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癒し猫が逝く異世界観光  作者: 猫の為の猫による肉球会議
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1.さよなら世界、初めまして世界

よろしくお願いします。

少し付け足したり言い回しを変えたりしました。

吐く息すら凍りつくと錯覚させる程の氷で覆われた世界。地面や天井からは氷柱が聳え、奥が見えない程に広かった。見るもの全てを魅了する空間は永久氷獄迷宮の名に相応しい。

そこに君臨する全長三メートル程もある氷の女神ハーティスは、恥知らずにもたった四人で挑んできた冒険者達と戦っていた。



「本当に、神の名を冠するボスは手強いですよね」



パーティ内でタンクでありリーダーでもある“犬飼イヌカイ”が、ハーティスの攻撃を大盾で受け止めながら呟いた。その攻撃はただ手を振り下ろしただけというのに凶悪で、犬飼の足が地面にめり込む程の重さと、そのついでとばかりに接している大盾を凍らしているにも関わらずにその顔には笑みが浮かんでいる。

いつもほのほのと笑っている犬飼は真っ白の重鎧を身に纏い、まさに物語に出てくる王子様のような容姿と相まって、白騎士という二つ名を付けられる程女性に人気だった。



「だからやり甲斐があるんだろうっ」



返事が返ってくるとは思わなかったのか、驚いた顔をした犬飼がアタッカーでもありそれ以上に戦闘狂でもある“八咫烏ヤタガラス”に目を向ける。それもすぐに隙を逃さすに繰り出されたハーティスの攻撃に前を向かざるおえなかったが。

八咫烏は隙を一切見逃さずに、ハーティスの死角から双刀を振り回してダメージを与える。戦闘職の中でも防御力は劣っているが素早さと攻撃力に優れている武士というジョブのお陰で、ハーティスは八咫烏を捉えきれていない。


侍のような格好をしているがちょんまげは流石にしておらず、犬飼が正統派王子様風だとすれば八咫烏はガキ大将がそのまま成長すればこうなるといった感じの肉食系イケメンだ。

その為女性にも当然のようにモテているが、どちらかといえば男性に「兄貴」と慕われることの方が多い。しかし兄貴が二つ名になることはなく、強者を見つけると戦いを挑むことから戦闘馬鹿という二つ名?が付いていた。



「ふふ、皆やんちゃね」



流れ弾で飛んできた魔法を、サポート兼アタッカーである“妖狐ヨウコ”がするりと避ける。戦闘には全く不釣り合いな真っ赤なドレスの裾がふわりと舞った。

その防具に負けず劣らずむしゃぶりつきたくなるような男好きする体付きや同性だとしても見惚れる程に色気ある美貌そして吐息混じりの囁きは、存在そのものが人々を惑わせる。

それはNPCでもモンスターでも同じで、耐性がなければ魅了状態になって妖狐の為に仲間へと攻撃を仕掛けてしまう。種明かしをするならば防具一式に魅了状態になるエンチャントが付与されているだけなのだが、それだけとは考えられない確率で魅了状態になる。

手に持っている鞭には、妖狐本人が綺麗なバラの花ならば茎に生えている棘とでも言うように鋭い突起が無数に付いていた。異常なまでにその鞭が似合っているせいで、薔薇の女王とMの素質がある人達によく跪かれていた。本人はSではない為に困惑して何も反応せずにスルーするのが痺れるとか惚れるとか……とにかく気持ち悪いとは犬飼達、皆の意見だ。



「ハーティスって氷の体持っとるのに、なんで壊れへんねやろう?これもご都合主義ちゅう訳なんやろな」



一人離れた場所に立っている聖女という回復に特化しているジョブを持つヒーラーの“猫子猫ネコネ”が場違いな疑問を口に出す。聖女は攻撃手段が全くと言える程にないので、こうして避難しながら仲間を回復させている。それもこれも回復という、攻撃とは真逆のことに特化しているせいだ。

修道女が着ているような白のロングワンピースに白と黒のベールを身に纏っている猫子猫は何処か俗とは切り離された神聖さがあり、口を開かなければ神秘的な容姿と合わさってこの世の者とは思えない。

その為に猫子猫を絶対とするネコネ教というファンクラブがあり、アイテムを献上したり、犬飼達が都合の悪い時はレベル上げに一緒に行ってくれたりと猫子猫の手助けを主にしている。

なおその見た目とヒーラーということで白衣の天使という二つ名がつき、ゲーム内でもそう呼ばれるとはと猫子猫が神妙な顔をしてたのは余談だろう。


変な所に意識が向いていようとも、猫子猫は的確に回復魔法を犬飼達へと飛ばす。それは事前に攻撃を受けることが分かっているかのように、数秒前から詠唱が始まっていた。

猫子猫の視線は絶えず仲間のHPとハーティスを行き来し、または自身との距離を測って攻撃が届かない所へと移動する。防御力がない為か、俊敏力は高く回復魔法を詠唱しながらでも十分に逃げられた。



