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姫様!魔王様!  作者: 煌黒星
民間小説
11/68

【微エロ】民間小説=始まりの勇気は創造の風と共に(抜粋)(下)

=再開の章=


「さてと、そろそろ行くか。」

  荷物をまとめて、そろそろ塔から出ようとする。

  俺の後ろにはシロ、チャチャ、ミドリの三人。前には赤髪の剣士と青髪の賢者様。

「どうか、拙者も連れて行ってください!」

  と、突然に赤髪の子が俺に願いをした。その動作は前、別の村で聞いていた東洋の島国のある作法だと思う。たしか……土下座だっけ。

  しかし、どうして俺たちについていきたいと思ったのだろう。

「魔王の狡猾な罠のせいによって、拙者はずっと操られておりました。」

  操られていた?

「そのせいで勇者殿を傷ついただけでなく、世の中の人たちを恐怖に陥れた。」

  それを償わせて欲しい、ということか。

「勇者殿が拙者を助けた礼を、させていただきたい!どうか!」

  そしてまた俺に頭を下げた。なんか、ものすごく罪悪感が。だが、俺がこの子を助けた?そんなことした覚えはないぞ?

「俺がいつお前を助けたんだ?心当たりはないが。」

「この前、拙者が持っていた刀を、覚えておりますのでしょうか。」

「刀……?」

  あ、あの見たことのない剣のことか。そういやあの村で話していた東洋の剣ってそんな名前だったな。それがどうしたのだろう。

「そいつには魔王の力をこめられて、それを持ったせいで魔王に操られておりました。だが、勇者殿はあれを壊してくださいました!だから!」

  はぁーと、ちょっと長いため息をつき、俺は頭を横に振った。

「どうか、拙者を……!!お願いします!」

  ……こりゃあどう言っても無理でしょう。仕方ない。

「もういいよ、それくらいで。そんなに一緒に行きたいなら付いて来たら?」

「……!!ま、真か!ありがたき幸せでございます!」

  コツンコツンと、何回か頭を地面に叩きついた。さすがに痛かったのか、少ししたらやめた。

「しかし、勇者殿を護るには、さすがに拙者では力不足でしょう。」

「いや、そんなことは……」

「ですから……」

  何故か俺の話を遮って、彼女は近づいてきた。

「夜の営みを、任せてくださいませ。」

  と、小さな声で囁かれた。この言葉を聴いたときゾッとした。

  よ、夜のい、営みって、おい、お前、まさか……!!

「だがお前は見た感じ、ただの子供だが。そんなことできるのか?」

「そ、それが……」

  さっきの大胆な作法と違って、何故かもじもじしている。

「や、やったことはございませんが。ご、ご安心くださいませ!必ずや勇者殿を満足させて見せます!」

  と、勇気を絞って言ったのはいいものの、後の三人にも聞かれた。

「はぁ!?勇者様はアタシのものなんだけど!?」

「ふえ?どういうことなのだ?」

「勇者君の伴侶は私で決まっているから貴女の出る幕はないわ!」

  後の三人が俺を通り越して赤髪に迫った。いや、三人じゃない、チャチャは行かなかった。どうやらこの話、チャチャには早すぎたみたい。


  赤髪、シロ、ミドリの三人が激しい口論を繰り返している間に、賢者様が俺に話を掛けてくれた。


「アオと申します。以後、お見知りおきを。」

「あっ、はい!よろしくお願いします。」

  と、ぺこりと礼をした。うん?賢者様の名前はアオ、で髪の毛も青色。それはシロも、ミドリも同じ。チャチャに関しては茶色の髪だけど、名前はチャチャ……いや関連しているわ。こいつらどうしてどいつもこいつも髪の毛の色が名前になるの?名前は聞いてないけど、もしかして赤髪の名前がアカとか?

  ……なわけないか、考えすぎた。

「どういったご用件で?」

「勇者様、覚えてらっしゃいますか?」

「何のこと?」

「夢……と言っておきましょうか。ワタクシが、助けて欲しいと言っていた夢を。」

「あぁ、覚えているよ。やっぱりあれは賢者さm……」

  と、何故か賢者様に口を閉じられた。

「ワタクシのことは、アオと、お呼びくださいませ。」

「は、はい。賢者さ……アオ。」

  なんか、照れてしまう。

  他の四人と違って、彼女は落ち着いているようだ。他の四人は皆活発な性格のせいか、賢者様……いやいや、アオは落ち着いていて、違う魅力を感じてしまう。これが大人の魅力なのでしょうか……体はアオも同じで小さいけど。

「よろしければ、勇者様の旅に、ワタクシも連れて行ってくださいますのでしょうか。」

「え?」

  ふっと、争っている三人も俺たちに視線を移した。

「いやいや、賢者様がここに居る理由って、何か重大な役目があるのではないんですか?それなのにここから出るのは……!!」

「いいえ、夢の中でも言っていたように、ワタクシはここに閉じ込められております。」

「え……?」

  し、しかし、それには何かの理由があるはずなのでは?

