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ゲーム世界に召喚された俺は、闇堕ちして魔王をはじめました  作者: ひしゃまる
第一章 魔王、新生
4/22

現状把握と決意

頭を打って気を失い、目が覚めれば、見慣れた部屋にいると思っていた。


しかし――。


「あ、起きた」


アーリュ=ドラゴニアは、まだ俺の目の前にいた。俺に膝枕をしていて、目を覚ました俺を見て、パッと表情を明るくする。


あれー?


「ご、ごめんね、その……助けてくれた恩人を、いきなりポカポカ殴っちゃって……でも。いきなり胸さわったり、そうするのが普通だみたいなことをいったりするのも、どうかと思うのよ……たしかにわたしは、あなたのお嫁さんになるんだけど……」


もじもじと恥じらいながら、彼女は唇をすぼめる。


俺は上体を起こして、アーリュに尋ねた。


「もしかしてこれ、夢じゃない?」


「なにをいってるの? やっぱり魔王との戦いで、頭を打ったとか……?」

アーリュは俺を気づかって、額に手を当ててくる。

そのぬくもり、やわらかな感触……あらためて体験して、俺はこれがゲームでも夢でもないと確信した。


これは、紛れもない現実だ……意味はわからんが、受け入れなければ、たぶんどこにも進めない。


ゲームそっくりの異世界……そんな物が実在するとは思えないが、とにかく俺はアーリュの話に合わせることにした。


「いや、だいじょうぶだ。すまない……あの魔王を倒せたということが、にわかには信じられなくって、取り乱してしまった」

お姫さまを助ける勇者をイメージして、ちょっとだけ真面目な声をつくっていった。


「信じられないなんて……わたし、見てたわよ。途中、空の彼方にいっちゃって、全部じゃないけど……その、か、かっこよかったわ……」


カァッと、耳まで赤くして、彼女はいった。

かわいい。なんだこの生き物。

俺は思わず手を伸ばしていて、彼女のさらさらのブロンドヘアをなでていた。


「ど、どうして頭なでるのっ!?」

「いや、かわいいから」

「か、かわいいとかっ!」


あら、さらに顔を赤くして、指をツンツンして照れちゃってまぁ。


「わたし、魔王に捕まっていたあいだの記憶があんまりなくって……あなた――ゼロ……さまが来てくれて、すごく、安心してるっていうか……うれしいっていうか……」

「ゼロって、呼び捨てでいいよ」

どうやら、ちょっとお転婆なのが素らしい。

最初のおしとやかな感じもいいけど、元気で活き活きしているほうが、似合っている。

「ん」

頭をなでられて、心地よさそうに目を細めながら、アーリュはうなずいた。

なんか、悪くない感じだな。

「さっき、俺のお嫁さんになるといっていたけど……【ファイナルクエスト】のことを知っているのか?」

「ファイナル……? お父さまが、魔王を討伐してくれた勇者をわたしのお婿さんにするっていったのは、知ってるけど」

捕まっている最中、ルフィアという魔王の娘がよくしてくれたんだと補足する。

魔王の娘と戦ったおぼえはないなぁ……。

クエストといってもピンとこないあたり、やはりそのままPOの世界というわけではないようだ。


目の前のアーリュがゲームのプログラムであるようにも思えない。

俺は、とにかく現状を把握しようと、再び自分の身体を探ってみた。

インナーの腰のポケットに、板状のものが入っていることに気がつく。


スマートフォンだった。


「なにそれ?」

アーリュが尋ねる。そんなのこっちが訊きたいが、考えるのは後回し。

右上のボタンを長押しすると、画面が表示された。



《Z・ERO》

 種族 エルフ

 職業 魔弓士(ジョブレベル50)

 Level  99

 HP   25520

 MP   8654

 STR   222

 DEF   139

 INT   455

 AGI   392

 DEX   357

 CRI   373


装備

 魔獣の戦弓

 アークギアヘルム

 アダマンローブ

 スターライトガントレット

 ビーストレザーベルト

 ラビットブーツ

 ロウランリング



それは、見覚えのある画面……POをやっている最中に何度も見た、《Z・ERO》のステータスだった。


装備の項目をタッチしてみると、俺の身体は朧気な輝きに包まれて、登録された装備が、次々に身体に装着されていく。

魔法系のジョブ必須のINTを押しあげる頭飾りに、星のように光る宝石が編みこまれたマント、羽根のように軽い金属でできた銀色の籠手などなど……俺がメインで使ってきた魔弓士マジックアーチャーの、高級装備だ。


