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サバイバル異世界  作者: ノワール
第3章 隠遁生活 紅龍連邦
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第39話 隣町

 ヤミィの叔父夫婦の宿も中級街区にあった。


 ヤミィと同じ亜人の家族の出迎えを受け、部屋に荷物を置く。

 もう夕方だが、街灯もあり、夕食時間くらいまでに帰れば危ないこともないとのことで、少し周辺を散策することにした。翌日も昼前には出発なので、あまり観光はできない。


 といっても、ヤミィの町と同じく観光地でもなく、もとより大したスポットはない。ヤミィの案内で中級街区にある商業地域に行く。

 一応、首都と海沿いの町や、ヤミィの町を含めたいくつかの町村と首都を繋ぐ交易路にあるらしく、若干こちらの方が賑わっている。首都の方から流通する商品は、この町で止まってしまう場合も多いという。


 大きな商店で、ヤミィはお使いの目的である調味料を購入する。ついでに明日の出発前に市場を覗いて、珍しい食材やお買い得な食材があれば買って帰る予定である。俺たちには良し悪しも分からないが、ヤミィはある程度必要な物の相場なども把握しており、叔父夫婦に最近の市場の動向やおすすめ品も聞きつつ購入する。


 荷物を持ってやり、ついでに商店の品物を色々見て回る。西の国にあるような物でも意匠が違ったり、使い方のよく分からない器具もある。また、なんとなく地球の古い時代の教科書などに載っていたような覚えのある器具もあった。


 そんな中、ふと目に留まった物がある。

 文字が分からないため、使い方も何なのかも分からないが、薄い台形の金属である。なぜ気になったかというと、側面の刻印に目が留まったのだ。

 それは桜をモチーフにした意匠に見えた。この世界で今のところ桜は見ていないので気になったのだ。もしかして、こちらの国や周辺で似たような樹木があるのだろうか。


「どうしましたの?加熱器なんか見て」

「あ、これ加熱器ですか」


 加熱器というのは、魔素を利用したⅠHのようなヒーターであり、調理器具として使われている。この世界では自炊はしなかったし、教会では見たことがあったが、もっと違う形だったのだ。大人数用だったからだろうか。


「いえ、この刻印、故郷の木に咲く花に似ているんです」

「ああ、バゲランデロ商会の紋章ですわ!」

「あ、そうか。お父様が二ホン人でしたね」

「この商会で取引をしているのかもしれませんわ」

「…そうか!バゲランデロ商会に連絡を取ってもらえれば帰れますね!」


 しかし早速、ヤミィにも頼んで店員に聞いてみてもらった所、残念ながら首都で仕入れた商品らしい。


『でも、首都ならバゲランデロの支店があったはずだよ。戦争でどうなったかは知らないけどね』


 また一歩前進だ。ラーデ様がいなくなったことがどのくらい周知されているかは分からないが、商店の者にラーデ様の身分を明かして、アスカ会長に確認を取ってもらえればいい。

 他にも来ている商人もいるだろうが、権力と関係性から言えばこの上ない相手である。幸い、俺がお父様と同郷ということもあり、アスカ会長にも親しみを持っていただいている。


「頑張って首都に行きましょう」

「そうですわね、今も支店があるか分かりませんが、近隣の商店なら連絡くらい取れるでしょう」


 ラーデ様の身分証明として、肌身離さず持っている公爵家の紋章入りペンダントがある。当然それだけは売らずに持っていたので、説明すれば身分証明にもなる。




 夕食はヤミィの宿で出る料理に近い料理らしい。叔父さんと親父さんは、同じ料理屋で修行したんだとか。今日のメニューは何の肉か分からないが、脂の多い部位や内臓、皮をタレで焼き上げたいくつかの肉と生野菜だった。パン(クーパ)を肉と一緒に食べたり、皿に残ったタレを絡めて頂くのが美味い。しかも、以前飲んだ濁り酒の清酒といえばいいのだろうか、澄んだ酒が非常に合う。


 この酒は濁った方をツェル、清酒をツェル二といい、パン(クーパ)の原料である粉の醸造酒らしい。西の国で食べたブールとは粉の原材料が違う。


 清酒の方はシュワシュワと微発砲でキリリと辛口で、キレのある味と喉越しがいい酒だ。恐らくかなり幅広い料理に合う。というか、この原料ってお米っぽい物なんじゃないか?

 日本酒の生酛造りの味に似ている気がする。

 機会があったら購入してみたいな。市場にあるだろうか。


 なぜヤミィの宿で出てこないのかと思ったが、ここより北の地域で造られているらしく、特に清酒は値段が上がるので、この町で流通が止まってしまう。実際いい値段だったのだが、手掛かりを見つけた記念と、次にいつ飲めるか分からないということで、今日一杯だけラーデ様に頼み込んだ。

 財布を握っているのはラーデ様なのだが、普段は安酒一杯しか飲まずに大人しくしていたので、許してもらえたのだ。


「でもこれ、本当に美味しいですわね。国に帰れたら向こうでも飲みたいですわ」

「それもバゲランデロ商会なら仕入れられるかもしれませんね」




 翌日、市場を回って食材を見ていく。

 ヤミィは昨日の内に叔父さんから聞いて目星を付けていたらしく、ちゃっちゃと一通り回ると、いくつかの野菜などを購入していた。

 今日も俺が荷物持ちをしながら、一緒に市場を見て回る。


 目的はお米っぽい物である。ヤミィに聞いてみたら、やはり地域によっては粉にせず炒めたりするらしい。白くて小さい豆らしいが、この世界の豆が、地球の豆と同じ味とは限らない。


 果たしてそれは見つかった。お米よりは大きめの豆が、乾燥して硬い状態で売られている。とりあえず大きめの袋で買って帰ることにする。


 ヤミィが少し値切ってくれた。

『それで何つくるの?炒める?』

「えーと、蒸すってなんて言うんだ」


 言葉に困っていると、ラーデ様が翻訳してくれる。


『蒸してみたいんだって』

『ヤミィ食べてみたい!』

『うまくいったら一緒に食べよう』


 そこでラーデ様はヴィト語に切り替える。


「といいますかテラード、貴方、料理できるのですか?」

「基本は食べる専門ですけど、全くできないわけじゃないですよ」

「そうなんですのね。作るときはわたくしにもくださいましね」

「味見して美味しければ、もちろんです」

「ふふふ、楽しみにしておりますわ」


 そうして、最初から往復の予約だった同じ亜人の人力車で帰路に着く。

 ラーデ様は帰りもぐったりと死んでいた。

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