  そのあと、アオが口にしたのは、彼女が遭った悲惨な出来事だった。

  彼女は不老不死の力を手に入れるためにいろんな手段を使っていた。その結果が今、彼女の体が表している。不老不死を手に入れるために、自分の体を実験にだした。その実験は成功して、彼女に永遠の命を与えたと共に、彼女の体を昔の状態に戻ってしまいました。その体は永遠に生き続けるが、永遠に成長はしない。だけど脳は相変わらず動くし、いつものように知識を蓄えることは可能。そのため、彼女は多くの歴史を知り、さまざまな真実を脳に、いろいろな知識を手に、さらには予言することすら出来るようになってしまった。

  そのため、彼女は王族に目をつけられ、この塔に出られないよう兵士達が監視をし、今に至った。

  彼女の話によると、歴代の王は彼女に不老不死を求めて彼女の元へ来たものはたくさん居たと言う。だが、彼女は一貫として「その実験自体が偶然の出来事だった」と言った。それを聞いた王族達は怒り、やがては彼女を幽閉し、永遠にここから出られないよう兵士を派遣された。それを機に彼女は世間に希望を抱かなくなり、段々と心が冷え込んでいった。

「貴方様ならば、ワタクシをこの呪から解放してくれるだろう。」

  と、彼女は言った。要は俺に「不老不死の呪を破壊して」って言いたいのでしょう。だが、今の俺には出来るのだろうか。

  この前は皆の力によって俺は力を制御することが出来た。今も彼女達四人が力を合わせて俺に伝送してくれれば出来るようになるかもしれない。

「じゃ、じゃあ……皆、お願い。」

  と、頼んだけれど、その行動が始まる前に、塔は新たな客を迎え入れた。


「お初にお目に掛かります、勇者様、賢者様。」

  目の前に、いかにも騎士という人が跪いた。

「王様の命により、招集に参りました。」

  その人は、金色に輝くサイドポニーテールをした、小さな女騎士だった。






=惨劇の章=


  「今、王様は各地の英雄を招集し、『魔王討滅隊』を作ろうとしております。」

  彼女は俺たちにも招集をかけた。

  俺たち、いつの間にか有名人になったみたいで、彼女は俺たちのことをちゃんとわかっている。俺たちの力を、俺たちの名前を、俺たちの過去を。彼女は何でも知っているかのようにすらすら述べている。

  途中で赤髪の名前が判明し、やはりアカだった。

  魔王討滅隊を作って、何がしたいのかは聞くまでもない。恐らく世界平和を望んでいるんだろう。だが、その魔王が何を悪さしているのかは、俺たちは知らない。いや、アオとアカは知っているかもしれないけど、俺、シロ、チャチャとミドリは知らない。

  知らなかった。

  各地で魔王軍が暗躍し、俺らの王国を滅ぼそうとしているみたい。考えてみたらこの塔へ攻めて来たのもその一環だったのかもしれない。

「これは王様の命令ですから、貴方達がしたい、したくないかの問題ではありません。」

  俺が「もし参加したくないといったら?」と言って、返って来た返事がその高圧な答だった。

「これは命令ですので、貴方達に拒否する資格はありません。」

「上等。拙者の力を思う存分見せてやります。」

  苛立つ俺と違って、アカは乗り気みたいだ。それもそうか、魔王に良い様に使われてきたから、反逆できると分かったら絶対するでしょう。


「……勇者様はどう思いますか?」

  そのとき、シロは俺に話をふった。王国騎士団がまだ目の前に居ることにも気にせずに。

「勇者様が魔王を倒したいと思ったら、アタシもそうします。けど、勇者様がしたくなかったら……」

  杖を手に、騎士団へ向けた。

「アタシは、王国でも敵に回せます。」

「シロ……」

  気がつけば、チャチャは構え、ミドリはナイフに手を取った。

「勇者君、後悔しないように答をだしてね。」

「勇者様はアタイの恩人だ!勇者様と同じ答をするのだ!」

  チャチャとミドリも俺に同意するみたい。だが、感心な俺は答を出せない。

「しばらく、考える時間をいただけないのでしょうか。」

「……では、一晩だけ、差し上げましょう。」

  金髪の少女は俺に時間をくれるみたい。

「し、しかし!これは王様の命令であって、勇者たちには拒否する権ところか、受けることが義務なのではございませんか!」

  彼女の後に居る騎士は彼女と違う考えを持っているみたいだった。

「私がいいって言うんだ、それ以上口に出すな。」

「け、けど、これは……!!」

「くどい!」

  一瞬で剣を抜き、その騎士の目の前に突きつけた。

「命令を出すのは私だ。私の命令が聞けないのか?」

「ひ、は、はい!失礼しました!」

  と、剣を鞘に戻した。一瞬感じたあの殺気、そして邪気。彼女は危ない、そしてその剣も危険だ。

  その様子を見たアオは驚いたみたい。無理もない、これほどの早業は俺でも見たことがない。いや、恐らくアカもないでしょう。

「では、いい返事を待っている。」

  俺たちに向けてお辞儀をし、塔から出ていた。彼女達が門を出たのを見たあと、俺たちは緊張の緒を切らして、皆で差さえあって倒れた。


「怖かった……」

「こ、怖い目、怖い力だったのだ……」

「やっと、行ったか……」

「……」

「これでよいのだろう。」

  俺たちと違って、アカはちょっと腑に落ちないみたい。

「何故その場で受け入れなかったのだ、勇者殿。」

  当然、その場で引き受けたかったアカは俺に疑問を投げつけた。

「魔王は、何のために王国を侵略しているのが知らないからだ。」

「決まっている!私利私欲のためでございます!」

「それは本当だと言い切れるか?」

「無論!」

「その私利私欲ってのは、世界平和ではないのか?」

「なっ!」

  俺の返しに、アカは口を閉ざした。

  現に、俺は魔王のことを良く知らないし、彼はなんのために王国を侵略しているのは分からない。

  それだけではない、国王にはたくさんの悪い噂が流れている。

  時には村ごと実験場にしたとか。

  時には民間人を犯したとか。

  時には民に戦わせ、殺し合わせさせたとか。

  時にはただ姫のドレスに水をこぼしただけで罪を定めたとか。いろいろあった。だから、俺から言わせればその魔王より、寧ろうちの国王のほうが悪なのではないのだろうか。

「それに、さっきのあの女騎士が持っているあの剣にも、疑問を抱かないのか?」

「その剣に?そんなこと……!」

「あれは魔人剣『エーイハリア』でございます。」

  アオが急に俺たちの討論に口を挟んできた。

「やはりか。」

「し、知っておりましたか、勇者殿!」

「さっきまで推測にとどまっていたが、アオのおかげで確信した。」

  アオがそういうなら、そうでしょう。俺は初めて見たが、アオなら見たことがあってもおかしくない。なんせ賢者様ですし。

  あの剣は魂を吸収し、どんどん強くなる剣。しかもあれを鍛えるためには人の血で出来た鉄でなければならない。つまり、恐らく村ごと実験場にした噂は、まさにそのエーイハリアのためだったと思う。

