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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わくわくフィルム

作者: 佐原 結希

「結城、今日お前ん家泊まっていい?」

「また? 俺ん家からで、明日一限起きられんのかよ。」

「なんかダルいし、明日はお休みって事でいーよ。」

 一つため息をついて、声の主の方を見る。

 絵に描いたようなダメ大学生台詞を吐いたコイツは、大友良平。

 なんとなく入ったサークルでなんとなく知り合ったはずだったのだが、気付いたら大学で一番の親友となっていた。

 別に辛く苦しい時を共に乗り越えたとかではなく、ただお互い趣味がB級映画鑑賞で、二人で映画をダラダラ見続けて感想を語り合っていたら、いつの間にか仲良くなっていたという感じだ。



 「で、今日は何を観るためにうちに来るのさ?」

 「『鳥取以外全部沈没』っていうの見つけちゃってさ~。こりゃ観るしかないっしょって思って。」

 最近では、大友がうちに泊まりに来て、適当に料理でも作った後食べつつ借りてきた映画を見る、というのが定番になっている。

 「そりゃ、観るしかないわ!」

 「だろ!? やっぱ結城とは気が合うな~。」



 俺の笑いながらの承諾に、大友もたちまち笑顔になった。

 この屈託の無い笑顔を見ると、なんだか幸せな気持ちになれる。

 そう、大友と一緒にいるとなんだか心地良くて、幸せな気持ちになる事が多い。

 お互い卒業までに彼女出来なかったら一緒に暮らすか、なーんて冗談を言い合った事もあったけど、変に無理して彼女作るくらいなら大友と一緒の方が幸せかもなー……とか思ったりもする。

 まあ、大友の方が明るいしイケメンだしでちゃっかり彼女作っちゃうんだろうけど。

 っていうか、俺に隠して彼女と付き合ってるって可能性も……。

 


「結城ー、夕飯は今日も野菜炒めでいい?」

「へ? ああ、いいんじゃない?」

「結城はいつも飯の事になると途端に興味無くすよなー。」

「いやー、胃に入っちゃえばなんでも同じかなって…。」

「そんなんじゃ将来早死にするぞー?」

 今はこの他愛の無い会話で幸せを感じられれば、それでいいか。






 * * * 






 大きさも形も不均一な野菜炒めをひょいひょい口に運びながら画面を見る大友の隣で、俺は震えていた。

 いやー、『鳥取以外全部沈没』のタイトルでホラーは読めねえよ!

 完全にコメディを期待してたのに、よりにもよって一番苦手なホラーとは。

 一人で観ていたら即座に再生を止めている所だが、今日は大友と二人だ。

 しかも大友が結構しっかり観ているみたいだし、「観るの止めない?」とは言いづらい雰囲気。

 カップルだったらここで女が男に抱き付いて安心を求めようとするんだろうけれど、残念ながら俺は男だ。

 大友も、急に男に抱き付かれても反応に困るだろう。

 うーむ……。今は怖がってるのを気取られぬようにしてるしか無いか。






 * * * 






 いや……もう無理……。めっちゃホラーじゃん……。

 もう怖すぎて、目に涙を浮かべるくらい追い込まれている自分に気付いた。

 大友には悪いが、この映画の続きは一人で観てもらおう。

「あ、あのさ、この映画……観るの止めない?」

 こちらを振り返った大友は、笑みを浮かべながら意外な言葉を発した。

「イヤだと言ったら?」

 


 信頼していた相手からの思いがけない言葉に動揺して、堰き止めていた涙が溢れ出してくる。

 それを見た大友が、慌てて映画の再生を止め、謝罪の言葉を続ける。

「ごめん! ホントにそんな怖がるとは思わなくて!」

「『ホントに』……?」

「いや、前々から結城は怖いの苦手だろうな~って思ってて、だからコメディーっぽいタイトルの映画借りてきて、からかってやろうと思ってたんだけど……。」

「うっさい!! その通りだわ!! 怖いの超苦手なんだよ!!!」

 悪意ではなく冗談と分かって一安心したけれど、それでも怒りが収まらないせいでつい声を荒げてしまう。

「本当にごめん……。」

「……今度からは、こういうのやめろよ?」



 沈黙した気まずい雰囲気が流れる中、俺にあるアイディアが湧いてきた。

「……大友、今度はそっちが嫌がるかもしれない事で仕返ししてもいいか?」

「え? ……まあ、今回は俺がやり過ぎたしな。いいぞ、かかってこい。」

 大友が返事を言い終わるや否や、俺は座っている大友に思いっきり抱き付いた。

「怖かったんだぞ! めっちゃ我慢してたんだぞ!! ずっとずっと、泣きそうだったんだぞ!!!」

 男に抱き付きつつ、ワンワンわめく男。

 端から見れば、それは不自然な光景で、気持ち悪い光景だろう。

 だけれど、感情をぶつけたかったのは確かで、その手段を選んではいられなかった。



 ありったけをぶつけてちょっと冷静になった所で、大友の表情が気になった。

 いくら自業自得と言えども、ちょっとやりすぎたかもしれない。

 大友のお腹にうずめていた顔を恐る恐る上げると、そこにはいつもの屈託の無い笑顔があった。

「最初から、そういう反応してくれれば良かったのに。」

 笑顔の大友にそう言われた俺は、安心やら嬉しさやら恥ずかしさやら色んな感情がないまぜになって、照れ隠しの一言を紡ぎ出すのが精一杯だった。

「……うっさいわ!!!」


―おしまい―



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