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サバイバル異世界  作者: ノワール
第3章 隠遁生活 紅龍連邦
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第42話 帰還へ向けて

 首都の中級街区ともなれば、ヤミィの宿の数倍の値段もする。

 その分、全体的にクオリティも高かった。部屋には水道があり、お湯も出る。湯舟やシャワーというわけにはいかないが、好きなだけ使えるだけでも非常にありがたい。

 夕食前に旅の汚れを落とし、洗濯も宿に頼むことができた。


 夕食はドレスコードなどはないが、コース料理だった。幸い、そこまで厳しいマナーがあるわけではないが、ラーデ様が最低限の形式を覚えていたので、説明を聞きながらの食事になった。


 非常に先の長い二本刃のフォークと、やはり刃の長いナイフを使うのが特徴である。

 こちらの国では平民の使うカトラリーも西の国に比べ長いのだが、格式高い席ほど長くなるらしい。肉などを切る際は二枚刃の間にナイフを通して切る。

 そしてフォークの先端は、自分を含めて人に向けてはいけないので、なるべく手前側に寄せて刺すか、フォークの片側の刃にのみ刺して、フォークの横から食べる。食べ物を噛むのを見せるのも失礼にあたり、口に含んでフォークから抜くのだが、この際顔を動かすのも失礼にあたる。


 アステリードやドラクレアのマナーは比較的現代地球の西洋マナーに似ていたが、連邦のマナーは慣れないとなかなか難しい。特にフォークをなるべく横にしたまま食べるのにコツを要した。

 ちなみにカトラリーの形も、西の国の物は地球の物に似ている。


 料理の提供は、料理のたっぷりと載った大皿を給仕が台車で曳いて席を回る。この給仕はホール内で最も職位の高い人間であり、貴族の会食ならホスト側の家の最も偉い人間が行う。


 自分の席に来たら欲しい量を指定するが、この時に料理が全員に行き渡るよう気を遣わなければならない。席を回る順も偉い人からなので、前半の方がいい部位を好きなだけ取ることができ、後に行くほど気を遣って少量しか要求できない。しかし、前半の客も人数など考えて程ほどにしておくべきとされるし、ホストに適切な量が行き渡るように料理を作らせ、いい塩梅で自分の分を取る方が、マナー的に美しいとされる。


 こういった店の場合、量はホールを仕切る給仕が決めており、その塩梅が宿の価値を左右する。さらに、常連度や部屋のグレードなどを考え、給仕が順番を決める。今回の俺たちは結構後の方に回された。一応部屋のグレードは真ん中くらいのランクになっているので、あとは常連度か、お金に余裕のあるわけではない旅行者に見られたからだろう。


 前菜やスープは余り多めに取れなかったが、品数が多いのでそこまで気にはならない。また、最後のメイン料理は余らせる前提で、一段大きい皿で桁違いの量が出てくるので、足りなければメインをたっぷり食べられるのだ。


 例によって西で見たことのない動物だったが、なんと丸焼きで出てきた。豚くらいある大きさの獣で、台車に載せられ運ばれてくる。

 どの部位が美味しいかは分からないが、そんな場合は給仕に『おすすめの部位をこのくらいの量で』と指定すればいい。

 先に回っている席では、やはり慣れているのか部位を指定したり、複数の部位を切り分けさせる人もいた。

 まぁ、真ん中くらいからは皆『おすすめの部位』だったが。

 ちなみに、俺たちに回された部位はお尻周りの肉だった。


 各自の席には三種類の香辛料と二種類の果実が提供される。


 まずは塩で頂く。

 脂の少ない、非常に上質な赤身だが、野性味が凄い。現代日本人では癖が強すぎて好みが分かれるかもしれないな。


 次に赤い粉を付けてみる。

 この粉は砂糖のように甘く、肉の野性味と合わさると甘じょっぱいというか。甘いのに癖がある不思議な味わいで、しかしそれが美味しい。


 今日の酒はツェル二である。首都到着記念ということで、今日はお酒も一杯と言わず好きなように飲むことにしている。

 ラーデ様は若干渋っていたが、上質なツェル二が数種類あると聞いて、


『今日だけだからね?』


 と笑って許可してくれた。


 最初は辛口を飲んでいたが、給仕に聞いたところメインに合うのは甘めのツェル二とのことだった。特にこの赤い粉と肉でツェル二を飲むのは新鮮な味で、とても美味しかった。


 次に緑色の粉を付ける。

 これはハーブらしく、香りの強い草花を乾燥させたものと思われ、肉の癖を消して香草焼きのように頂く香辛料だ。


 それから、黄色い果実を絞ってみる。

 レモンのような爽やかな酸味の果実で、肉の癖をほどよく覆いながら、清涼感あふれる味わいを楽しめた。


 最後に、茶色い果実を絞る。

 これは給仕に注意されていたが、辛口の果物である。果物が辛いというのに既に違和感があるが、この世界では野菜と果物の区分けが地球と違うので、いい加減慣れた。

 ほんの少し付けただけでめちゃくちゃ辛いが、肉の旨味はむしろ引き立つのが不思議だ。


 どれも楽しい味わいだったが、俺が最も好きだったのは赤い粉だな。

 ラーデ様は赤い粉と黄色い果実を一緒につけるのが気に入ったようだ。


 色んな肉の楽しみ方をする度に、ついついツェル二を口にしてしまうので、酒が進む。俺は五杯、ラーデ様も三杯飲んだ。


 そのまま食後の甘味を楽しみ、久しぶりに酔ったせいか。部屋に戻ったら盛り上がり、いつもより激しい夜を過ごしてしまった。


 結局翌日は旅の疲れもあって一日ゆっくり過ごし、さらに翌日、やっと商会探しに町へ出たのだった。





『さて、じゃあ上級街区から探してみようか』

『そうね、なるべく綺麗な服を着ていかないと』


 この町、特に中流家庭や貧民層では、戦争相手である西の国への嫌悪感も強いようだった。

 首都が近づくにつれて、そういう傾向を感じていたので、宿の人や周りの人にヴィト語を喋れる人を訪ねたり、アステリードやドラクレアの商会を聞くようなこともしにくい。


 それでもやはり、王国産や帝国産の品物を見かけるのも増えていたので、広い町だが、一人も西の人間がいないということもないだろう。


 一軒一軒、品物を見て、それとなく出所を聞いていくしかない。


 特に、バゲランデロ商会やリスタードにも店を構えていたような商会の店なら、紋章や店構えでわかるはずだ。


 そう考えて、高級街区の商業区を歩き回ったところ、二日目にバゲランデロ商会の支店を見つけられたのだった。

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