「とにかく、参加するかどうかはまだ考えている。」

「し、しかし!」

「大丈夫、明日までには答を出すから。」

  と、ぽん!とアカの肩を叩いた。


  とりあえず王様に関しての噂が本当かどうかを確かめるために、俺は近くにある村へ来た。仲間たちには自由にしていいって言ったので、誰も付いてきていないようだった。

  その村は、なんとも王の親衛隊が管理している村だったみたいで、そこら中が王様専属の騎士だ。さっき塔に来ていたあの金髪の子も、ここにいるのかもしれない。

  そして、私はいきなり彼女と再会を果たした。


「うおっと。」

「あぁ、すまない。怪我をしていないかい?」

  ポツンと、前を歩いていたら何かにぶつかった。どうやら人のようで、彼女は俺の顔を見上げた。

「いえ、こちらこそ。ちゃんと前を向いて歩くべきでした。」

  その子は、さっき塔にきていたあの金髪の女の子だった。

「あ、騎士さんではないか。奇遇ですね。」

「ええ、ここで勇者様に会えるとは思いもしませんでした。」

  軽く挨拶して、彼女は俺を誘った。

「どうですか?しばらくご一緒に。」

「え?いきなりですね。どこに行くかも分からないのに。」

「そうですね、急でしたね。では……」

  俺に跪き、手を伸ばしてきた。

「ちょっとデートを、して参りませんか。」

  な、なんか、照れるっていうか……これ、公衆の目前でやることではないと思うけど、彼女は良く羞じないで出来るな。

「あ、あぁ。では、お言葉に甘えて。」

  彼女の小さな手を、俺は受け取った。


  最初に、俺たちは演劇を見に行った。芸者さんの演技は上手で、ストーリーもすばらしかった。話によるとそれははるか昔、とある王国に居た恋人の物語だったそうだ。

  身分の差に屈せずに、二人は結ばれたという。

  その次、俺たちは共に食事処へ行って、さっきの演劇の見方を互いに討論しあった。

  あそこはそうじゃなければよかったのに、あそこはよかったとか。

  いやいや、そこはそうじゃないといけないのでは?とか。

  相変わらず彼女の腰に差す剣から強い邪気を感じるが、いつしかそれの存在を忘れ、ただ単に談話に勤しむようになった。

  食事処から出て、俺たちは村外にある小さな花畑へ行った。そこで彼女は静かに言いました。

「いつまでも、こうであり続けたいですね。」

「それはどういう意味?」

  と、彼女は俺が返事をすることを予測していなかったようで、驚いた。

  そしてまた、静かに、儚げな表情を出して言い続きました。

「現に、魔王軍は迫っており、国内にも王様の悪い噂を流している。」

  王様の悪い噂を流している?俺が聞いたやつなんだろうか。

「魔王軍は、その悪い噂を流して、王様への信頼感を削ろうとしている。」

「……そうか。」

「勇者様は、そんな噂に騙されておりませんか?」

「いや、そんなことはないよ。」

  嘘をついた。俺は、その噂とやらを信じている。

「それならばよかった。私……」

  深呼吸をして、小さな声でなにかぶつぶつ言っているようだが、俺には聞こえなかった。

「ボク、勇者様とだけ、戦いたくないの。」

  と、まさか俺に近づいてきて、上目遣いで俺を見て、いい始めた。

「勇者様はボクの目標だから、そんな貴方と……ボクは戦いたくない。戦えない。だから……」

  急に黙り込んで、なにか躊躇っているようだ。

  そして次の瞬間に、彼女は力いっぱい、俺を抱きしめてくれた。

「ボク達と、一緒に、戦っていただけませんか?」

「……」

  少し葛藤。

  王様の悪い噂は、嘘だったらいいんだけど、彼女の腰にあるあの剣、あれは間違いなく危険な奴だ。そして、その邪気を制御できる彼女はきっと、その邪気より強い邪気を持っているか、強大な正義を心に秘めているから使える。彼女はどっちだろう。

「あぁ、一緒に、戦おう。」

  そっと、俺も彼女を抱きしめた。

  今は、彼女のことを信じよう。彼女は正義だと。

  約束を結び、俺は塔へ戻った。そこで、俺は仲間達へ俺が決意をして、金髪騎士団長「コン」と約束したことを説明し、仲間達は俺に理解を示してくれた。

  これから、俺たちの目標は王国軍と共に魔王軍と戦うことになった。

  ……余談だが、なぜか塔に戻ったとき、シロミドリの二人はすごく機嫌が悪かった。俺が他所の女の子とイチャイチャしているとかわけの分からないことを言って、俺を責めていた。






