきた。


『あ、先輩。もうゲームやってくれました?』


 やはり、犯人はこの後輩だったらしい。


 特に悪びれた様子もなく、サクラはむしろ得意げになってこんなことを言ってくる。

 

『それはあたし的に、超オススメの一品なんですよ。特にですね、真ん中の妹が一見ツンデレなんですけど、実はちょっと怖いくらいのヤンデレになっていく様が、エロゲとして奇抜な発想だって話題になってたくらいなんですから』

「いや、やってないよ! っていうか、それどころじゃなかったよ!」

『先輩、ヤッてないって……大丈夫ですよ。心配しなくても、エッチシーンは後半にちゃんとありますから』

「だから、そーじゃなくてっ!」


 駄目だ。サクラのペースになると、全く話が進まなくなる。


「いつの間にあんなゲーム入れたのさ!?」

『お昼ご飯の時、先輩が電話するんで部室の外に出たじゃないですか。その時ですよ』


 確かに、ちょっとの間だけ鞄から離れた。


 しかし、誰がその間に、鞄の中へエッチなゲームを仕込まれるだなんて想像できるだろう?


 学校の、しかもまっ昼間に、後輩の女の子がそんなことするなんて、コナン君だって推理できないはずだ。


『先輩、いくらあたしが勧めてもやってくれないんですもん。でも、絶対にやったら楽しいですから。是非是非、やってみてください』

「だから、楽しいとか楽しくないとか、そういう問題じゃなくてっ」

『え? もしかして、気持ちいいかそうじゃないかの問題ってことですか……? 確かに、男の人なら、ヌケるかどうかって問題はあると思いますが……』

「ちーがーうー!」

『でもでも、ヌキゲーとしても優秀なんですよ、あのゲーム』


 話が通じない。


 なんというか、言語体系が似ているけど違う宇宙人と会話しているような気分だ。


 言っている言葉はわかるのに、言っている意味はさっぱりわからない。


『もう、なんでそんなに怒ってるんです? 別にいいじゃないですか、ただのエロゲなんだし』

「どうしていいと思うのさ……」

『だって、先輩一人暮らしですよね? さすがのあたしも、そうじゃなきゃ、勝手に鞄の中になんて入れませんってば』


 一人暮らしだろうが、そうでなかろうが関係ないと僕は思うけれど、確かに、一人暮らしであれば誰かに見られる心配はないだろう。


 そう――家の中に、他の誰もいなければ。


『もしかして、誰かお客さんでもいたんですか?』

「…………」


 意外に鋭い。


 僕が作ったわずかな沈黙を肯定と捉えたのか、サクラは喰い気味に質問を被せてきた。


『あ、わかった、お昼に言ってたお隣さん!』

「…………」

『え、ホントに? あの話、マジだったんですか?』


 大して信じていなかったらしいサクラは、はえー、という、感嘆とも疑念ともつかない声をスマホ越しに上げてきた。


『もしかして、ヤッちゃったんですか?』

「な……!?」

『……ふむ。その様子だと、それはなさそうですね』


 その通りなのに、何故だか悔しさを覚えてしまう。


 サクラは名探偵でも気取るかのように、ふむふむ、なんて言葉を挟むと、


『つまり、鞄の中のエロゲを見られてしまったので、先輩は怒っている、と。それは、まあ、なんというかご愁傷さまです』


 なむなむ、とサクラは人ごとのように念仏を唱えてくる。


『でも、よかったんじゃないですか? それで嫌われたんなら、この問題でもう悩まされることはないですよ?』

「いや、嫌われたというか、なんというか……」


 説明が難しい。というより、僕も状況がよく理解できていない。


 僕の逡巡を違う方向へ捉えたのか、サクラは声のトーンを一つ上げると、


『もしかして、その方もエロゲフリークだったとか? であれば、是非とも紹介していただきたいのですが』

「いや、そうじゃないから。むしろ、そういうの初めて見たって言ってた」


 そもそも、あれがどういうものなのか、本当に理解しているかどうかも怪しい。


 いや、僕もやったことはないから知らないけど、きっと瑠衣さんはこれまで、そういったものとは完全に無縁な日々を送っていたのだろう。


 実に健全な環境だ。僕のように、エロゲが大好きな後輩の女の子とか、いなかったはずだ。


『なにか失礼なことを考えていますね、先輩?』

「まさか。なにも失礼なことなんて考えてないよ、後輩」


 そう。実に真っ当で正当な評価を与えていただけだ。


『まあ、いいですけど。でも、捨てられたりしないようにしてくださいね? あれ、初回限定版のパッケージなんで、すっごい貴重なんですから』

「なんでメディアを買ってるの? ダウンロードとかもあるんでしょ?」

『先輩もお姉ちゃんみたいなこと言って……いいですか?』


 どうやら僕は地雷を踏んだらしく、サクラがくどくどと初回限定の素晴らしさや、ついてくる特典の豪華さについて語り始める。


 それを聞き流しながら、僕は漠然と考えていた。


 ――果たして瑠衣さんは、あのエッチなゲームを持ち帰って、なにをしているのだろうか、と。


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