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竜の階  作者: ムルコラカ
第二章 王都への旅路
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第八十九話

 「ワーム!!? 嘘でしょう!!?」


 メルエットさんが引きつった悲鳴を上げる。折角窮地を出したのに、再び悪夢に引きずり込まれたような気分に叩き落されたのだろう。


 「しつこいな……! そんなに俺達が美味そうな餌に見えるのか?」


 流石のマルヴァスさんも、表情から余裕を消し去って剣を抜く。


 「蛆虫野郎が、テメェから死にに来たか!?」


 ローリスさんも戦意をむき出しにしてメルエットさんの前に立ち、《トレング》を構えた。彼らの背後で、僕とメルエットさんとコバは身を寄せ合うようにして慄き合う。

 僕達を追って来たワームは、顔面の右半分が無残に焼け爛れており、六つあった目は二つが潰れ、右の襟巻きは完全に焼失していた。

 僕の魔法で焼かれた所為だ。僕が、あのワームを…………!





 ――ギョアアアアアア!!!






 怒りと恨みを凝縮した咆哮がワームの喉から放たれる。静謐だった夜の空気が震撼し、スファンキル達が恐れたように姿を消す。

 あいつは僕達を追って此処へ現れた。僕達は、泉を背にしてワームと向かい合う形になっている。後ろには逃げられない。このままでは全滅する……!


 「どうしてそこまで私達に拘るの!? 最初に襲ってきた時と言い、可笑しいじゃない!!」


 「……ごめん、多分僕の所為だ」


 「えっ!!?」


 メルエットさんとコバが驚いたように僕を見る。


 「お前の所為ってどういう事だ、ナオル!?」


 ワームを見据えたまま、マルヴァスさんが問い質す。


 「ヨルガンが言っていました。ワームは竜の一種、そして竜族はどういう訳か“渡り人”に引き付けられる傾向がある……って」


 「……!? それじゃあ、マグ・トレドを襲った《棕櫚の翼》も……!?」


 「…………そうだよ、メルエットさん。もしかしたら、僕があの竜を呼んでしまっていたかも知れないんだ」


 「…………!」


 メルエットさんの目が見開かれる。信じたくないと言わんばかりに、瞳の奥が揺れた。

 僕は彼女の目を見ていられず、顔を逸らして続けた。


 「少なくとも、あのワームは確実に僕を狙っていると思う。あいつの顔、僕がさっき魔法を命中させたからあんなに焼け爛れているんだ。あいつは僕に対して抑え切れない怒りを抱いている、だから……」


 「テメェが犠牲になるから、その間に逃げろってか? はっ! 笑わせんなクソガキ!!」


 「えっ……!?」


 ローリスさんが、大きな声を張り上げて僕の言葉をぶった切る。


 「大体がだ、調子に乗り過ぎなんだよテメェはよォ! 偉そうに説教垂れたり、頼んでもいねェ手助けをしやがったり、かと言えば今度は勝手にテメェの所為にしやがって! 何様のつもりだってんだ!? おう!?」


 「ローリス、さん…………」


 「テメェの下らねェ自己満足に付き合せんじゃねェよ! 酔うのも大概にしやがれ!! んな事考える前に、もっと強力な魔法のひとつでも使ってお嬢様を護れや!!」


 ローリスさんは僕を見ず、それでも肚の底から響く声でそう言い切った。

 マルヴァスさんも、それを聴いて大きく頷く。


 「ナオル、今はとにかく生き残る事だけを考えろ。お前の話は、後でいくらでも聴いてやる」


 「マルヴァス、さん……!」





 ――ギシャアアアアアア!!!





 今生の別れの挨拶は終わったか、と言わんばかりにワームが今一度大きく吠える。そして、それを皮切りに僕達に向けてその巨体を蠢かせ、攻撃の体勢に入る。


 「来るぞ! 後ろは水だ、逃げられん! 此処であいつとの決着を付ける! 良いな、皆!!」


 「テメェが仕切んな! 俺ァ、お嬢様をお護りするだけだ!!」


 マルヴァスさんとローリスさんが、武器を構え直してワームと対峙する。

 僕はメルエットさんを見た。彼女は強い意思の篭もった目で僕を見返した。


 「もうこれ以上、誰も死なせない。ナオル殿、あなたも戦って!!」


 「メルエットさん……!」


 僕は、込み上げる感情をぐっと堪えて《ウィリィロン》を引き抜いた。

 コバも、拳を固めて僕の横に付く。


 「ナオル様をお護りするのがコバめの務めでございますです! 何処までもお供致しますです!!」


 「コバ……! 分かった、皆であいつに立ち向かおう!!」


 僕は覚悟を決め、ワームに向き直った。

 そして――




 僕達とワームの、雌雄を決する戦いが始まった。

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