=決心の章=


  魔王軍へ急襲を仕掛ける日の朝、俺はシロに引っ張られ、郊外へ来た。

「ねぇ、勇者様。」

「ふあああ~、なんだよシロ。こんな朝っぱらから。まだ寝足らないんだけど。」

  ぼやぼやしている頭と、まだはっきりとなっていない脳。それに同調するように、太陽はまだ完全に昇ってきていない。

「アタシね。」

  胸を手に、シロは俺に話してくれた。

「勇者様と一緒に旅へ出て、楽しかったよ。」

「あぁ、そうか。それはよかったね。」

  と、適当に返事をする俺と違って、シロは続けて言う。

「旅はなかなか大変で、野営をしたり、食べ物はその日に狩った魔物や道端で取ったわけの分からない野菜だったり、いろいろ大変だったけど。」

  少し間をおいて、言い続けた。

「それでもアタシは、楽しかったよ。」

  そして満面の笑み。

「……なんか、すまんな。いろいろ苦労させてしまって。」

「いえいえ、勇者様の助けになるなら、これくらいへっちゃらです!」

  シロがどうしてこんな献身的なのは分からないが、少しだけ、彼女に惚れた人の気持ちを知ったのかもしれない。

  思い返せば、彼女は村では看護士をしていた。彼女の腕は確かで、おまけにかわいいし、優しい。そんな彼女は人気がないことなんて絶対ありえなかった。

「アタシね。」

  また少しだけ間をおいた。深呼吸をした。

「勇者様のことが、大好きになったみたい。」

「えっ。」

  急な告白のおかげで、俺は一気に目が覚めた。

「これからは、恋人として、側に、置いていただけませんか?」

  タッタッと、近づいてきた。俺は、何も考えずに彼女を抱きしめた。

「あぁ、もちろんだ。」

「ありがとうございます……」

  そして、静かに口付けを交わした。

  このことを境に、シロは一段とさらに俺にべたべたするようになった。二人っきりの時だけにしてほしいと何度も言ったが、それをまったく聞かずに今でもくっついている。さすがに、公衆の目前でやることではないと思う。

  この日の魔王軍急襲作戦は、大成功に終わりました。




「もう、見てられない!」

  と、作戦会議中に、ミドリはいきり立った。このときも、シロはずっと俺にくっついている。

「シロ!いい加減勇者君から離れなさい!」

「なんで?勇者様はアタシの彼氏なのに?」

「そういうことではない!今は会議中ですよ?いくらなんでも……!!」

「ふーんだ、ミドリちゃんはどうせ嫉妬しているだけでしょ?」

「なっ!」

  二人の口論は終わらない。

  正直言って、俺もシロを離したいと思っているから、ミドリに助けてもらった気がする。でも、そんなことを抜かすと、さすがに彼氏失格だと思ってしまう。勇者なのにこのヘタレっぷりだ。

「もう!勇者君もなんか言ってくださいよ!」

「え、え!?俺!?」

  と、何故か急に俺に振ったミドリ。

  そ、そうだな、ここは男としてびしっと言わないと。

  そう思いながら、視線をミドリからシロへ移す。そこに居るのは目をうるうるさせて、俺に同情を求めている子犬だった。だが、この場面、作戦会議中に、そうべたべたくっつかれると……まぁ、幸い、俺たちの部隊は俺たち6人しかいないからいいんだけど。ここに他に人が居たら……

「ご、ごめん、そのままにしてて。」

  その目をうるうるする子犬には、俺は逆らえなかった。

「……!!おいお前、表へ出ろ。」

  と、ここでミドリが豹変した。俺に中指を立て、目つきも悪くなった。そこに居るのはもはやミドリではないと気づいた俺は、シロへ言葉を飛ばした。

「ご、ごめんね、シロ。や、やっぱり離れてて?」

「……はーい。」

  と、ここでようやくシロが離れてくれた。その一方でミドリは未だに怒りを抑えられそうに無い。

「表へ出ろと言ったはずだ、出て来い。」

「は、はい!分かりました!」

  脅迫された末、俺はミドリのあとを付いてキャンプから出た。

  キャンプから少し離れた土地で、俺たちは止まった。

「ご、ごめん、ミドリ……本当にごめん。」

  ここへ来た途中も、今も何度も何度も謝ってはいるものの、一向にミドリの怒りは収まろうとしない。

  俺に面と面を向かって、ミドリは近づいてきた。

「……!!」

  そして俺はミドリに、キスされてしまった。それはただのキスではなく、彼女は舌を出してきた。そんな彼女を、俺は拒否すべきはずだが、そうしなかった。

  拒否の代わりに、俺も舌を出してしまった。


  シロという彼女が居るにも関わらずに。

  しばらく口付けを交わした後、やっと気が済んだのかミドリは離れてくれた。

「……どういうことだ。」

「それはこっちのセリフなのでは?いきなりにも程がある!それに、俺にはすでにシロが……!!」

「それが問題だ!」

  と、大声を上げて、俺の意見は退けられた。

「アンタは私を拒絶すべきだ!なのにどうしてしなかった!」

「はぁ!?お前こそ、なんでいきなり……!!」

「だって好きなんだもん!!」

  そしてまた大声を上げた。ここまで気持ちが乱れているミドリははじめて見たのかもしれない。

  ミドリは、今でも、俺のことが好き……?俺はすでに彼女が居るのに?

