表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋コインランドリー  作者: ミウラリョウスケ
1/2

ばあちゃんのカレーライス

僕は、カレーを食べるとおなかが痛くなる。

辛いものが苦手、というわけではない。生まれつき胃が弱いわけでもない。むしろ自分からお願いしなくとも、ばあちゃんが月に何度かカレーを作ってくれた。

無口なばあちゃんとの唯一の会話の場はご飯を食べている時だけだった。

大きな食卓で隣の椅子に座るばあちゃんの横顔が少年期の記憶としてこびりついている。


僕は”ある日から”父子家庭のひとり息子として育つことになる。

ばあちゃんはそんな僕の夕食の面倒を見てくれた。

「ご飯だよー!」って毎晩19時には声を掛けてくれていただろうか。それでも僕はすこし口うるさいなあ…なんて、恩知らずなことを思いながらダイニングルームへと向かう。

市販のルーで作ったカレーライス。プラスアルファで工夫をすることなんてない。チーズを入れたりチョコレートを入れたり赤ワインを入れるようなことはせず、本当に何の変哲もない、『最低限のカレー』だった。

それでも、僕はこのカレーが大好きだった。しかし、1時間もすれば、おなかを押さえながらトイレに駆け込んでいた。

単なる食べ過ぎだろ?と言われればそれまでなのだが。


ばあちゃんの得意料理は他にあった。

黒豆を甘く煮たやつとか、ぬか漬けとか、あんまり覚えてないけどとにかく人参が主役の煮物とか。

平成生まれでひとりっこで好き嫌いの多かった僕は、それらを食べるふりをしてごまかす術ばかり上手くなっていた。(ばあちゃんっ子、って誇らしげに語る人に出会う度に胸が痛くなるくらいに)

当時の僕にとっては、ごまかして夕食をやり過ごすことが命と同じほど大事だと思っていたし、それを怠った日には、もう夕食を作ってくれなくなるんじゃないか、と本気で思っていた。

というのも、“ある日から”父子家庭になった我が家が、僕の中心。子どもとしては、いかに家族から捨てられないかを中心に考えていた。大げさな言い方に聞こえるかもしれないが、それが大きな判断基準のひとつだったのである。


僕とばあちゃんの18年間(進学を理由に18歳で家を出たので)には、象徴的なイベントってそれほどなかったけど、もしひとつ挙げるとするならば、僕は『ばあちゃんのカレーライス』を例に挙げる。


先に述べたように、突飛さも目新しさも一切ない、ばあちゃんが作るカレーライス。そのカレーライスをスプーンですくって何杯も口に運ぶ僕。特別な理由なんて当時の僕にはきっとないんだけど、僕が勝手に作り出していた謎の『しがらみ』から解き放ってくれる料理が、カレーライスだったのだろう。

そしてそのしがらみは、幼い頃の僕の心の大部分を占めていた、”ひとりにしないで”という思いから来るものだったのだろう。僕と家族のつながりはある種希薄だったのかもしれないが、ばあちゃんのカレーライスの思い出だけが、僕の心に強く残っている。そして今では、僕の一番好きな食べ物は、カレーライスである。相変わらずおなかが痛くなるほど食べてしまうけど。(笑)

あの頃よりずっと明るく、美味しく食べられている。

その話は、また今度することにしよう。


ミウラリョウスケ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