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マルチタスク男

「レイ、私のつくった夕飯、そんなにまずい?」

「え? うまいよ。どうし――って!」

そんなこと聞くの、と続く前に、俺の頭はひっぱたかれた。


ここは、我が家のダイニング。

俺は、姉さんと仲良く夕飯を食べていたのだが……。


姉さんは、深々とため息をついた。


「だったら、

スマホのゲームか、

3DSのゲームか、

VITAのゲームか、

本を読むのか、

録画したアニメを見るのか、

私がつくったご飯を食べるのか、

せめてこう……どれか二つにしなさい」


姉さんのおっしゃる通り、俺は、食事を食べる傍ら、三本のゲームをやりながら本を読み、居間のテレビでアニメを見ていた。


「いや、無理。スタミナあふれちゃうし」


真面目で暇な学生は、ポチポチゲーで張りつくのが仕事だ。フレンドからの救援要請を無視するわけにはいかない。

ゲームは遊びじゃねぇ、スタミナを三消費して、八倍で殴るのだ。

スマホの画面では、ワールドボスがズズズと音をたてながら沈んでいく。

その隙に俺は、右手で箸を取って揚げたてのトンカツと白いご飯を口の中に放りこみ、味噌汁で流し込む。

目はかたわらにブックスタンドで開いたローズ=トレイメン著『道化と王』を読み、空いている左手は3DSのスライドパットを動かしてナルガニャンの攻撃をきわどくかわす。

おっと、スパロボは敵のターン終わったか。進軍進軍。

うお、今日も戦闘シーンの作画は気合いが入ってる。


む。


「前言撤回。ちょっとこの味噌汁からいよ」

「死ね!」

もう一発ひっぱたかれた。

おあっ、攻撃のチャンスを逃した!

ひるみ値の計算、ぴったり合ってたのに!


「大体それ、本当にアニメと本の内容は、頭に入ってるの?」

「それを証明するためには姉さんにもこの本とアニメを見てもらわなきゃいけないが」

「遠慮しておくわ」

即答だった。

残念だ、どっちも面白いのに。


「そんな追われるようにやるゲームや読書が楽しい?」

「楽しい」

「……そういうのって、誰かと共有するのが楽しいんじゃないの? 学校でさ、クラスの友達に『面白いのがあったよー』とか」

「学校にはいかない。親父たちも、そのことは納得したはずだ」

 俺は、姉さんのいわんとしているところを先回りしてふさいだ。

「納得なんかしてないわよ。あんたが無茶苦茶やって、父さんたちを黙らせただけ」

「無茶苦茶とは失敬な。要望どおりに全国模試で一位を取って見せただけだぞ」

「その才能を、なにか一つのことに注げないものかしらね……父さんも母さんも、あんたには期待してたのに」

「家は兄貴が継ぐだろ」


間桐家は代々医師の家庭だ。

間桐総合病院といえばこの街で一番大きな病院で、俺の父さんはそこの院長を務めている。母さんは産婦人科の先生だ。


二人とも医者になるために産まれてきたような人間で、仕事に生きがいを見出して、当然のように、息子たちも医者になるべきであると考えている。


「医者よりも価値のある仕事などない」


そんなニュアンスの台詞を父さんが口にしたのは、一度や二度ではない。

いや、認めますよ。

医者は本当に、なくてはならない大事な仕事だ。

どんなパーティーにだって、たいてい一人はヒーラーがいるように、ね。

けど。


「俺は好きなようにやる」


メシは食べ終わった。

同時に新たなワールド・モンスターの討伐に成功し、ナルガニャンは痺れ罠にかかって捕獲され、熱血と必中と幸運と努力をかけたストナーサンシャインがボスユニットのHPバーをゼロにした。

本は読み終わり、テレビで見ていたアニメはスポンサーの紹介をする。


俺は、時刻を確認した。

十九時四十分――予定どおりだ。


「それに、今これから、全身全霊を傾けてやらなきゃいけないことがはじまるんだ」

ダイニングテーブルを立つ俺を、姉さんはきょとんと見つめる。

「なにそれ?」



「……婚活」

状況描写が浮かびにくいというご指摘をいただきましたので、加筆しました。(2016/08/12)

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