第4話 未知との遭遇
後々の設定の関係で、主人公の名前を蓮司から誠司に変更しました
また水を飲もうと、川辺に近付いていた時だった。下流の方で水を汲んでいる男が見えた。
遠目では材質が分かりにくいが、鎧のような物を着ている。腰に剣を吊っているのも見える。
革袋のような四つの袋に水を汲むと、重そうに担いで川から離れていく。
慌てて後を追ったが、どういう人種だろうか。
剣を吊っているし、もし密猟者とか、隠れ住んでいる犯罪者だったら殺されてしまう危険もある。
ひとまず、見つからないように後をつけたいが、やっと会えた人間だ。見失うのも御免被りたい。多少の音も構わずに、男が消えていった方向に急いだ。
幸い、見つからない距離で後を追うことができた。
ちらちらと木々に隠れてしまうが、一直線に歩いていくので直ぐに見付けられた。
水の量から考えれば、拠点があるはずだ。他にも人がいるかもしれない。
やがて、木々の少し開けた広場に出ていった。数人の男がたむろしている。
慎重に近付き、気付かれないであろう距離から覗く。全員が同じ鎧を着ていた。家ではないし、長期間住んでいるような感じでもない。
荷物がまとめて倒木の脇に置いてある。
火を起こしていて、どうやら石で竃を作っているらしい。
全員が成年男性と思われる。見た感じを最も単純に捉えるなら、軍とか騎士団とか、そういう武装組織のキャンプだ。全員ヒゲもあるが、伸ばし放題というわけではなく、数日の行軍で伸ばしっぱなしになっているような印象を受ける。
白人のように見え、全員ががっしりとした体格だ。髪の色や髪型はバラバラだったが、漫画のように奇抜な色ではなかった。ただ、緑がかった色とか、赤っぽい金髪のような、そんな色の者もいた。
賊の類なら、もっと汚らしい格好なのではないだろうか。
しかし、どんな状況なのかが分からない。
隠密行動中で見つかるわけにはいかないとかだったら、最悪殺される可能性もあるか?ただの訓練とかなら、捕らえられてでもいいから、集落とか村に連れていってもらった方が、今の状況よりはマシな気がするのだが。
しばらく考えたが、やはり出ていくことにしよう。密林で野垂れ死ぬより酷いことにはなるまい。
片手に荷物をかかえ、片手を上げながら近付いていく。両手を上げながら近付きたいが、荷物を手放したくなかった。それに、両手を上げる行為が彼らにとって降参の意味を持つかも分からない。海外に行けば日本の何気ない所作がマナー違反だったりする場合もある。彼らのマナーなど、考えても分かるわけがない。
ゆっくりと近付く。
声が届きそうな距離になって、大声を上げた。
久しぶりに声を出すので、最初はしゃがれた声が出た。
「ヘーイ!オーイ!ヘルプ!ヤッホー!」
英語から入り、言語体系が全く違うかもしれないが、とりあえず他にも知っている限りの言語を使いながら近付いていった。
すぐに何人かが気付く。周りを見渡した後、剣に手をかけ立ち上がる。音が反響していて、方向が分かりづらいのだろう。一人が何事かを叫び、全員が全方向を警戒するように警戒態勢をとった。
一人が俺を見付けた。また何事かを叫び、何人かがこちらを向く。数人は引き続き周りを警戒している。俺が囮である可能性を考慮し、背後からの奇襲を警戒しているのだろう。
ゆっくり、ゆっくりと近付く。
もう大声は出さない。近付くにつれて声を落としながら、ゆっくりとした口調で声を出す。
残念ながら、どの言語でも言葉を理解してくれたかのような反応は見られなかった。となると、彼らから俺はどう見えているのか。この森が未開の地なのか、ある程度把握されていて、不審者がいるような森なのか、それによっても対応は変わってくるだろう。
スーツや腕時計がどう見られるか。
文明の進み具合も分からない、
原住民に見えるか、遭難者に見えるか。
かなり近付いたところで、向こうも何事かを問いかけてくる。こちらもとりあえず日本語で返す。恐らく、言葉が通じないのはそろそろ理解されただろう。
広場に出て、近付きすぎない程度の位置で膝をつく。二人が剣を抜いた。全身に冷たい汗がぶわりと吹き出た。斬られるのだろうか。
剣を抜いてない二人が近付いてくる。男達は全部で六人だ。あとの二人は周囲を警戒し続けている。
近付いてきた二人が、何事かを話しながら、ロープを取り出した。俺は荷物を置き、ゆっくりと手を差し出す。手を縛ってくれと言わんばかりに。
捕まえてくれ。
どんな世界か知らないが、牢屋なら食事もできるだろう。こんな森で遭難よりはマシだ。もう一人でいるのは辛すぎた。
すぐに手を縛られ、周りの木に繋がれた。とりあえず剣は納めてくれた。恐らくは、言葉が通じれば理知的な相手だ。それが分かっただけでも、かなりの安心感があった。
上着を広げられ、ポケットの中などを身体検査された。腕時計に物凄い興味を示して色々聞かれたが、もちろん何一つ分からなかった。一応は反応して、日本語で適当に話し掛ける。
やがて、質問していた男が、別な一人に指示を仰ぐように話しかけた。
腕を組んでこちらのやり取りを見ていた男が、リーダー格らしい。連携からしてやはり何かの部隊の様に思えたので、隊長といったところだろうか。
茶色い髪をオールバックにし、無精髭を生やした男だ。古い時代の騎士か、軍人のイメージがしっくりと来る男だった。背も高く、頬には古そうな切り傷がある。
隊長が指示を出していく。隊員の動きを見るに、恐らく二人が周囲の警戒、一人が俺の監視だろう。残りの二人が鍋を取り出し、料理らしきことを始めた。
監視役も、もう話しかけてこない。とりあえず全員の動きを何となく眺めていた。腕時計は返して欲しいが、そんなことを考える状況でもなさそうだ。
隊長が懐から何かを取り出す。四角い、小さな鉄板に見える。幾何学模様があり、いくつか小さな宝石が埋め込まれている。何か操作をすると、宝石の一つが光った。そのまま鉄板に話し掛ける。すると、鉄板から声が聞こえた。
通信機だ。見た感じは科学よりは魔法に見える。
異世界なことはとっくに確信していたが、ある程度の文明がありそうでよかった。