「わ、なにそれ!?」

一瞬にしてインナー姿から完全装備状態になってしまった俺を見て、アーリュは目を丸くする。


「……勇者力によるものだ」

「へ、へー……すごいのね、勇者って」

いや、信じるなよ……。

まぁ、いいか。

今俺がやったことは、この世界では当たり前のことではない……そういうことなんだろう。


俺はさらに、スマートフォンを操作する。


見覚えのあるインベントリとワールドマップが表示された。

インベントリの中身は、装備やステータスと同じように俺のPOのデータを引き継いでいて、ワールドマップも、ゲームをやっていた時と代わり映えはしない。


ひとつなぎの超大陸、パンゲア。

トサカのあるハトサブレみたいな形をしていて、俺たちがいる魔王ユーゴの城は、そのクチバシのあたりにあった。


その他に、メールBOXやヘルプといった項目があったが、タップしても【アクセス権限がありません】という無上なエラーメッセージが表示されるだけで、選択することはできなかった。


「アクセス権限ね……」

現実なのかと思ったら、途端にゲームっぽさが増した。

謎は深まるが、頭は落ち着きを取りもどしつつある。

俺は、ワクワクしてきていた。


すると、一人でつまらなそうにしていたアーリュが口を開く。

「ねぇ、とりあえず、お城に戻らない? お父さまも心配していると思うし」


「まぁ待て」


俺はその場で立ちあがって、もう一度周囲を見渡す。

大量の瓦礫が積み重なった廃墟……その中にまぎれて、一本の黒い剣が、大地に突きささっているのが、目に入った。


「あれは……」


俺は腰を上げて、その剣へと歩みよる。

アーリュは、すぐ後ろをトコトコとついてきた。

途中、瓦礫でつまずきそうになるのを、受けとめてあげる。

「あ、ありがとう……」

「べつに、これぐらいどうってこない。それよりも……」

「この黒い剣……魔王が使ってたヤツよね」

「だな。フォールブリンガーだったか……」

鍔元に巨大なドクロの装飾を施された、両刃の剣。鍔はコウモリの翼を模していて、黒い刀身にはルーン文字が刻みつけられている。


「抜いてみるか」


その柄に、俺は手を伸ばした。

「やめましょうよ」とその腕をアーリュがつかむ。


「魔王の剣なんて、変な呪いがあるかもしれないじゃない」

「だいじょうぶだよ。魔力耐性の高い装備だし」

「そういう問題じゃなくて……ゼロはもう、あなた一人の身体じゃないんだから……」

アーリュは、唇をもにょもにょさせながら、告げた。


「わたしと結婚したら、あなたはドラグニアの国王なわけで……わたし十七だから、たぶん、すぐにお世継ぎをつくれっていわれるし……」


「お世継ぎ……?」


「こ、子どもってことよ!」


いや、それはわかるけども……。

たゆんと、豊かな胸が上下する。ウェストはきゅっとくびれていて、その身にまとった白いドレスの内側にある彼女の裸体を、俺は想像してしまった。


子ども、つくる……子作り……。


「……悪くない」


「にゃ、にゃっ――! エッチな目をしてる!」


ぽかぽかぽかっ! と、アーリュは俺の胸を叩いてくる。鎧を着ているので、まったく痛くなかった。


アーリュと結婚して、王宮で、子作りか……子作り……ふむ。


にへら、と思わず相好が崩れる。


が、いや、待て。子作り以外にアーリュはなにかをいっていた。


俺が、次期ドラグニア国王、とか……。

そりゃ、姫と結婚したら、王様になるのは自明の理だろうけど……。


王様か……やりたくないな。


せっかくゲームみたいな世界にきたっていうのに、面倒な政治にふり回されるのとか、そんな窮屈なのいやだぞ。


外交とか苦手だし、マナーとか言葉遣いを気にしなきゃならんのもなぁ……およそ、引きこもりゲーマーに求めることではない。


想像してみて、俺は胸にときめいていたワクワクがしぼんでいくのを感じた。


手は吸いよせられるように、魔王の剣の柄をにぎりしめる。

もう片方の手にあったスマートフォンにメッセージウィンドウが現れた。



魔剣フォールブリンガーを装備しますか?