「アンタたちの仲は知っている!だから諦めようとしていた!それなのに、どうして!」

  右手を胸に置き、激揚した気持ちがさらに爆発した。

「これじゃあ、私……諦めきれないじゃないか!どうしてくれる!」

「ミドリ……」

  ぐすん、ぐすんと。いきなり泣き出した。涙は頬から流れ落ち、それを見習ったように、彼女の膝がガクッと屈し、地面に座ってしまった。

  両手で顔を支え、ひたすら泣いている。

  キスを仕掛けてきたのは彼女だ。恐らく、最後にそれだけやって、拒否されたら素直に諦めようとしたのだろう。

  けど俺は、拒否しなかった。それどころか寧ろ受け入れてしまった。

  ならば俺は、彼女に責任を取らないといけない。それが男としての義務だ。

「大丈夫。」

「え?」

  彼女に近づき、力強く抱きしめた。

「だ、ダメ!アンタはすでにシロと……!!」

  俺を放そうとしたが、それでも俺は抱きしめる。ただひたすらに、彼女を抱きしめる。

「アンタはシロと……!!」

「あぁもう!鬱陶しい!」

  顔を上げて、今度はこちらから仕掛ける。

  これが、俺とミドリとの二度目のキスになる。


  キャンプに戻ったら、案の定シロは出向かってくれた。そして彼女に残酷な事実がある。

  俺がミドリを受け入れてしまったことを、ミドリが遠慮なく発表してくれてしまった。シロにぽかぽか叩かれてしまったが、何故か体より心のほうが痛む。これで二人は完全にライバルになり、今後は更なる苦難が待ち構えているのだろう。




  それは、魔王軍の奇襲を受けた日のことだった。

  俺たちは、大陸からちょっと離れた島へ行くために、船に乗ったが、その船はすでに魔王軍の管理下に入ってしまったことを知らずに。

  島へ着く前に、魔王軍の水軍に奇襲を掛けられて、船は轟沈してしまった。

  シロ、ミドリ、アカ、アオの四人はどこに流されてしまったのかは分からないが、俺とチャチャは近くにあった小さな無人島に流された。

「やっほー!探険だ、探険なのだ!」

  と、最初は元気溌溂だったチャチャが、夕方くらいになったら急に静かになった。

  夕日のせいか、顔も赤く見える。そして、さっきから何故かもじもじしている。排泄の我慢だろうか。……いや、そんなことする訳ないか。この子、普通にどこでも自由にしているし。

  ならば、どういうこと?


  普段からサバイバル生活に慣れている俺らは、適当に火を起こして囲んで、夕食を作ろうとした。

  しかし、やはり春に入ったばかりか、未だに寒いままだ。早く暖かくなって欲しい。

「ん?」

  急に、チャチャが俺の隣に来た。さっきまで対面で座っていたのに、何故か急に隣を座り、肩にもつれた。

「どうした?」

「……こうすれば、暖かいなのだ。」

  と、多少は照れているのだろうが、それでも彼女は離さなかった。

  チャチャにしては珍しい。

  こんな女々しいチャチャは、本当に珍しい。正直に言うと、俺にはすでにシロとミドリが居るのでここは断ったほうがいい。てか断ら無ければならない。シロだけの時にミドリをも受け入れたとき、どれだけシロに怒られたか、忘れては居ない。

「うん……」

  離れようとしたが、それでもチャチャは密着しに来る。顔を肩にすりすりして、まるで俺を誘っているようだ。今は夕日も沈み、明りは月とさっき起こした火しかないせいで、彼女の頬がさっきよりも赤く見える。錯覚であってほしい。

  いくら俺が離れても、彼女は擦り寄ってくる。最終的に、俺は丸太の端っこに追われても、彼女は俺の隣に来てしまう。そして肩を彼女の頬で擦る。こいつ一体、どうしちゃったのやら。

「チャチャ、どうしたの?」

「……うん?」

「いつものチャチャと違う、チャチャはこんな女々しくなかったよ。」

「分からないのだ……ただ、体が熱いのだ……」

  ……これは、まずい。本能が俺に逃げようと囁いている。

「そうか、大事にな。」

「でも、分かるの。この熱を下げられるのは……」

「ストップ!」

  急いで彼女の口を止めた。これ以上はやばい、俺でも反応してしまいそう。

「お願い、助けて、勇者様……!」

「だから!ストップって言ったじゃねぇか!」

  丸太から立って、俺は彼女を見下ろした。その頬は真っ赤に染めていて、その目は潤んでいる。そして、口から吐かれる甘い吐息。間違いなく彼女は俺に欲情している。だがそんな事は許されない。これ以上は許されない。

  今度こそ叩かれて叱られるだけで終わらない。だから……

「勇者しゃま……!!」

  俺の脚に抱きついて、上目遣いで懇願してきた。

「お、俺にはすでにシロとミドリが……!!」

「お願い、勇者様にしか、頼めないの……!!」

「くっ!」

  急いで彼女から目を逸らした。これ以上見つめていたら、俺は俺でなくなってしまう。

  「勇者様、お願い。」と、何度も何度も連呼されたけど、俺は必死に抵抗した。やっと諦めてくれたのか、彼女は俺を解放してくれた。

「やっと、理解してくれたか。」

「……うん。」

  ションボリして、俯いたまま彼女は言い放した。

「勇者様が来ないなら、こっちから行くのだ!」

「え、ちょ!」

  迂闊だった。剣を横に置くことは愚作だった。

  迂闊だった。彼女に重たい一撃を見舞われ、俺の意識がなくなり始めた。

「大人しく、してね。勇者様。」

  そう言って、彼女は地面に倒れてしまった俺に跨いた。意識が消える前に最後に聞いた声は、彼女の喘ぎ声だった。


  翌朝、俺は全裸でシロたちに発見され、作戦はすでに終わったと言う通達を告げられた。もちろん、隣には俺と同じく全裸で眠っていたチャチャがいるせいで、俺とチャチャが何をやっていたのかは早速分かられてしまった。いくら俺は被害者だ!チャチャが無理やりやった!と散々説得しても、シロとミドリはまったく聞く耳持たずに俺を殴った。

  その後、チャチャに聞いた話によると彼女は当時発情していたみたい。だが本人は取って食った謎のキノコが原因か、それとも普通に半獣人の血で発情してしまったのかはわからないみたい。

