第25話 帝国での開発
数日後、リスタードの開発者が到着した。
セレタさんから呼び出しがかかり、グランテニア邸の近くにある開発室に連れていかれる。
「やあ、久しぶりだね。お互い無事で何よりだ」
そう言って静かに笑ったのはリスタードの科学開発室長、ボラトスだ。ひょろりと背が高く、紫色の長い髪を無造作に垂らした顔色の悪い男で、元々魔道具の開発よりも、既に実用されている魔道具の効率的、画期的な活用方法を模索する研究者だったらしい。
全く違う技術体系に興味を持ち、今は科学者に転身している。
リスタードでも何度か意見を求められたが、今後はより意見交換で顔を合わせることが増えそうだ。
帝国の研究の進行度について尋ねてみる。
「まいったよ、正直我々より研究が進んでいる」
いつも以上に疲れた顔でぼやいている。
リスタードでは俺が原料などを把握できておらずに提案できなかった、火薬や火縄銃は既に量産体制に入っている。
連邦から秘密裏に入手した情報だけでそこまで進めるとは、恐ろしい諜報能力だ。
サスペンションも実物は完成しているが、第一に進めたいのは蒸気機関だという。
「蒸気をどう効率よく動力に変換するか、どう排出するか。そしてその機能をどう小さくまとめるか。理論は分かるがね、実際に作るのは簡単ではないね」
俺も理屈は分かるが、細かい仕組みまで詳しく分かっているわけではない。
「そもそも私の生きてきた時代には既に廃れていた古い技術ですし、試行錯誤して頂くしか・・・」
「君の言っていた電球も試作されたらしいよ。ただ、魔光石は周囲の魔素に反応して光るわけだが、電球だと結局は魔素を消費してしまう。長時間の稼働は難しいので意味がないようだね。簡易的な発電機も試作されたようだが、高い出力を出すのに必要な質のいい燃料がない」
魔素はどこにでもあるが、出力が足りないし、長時間稼働して周囲の魔素を消費し尽すと稼働が止まる。科学技術を再現しようとすると、地球とは違う形でエネルギー問題が出てきていた。
そこでふと思い浮かんだのが、小説などの異世界ものによくある「魔石」の存在だ。この世界にも近いものはないのだろうか。
「ふむ?そのような特殊な石はないがね。物質によって魔素の多い少ないはあるよ」
「それってうまく取り出して燃料にできないものですか」
「長時間に渡って魔道具を稼働させないといけない場合に、魔素含有量の多い物を接触させて、物質から魔素を取り出すようなことはあるがね。基本的に輸送費などがかかってくるのであまりやらないな」
「費用がかかっても採算があえば構わないわけですよね。蒸気機関が完成すれば輸送に関して革命が起きます。内包する魔素が多い物質を燃料とするのもありかと」
「なるほど。考えてみよう」
そのとき、ふと薪を燃やしている実験器具が目に入った。
「あれ、これって密閉されているのに何で燃え続けているんですか」
分厚いガラスと鉄でできた容器のなかで薪を燃やしているのだが、見た限り密閉状態だ。
「何でもなにも、なにがおかしいのだね」
「火は空気のないところでは燃えないはずですが」
「そんなことはない。君の世界ではそうだったのかね」
「燃えるのは空気との化学反応ですから」
「この世界では魔素の性質変換だ。空気にたしかに空気があった方がよく燃えるが、なくても消えるわけではない。しかし・・・ふむ、空気を送ると火が強くなるのは空気中の摩素の作用だと考えられていたが、もしかしたら魔道現象と科学現象が同時に起きている可能性もあるのか。興味深いね」
なんと、基本的な化学反応が地球と違うということのようだ。
そこでふと、思いついたことを聞いてみる。
「火薬の製造方法はどうでしたか」
「ああ、そういえば連邦の迷い人も原料が足りないと言っていたらしい。そこで試行錯誤の末、燃えやすい植物を乾燥させて粉末にしたものに、木炭と硫黄を混ぜ、その上で魔法で発火、爆発の性質を付与したんだ」
「言うなればそれも魔道具であって燃料ですよね。蒸気機関も水を沸騰させれば蒸気は出ているのに、燃焼の過程や性質は違うということですか。なら、私の知識だけでは完成しない可能性もありますね」
「確かに、魔道を絡めて考えないといけないようだな」
「そもそも、火薬も私の世界にある物と違うのであれば、前提条件が色々と変わってきますね。蒸気機関より、ガソリンのような燃料を開発できれば、蒸気を飛ばしてエンジンが制作できるかもしれません」
「がそりん?えんじん?それはどういった物なのかな」
「ガソリンは非常に燃焼効率のよい液体です。それをものすごい頻度で爆発させて、その力で発電や車輪の回転などの動力を発生させるのがエンジンです」
「つまり、火薬とはまた違った燃料が作れれば、蒸気機関を超える物が作れるということか」
「そうですね。しかし、連邦の異邦人も火薬の制作過程でそういう考えに至るように思いますが・・・」
「うーむ、その辺りも確認してみるか」
「というか、火薬は魔素の消費はどうなんですかね」
「非常に小さくだが、もちろん火薬にも魔素はある。非常に少ない魔素なのに大きな爆発を起こす、というところが画期的だ」
「ということは、用途が爆発に限られますが、もの凄く含有魔素量の多い物質と同じ性能ということですよね。であれば魔道具の機能で魔素の消費を抑えるのでなく、魔素を最大限に活用、あるいは巨大な魔素を貯蔵できる物体を作成できれば、科学に拘らず、同じような出力が出せるかもしれませんね」
「うーむ、君の世界の科学がこちらで当てはまらないのであれば、魔法と科学をいかに融合させるか、ということか」
「この世界では物質あるいは空気中の魔素をそのまま使っていたわけですよね。効率のいい燃料を開発して、例えば爆発を動力に変えるっていう機能の魔道具を作れば・・・」
「これまでのものとは違う、全く新しい魔道具になるな」
「とりあえず、火薬を入れて爆発させて、その爆発を動力に変換とかできれば、車や飛行機も作れますね」
「そうだな、燃料の模索と同時に、今既にある火薬を使って魔道具を創れないか、それを試してみよう」