▼はい   いいえ



 注意!

 装備すると、職業は【魔王】に強制的に変更になり、他のすべての装備品が外れます。



《Z・ERO》

 種族 エルフ

 Level  99

 職業 魔弓士(ジョブレベル50) → 魔王(ジョブレベル0)

 HP   25520 → 999999

 MP   7654 → 9999

 STR   222 → 999

 DEF   139 → 999

 INT   455 → 999

 AGI   392 → 999

 DEX   357 → 999

 CRI   373 → 999



装備

 魔獣の戦弓 → 魔剣フォールブリンガー




「なんだ、このチートアイテム……」


俺は目を見張った。


ジョブレベルがゼロなのに、すべての能力値がカンストしている……ここからさらに成長するということなのか……?


隣では、アーリュがかわいい顔をむくれさせて、怒っている。

彼女の忠告を聞かないでフォールブリンガーを手に取ったのが、気に食わないんだろう。


その怒りはあくまで俺を想ってのものであり、ああ、アーリュ。かわいいよアーリュ。

こんな愛らしい娘と、セレブな王宮でいちゃいちゃラブラブ過ごせたら、どんだけ勝ち組気分を味わえることだろうか?

子どもは二人。男の子と女の子がいい。

ペットは、イヌの代わりにグリフォンでも飼おうか。ドラグニア王宮の庭は大きいから、そんくらい余裕だろう。


ああ、夢に描いたような、明るい家庭……。


しかし。


俺の目はスマートフォンの、いくつも9が並ぶ画面に釘付けになる。


職業【魔王】……。


こんな文言に、俺はとてつもなく惹かれている。


待て、やめろ。

かわいい姫を嫁にもらって、明るい家庭を築き、自らの子孫を残していく……動物として男子として、それ以上に健全な将来はあるまい。


――否。


心の中で、もう一人の俺が、声高に主張する。


一度家庭を築いたならば、守らねばならない義務が生じてしまう。


結婚など、人生の墓場だ。


それにひきかえ魔王とは、「破壊者」である。


破壊者とは開拓者だ。


魔王がいれば、それを討伐しようとする勇者が現れ、ゲームがはじまる。


アーリュを嫁にして終わったと思ったPOを、もう一度はじめることができるのだ!


「そうか」


この、生々しさのあるリアルみたいな世界で、ゲームを再開することができる。


きっと悪魔が笑うみたいに、俺の唇の端はにゅっとつり上がったはずだ。


「アーリュ……先に謝っておくぞ、すまない」

「へ?」


「結婚は、やめだ」


俺は、魔剣フォールブリンガーを抜き放ち、天にかかげた。

カーソルを《はい》に合わせて選択。

身にまとっていた鎧は消えて、再び黒のインナー姿となった。

魔剣の鍔元のドクロの口から、黒い茨のようなモノが伸びて、全身に巻きついてくる。

黒い茨は紫色の輝きを放ち、漆黒の鎧となって、俺の身体を覆った。


「ちょ、ゼロぉっ!?」


目をまん丸にする彼女の腰を、俺はぎゅっと抱きしめた。


「俺は君をさらう! そして、新たなる魔王になる!」

「は、はぁっ!? な、なななななにいってるのよ! 本当に剣に取りこまれちゃったの!?」


「ふはははははははぁっ! そうかもしれんなぁ」


「バカーッ! 離してー! お家にかえるー!」


ジタバタと暴れるアーリュを肩に担ぎ、崩れ去った魔王城で唯一崩落せずに残っていた城門の前に立った。


錆が浮かび上がった巨大な鉄の門に、フォールブリンガーの刃でメッセージを刻みつける。


その文字は、見たこともない幾何学模様じみた言語だった。

これが、この世界の言語か。

身体は自然に動いて、どうして見たこともない文字を書けたのか、不思議だった。


しかし、その内容は読める。



 魔王ユーゴ、ここに眠る。

 しかしここに、新生魔王、誕生す。

 我が名は魔王ゼロ!

 アーリュ=ドラグニア姫は、いただいていく!



俺は指笛を吹いて馬を召喚した。

アーリュを担いだままその上に颯爽とまたがり、手綱を握りしめて、馬を走らせる。


「たーすーけーてー!」

「ふははははははははははははははっ」



薄明の空に、俺の笑い声がこだました。

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