  そのことを境に、チャチャは俺にべったりとくっつくようになってしまった。そのせいで魔王討滅隊の中で悪い噂が流され始めてしまった。




「知るか!それでも俺は行く!」

  他の部隊との共同作戦で、アカは一人だけ敵陣に置かれてしまって、別部隊の人が帰ってきた。

  敵は更なる増援を要請し、もうすぐ到着するかもしれないことを知った偵察隊は急いで戻ろうとしたところ、敵に見つかってしまったらしい。それで、奴らはアカの実力を過信して、アカにしんがりを頼んで先に返って来た。もちろん、そのあとアカは戻ってこなかった。

  恐らく敵陣に連れ戻られ、今は拷問を受けているのだろう。そう思った俺は立ってもいられなくなって、剣を持って馬に乗り、一人で敵陣に切り込んだ。

  奴らはアカに何をしようとしているのかは分からない。だからこそ一刻も早く助けないといけない。

  アカは俺たちの大事な仲間だ、見捨てるわけには行かない!シロたちもすぐに追いついてくるだろうが、今はとにかく、早く助けないと!

「待っていろ、アカ!今すぐ行くから!」

  風を切る音が心地いいと思った普段と違って、今はとにかく早く救援に向かわないといけない一心で奔っている。


  敵と出会って、奴らを倒してアカの居場所を聞き出そうとしたが、下っ端には分からなかったみたい。

「クソが!まったく使えないやつらだ!」

  剣を振り下ろし、魔族にトドメを刺した。

  こうなったら、本陣へ向かうしかないのか。そこにアカが居るかどうかは分からないけれど、そこに居る魔族ならば分かるはずだ。そう思い、俺はさらに拍車をかけた。

「急いで、助け出さないと!」

  アカは魔王軍にとっては裏切りものだろうから、彼女が受けるはずの拷問はきっと普通の人より何倍もひどいものになるのだろう。だから……!!


  しばらく敵を排除し、前進したらやっと本陣にたどり着いた。だが、その本陣を護っているのは……

「アカ!よかった、無事だったのか!」

「……」

  しかし返事はない。馬から下ろして、彼女に再会の喜びを伝えようとしたら、彼女も彼女の思いを伝えてくれた。

「……なんの真似だ。」

  刀を思いの形にした。彼女は俺に刀を突きつけた。

「……」

  しかし、依然のように彼女からの返事はない。ならば今、やることは一つだけだろう。

「仕方ない、か。」

  シャーキンと、俺は剣を抜いて彼女に向かった。


  苦戦の末、俺は再びアカを破り、彼女を奪い返した。どうやら彼女は精神を操られていて、さっき彼女の首につけられた首輪を破壊したら意識が戻った。だが、それはそれで致命的だった。

「はぁ……はぁ……!!」

  彼女の頬に紅潮を見られる。それは決して疲れによった紅潮ではなく、他の何かだ。

「ど、どうした、アカ!しっかりしろ!」

「はぁ……はぁ……体が、熱い……」

  背筋がゾワっとした。

「クッ、拙者としたことが……どうやらその首輪には催淫の薬が注入されており、それが破壊されたら拙者の体内に入るよう仕組まれているみたいだ。」

「なっ!そんな陳腐なものを、どうして魔王軍は作った!」

「し、しかしだが。だ、大丈夫だ。これくらい、自力で押さえ込めるゆえ、気にせずともよい。」

「……本当だな、では、帰ろう。」

  これ以上関係を持った女性を増やしてしまってはならない。アカが苦しがってはいるが、これも彼女の意思を尊重したから出た答だ。彼女は俺と行為をせずとも自力で押さえ込めると言った。ならば信じようじゃないか。

  彼女のためだけでなく、俺のためでもある。

  甘い吐息を吐き続くアカをつれて、俺は本陣へ帰った。彼女の様子に異変を感じてはいるものの、他のものはなにも言わなかった。また、途中でシロたち三人と合流したときも、彼女の様子が変だが、俺は全力で自分の潔白を説明した。彼女達は信じてくれた。

  だが、その日の夜、俺は不思議な夢を見た。アカに似た女性が、俺を跨いて、必死に腰を振っていた。

  ……結局アカは最後まで我慢できず、俺との関係を作ってしまった。このことは、シロたちにはばれていない。





=決戦の章=


  いろいろなことが起きた。

  いろいろな人と出会って、戦友になった。

  いろいろな人と別れて、友だったものが今は地面の下に眠っている。

  俺たち魔王討滅隊と魔王軍の戦いが今、やっと終わろうとしている。

  俺たちは今、魔王城の前に立っている。

「広い城ではございますが、私たちが力を合わせれば、攻略など造作もないでしょう。」

  先頭を率いるのはコンだ。今回は最後の戦いとして、彼女の部隊に編入された。彼女の元で戦いを終わらせたいという王様の意思が見とれる。まぁ俺たちはそんなに功績が欲しいわけでもなければ、出世したいとも思ってない。

  寧ろ無名のほうが好都合まである。

  俺たちは、この戦いが終われば、遠いところの小さな村に住む予定になっている。魔王討滅隊で働いて稼いだ金で小さな村一つくらい買えるみたいってアオが言っていた。そういやアオに約束していた呪いの破壊は、まだやっていないな。戦いが終わればやるか。

「さぁ、行きましょう。」

  前へ出て、手を扉に当てた。

  今の俺でも自分の力を制御できるようになった。けど、さすがに全解放したときみたいになにもかも壊せるわけではない。今の俺では、所詮その程度だということでしょうか。

「破壊!」

  力を手のひらに凝縮して、扉に注入した。その前に念じたのは、扉を破壊することだった。

  ドン!ガラガラ……扉は見事に破壊され、欠片が飛び散った。この力を持っているのが俺でよかったのかもしれない。もしこの力を授かったのが魔族、魔王軍だったらと思うだけでゾッとする。

