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2話(永原視点)

 永原恭介はクラスどころか学園の人気者だった。成績優秀スポーツ万能。父は世界に名を馳せる大会社の社長でお金持ち。生まれつき顔もよかった。おまけに教育の賜物か性格までいいとなれば、そんな男に女子が群がらないはずがない。学園でもプライベートでも告白され、喚かれ、付きまとわれる生活に彼は疲れきっていた。

 結局顔と金かよ。永原はささくれていた。

 誰も彼も外面に惹かれて喚き散らして、しまいには騒ぐことが目的になっている。恋に恋するとはよく言ったもので誰も真剣に永原を見てはいなかった。真剣に見ていたならば彼が迷惑に思うことはしないだろう。プライベートにまで関わらないでほしいと願う彼に土足で踏み込みはしないだろう。


 逃げるように入った図書館は静かだった。居るのは図書委員なのだろう女子生徒しかおらず、その少女も手元の本に夢中だった。ページを捲る音しかしないその場所はすぐに彼の憩いの地となったのだ。

 紙を捲る微かな音。外から聞こえる雀の鳴き声。少女と永原二人だけの空間。それにも関わらず少女は永原に話し掛けることはなかった。

 少女の横顔を盗み見た永原は気付いた。彼女は普段他の女子生徒と同じように歓声をあげはしゃいでいた内の一人だと。確か名前は高岸ゆずき。クラスが違う彼女はよく友人と一緒に永原に会いに来ていた。そこまで思い出してふと気付く。そういえば彼女は一人で会いに来たことはなかったと。


 学校が休みの日だって、どこから聞いたのか顔もろくに覚えていない女子が偶然を装って話し掛けてくることが何度もあった。行きつけの店はことごとくバレており、真実休みたい日には出掛けられなくなった。そんな日々の中でプライベートに高岸を見掛けたことはなかった。

 今だってそうだ。永原が騒ぎに嫌気が差して逃げてきた図書館に二人きり。他の女子生徒ならばこれ幸いと話し掛けるに違いない。だが高岸はずっと本に夢中であった。まるで永原の存在に気付いていないみたいに。

 普段は他の女子と同様、永原に好きだと伝える高岸。だが今は、そしてプライベートでは、他の女子とは違い話し掛けてくることはない。それは永原が真実望んでいたことだった。自分を見てくれているならわかるであろう事実であった。

 高岸は真実永原に好意を抱いている。そうとしか思えない言動に彼は一気に体が熱くなった。彼女は他の女性とは違うのではないか。そんな期待を抱いた永原は逃避先に図書館を選び何度も足を運んだが、ついぞ高岸が話し掛けてくることはなかった。


 思えば接点のない彼女の名前を知っていたことも、彼が高岸にどこか惹かれていた証拠だろう。他とはどこか違う彼女が少しずつ気になり始めた永原。何かしら接点を持ちたいと考えていた彼は帰り際、配られたプリントに目を通し、これだと思った。


 夏休みの課題、読書感想文。よく本を読んでいる読書家の彼女ならば本の話題に乗ってくれるに違いない。

 自分のクラスの図書委員には聞かず高岸に聞くのは不自然ではないか、いや彼女だって俺のことが好きなんだから多少不自然でも問題ないはず。


 悩みながらも話し掛けた言葉に高岸は笑顔で答えてくれた。永原は舞い上がった。それは彼の初めての恋だった。自分の気持ちばかり考えていた彼は、だからこそ高岸の微妙な表情の変化には気付けなかった。

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