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ゲーム世界に召喚された俺は、闇堕ちして魔王をはじめました  作者: ひしゃまる
第一章 魔王、新生
3/22

激闘の末……異世界へ?

終わった……。



俺はPCチェアから立ちあがり、背後のベッドに倒れこんだ。

頭がグワングワンする。視界がチカチカする。耳鳴りが聞こえる。全身が、悲鳴をあげている。


俺はいったい何時間、液晶モニターを見ながらキーボードを叩き続けていたのだろう?

窓の外をちらりと見ると、うっすらと空が白みはじめていた。


「あ……」


ダンジョンのトラップを踏破し、魔王ユーゴとの戦いに臨んだのが八時二十分だったのは、覚えている。

なにかあった時のために、動画を撮っておいたからな……。

ギシギシと痛む首を動かして、録画時間を確認する。


8時間53分07秒、08秒、09秒――。


え、バカじゃねぇの?


魔王が一回目の変身をしたのは、九時だった。

二回目に変身した時間は、もうおぼえていない。

つか、何回変身したっけ……? 六回? 七回……?

戦いのステージも魔王ユーゴが変身するごとに変わった。

魔王の間を飛びだして屋根の上にいき、空にいき、魔王城は壊れ、宇宙にいって、次元のはざまをとびまわり、再びまた、廃墟となった魔王城に戻ってきた。


そして――。


「勝った……」

俺は、勝った、ぞ……。

画面には、アーリュ=ドラゴニアの笑顔が、大写しになっていた。

陽光を梳いたかのごときブロンドの髪に、サファイアブルーの瞳。

そして、顔を埋めたくなるような、おっきなおっぱい……。

へへ、あの胸が、俺のものになったんだぜ……CGだけど……。


――ありがとうございます、勇者さま。

――あたしを助けるために、こんなにも、傷ついて……。


あ、やばい、テキストが流れている……。

アーリュの声、かわいいな……声優、誰だろう?

俺の、ダメ絶対音感が働かないなんて……。

ああ、くそ、この至福の時を、見逃してたまるものか……。

俺は、勝ったのだ。

アーリュを、嫁に、もらう――。


しかし、限界だった。

まぁ、動画に撮ってあるし、いい、か……。

もはや、指先を動かすことさえも億劫に思われる。

俺の意識は、闇の中に溶け落ちていった。



◇◆◇



「……っ! ――勇者さま、勇者さまっ!」

かん高い、少女の声が聞こえる。

鈴を転がしたみたいに、かわいらしい声だ。

意識が覚醒にむかい、俺は重いまぶたをこじ開ける。

真っ先に目に飛びこんできたのは、大きなサファイアブルーの双眸だった。

雪白の頬を薄桃色に染めて、少女が俺を見つめている。


なんて、可憐な女の子だろうか。


彼女の背後には白々とした薄明の空が広がっていて、肩からこぼれ落ちた絹糸のように繊細な長いブロンドの髪が、朝の陽光を受けてキラキラと輝いていた。


「勇者さまっ!」


少女が、うれしそうに顔をほころばせる。

俺が目覚めたからだろうか?

その笑顔に、俺の胸は締めつけられた。

なんだこの、かわいい子……。

地面に大の字になった俺の身体を、彼女は抱き起こした。

大粒の涙をためた瞳でジッと俺を見つめたのち、ぎゅっと抱きしめてくる。


「よかったぁ!」


鼻こうをくすぐる、甘い香り。

少女のあたたかな体温、豊かな双丘が胸に押しつけられて、そのやわらかな感触に、俺の脳髄は痺れた。

突如として五感に訴えかけてくる少女の存在感に、俺は目眩のようなものをおぼえる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


俺は、彼女の肩をつかんで、引き離した。

少女は、ハッとした表情になって頬を紅潮させる。


「ご、ごめんなさい……あたしったら、つい、うれしくって……」


わたわたとあわてる彼女を見ていると、だんだんと、俺の頭も回りはじめた。

この女の子、どこかで、見たことがあるような気がするぞ……?

深く考える必要はなかった。

ブロンドの髪、サファイヤブルーの瞳、思わず顔を埋めたくなる大きなおっぱい……。


「君は……君が、アーリュ=ドラゴニア?」


尋ねると、彼女は恥じらうようにうつむいた後、コクッと首を縦にふった。

「あの……よろしければ、あなたの名前を教えていただけないでしょうか?」


アーリュは、俺を意識しているみたいに、熱っぽい視線を上目づかいにむけてくる。


「俺は、間桐レ――」

ふつうに自己紹介をしようとして、俺の唇は固まった。

なにかが、変だ。

俺は、手のひらで、自分の身体をまさぐった。

その身にまとうものは、上下の黒いインナー以外、なにもなくなっている。

これは、POをはじめた時のキャラメイキングの時に着てたやつだ。

布越しに感じられる、筋肉質な肉体。

胸板は厚く、腹筋は割れていた。

耳に触れると、人間のそれとは違って、先がピンと尖っている。

これは、いわゆる、エルフ耳……?

髪の毛を一本抜く。戦士らしい無骨な手にあったのは、陽光を反射する白く艶やかな髪。


「なんだ、これ……?」


「どうしましたか?」

小首を傾げて、アーリュがのぞきこんでくる。

導きだされる結論、それはつまり――。


「俺が、《Z・ERO》になってる……」


「ゼロ? それが勇者さまの名前ですか?」

「え、あ、いや……ちょ、ちょっと待ってくれ」


これは、本当に現実なのか?

