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サバイバル異世界  作者: ノワール
第1章 新たな人生 アステリード王国
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第11話 異世界で初飲み会

 ザストやグレアム達の部隊は、リスタード領に駐屯する王国軍だ。大森林の哨戒や、人間の生活区域に近づく獣の駆除などが主な任務らしい。

 元々はリスタード家の施設騎士団の任務だった。

 各地の領主が騎士団を抱え、戦争の際はそれぞれの領から派遣する時代があり、やがて職業軍人としての、王国軍が設立された。

 王は勇猛果敢なリスタード騎士団に、設立されたばかりの軍から部隊を派遣し、実戦経験や訓練の指南などをさせたところ、非常に効果があったため、いつしか結構な規模の軍が駐屯し、任務をこなすようになった。

 この付近はかなり安全と考えていたが、大森林で連日のように獣の駆除をしないといくらでも増えてしまうため、強力な獣との実戦経験にことかかない。


 リスタード駐屯地ほどの規模の常設軍があるのは王都以外になく、さらに基本的に、騎士団の方が命令権が上になる。

 軍上層部には貴族のエリートも多くいて、領に派遣されてくることもあることから、結果としてリスタード公爵家の影響力を増す要因にもなっていると、グレアムが誇らしげに話していた。


 お前は軍の人間じゃないのか、と思ったが、リスタード領に来るのが一番の出世コースな上、ここの任務を任せられるのは、歴史的にも非常な名誉らしいので、軍にはリスタード公爵を尊敬する者は非常に多いとのこと。


 しかも給料がいいのだ。従って、彼は結構ないい服を着ていた。


「だっせえな!テラード」


 だから、この世界でお金稼いだの初めてなんだが。初給料だぞ。


「それなら、とりあえず安くていい服屋を教えてくれ」

「そうだな。とは言え、庶民向けの店は中古も多いし、新品でも品質が低く、長く着られない。少し値段が上がるけど、俺が使うところにしよう。長く着られる。公爵家の給料なら初任給でもそこまで高くないはずの店だし、有名ではないけど、無駄に金をかければいいとは考えない、良い物をきっちり見ている商人や貴族が使う店なんだ。王都にある店だったんだけど、本店はリスタードにあってな」

 ちなみに、リスタード領の首都であるこの街の名前は、そのままリスタードである。


 普段は制服があるから、とりあえずは一着だけ購入した。

 この世界で一般的に着られているタイプの、シャツとズボンだ。色は濃い目の灰色を選んだ。前が重なるタイプで、細身のコックコートのような上着とスラックス。

 地球のワイシャツの様な前合わせのシャツは、例え首まで閉めていても、扇情的と捉えられるそうで、見かけない。ボタンを取ればすぐに開けるから、はしたないという考えだ。

 襟もあまりなく、大体の服は首元が大きめに空いている。格式高い服などは、「ミクレ」と呼ばれる、マフラーの様な布を、ネクタイとは違うが、決まった結び方で着用し、余った部分を脇に留める。


 我らが麗しの公爵令嬢様も、教会でお会いした時はドレスだったが、胸元はおろか、ほとんど肌を露出していなかった。視察用の簡素なドレスだったらしいが、ミクレはしていて、完全防備だった。


 その後、市街地側を軽く一周し、案内してもらった。観光地としても栄えているらしく、古い建物や美術館も多い。演劇ホールなどもあった。地球とは全く違うデザインの物が多いが、時には似通った物も見受けられた。


 見るもの全てが新鮮で斬新で、地球でヨーロッパ旅行に行った時のような、色々な感動があった。俺のいた教会付近は、観光地や商業区からは離れた住宅地域だったので、ほとんど見る機会がなかったのだ。


 夜は、グレアム行きつけの酒場に行った。

 安くて美味い大衆店だ。とはいえ、この世界は外食できる時点で中流層だが。


 中流になると、毎日とは行かないが、肉を食べる機会が増える。農民や下層市民は芋のような野菜を使ったシンプルな料理や粥、パンとスープが殆どで、卵やバター、チーズを使うと贅沢な物になる。肉は申し訳程度に、干し肉などを使ったりする程度だ。


