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サバイバル異世界  作者: ノワール
第1章 新たな人生 アステリード王国
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第3話 川を見付けた。そして・・・

 この森に来てから二十三日目。やっと川を見付けた。


 時計に日付機能があってよかった。ソーラー充電式だから電池切れの心配はない。電波時計だから時刻がずれることもないはずだ。・・・ここが地球なら。


 あれから危険そうな獣には遭遇しなかったが、たった二十三日で間違いなく痩せた。やつれたと言った方が正しい。


 やっと出会えた豊富な水だが・・・

 これ、飲んで大丈夫なのだろうか。


 草が水際まで茂っていて、近付くのも危なそうだ。


慎重に近付いていく。ぬかるんだ水際で川を覗いてみると、かなり濁っている。ごくりと喉が鳴るが、果汁がある限りは、飲む気がしない。なるべく果実を多く食べるようにしていたし、たまに果実のあるところに留まって、絞って飲んだりしていたのだ。


 濾過できればいいが、理屈は分かっても周りの草木からまともに作れる気がしなかった。魚を捕ることも考えたが、底が見えないし、どんな生物がいるかも分からない濁った川に入る度胸はない。果物で死なない程度の水分が補給できていることは分かっているのだから、無理をすることもあるまい。


 その時だった。突然、大きな水音がして、川の半ばから巨大な生物が飛び上がった。


 黒光りするワニのように見えたそれは、鱗に覆われた背中に大きなヒレがあり、爪が異様に長いのが見てとれた。そして大きな魚を加えた口、その前歯の辺りからは、いくらワニにしても凶悪すぎる、サーベルタイガーのような長い牙が見える。何より、目が三つあった。額に第三の目があり、光り輝いていた。


 ああ、やっぱりそうなのか。

 アマゾンの奥地でも、地球にこんな生物はいない。目が三つあって、しかも目が光るなんてことは考えられない。


 いや、もしかしたら存在するのかもしれないが、やはりヘビを見かけないのがおかしい。密林といえばヘビのはずだ。ここで見かけるヘビは足があったり、背中に棘が生えていたり、普通の長いだけのヘビがいない。


 ただ、地球である可能性の方が圧倒的に低く、異世界なのだろうと痛感してしまった。


 チートも何もなくても、異世界なのだ。


 あんな生物に目をつけられたら堪らない。

 慌てて川から離れ、十分な距離をとってから地面に座り、心を落ち着かせる。きっと認めたくないだけで、分かっていたのだろう。思いのほかパニックにはならなかった。


 やることは変わらない。

 そもそも人間がいるのかも分からないし、生態系の頂点がどんな異生物か分からないが、確認してみないことには始まらない。とにかく森を出なければ。


 川沿いはぬかるんでいるので、木々の切れ目で川が分かる程度に距離を開け、下流に向かって歩き始めた。


 きっとこの森を抜けられる。

 これを下っていけば。そう信じれば、歩く力が一層湧いて来るように思えた。


 これまでも直進できていたとは到底思えず、出口の方向に進めていたとも思えない。だが、川を下れば海に出る道理だ。いつかは森も終わるはず。海に出ても終わらなかったら、海岸沿いに歩く。

 人の全くいない異世界なんてことはさすがにないと信じたい。


 無性に誰かに会いたい。

 誰でもいい。言葉が通じなくても。


 恋人はいなかったが、一年ほど前に喧嘩別れした元カノのことを思い出す。家族、友人より先に思い出す辺り、未練でもあったのだろうか。楽しかった思い出ばかりが頭に浮かぶ。

 先輩との飲みの約束、両親と妹と久し振りに会う予定だった法事の予定、夏休みに計画していた地元の同窓会。

 もう叶うことはないのだろうか。


 だが、こんなところに放り出されて一ヶ月近く生きていられるだけでも幸運だ。いつまで幸運が続くか分からないが、足掻けるだけ、足掻くしかない。


 生きる。強く決心して、歩みを進める。


 しかし、それからさらに一週間歩いても、森を出ることも海を見ることも叶わなかった。


 水辺で顔を見ることもしていないが、明らかに腕や腹回りの肉が落ちていた。

 昼にキノコを食べてから下痢と嘔吐が酷く、フラフラする。食用のキノコと同じ見た目だと何度も確認したが、毒があったようだ。食用と思っていてからそれなりの量を摂取してしまった。

 この森に来てから最悪の体調だった。まだ夕方にもなっていないが、震える手で寝床を作り、横になった。


 幸運も終わりか。

 死ぬのか。


 涙が滲んでくる。

 何で俺がこんな目に、、、


 何度も暗闇の中、排便や嘔吐に苦しみながら、とにかく体を休めることに専念した。


 翌日には何とか立ち上がれるようになった。まだ死なないようだ。


 死なないなら、生きる。

 死にたくない、ただそれだけの一心で、体に鞭打ち、歩き始めた。


 それからさらに四日、もうキノコは一切口にしていない。

 一週間ほど、果実を見ていない。

 二日前に食べ切ってから、草しか食べていなかった。


 濁った川に近付き、なるべく上澄みの部分を掬って飲んだ。臭いし、口の中がざらざらする。それでも飲んだ。朝露だけでは死ぬと思えば、口には入れられる。

 その後やはり、また腹を壊した。水分補給になったのか、体力を削っただけだったのか、判断もつかない。


 そしてさらに四日後、遂に人を見付けた。

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