犬飼、八咫烏、妖狐、猫子猫とそれぞれに動物の漢字が使われているのでチーム名がアニマルズというほのぼのとした名前に似合わずに、有名なトッププレイヤー四人で構成されており戦闘能力は最強と言っても過言ではない。とはいえそれくらい強くないと、レイドボスである神にパーティ単体で挑める訳がないのだが。





「三割切りましたね」



戦いに似合わない穏やかな声で言う犬飼をきっかけに、八咫烏や妖狐は少し離れる。瞬間ハーティスの周囲に冷気が漂い、氷柱がハーティスの動作で飛んできた。

ボスは例外なくHPが三割以下になると、狂乱状態になって暴走する。攻撃が何段階か強くなり、ついでとばかりに身を守る何かが出現する。

事前に打ち合わせていた通りに、聖女の固有スキル【祝福】を発動する。【祝福】は一定時間の間、MP無限、クールタイムと発動時間が半減になる。ただし【祝福】の効果が切れると、丸一日は発動できなくなるので使い所が大切だ。



「【祝福】発動したから、バンバン攻撃当たってもええで」



喋る余裕がないのか返事はなかったが、今まで以上に積極的に攻撃していく犬飼達に回復魔法を飛ばしていく。ある時は指定した一人を中回復する【ケア】を、またある時はパーティ全体のHPを中回復する【ケアリング】を発動していく。


犬飼は聖騎士というジョブのお陰でハーティスの攻撃を耐えれるが、八咫烏や妖狐は違った。狂乱状態になるまでは十回以上は耐えれた所を、今は数発食らうだけで瀕死状態になる。

本当にHPには全く意識を向けていないのか自身のHPが一割を切っていてもハーティスへと突っ込んでいく八咫烏に、信頼されていることに喜べばいいのか、下手をすれば全滅することを怒ればいいのか、猫子猫は解らなくなる。とりあえず信頼されていると喜ぶことにした。

ラストスパートとばかりに、各自の固有スキルを発動して激闘を繰り広げている仲間を何処かハラハラした目で猫子猫は見守っていた。



「気を抜かないでください」

「当たり前だ。ここでヘマしたら、死んでも死にきれねぇ」

「ふふ、ヤタちゃん。死んだくらいで負ける気なのかしら?」

「例え死んでもうちが生き返らせたる。だから負けへんよ。どーんと泥船に乗った気持ちで安心しとき!」

「泥船って安心できねぇよ!そこは大船だろ!?」

「なんや、タイタニックがええんか?ホンマに文句の多いわ」

「違う!」



少し余裕が出てきたのか、いつも通りのやり取りが始まる。折角のシリアスの空気が台無しだ。

真面目な雰囲気をぶっ壊すのはいつも猫子猫で、そこにいつも八咫烏がツッコミを入れる。そしてそれをまたからかってという、猫子猫が八咫烏“で”遊ぶのが定番の流れだ。犬飼と妖狐は微笑ましそうにそれを見守っていた。

そんな気の抜けるやり取りをしながらも、パーティ全体を全回復する【ヒーリング】や、ついでとばかりに自動回復する【リジェクト】を重ねがけする。ふふっと楽しそうに笑っている妖狐も様々なバブをパーティ全員にかける。



「離れてください!」



犬飼が防御態勢を取りながらも、そう叫ぶ。数年も一緒にパーティを組んで染み付いた条件反射で、猫子猫達はハーティスから一目散に逃げる。

瞬間にハーティスが耳障りな悲鳴をあげたかと思うと、犬飼達をすっぽり覆える程の氷の柱が出現する。

元々離れていた猫子猫はギリギリ範囲外にいたが、それ以外は飲み込まれ氷の柱が粉々になったと同時に死亡が確認された。犬飼は持ち堪えたが、すぐに死んでしまうのは火を見るより明らかだった。

氷の柱と共に粉々になったからか、死体は見当たらずにただ魂の状態だけで八咫烏や妖狐はそこに立っていた。半透明な状態でも意識だけはそこにあるので、死んでもハーティスから二人共目を逸らさない。


(【リジェクト】かけてへんかったら、わんこ(犬飼)でも危なかった訳やな。悪いけど纏めて蘇生させた方が楽やから、一旦わんこには死んでもらおか)


瀕死の犬飼が必死でハーティスが猫子猫へと向かわないようにタゲを集めている間に、パーティ全員をHP半分で蘇生する【ピオス】と【ヒーリング】の準備をする。丁度犬飼が死亡した後に【ピオス】が発動し、蘇生した瞬間に【ヒーリング】が発動する。

魔法が発動した途端に魂が光に包まれて球体になり、その真ん中付近に魔法陣が浮かび上がる。そして光が小さくなったかと思うと、復活している犬飼達がそこに立っていた。



「やっぱタゲられたわ!」



蘇生させた為に厄介と判断されたのか、猫子猫へとハーティスの視線が向く。そしてこちらへと地面から三センチ程浮かんで滑りながら迫ってくるハーティスを避けるように犬飼に向かって走り出した。

