第23話 帝都観光
連邦の迷い人がどういう人なのか聞きたいのだが、貴族達がいる席で勝手に発言することもできない。話は進んでいく。
「まぁ、支援については心配いらないよ。ただ開発について協議したい。テラード君の身柄についてはいいが、彼の発案した物の開発を共同で進めたい。どの道、今は開発も止まっているだろう。設備の提供と引き換えに、利益は半分ずつ。そういうことで御父上と話もついている」
外交においては実際に赴いて直接話をすることで進むことなどもあると思うが、今回は既に通信での協議で話をつけていた、ということらしい。単純にラーデ様の保護をしてくれている、ということだ。
ふとラーデ様を見ると、ほっとしつつも複雑な表情のように見えた。故郷の未来に安心材料が増えたとはいえ、王国の人名や様々な物が自分の肩にかかっていると思っていたら、大人達の手のひらで転がされていたからだろう。公爵と連絡は取り合っていたはずだから、何も言われてなかったということだ。
そのまま、細かな条件というか開発の進め方について、協議が始まる。開発についてはガトーさんが仕切っていたらしいので、直接内容を詰めていくのだろう。俺の役目は終わったので、食事に専念することにした。
その後解放されたので、ガトーさんに連邦の迷い人について確認をお願いした。遅めの時間になったが、ガトーさんが当主様から分かっている限りのことを聞いてくれた。
やはり黒髪黒目で、日本人のようだ。俺より二、三年は前にこの世界に来たと思われる。俺より若い男性。恐らく理系の知識があるのだろう。動画サイトなんかで色々作ってみたりしていた一般人なども見たことがあるし、そういう知識を持ってこちらの世界に来たのなら羨ましいところだ。
俺ももっと色々提供できればいいのだが、理系の知識がない。料理系も難しい。醤油はなさそうだが製法が分からないし、マヨネーズは卵を生で食べる習慣がない世界では衛生面が心配だし・・・。
帝国に来て二週間ほどたったある日、嬉しい自由時間をもらえた。早速観光と洒落こむことにする。王国は戦時中だが、明るい未来が見えて来たので、息抜きも大事だと自分に言い訳する。流石にラーデ様には言いにくいが。
グランテニア邸を出ようとしたら、シャーレさんに呼び止められた。
「街を観光してくるのなら、わたしもご一緒していいですか?」
シャーレさんとは、先日ラーデ様と飲んだ後に話しかけ、最初はぎこちなさもあったが、今では普通に話すようになっている。
「ふふふ、別に誰かの指示とかではないですよ?」
「はは、本当ですか?」
冗談交じりに軽口をたたく。
「じゃあ是非。シャーレさんも初めてなんですか?」
「はい、アステリードから出たことはなかったです」
「陸側から帝都に入りましたしね。北の海の方にいけば水路が多くて奇麗なんですよね」
玄関を出る。広い庭が広がり、玄関の前はロータリー状の橋になっている。交差するように川が流れていて、小さいが豪華な装飾の舟が停まっている。そばにはラーデ様とガトーさん、当主様がいた。
「あら、観光ですか」
ラーデ様がこちらに気付いて声をかけてくれた。結局見つかってしまったが、幸い特に気にした様子はない。
「名所を見てこようかと」
「それは素敵ですわね。・・・お二人でですの?」
「ええ、一人もなんですから。私がお願いしたんです」
にっこりとシャーレさんが答える。ラーデ様もにっこりと笑う。そのまま無言の時が流れた。
・・・?見つめあっているので割り込みにくいが、二人とも何も言わない。
すると、当主様が近づいてきた。
「我が帝都には美しい観光名所や歴史ある教会など、見飽きることのないところが色々ある。楽しんでくれたまえ」
「ありがとうございます。お話には聞いておりましたので、とても楽しみにしております」
「美しい女性と一緒で羨ましいね。しかし、後でリスタードの姫君の相手もしてあげた方がいいよ」
くすりと笑ってそんなことを言う。いやいや、俺の方からは誘ったりなどできないのだが。
「恐れ多いことでございます」
「ははは、大丈夫だよ。気に入られているようだからね」
「は、はあ・・・」
「わああ!本当に水の都って感じですね!」
シャーレさんがはしゃいでいる。しかし、それもそうだろう。本当に美しい街並みが広がっていた。
至るところに川が流れ、建物の上部や半ば、色々なところから噴水が噴出している。建物はほとんどが白く、地球ともアステリード王国とも違った意匠の、凝った装飾の美麗な建物も多い。冬は噴水や川が凍り付いて、その中を水が流れると聞いていたが、今は初夏なので残念ながらそれは見られなかった。とりあえず大きな広場に通じる小舟に揺られながら、のんびりと景色を楽しんでいた。
「それにしても舟がたくさん!ガレッド車とかは街にほとんど乗り入れられないのですよね」
「移動は舟って聞いてましたけど、冬に川まで凍り付いたらどうするんですかね」
素朴な疑問だったが、船頭が答えてくれた。
「冬は歩きかガレッドさ。氷の上を歩くんだ。家畜用も含めて、ガレッドが街にいないわけじゃないからな」
「へえ、夏と冬で全然生活も変わるんですね」
冬の街も見てみたいが、その機会があるかどうか。
最も舟着き場が多い広場は露店が多く出ており賑わっていた。奥には大きな教会がある。ヴィータ教の帝国における本部だ。
シャーレさんと露店を回る。
バンジェ肉の串焼きを買ってみると、塩と胡椒の味付けだった。
海沿いの国なので塩が安く出回っているのは当然だろう。胡椒はこの世界で初めてだ。聞くとグレアダという植物らしい。見た目も胡椒に似ているが、海沿いにしか生息しないらしい。
「なんだか流通の仕方とか料理の広がり方とか、よく分からないな。地球の近世がどうだったのか、詳しくは知らないけど」
「結構違いがあるんですか?」
「かなり古い時代から、グレアダみたいな香辛料とかは高価格で取引されていたはずですね。塩も王国では結構貴重でしたしね。それなのに遠距離通信機はある。俺からすると技術とか文化がちぐはぐな印象です」
「戦争が終わってからそんなに経ってないですしね。帝国と国交が回復したのは最近ですし、調理法とかはあまり他国と情報の巡りがありません」
「塩とかグレアダがあまり流通していないのは何故なんですか?」
「グレアダは生産量が少ないから、輸出はかなり高額って聞いてます。アステリードでは塩は南の海の海水から作ってますが、品質がそんなに良くないんです。大半は南西のグレーイル法王国からの輸入なんですけど、距離があるのでこれも結構高いんです。ただ最近は帝国からの輸入も増えてきて、徐々に価格は下がってます」
「輸送費が高いんですね」
「そうですね、ガレッド車だと量もそんなに運べないですし」
「アステリードの南の海とグレーイルで、船での輸送はないんですか?」
「南の海は水竜オレアラ様のお住まいがあるので、船では行き来できないですね」
この世界には竜がいる。これは驚くほど、地球でいうドラゴンに似ている生き物で、女神ヴィータ様の使いとして崇められている。基本的に不死とされており、世界に数体しか確認されていない。
「それで高くなるんですね」
「まぁ、塩はともかくグレアダは生産地でもなければ、大半は貴族階級でしか使われていないですね。塩も地域でかなり価格や流通量に差があります」
蒸気機関が実用化できればいつかは地球のように誰でも食べられる物になるだろうか。そんなことを考えながらデートのような散歩を楽しんだ。




