ゴブリン売りの少女
ゴブリンキス大賞提出作品です。
雪の降りしきる、クリスマスイブの事です。
みすぼらしい服を着たゴブリン売りの少女が、寒さに震えながら一生懸命、道を行き交う人々に声を掛けていました。
「ゴブリンは、いかがですか。
ゴブリンは、いかがですか」
しかし、誰も立ち止まってくれません。
「ゴブリンがあります、ゴブリンがありますよ。
だれか、ゴブリンを買ってください」
しかし、ゴブリンは全く売れません。
このままでは父親に怒られてしまいます。
なんとか、ゴブリンを売らねば。
いや、でも、その前に。
自分が、凍えて、死んでしまう!
「……そうだわ、ゴブリンを燃やして、暖まろう」
少女はそう言って、一匹のゴブリンを燃やしました。
シュッ。
『ギョエエエエエエエエエエ!!』
ゴブリンの火は、とても暖かでした。
まるで、赤く燃える、一台のストーブの様。
「……ああ、いい気持ち」
少女がストーブに手をのばそうとしたとたん、ゴブリンの火は消えて、ストーブもかき消えるように無くなってしまいました。
「も、もう、一回、だけ……」
少女はまた、売り物であるゴブリンに、再度、火をかけてみました。
シュッ。
『ギョエエエエエエエエエエ!!』
あたりは、ぱあーっと明るくなり、まるで、ご馳走のガチョウの丸焼きでも食べている気分です。
「……ああ、いい気持ち」
少女はそう呟きますが、すぐにゴブリンの火が消え、暖炉もご馳走も、あっという間になくなってしまいました。
「も、もう、一回、だけ……」
少女はまた、売り物であるゴブリンに、再度、火をかけてみました。
シュッ。
『ギョエエエエエエエエエエ!!』
そのときです!
あたりが突然明るくなりました。
そして、光の中で、大好きな大好きな。
死んだはずの、おばあさんがほほえんでいたのです!
「おばあさん、おばあさん!
ああ、いなくなるなんて、いや!!」
少女はそう言いながら、残っているゴブリンを、どんどん燃やし続けます。
おばあさんは、優しく少女を抱きあげてくれました。
「ああ、おばあさんの体……暖か……」
やがて二人は光に包まれて、空高くのぼっていきました。
……翌日、クリスマスの朝に、大量のゴブリンの燃え殻と、哀れな少女の亡骸が町の大通りに転がっていました。
けれど、冷たくなった少女は、なぜか幸せそうに。
……満面の笑みを浮かべていたのでした。