犬飼は猫子猫とハーティスの間に押し入り、猫子猫の元へと行けないようにハーティスを食い止める。それでもズルズルと犬飼の体もろとも押しながらも、ハーティスは猫子猫ただ一点を目指す。

そうしながらもここぞとばかりに攻撃を入れる八咫烏と妖狐が鬱陶しくなったのか、タゲが八咫烏へと移る。



「はぁー、生きた心地が全くせえへんかったわ」



まるでひと仕事終えたかのようにかいてない汗を拭いながら、猫子猫はホッと息をつく。もしも猫子猫が死んだら誰も蘇生できる者がおらず、高額のアイテムを使うことになっていた。

それもこれも蘇生ができる者も色々と条件があり、習得している者はプレイヤーでも両手で数える程しかいない。なので蘇生できるアイテムは需要と供給が釣り合わずに、生産職が作っても作っても中々値段は下がらないのだ。




キャアアアアアアアアア!



それからは特にピンチになることもなく、ハーティスのHPが0になった。内側から光り輝くように粉々になり、空から猫子猫達へと降り注ぐ。

猫子猫達が両手を差し出すと、そこに光が集まってそれぞれにあった装備がその手に現れる。ハーティスのように神の名を冠するボスは後三人いて、体・頭・靴そして最後に武器が倒した褒美として授けられる。彼女らが持っていないのはハーティスが授ける武器のみ。


本来は戦闘への貢献度で武器のレア度が変わるのだが、四人しかいない為にそれぞれ一点物の武器が授けられた。

猫子猫には鈍器にもなりそうな分厚い本と繊細すぎて折れそうな杖。犬飼には精密な細工がされている片手剣と重盾。八咫烏には吸い込まれる程美しい刀が二本。妖狐には氷のような物でできている扇と鞭。

それぞれ長年扱ってきた相棒のように手に馴染み、その武器の詳細が書かれているウィンドウを見ればチートと言わざる負えない程の高性能な物だった。



「こいつはスゲェな……」

「流石に神と名のつく武器という事ですか」

「美しいわね」



【祝福】の効果が切れて、MPが空になった時特有の不快感が猫子猫を襲い、アイテムボックスからMPポーションを取り出してグビグビと飲みながら同意するかのように頷く。青色のMPポーションは何故か林檎ジュースの味がする。

猫子猫以外の犬飼達はHPは猫子猫のお陰で満タン、MPは不快感が出る程消費していなく時間経過で回復するので放置していた。

三割程回復した所で、MPポーションを飲むのをやめた。



「さて帰りましょうか」



犬飼はそう言いながらハーティスを倒した後に現れた転移魔法陣へと目を向ける。「家につくまでが遠足です」とでも言うように、猫子猫達は一緒に迷宮などへと挑む時には必ず拠点まで一緒に帰っていた。

転移魔法陣を使わなくても迷宮から出れるが、その時は今まで来た百階程を下に降りなければならない。猫子猫は兎も角としてずっと動きっぱなしだった犬飼達にそんな体力はないだろう。

各自リラックスしたり、武器以外にアイテムボックスへと入っているドロップ品を確認したりしていた猫子猫達は犬飼の言葉に頷いた。



「それにしてもやっと四人の神の名を冠するボスに勝ったな」

「今度は何を目標にしようかしら」

「皆となら絶対何でもおもろいで」

「そうですね……このゲームの絶景巡りでもしますか?」



このVRMMORPGである《ラインオンライン》は開発者にはリアル至上主義の考え方をする類友が集まり開発チームが結成されている。類は友を呼ぶを体現をしていると言ってもいい。


《ラインオンライン》は体の大きさを変える事や容姿を変える事ができない。それはVRなら全てそうで、体の大きさを変えれば急に赤ん坊になったかのように動けなくなり、容姿を変えれば普段と表情筋の動かし方が違うので引きつった表情になるからだ。

それ以外にも痛み以外の感覚の再現、迷宮以外でのモンスターは一体一体解体用ナイフを突き刺さないと素材が手に入らないが、体の欠陥さえも再現されているので、《ラインオンライン》の人同士の戦争などはトラウマになる者が多い為に初心者には絶対にさせないなどなど。あげればキリがない。

これでも表現をマイルドにしたというのが、開発チームの主張だったりする。確かに血などがペンキのようになっていたり、欠損部位がそのペンキで覆われていて隠されているので、本当に身を切るような思いでマイルドにしたのだろう。



「絶景巡り……いいわね」

「そうか?俺は強敵と戦いたいんだが」

「絶景やねんから、珍しいモンスター出てくるかもしれへんで。まぁ強敵かは知らへんけどね」



猫子猫の言葉に少しの間考えたが、珍しいモンスターというのに惹かれたのか八咫烏は絶景巡りに賛同する。全員が賛同した事で絶景巡りをすることが決定した。

そんな雑談をしながら彼女らは転移魔法陣に乗る。それが《ラインオンライン》、いや地球から外れる事を彼らは全く気づくことはなかった。

作者は標準語と関西弁が入り混じる家庭(ただ単に片親が関西出身じゃないだけ)に育ったので、関西弁が怪しい所が多々あります。

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