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ゲーム世界に召喚された俺は、闇堕ちして魔王をはじめました  作者: ひしゃまる
第一章 魔王、新生
6/22

スキル ブレインウォッシュ

俺は、スキルのほうへに注目した。



スキル

【サーチ】

【ホーミング】

【魔法耐性 大】

【物理耐性 大】

【ブレインウォッシュ Lv.1】



【サーチ】と【ホーミング】は、俺が魔弓士だった頃の名残だ。


【サーチ】は敵の居場所や周囲を探知する能力。


【ホーミング】は持っていると魔法や矢など、飛び道具系の攻撃が、相手に向かっていくようになる強スキルだ。取得は面倒だけど、紙防御の魔弓士がソロで活動する場合、回避に専念する必要があるから、持っておきたい。


で、見覚えがないのが三つ。

【魔法耐性 大】と【物理耐性 大】はまぁ、いい……ゲームのまんまなら、与ダメージの七割カット。わりとオーソドックスなスキルだ。


問題は【ブレインウォッシュ Lv.1】だ。

ブレインウォッシュ……脳みそ洗浄……つまり、洗脳。


わはは、魔王らしいスキルが来ましたよ。


試しに、未だに俺の肩で暴れるアーリュに使ってみようか?


いやいや、待て待て。

洗脳とは、なんとなく不吉な言葉だ。


あたら俺に惚れている(?)かわいい美少女お姫さまに使うべきではないだろう。

適当に、またアーリュの血を吸いにきた山ヒルにでも使ってみるか?


いや、ヒルを洗脳って、なんかトキメかないな。

そんなことを考えながら馬を走らせていくと、巨大な影が俺たちの前に現れた。


巨大な獅子の両肩から、ヤギとドラゴンの頭が生えた、三頭一身の怪物……キマイラだ。

黄金の六つの双眸でこっちをにらみ、獅子の口からは涎を垂れ流している。


「いやぁ、キマイラッ! 怖い 食べられる!」

アーリュが怯えた声をだした。


一方で、俺は生で見るモンスターにちょっとだけ興奮する。

いや、うん、ゲームの中で倒してたからか、魔王になったからか、全然怖くはないんだよね……。


つか、初めて遭遇するモンスターがキマイラってな……。

よくよく考えてみれば、ここは魔王城周辺。

棲息するモンスターはみんな凶暴かつ高レベルなのばかりだ。


『グオオオオオッッ!』


キマイラが吠えると、空気がビリビリ震えた。


「ひゃう!」

アーリュが俺の肩の上で耳を塞いで身体をすくませる。


俺がまたがる馬も、小刻みに震えだした。

四本の足を折って、お腹を地面につけて、完全に降伏のポーズ。

つぶらな瞳を潤ませて、せめておいしく食べてくれといわんばかりだ。


おい愛馬よ、ゲームの中のお前は、もう少し雄々しかったぞ……。

軽く鞭で叩いてみたが、太い首に玉の汗を浮かび上がらせて、立ち上がれそうにない。

しかたないな……。


初めてのモンスターが上級モンスターというのもちょっと用心が足りない気もするけれど、こっちだって魔王だ。

【ブレインウォッシュ】とやらの力も気になるし、ここは戦闘といこう。


座ってしまった馬の背から立ち上がり、俺は肩に担いでいたアーリュを降ろした。


「俺がなんとかしよう」

「ゼロ……」

「逃げるなら今のうちだぞ」


俺がそういうと、アーリュはハッとした。

しかしすぐに、首を左右にふる。


「む、無理よ……あたし一人じゃ、こんな恐ろしい森、抜けられない……」

「だったら、俺は人質であるお前を守るから、大人しくしていろ」

「は、はう……っ」

『お前を守る』といわれて顔を赤くしちゃうアーリュ。


ほんとにチョロいな。


俺は、腰から魔剣フォールブリンガーを抜いて、一歩キマイラに近寄った。

三頭一身の合成獣は、未だこちらに対して敵意を向けたままだ。


草に覆われた地面を蹴って、こちらに飛びかかってくる。


どれ、魔王の力を試してみようか。


「ブレインウォッシュ」


突きだした手からは、扇状に光の波動が放たれた。

それを浴びたキマイラは、空中でバランスを失って地面に落ちた。


お、うまくいったかな?


しかし、そうではなかった。


着地したキマイラは三つの頭をその場でブンブンと振って、こちらに再び向かってくる。


ふむ。


洗脳系の魔法と思ったけど、違ったかな?