  この力を持つものとして、必ず正しいところでこの力を使わないといけない。故に、俺はいつまでも正しいで居なければならない。

  正直言うと、未だに王国軍に向けての悪い噂が度々耳に入る。それが本当なのかどうかは分からないけど。だがその故に、俺は未だに王国軍の正しさに疑問を持っている。

  実際、俺はこの目で見た。王国軍が民を蹂躙しているところを。

  実際、俺はこの耳で聞いた。王国軍に対しての罵声を、民の口から。

  実際、俺はこの身で感じた。王国の独裁政治を。

  今、王国はただ、王様への罵声を魔王軍に移転しようとしていただけなのかもしれない。もし本当にそうだとしたら……と、いけない。最後の戦いで自分が信じていた国を疑うのを辞めよう。


  魔王城へ入ってから戦いが一層激化した。

  魔族たちの最後の抗いに、人族たちの戦後の時代への期待。どちらが勝つかは、ここで決まる。



  魔王へ直接対面することになった。ここ、謁見の間に居るのは、俺、コン、魔王だけだった。シロたちはさっきの戦闘で負傷して、まだ動けるような状況じゃない。ただ、シロたちが発した言葉が、なぜか俺にコンの警戒をして欲しいみたい。どういうことだ?

「勇者、やっと直接話せるな。ワシはうれしいよ。」

「アンタなんかと話すことはない、剣を抜け。」

  剣を構え、魔王に突きつけた。

「王国のやり方に、疑問を持たないか?」

「……何のことだ。」

「勇者様、彼の言葉に耳を傾けないで!彼こそが諸悪の根源ゆえに、きっと勇者様を惑わそうとしているだけだよ!」

「……そうだろう。」

  だが、魔王からは微かな邪気も感じられない。

  魔王こそが悪。

  魔王こそが諸悪の根源。

  魔王こそが世界の敵。と、散々言われ続けてきた。なのに、魔王からは邪気とかまったく感じられない。一体どういうことだ?

  実は魔王は、悪ではなかったのか?いや、信じない。信じられない!

「目を覚ませ、勇者!お主が本当の正義の味方であれば、ワシに付くべきだったのだ!」

「……どの口が言うか。」

  ぺっと、俺は続いて言う。

「お前が正義ならあの夜、どうしてアカに俺を殺そうと命令した!」

「はて、なんのことやら。」

「貴様……!!」

「まず、ワシはおぬしに死んで欲しくない。そしてアカという人物も誰なのかは知らない。」

「白々しい……!!その減らず口を……」

  お前は昔、アカを操っていた。

  そしてアカに俺を殺そうと命令した!それなのに知らんぶりするのか!お前からは邪気を感じ取れないが、嘘をついているのははっきり分かる!

「俺が正してやる!」

「……仕方あるまい。ならば、来るがいい!」

  マントを広げて、俺との戦いを魔王は決心したみたい。


  魔王との戦いの末、俺は魔王に打ち勝った。途中でコンが俺の身代わりになって、今は倒れている。

「これで、終りだ!」

「……グハッ!」

  剣は魔王の心臓を貫き、彼の体を貫通した。勢い良く血を吐かせたあと、俺は彼の体から剣を抜いた。

「勇者よ、お主はワシに勝った。」

  ごん!と、膝が地面についた。

「だが、お主は王国に負けた。」

「それはどういうことだ。」

「お主にはやがて報復が降りかかるのだろう、くっくっく……」

「一体、何を……?」

  彼の目は澄んでいる。彼は心の底からそれを信じている。

「そしてお主は、やがて悔やむのだろう。自分のせいで……」

  外がざーざー言っている。どうやら雨が降り始めたらしい。

「自分のせいで、世界が滅ぶから……くっくっく……」

「何をふざけたことを……!!」

  カッとなって、剣を強く握り締める。

「さぁ、後へ向いてみろ。そこには……」

「勇者様、申し訳ございません。」

「なっ!」

  急に、後からコンの声がした。それはすでに、俺の背後に立っているコンの声が。急いで振りかえようとしたが、その前に。

「裏切り者が居る!」


「ぐ、ぐあああ!」

  俺の左手が切り落とされた。そして左手を切り離したのは……

「くく……くははははは!!しくじったな、勇者よ!!」

  コンだ。

「なぜだ、何故裏切った、コン!!」

「裏切った?くっく……していないが?」

「どういうことだ!」

「ボクは今でも、王様に忠実だから!」

「くっくっく……やっとめぇさめたか?勇者……」

  魔王は最期に、それだけ言い残して息を断った。

  どういうこと?コンは王に忠実なのは分かるが、つまり、俺を殺そうとするのも王様の意思だというのか?