俺は周囲を見まわす。

巨大な建物が崩れたような、廃墟だった。


「ここは……どこだ?」


「なにをいってるんですか? ここは、魔王ユーゴの城……ゼロさまはたった今、魔王を討伐して、捕まっていたあたしを助けてくれたんでしょ?」


アーリュの声には、俺に確認するような響きを含んでいた。


「あたし、見てたわ。あなたが魔王と戦っているところ……。魔王が放つ魔法を、あなたはことごとくかわして、魔力をこめた矢を撃って、ちょっとずつちょっとずつ、魔王を追いつめていってた……」

それは、俺がゲームの中で魔王ユーゴを倒したのとおなじ方法だった。

《Z・ERO》の職業、魔弓士マジックアーチャーは、多彩な魔法をこめた矢を射ることができる上級職。通常の弓使いに比べて手数が少ない代わりに、一発一発の威力があり、きっちりと相手の攻撃を見極めて回避することができれば、対応できない事態が最も少ない。

【ファイナルクエスト】の攻略を目指す独身プレイヤーたちは、たいていこの魔弓士か、高い防御力と耐久力を誇る聖鎧騎士パラディンナイトを選択している。


と……話が脱線してしまったな。


「弓を引き絞るゼロさまは、言い伝えに訊く、九つの太陽を射貫いた英雄ホゥイーみたいで……はぅ」


俺が難しい顔をしていると、うっとりと俺と魔王との戦いについて語っていたアーリュはハッとなって我に返った。

「ご、ごめんなさい……魔王との戦いで、疲れてるのよね」


気遣う手は俺の背中をさすってくれる。相手をいたわる優しい指先の動きに、アーリュはいい子なんだと直感した。


これは、ゲームなのか……?

それとも、リアルなのだろうか?


いや、こんなゲームは存在しない。少なくとも、俺は知らない。

地面をなでれば砂礫のぶつぶつが指先に感じられ、白んだ空に浮かぶ太陽を直視すれば、目がチカチカして、十秒として見続けることはできなかった。

どうだ、ゲームの太陽を見続けられないなんてことがあるか? プレイヤーの目が潰れたとか、消費者センターにコールされたら大問題だもんな。たとえ人間の脳みそに直接ゲームのデータを送る技術ができたって、そんな設定にはしないと思う。


だからこれは、ゲームではない。

つまり、ゲームそっくりの異世界……?

バカバカしい。

そんな最高のものが、実際にあってたまるか!

いや、あったらいいなとは、思うけどさ……。

つか、だったら、POでなくてもいいんじゃないか? もっとこう、やることなくなるまでいろいろとためこんじゃったゲームあるよ、俺。


ようするに、これは夢だ。


そういえば、魔王を倒した直後、俺、寝ちゃったもんな。

結論が出て、スッキリした気分で、俺は改めてアーリュを見た。

心配そうに俺を見つめる彼女は、本当に美しかった。

きょとんとした表情で俺を見つめ返す少女に、自然と手が伸びる。


むにっ。


「へ?」


むにむにっ。


ああー、やわらけー……。


俺の手は、アーリュの豊かな胸をつかんでいた。

手のひらにあまる巨乳は、俺の指先を受け入れて、包みこんでくる。


ふむ、夢なのによくできた、いいおっぱいだ。


まぁ、リアルで女の子のおっぱいをさわったことなんてないんだけど。

これ夢だから、結局リアルでさわったことにはならないんだけども。


むにむにむに……。


「な、な、な……」

アーリュの顔が、みるみるうちに、赤くなっていく。

「なにすんのよっ!」

そして、鋭い鉄拳が、俺の顔面にめりこんだ。


ほげぇっ!

俺の身体は吹き飛んで、ごろごろーっと地面を転がる。


あれ、痛い……?


「バカ! 信じられない! エッチ! 変態! エロエルフッ!」

城の壁にぶつかって仰向けに伸びたところに、さらにアーリュが駆けよってきて、俺に蹴りを入れてくる。

「そりゃ、わたしはその、あなたの……かもしれないけどっ! 手順っていうもんがあるでしょ! とにかくもー、バカバカッ」

げしげしげしっ!

「痛い、痛い痛い痛いっ!」

なんでこんなに痛いの? 夢じゃないの? でも、かわいい女の子に足蹴にされるのって、一概に苦しいだけともいえない不思議な気分!

このままでは、なにかよくないものが目覚めてしまうかもしれない。

俺はアーリュの蹴りをかわしながら、身体を起こし、立ちあがった。

「わ、悪かった。落ち着いてくれ」

とりあえず、怒りを静めてもらおうと、俺は頭を下げた。なんで、自分の夢で謝らなきゃならんのだと思うが……。

「え? あ……まぁ、素直に謝るなら、許してあげなくもないけど」


マジ?


謝ってすむなら、俺は謝りながら全力で君のおっぱいをもみしだくが。


「え、エッチな目してるっ!」

「はい(堺雅人っぽく)」

「はいじゃない!」

「いや、女の子のCGモデルがあったら、やっぱり真っ先におっぱいにさわるじゃん?」


「意味分かんないしっ! いい加減にしろーっ!」


激昂したアーリュの拳が、俺の顎を強かに射貫いた。

その細腕のどこにそんな力があるというのか?

俺の身体は宙を舞い、頭から地面に落ちる。

鈍い衝撃とともに、俺の意識は闇に落ちていった。

痛くなきゃ、最高の夢なのにな……もったいない。

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