あるいは、弱らせないと駄目とか。

もしくは、まだレベル1だから高位のモンスターであるキマイラの洗脳は難しいとか。

どっちか一方、その両方というのもある。


とりあえず弱らせてみよう。

こっちのステータス的に、本気で攻撃したら死にかねないから、注意しないと。


そんなことを考えているうちに、目と鼻の先までキマイラが迫っていた。


右肩のヤギのねじ曲がった角から、雷撃が放たれた。

大気を灼いて迫る雷撃魔法を、俺は全身で浴びる。


「ゼロ!?」


アーリュの悲鳴が響いた。


キマイラが、俺にむかって、その獅子の頭で噛みついてくる。


俺は、フォールブリンガーを持っている右腕を前に出した。


ナイフのように鋭い牙が、腕に突き立てられる。

流れ出る赤い血。


キマイラの巨体で体当たりをされた衝撃が、俺の身体を突き抜ける。


――しかし。


「すごいな」


俺は、感動してしまった。


「全然痛くない。全然、効いてない」


体重差的に考えて、吹っ飛ばされて然るべきだ。なのに俺はビクともしていない。

これが【物理耐性 大】か。

そして、その前の雷撃がまったく効かなかったのは【魔法耐性 大】のスキルのおかげか。


すげー、魔王すげー。


『グルル……』


キマイラは俺に噛みついたまま、不思議そうに首を傾げている。

凶悪なその面も、いっそかわいらしい。


本気で殴ったら……殺しちゃうだろうな。

俺は、獅子の眉間に軽くデコピンをかました。

その一撃でキマイラは脳震盪を起こし、俺に噛みついた顎を外して、その場に昏倒してしまう。


その場にうずくまったキマイラにむかって、再び俺は【ブレインウォッシュ】をかけた。

今度はうまく決まったらしく、手から放たれた光の波紋を浴びて、キマイラの身体が一瞬、淡い水色の光に覆われた。


「起きろ」


そう命じた途端、キマイラはパチッと目を覚まして立ち上がった。

無感情な六つの双眸が、命令を待つように俺を見あげる。


「俺に懐け」


命じると、三つの頭をスリスリと俺に寄せてきた。

左肩から伸びるドラゴンの頭の顎のところをかいてやると、ゴロゴロと喉を鳴らす。


まさしく、洗脳スキルだ……。

俺は、キマイラの頭をなでながら、戦慄した。


なんだこの強大な力……。

本当に、魔王だ。

ガチでこの世界を、俺のものにできるんじゃないか。


「ゼロッ」

そんなことを考えていると、アーリュが駆けよってきた。

「大丈夫?」

心配そうにのぞき込んでくる。サファイアブルーの瞳は、微妙に涙にぬれていた。


「見てわかるだろう? 大丈夫だよ、心配なんかいらない」


すっかり俺に懐いてしまったキマイラを見せようとするが、アーリュの目に映っていたのは、未だに血を流す俺の右腕の傷だった。


「大丈夫じゃないわよ。血が出てるじゃないの」

言うや、彼女は自分が着ていたドレスのスカートを破り裂いた。

それで包帯をつくり、俺の傷口に巻いて、止血をする。


しかし、こういったことに手慣れていないことがありありとわかるおどおどとした手つきで、非常に雑なものとなってしまった。


アーリュは、自分の不器用さを直視して、恥ずかしそうに頬を染めて、うつむく。


「ごめん、こんなことも、できなくて……」

「いや」


この程度の傷、ライトヒールをかければすぐに治るんだけどな……。


アーリュの雑な包帯の結び目を見ていると、どうしてか、俺はすぐにそうする気にはなれなかった。


落ちこむ彼女の頭を、優しくなでる。


俺は今、恐ろしい力を持っているけど……この子がいれば、そんな不安にならなくてもいいかもしれない。


まぁ、王さまにはなりたくないし、結婚なんかしないんだけど。


「さてと、キマイラをGETしたし、先に進もう。スキルのことやこの世界のこと、もっと知らなくちゃいけないからな」


俺は、もうアーリュを肩に担ぐことはなく、並んで一緒に馬に乗った。

俺の下僕となったキマイラは、後ろからゆっくりとついてくる。



一応、これから毎日投稿していければと思います。

感想などいただければ、励みになります。よろしくお願いします。

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