思い入れのある場所
あなたには、”思い入れのある場所”はあるだろうか。
きっとあるだろう。
僕にも”思い入れのある場所”は存在する。
ファーストキスを経験した、中学校の近くにある市民ホールの駐車場の一角。
ひいばあちゃんと散歩をした近所の川の上に架かっている紅い橋。
離婚する前、最後に母親と父親が一緒にいる姿を見た、実家の玄関前。
それぞれの場所を思い返す時、エピソードが先行して押し寄せることもあれば、まるでポラロイドのシャッターを押して出てくる写真の表面のように、じわっと景色と色が染み渡っていくこともある。また、その色たちの濃淡に、時折ずきっと心を痛めたりする。あまりにもリアルで至近距離な記憶が、濃さとなって、突然迫り来るんだ。もう、ふたたび染まりたくない。
たとえば、僕のファーストキスはあっさりとしていた。
それなりに雰囲気もあったし、触れた直後は衝撃に身を固まらせていたことを覚えている。
それでも、『ただ通り過ぎただけ』だった。
あの頃の僕とあの子は、右も左も分からないまま、月9ドラマのまね事をしたに過ぎなかったんだ。
画面の向こうのキムタクのように、僕はなれなかった。
なにより、僕はキムタクになりたいなんて思っていなかった。
君が望むなら、と応じてあげただけ。
とにかく、必要性が分からなかったんだ。
なんてむなしいのだろう。
僕が心を突き動かされて、思うままに触れることができたのは、それから3年ほど後のことだったと思う。
僕は人生のテーマとして、”いろいろあったけどポジティブに”を掲げている。
あなたにも悲しい経験があるように、僕にも悲しい経験は幾度となく訪れてきた。
そして、僕はその悲しいことを悲しいだけで終わらせたくなくて、歌詞にして今は歌っている。
いうなれば、偶然僕の歌を聴いてくれている人たちを”道連れ”にしているわけで。
いいでしょ?ちょっとだけでいいから、俺の話を聞いてくれよ、と思いながら僕は歌っている。
日に日に、あの救われなかった日々は薄れて消えはじめている。
今になって救われているよ。
僕のかつての”思い入れのある場所”は、もうすぐ僕の心を彩ってくれるはずだ。
ミウラリョウスケ