「そして貴方は、ボクに、王様に騙されて、ただただ正義の魔王軍と戦っていただけなんだよ!ぎゃはははは!!」

「コン、貴様!!」

  右手が剣を握り、だが力が入らない。血を流しすぎた。

「おめでとう!そしてありがとう!!貴方のおかげで、世界は滅ぶ!」

  再び俺に剣を向けて、コンは続けて言った。

「貴方には感謝しても仕切れませんが、ここでお別れです。」

  目の前は剣先。

「愛していたよ、勇者様。」

「ぐっ!」

  剣に貫かれ、俺は意識を無くしてしまった。


  目覚めたら、そこは暗闇の中。目の前には昔出会っていた金髪の少女。彼女の周りには相変わらず光が飛び散っている。やはりオーラだろうか。

「久しぶり、勇者様。」

「やめろ、俺は勇者でもなんでもねぇ。」

  屈んで、自分の頭を抱きしめた。

「俺は大バカだ。俺のせいで世界が滅びる。俺のせいで、魔王は殺され、王国軍が戦を勝った。」

「そう自分を責めないでください。」

  彼女は俺に近づき、そっと抱きしめてくれた。

「貴方は良くやったよ、ただどっちが正しいのかを見抜けなかっただけ。貴方はなぁにも悪くない。」

「……」

「ねぇ、この前のこと、覚えていますか?」

「何のこと?」

「アタシは貴方に、世界を救ってくださいって。」

「それは……逆に俺のせいで世界が……」

「大丈夫、まだ間に合う。」

  彼女は俺の耳に囁いた。

「アタシの精を、少し分けてあげます。それを使ってこんどこそ、世界を……」

「え!?そんなこと、できるのか!?」

「ええ、もちろんです。けど、少しだけですよ。」

  彼女は立ち上がった。俺に微笑んでくれた。

  そして彼女の体から一欠けらの光が飛び出して、俺の体の中に入った。

「こ、これは……貴女は一体、何者?」

  視線が霞み始めた。彼女から受け取った精で、元の世界に引っ張られそうだ。

「残念ながらアタシにも分からない。ただ、今度こそ。」

  そして、また微笑んでくれた。彼女のその微笑みは、太陽よりも明らかで、煌いて、神々しかった。

「世界を救ってね。」

  それは意識が戻る前、最後に見た満面の笑みを持つ彼女の言葉だった。


  再び目が覚めたときは、俺は小さなテントの中に居た。

  シロたちは俺の目覚めを知って、一気に集まった。だが、俺には彼女たちに構う時間はない。

「我は理を悉知する者。」

  手を天にかざし、俺は詠唱を始めた。

「ゆ、勇者様、何を……?」

  シロは俺の行動に疑問を持った。彼女の目は泳いでいる。

「我は常世を拒絶する者。」

  力を手のひらに凝縮し始めた。

「勇者様、やめるのだ!口を開かないのだ!それ以上傷口を広げないで欲しいのだ!」

   チャチャは俺の詠唱を止めようとしたが、アオに止められた。

「我は生死を支配せし者。」

  念じるのは、世界の騒動。

「勇者君やめて!何をしようとしているのかは分からないけど、もっと安静して!」

  ミドリは俺の手を下ろそうとしたが、見えない何かに阻まれて下ろせなかった。

「我は三界を離れし者。」

  念じるのは、世界の騒動を作るものの影。

「勇者殿!……来世で、また会おう。」

  アカはただ静かに、祈りを捧げてくれた。

「我は……お前を、破壊する!」

  力を一気に解放したあと、俺の体からは一欠けらの光が飛び出した。

  破壊したのは、世界を滅ぼすもの。それこそが世界へ対しての絶望。

  破壊したのは、世界の騒動そのもの。それこそが人々の心に潜む影。

  破壊したのは、俺が犯した間違い。それこそが俺が信じていたコンたちの正体。

「勇者様……アオは、必ずやこの永遠の命を持って、貴方様のことを伝承にのこしましょう。」

  そして、俺は再び目を閉じた。意識が消えうせる前に聞こえたのは、シロたちの泣き声だった。





=終の章=


  その後、勇者たち一行は西にある小さな村へ移動し、そこで勇者の埋葬を成し遂げた。これで、勇者も心置きなくあの世へいけるのだろう。

  シロはその小さな村を発展しようとして、やがては村長になった。けれど彼女は、最期まで純潔を護りぬけて、生涯二人目の伴侶を作らなかった。

「アタシに触れていいのは、勇者様だけです。」

  その元気な声は、未だに村人達の心の中を響いているのだろうか。


  チャチャはその小さな村で狩人の職に付いた。彼女のおかげで、村のものは肉に困ることなくなった。それどころか、郊外の獣たちとも平和的になり、獣は人里を犯すことがなくなった。最期まで彼女は新たなつがいを向けいれなかった。

「勇者様より弱い男を、アタイは認めないのだ!」


  ミドリはその村で料亭を開き、そこの店主を務めた。彼女のおかげで、村の外からわざわざ村へ来て料理だけ食べて帰る人が出始めた。

「本当は、勇者様に私の料理を食べてもらいたかった。」

  その儚い声を、村人達は未だに覚えているのだろうか。


  アカはその村の自衛団を作り、山賊に襲わせないようにした。彼女のおかげで、山賊たちが再び村を侵すことはなくなり、近くの山から去った。

「この戦に、勇者殿のご加護を。」

  その悲しげな祈りを、村人達は心得たのだろうか。


  アオは教師となり、村人達に教育を施した。彼女が居なければ、今でも村人達は無知のままだろうか。彼女のおかげで、村人達はよりよい栽培法を知り、農畜の心得も得た。そして彼女は勇者との旅の記録を本として残して、後世に勇者のことを知ってもらえた。


  そして年月が過ぎ、シロ、チャチャ、ミドリ、アカは続々と世を去った。その中、アオだけが昔と同じ姿で居て、村人達に村から追い出された。しかし、彼女はそのことに異を唱えずに、ただ静かに村を去った。そして彼女は北にあるあの塔に戻り、今度は自ら自分を閉じ込めた。


  何百年後のことか、昔小さかったあの村は、今では大都市になった。後世の人たちは勇者「アマドリ=ユウシャ」の伝承に基づき、さまざまな童謡を作り、永遠に彼の功績を詠うことになる。


  さらに十数年が過ぎ、貴族の「バーベル」家の元に、小さな男嬰が生まれた。

  彼の名前は「スー=バーベル」。

(完)

詳しい設定は、後日またうpします。ご期待ください。

あと、一応ではございますが、ツイッターのフォローをよろしくお願いします。

@kurokihoshi

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