[16] 新たな扉は開くべきなのか
――時が止まった。
瑠衣さんの手の中にあるもの。見覚えがないものだったが、それがなんなのかは、すぐに察知することができた。
仕込んだのは、間違いなくサクラだ。
エロゲの信者を増やしたがっているサクラは、きっと、僕にゲームをさせることが目的だったんだろう。
だが、あまりにもタイミングが最悪過ぎる。
「ち、違うんだよ!? これは、後輩の女の子が僕の鞄に勝手に入れて!」
「女の方が、これを……?」
「いや、信じられないと思うけど!」
確かに、女の子が、しかも学校へ持ってくるようなものではない。
本当のことなのに、どう信じてもらえばいいのかわからずにいると、
「あの、雪斗さんっ」
「は、はひっ!?」
そのエッチなゲームのパッケージを抱えて、瑠衣さんが身を乗り出してきた。
なにやら頬を上気させ、真剣なまなざしを僕に向けながら、こんなことを問いかけてくる。
「雪斗さんは、こういうこと、ご興味あるんですか……?」
「こ、こういうことって……」
問い返す僕に、瑠衣さんはゲームのパッケージを掲げてみせる。
表側はただ可愛い女の子が描かれているだけだが、裏側には、いわゆるエッチシーンのスクリーンショットがいくつも並べられていた。
それらを僕に差し向けながら、瑠衣さんは真面目な顔で言ってくる。
「私だって知っています。その、男の方は、こういうものにとても興味があるものなんだってっ。レンちゃんも言ってました」
「レンちゃん……?」
「大学のお友達です。とっても可愛いんですよ」
どこかで聞いたことのある名前な気もしたが、今はそれどころではない。
瑠衣さんはずい、と身を寄せてきながら、大きな瞳を僕に向けてくる。
「ごめんなさい。私、こういうの、あまりよく知らなくて……でも、雪斗さんがお好きなら、頑張って勉強しますね」
「いやいやいや、そうじゃないから!?」
「大丈夫です。私、わかってますから」
「え、ちょっと、絶対勘違いしてるよね? あの、瑠衣さん!?」
僕がなにを言っても、瑠衣さんは「わかってますから」とか「男の方ですものね……」とかしか言ってくれない。
意外に思い込みの激しい性格なのか、僕の話を一切聞いてはくれない。
「では、早速、勉強してこようと思います」
「は? 勉強?」
「はい。なにごとも、まずは勉強です。大丈夫です。私、勉強だけは得意ですから」
言って、可愛らしく力こぶなどを作ってみせる。
お茶目な仕草も可愛いが、今はとにかく、誤解を解くことを優先すべきだ。
そう思って、改めて瑠衣さんに向き直ろうとしたところで、
「では、一度お暇しますね」
エッチなゲームのパッケージを胸に抱え、瑠衣さんはそのまま、ぱたぱたと部屋を出ていってしまった。
ぽつんと一人で残された僕は、ただただ呆然と、その背中を見送る他ない。
「……なにをするつもりなんだろう……?」
そんなこと、恐ろしくて聞けない。
そして、それよりも前に、僕にはまずやらなければならないことがあった。
僕は卓上に置きっぱなしにしていたスマホを拾い上げると、
「――ちょっと、どういうことなんだよ!?」
今回の事件の犯人に、抗議の電話をすることにした。




