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サバイバル異世界  作者: ノワール
第1章 新たな人生 アステリード王国
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第6話 教会

ちょくちょく言い回しなどの見直しはしてます。

話の流れが変わる場合などは最新部分の前書きでお知らせしていきます

 殺風景な部屋の中に通され、木製の椅子に座らされる。ザストが何かしらの書類を持って来て、羽根ペンのような物で何かを書いていく。真っ白とは言えないが、植物紙のように見える。


 何事か聞かれるが、数日の付け焼刃程度の言語能力では、ほとんど何を言っているか分からない。恐らく、分からないことを含めて確認する、事務手続きなのだろうと考えた。


 ザストが、アー、ウン、ロー、と言ったので、ローが分からないと言う意味なのだろう。

 質問の大半はロー、で終わった。


 その後、食堂に連れて行かれて、食事になった。


 柔らかいパン(ブール)、煮込んだ肉、酢とオイルを混ぜたドレッシングらしき液体のかかったサラダ、それとスープ。ガラスで出来たグラスに入っているのは、ワインのような果実酒だった。


 ブールはふわふわで、原料の粉の風味がよく出ていた。鶏肉のような肉は、恐らく香草と一緒に油で煮込んであるようで、パクチーのように癖の強い味わいだが、しっとりと柔らかい。サラダは日本の様々なドレッシングに慣れた俺にはシンプルだったが、酸味のある果実も一緒に入っていて、塩と酢の酸味と、果物の酸味が調和している。スープはコーンポタージュに似ている、とろりとしたスープだ。


 久しぶりにちゃんとした料理を食べたからだろうか、とても美味しく感じられた。


 この部隊の地位がどのくらいなのか分からないが、かなり豪華に思えた。舌の肥えているはずの現代日本人である俺にも、普通に美味しく食べられる。


 中世の食料事情は悲惨だったらしいし、先ほどの紙やガラスの加工技術といい、詳しくは知らないが、中世というよりは近世か、近代ヨーロッパくらいの文明なのかもしれない。


 酒は果実酒だが、水で薄めたようで、度数は高くないし味も薄い。ワインに似た味に思えたが、渋くて酸っぱい味だった。


 その後、簡素な牢屋のようなところに通された。なんだかグレアムが申し訳なさそうな顔をしていたので、笑っておく。そこまで不潔な部屋でもなかった。

 備え付けの毛布に包まって考える。この後、俺の身分や扱いはどうなるのだろう。悪いようにはされなさそうだが、まずは言葉を覚えないと。


 日本に帰る方法はあるのだろうか。

 そんなものを探すのは、いつになることやら。

 日本の冷たいビールを思い出しながら、眠りについた。


 翌日、朝食を食べると、グレアムが書類を持って話しかけて来た。笑顔で何やら言っていて、上着と時計、小銭入れを返してくれた。

 が、時計と小銭入れについては布の小さな袋に入れ、服の中に入れるジェスチャーをして来た。多分、人に見せるなってことなんだろう。


 それから、外に連れられて歩いていった。

 連れられた先は、恐らく教会だ。

 ステンドグラスのようなものが大きくはめ込まれた壁、全高3メートルくらいはありそうな、女神を模したと思われる像。


「グレアム、あれ、なに」


 指差しながら聞くと、やんわりと指を降ろされた。恐らく指差しが不敬なのだろう。ザストやグレアムとは指刺し合っていたので、目上の人に対する場合に指は差すまいと記憶した。

 掌を揃えて、親指を中に折り曲げて差すのがいいらしい。グレアムはそうして女神像を差し、


「あれ、ア・ラ・ヴィータ。ヴィータ・ユル・ア・ラ・アステル」


 ア・ラがヴィータにつく場合と、アステルにつく場合の、何が違うのか分からないが、恐らくヴィータとアステルの、どちらかが女神で、どちらかが女神の名前だ。


 自分とグレアムを順に差し、ニンゲン、と言った。


「ニンゲン、ニンゲン、ヴィータ。テラード、グレアム、アステル?テラード、グレアム、ヴィータ。ニンゲン、ニンゲン、アステル?」


 すると、グレアムは理解してくれたらしく、


「ホロ、ホロ、アステル。テラード、グレアム、ヴィータ」


 と答えた。つまりヴィータが女神の名前で、アステルは女神を意味する。ついでにホロはヒトのことだろう。


 とりあえず西洋式に、両手を合わせるのではなく、手を組んで祈っておいた。

 もし、この世界に俺を呼んだ張本人なら、恨む相手だが、例えば覚えてないだけで、何らかの原因で死んで、そこで転移させてくれたのなら、感謝の相手だし、この世界に来てから生き長らえたのも、女神様のお陰かもしれない。

 日本人である俺は神道と仏教を合わせたような宗教観なので、万物に神が宿ると考えており、言わば多神教だ。一神教に馴染みはない。教会に祀ってあるのなら一神教っぽいが、ヴィータ様を崇めても問題ないのが多神教のいいところだ。


 そのまま、シスターっぽい三十代前半くらいに見える女性に会う。マーシャという名前らしい。

 髪を隠すような装いではないが、淡い緑の髪を団子にまとめた落ち着いた髪型と、ローブっぽいゆったりとした服を着ている。ほっそりとしていて、優しそうな目の、いかにも聖職者っぽい人だ。


 グレアムと話をしている間、ずっとニコニコしている。

 恐らくここに預けられるのだろう。教会と言えば孤児を保護して生活の面倒を見たり、近所の子供の教育をする場所のはずだ。言葉や日常生活の常識や知識を教えるためにここに世話になれ、ということだろう。

 なんて優しい異世界だ。




 ・・・などと思っていた頃が俺にもありました。


 いや、生活の面倒を見てもらえて奴隷とかじゃないだけいいんだけど。

 日中、近所の子供が勉強に来る時間は子供に混ざって勉強だ。それもいい。

 それ以外の時間、めっちゃ働かされる!


 このぐらいの文明水準だったら、子供も貴重な労働力なのかもしれないし、運営のために自分達でやれることはやれって言うのも分かるし、近所のご家庭の雑用をやらされるのも分かる。

 寄付か時間や内容に応じての給料なのかは知らんが、金がなけりゃ運営できないんだから、当たり前だろう。


 ただ、子供より明らかに仕事量が多い。

 一番上で十四歳、十五になれば出ていかなければならないらしい。その中で、三十手前のオッサンが混じって勉強するのだから、人一倍働けって意味なんだろうけどな。


 笑顔でこき使うシスターが怖い。

 この世界の言葉ではシスターではなく、リーメだが。リーメ・マーシャだ。


「テラード、次、あれ」


 有無を言わさず早朝に叩き起こされ、深夜までこき使われる。

 一度疲れてしまい、勉強の時間にうたた寝したら、数日間勉強に参加させてもらえず、早朝から深夜までこき使われた。

 労働基準法が恋しい。


 勉強の時間が唯一の休息時間だ。それを奪われては堪らないので、自然と授業に身が入る。少しずつ、言葉と常識を覚えていった。


 あまりの大変さに、厄介者を押し付けられて不快に思っていて、だからこんな扱いなのかと思ったが、怪我をすればすぐに治療してくれるし、風邪を引いたときはリーメ・マーシャ自ら、甲斐甲斐しく看病してくれた。

 だいたい、本来十五で出て行く教会に世話になっているのだから、働かないとOBやOGの不満にもなるだろう。

 かなり待遇の悪い丁稚奉公や、娼婦になった女の子がいるらしいことも聞いたので、確かに、甘えていい立場ではなかった。




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