 卵やバターに、肉も、ガレッドや、古くからあるバンジェと呼ばれる家畜は安いが、近年食用に育てられることが多くなってきた、ブルーマーという家畜の物は高い。

 とにかく地球と同じ生物が少ないので、羊とか牛とかに言葉を当てはめられないから、勉強中に聞いた生物でも、イメージがしにくい。生物の固有名詞は、身近な種類すら、今でも覚えきれていない。


 いつか金を貯めてブルーマーとやらを食べて見たい。公爵家に働く者は、公爵家の最も下級の使用人でも、中流層の生活が可能なのだ。


 とりあえず、見たことがあって、なんとなく味の想像ができると考え、ガレッド肉の料理を頼んだ。スープとパンも一緒だ。

 グレアムが勧めてきた酒は、穀物の蒸留酒だ。ヴェナといって、安価な酒だ。度数の高いヴェナを、水や、赤ワインのような果実酒で割る。地球の酒で言うなら、ウイスキーが近い。果実酒はカミェという。正直、料理に比べても、酒の世界間のレベル差は酷い。ウイスキーの赤ワイン割なんて、地球にはないはずだ。そもそも冷えていない物ばかりなので論外だが、慣れるしかない。カミェ単体の方が美味そうと言ったら、貴族の舌だと笑われた。カミェの方が高いから、普通は水で薄めるか、度数の高いヴェナに混ぜるのだ。カミェを原酒のまま飲むのは富裕層だけらしい。


「故郷でも、よく果実酒を飲んでたんだ、ワインっていって、赤と白がある。白は冷やすけど、赤は高めの温度で飲むんだ」

「へえ、味も似てるのか」

「こんなに渋くも酸っぱくもない。でも、貴族の飲むカミェは違うんだろう?そっちなら近いのかもな」


 何しろ地球は経済的に発展しているから、味への拘りが半端じゃない。


「じゃあ、飯も美味いのか」

「まあね。こちらでも、公爵家の食事や、兵舎に泊まった日のは悪くなかった。でも、やっぱり薄味だったり、癖が強かったり感じることが多いかな。特に公爵家では香草が効きすぎてる。故郷にも、そういう料理はあったけどね」

「あれでも兵舎の食事は作戦を終えて、久しぶりのちゃんとした飯だったからな。いつもより豪勢だったんだぜ。そうすると、やっぱりお貴族様の料理だな。それも裕福でないとなかなか食べられないような」

「故郷は交通や農産業が発達してるから、香辛料や塩が物凄く安く、世界中に出回ってるんだ。住んでいた国も、庶民の料理はやっぱり味が濃かったよ。でも、塩や調味料を沢山使えるから、ハーブの癖は強くないものが多い」

「誰でも空を飛んで、世界中どこにでも行けるんだっけ。すげえよなあ」

「故郷にも、国によっては貧しい国もあるけどね。でも、かなり進んでいるよ」

「この世界で色んな国に行きたかったら、冒険者や旅人とか、巡業者になるしかない。楽しそうだけどな。危険も桁違いだ」

「気軽に旅行は行けないのか」

「長期で休むなら、そのまま解雇だ。拠点をどこかの国に置きつつ、遠くの国にまで行くとすると、商人とか、国の要人くらいだろうな。軍人も警備とか作戦で行く場合があるけど、観光なんか全く出来ない。あとは、上級学校に進学するような富裕層は、学生生活の終わりに勉強留学をするって言うぜ。エリートの多いここの基地でも、経験者は上級の士官で数人って程度だろうが」


 そうなると、異世界旅行のつもりで色々なところに行くのは難しそうだ。

 地球の知識をうまく使ったとして、可能性があるのは商人か。しかし、会社の営業とは話が違う。公爵家で実用化されたアイディアには報酬が出るが、売上に対するパーセンテージとかそんな話はなかった。

 そもそも、著作権とか特許の概念がない。実を言うと、アイディア料が貰えるだけでも、物凄く誠意のある家なのだ。長期的な収入源にしたり、国を渡っても利益になるような知識なんて、どれだけあることやら。少なくとも今は思いつかないな。


 せっかく待遇がいいんだ。

 どう考えても、このまま可能な限り公爵家の世話になるのがベストだ。


 そう思ったが、グレアムはさらに、俺の興味を広い世界に誘うのだった。

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