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[12] 布が足りない

 ちょっと前に流行ったアニメで、ヒロインの格好が独特だったものがある。


 肌に当てる布を減らし、セクシーさを出しつつも、放送禁止ルールに抵触しない程度の衣装を目指した、妙な衣装。


 布が足りない、というハッシュタグが検索上位にくるほど、一時期話題になっていた。


 このお店は、そんな服を本格的に作成する、特殊な洋裁を行っている。


 キャラの資料を用意し、その構造を、CADを使って解析、型に起こして、店長が一つ一つ作成しているのだ。


 使用している布地にもこだわり、安っぽい既製品のような印象にならない出来栄えを目指しているため、値段は高いものの、お店のファンも多かった。


 そんな、コスプレイヤー御用達のお店で、瑠衣さんが試着室から出てきた。


「どうでしょう?」

「…………っ」


 一言でいえば、布が足りなかった。


 覆っている布は、胸元と、腰のみ。

 それ以外にも装飾がいろいろとついているので、肌色ばかりというわけではないのだが、水着と大差ないくらいの肌色率は、健全な男子高校生には目の毒でしかない。


 例えるなら、リオのカーニバルの衣装だろうか。

 もっとも、こんな格好で激しく踊れば、極めて高い確率で事故が起こるだろう。


「可愛いお洋服ですね。ですが、なんでしょう、あまり見たことのないデザインですが……」

「まあ、ファンタジーが原作の洋服だからね」

「ファンタジー?」


 よくわかっていないようで、瑠衣さんは小首を傾げている。


「いや、それよりも、さすがにその格好だとマズいだろうから……」

「……似合っていないでしょうか……?」

「むしろ、似合い過ぎていて問題だから」


 正直、目のやり場に困る。

 あの店長のことだ。おそらくわざとだろうが、この肌色率の高い格好の瑠衣さんを前に、僕は平静を装える自信はなかった。


 僕は手近にあった、別のディスプレイされている服を引っ掴むと、


「こっち、こっちに着替えて!」

「あ、はい。わかりました」


 押しつけられた服を手に、瑠衣さんが再び試着室に戻る。


 五分後、着替えを終えた瑠衣さんが、楽しそうな笑顔と共に試着室のカーテンを開け放った。


「どうでしょう?」


 今度は、マンガに出てくる、神官キャラの衣装だ。


 神官といっても、そこはマンガ。

 不自然なくらいに露出が多く、胸元が強調されるデザインとなっている。


 よく考えてみたら、このお店が用意しているコスプレ用の衣装は、多かれ少なかれ、大胆なものが多い。


 実は着痩せするタイプだったのか、瑠衣さんの大きな胸元が零れそうになっており、ある意味で先ほどの衣装よりも危険度が増していた。


「ちょっとキツイですね……私、太っちゃったのかもしれません……」

「い、いや、僕がサイズを確認しないで渡したから!」


 悲しそうな顔で胸元を気にする瑠衣さんに、僕は赤い顔を隠せぬまま、慌てて別の服を引っ掴んで渡した。


「今度はこっち! こっちでお願い!」

「はい、わかりました」


 嫌な顔一つせず、瑠衣さんは衣装を手に試着室へと戻っていく。


 むしろ、試着をどこか楽しんでいる様子すらあった。


「心臓に悪い……」


 もちろん、僕にそれを楽しむ余裕なんて微塵もない。


 このお店には、レイヤーの人たちがたくさんくる。

 その中には、驚くほど美人な人や、モデルのようなすらりとした体型の人もいる。


 しかし、贔屓目があるのは自覚しているものの、瑠衣さんのそれの破壊力はダントツだった。


 可愛さはもちろんのこと、どこか上品な仕草や、スタイルのよさ、そして、見られることを前提としていない自然な感じが、僕の心を捉えて離さない。


 内から湧き出てくる煩悩を一生懸命払っていたところで、


「今度はどうでしょう?」


 三度、瑠衣さんが試着室から登場してきた。


 今度の格好は、青をベースとした、ふりふりが多めについている、可愛らしい衣装に身を包んでいた。


 ゴスロリというほどではないが、とにかく可愛らしさを重視した衣装になっている。


 中世ヨーロッパを舞台としたマンガ原作の作品の衣装で、普段は騎士として戦うヒロインが、市井に出る時に着るため、わざわざ仕立てた衣装という設定だ。


「なるほど、雪斗さんはこういうお洋服がお好きなのですね」

「え? あ、いや、僕の好みというか……」

「あまりお洋服はたくさん持っていないのですけど、私、頑張って雪斗さんの好みのファッションを覚えますからっ」


 なにやら気合を入れるように、瑠衣さんはぎゅっと両手を握り締める。


「とりあえずは、フリルのたくさんついたお洋服、ですね?」


 嬉しそうに微笑む瑠衣さんは、絶対になにかを勘違いしているようだ。


 ――もちろん、そういう格好が、嫌いだなんてことは絶対に言わないけれども。


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