女神
気がつくと何もない空間にいた。いや、何もないと言ったら語弊があるか。なぜなら目の前に絶世の美女と言っても過言ではないほど美しい人がいるからだ。
「突然のことで申し訳ありません。私は神です。あなた方が勇者召喚の対象になったので私が割り込ませていただきました。」
自称女神がそう言うとザワザワと騒ぎ出した。俺が周りを見ると、ある者は勇者になれると喜び、また、ある者は嘆き悲しんでいる。
「静かにしてくださいね。」
そう女神が言うと静かにしないといけないという雰囲気になった。女神に魅了された男たちが、お前ら黙れよ?と視線で訴えている。面倒くさい奴らだ。
「あら、簡単に静かになりましたね。嬉しい限りです。そうですね、何から話しましょうか?」
「質問があります。」
おっと、ここで質問するのはクラス委員長の国塚 直人だ。
「はい、どうぞ?」
「僕たちは向こうで勇者として魔王を倒せばいいんでしょうか?」
「魔王?いえいえ、魔王は倒しませんよ?倒すのは魔族です。」
おっと衝撃展開だな。俺もてっきり魔王的な奴がいるのかと。
「え?魔王っていないんですか?」
「魔王はいますけど。」
「いるのに倒さないんですか?」
「あなた、何か勘違いしてませんか?」
「勘違い?」
「魔王とは魔法の王。つまり、魔法の扱いが上手い人のジョブです。」
「ジョブ?」
「はい。ジョブとは天職、いわゆる才能だと思ってください。ジョブは皆生まれた時に持っています。鍛治師や錬成師、魔法使いとかですね。ちなみに魔王は魔法使いの上位互換だと思ってください。」
「なるほど。すいません。魔王って魔族の王かと。」
俺もそう思ってたぜ。てか、大半の奴は勘違いするよな。
「ああ、なるほど。そういう事ですか。」
「それではもう一つ、魔族を倒したら僕たちは元の世界に帰れるのですか?」
「帰れません。」
帰れないと聞き、泣く奴まで出始めた。
「ど、どうすれば。」
「私が呼んだわけではないのでなんとも出来ません。ですが、力をあげましょう。」
「力?」
今まで黙ってた千羽が質問した。
「そうです。スキル『才能開花』。効果はステータスに大補正。あと、スキル『鑑定』が使用可能になる。最後にジョブに応じてスキルが解放されます。」
女神がそう言うと、周りの奴らが騒ぎ出した。まぁ、千羽とか鈴木を含めた何人かは冷静のままだが。
「これ俺最強じゃね?」
「何言ってんだよ。俺が最強に決まってんだろ?」
「っていうか魔族とか超余裕、みたいな。」
「それあるわ。」
女神は慌てず言った。
「それでは闘いましょう。」
他の奴に任せると脱線しそうだから、誰かが何かを言い出す前に俺が質問することにした。
「なぜ闘うのか聞きたいんだが?」
「簡単に言いますと、自分の実力を理解してもらうためです。」
「もう少し具体的に頼む。」
女神は少し考えてから言った。
「私が与えた力は強いです。ですが、それだけで魔族を倒せるかと言うと否です。自分の技術を磨き、経験を積み、レベルを上げてようやく魔族を倒すことができます。・・・実を言うと勇者召喚は初めてではありません。過去に何度かありました。その際、自分の力に絶対の自信を持ち、ろくに鍛練せず、簡単に死んでしまう人が沢山いました。なのでこの場で一度負けてもらいたいわけです。」
「おいおい、それじゃあまるで俺らが勝てないって言ってるように聞こえるんだが?」
加藤がイラつき余計なことを言い出した。お前弱いじゃん、実際。何を言い出してんだか。
「そうですね、この中に勝てる可能性のある人は1人だけかと。まぁ、その人にも苦戦はするかもしれませんが、負けはしないでしょう。」
やめて欲しい。さりげに目配らせしないで欲しい。鈴木が目配らせに気づいてこっち見てんじゃん。どうしてくれんだよ。
「それじゃあ、始めましょうか。」
「ちょっと待って欲しいんだが。」
「なんでしょう?」
「そこまで自信があるなら報酬が欲しいな。勝った時の報酬がよ。」
何言ってんだ。っていうか、またお前か、加藤。女神は一応、俺らのことを思って言ってるみたいだし報酬要らないだろ。
「そうですね、では私の全てで。」
「「「「全て!!!!」」」」
これは流石にビビった。これはクラス全員が声を張り上げた。まさか自分の全てを賭けるなんておかしいだろう、と。だが、女神は平然と答えた。
「私が負けなければ良いだけですし、それに神の習性として自らより強い相手を大事にするんです。神同士ではあまりそうならないのですがね。昔の話ですけど、男神がとても強い獣人の女性と結ばれたこともあるらしいですし。この習性が起こってるのを見たこと無いんですけどね。」
女神が言うと9割近くの男子が雄叫びをあげた。俺、絶対に勝って神と結婚する。だとか、女神を含めたハーレム、アリだな。とか、いろいろ聞こえてくる。こいつら怖いな。っていうか、異世界に獣人とかいるんだな。
「それでは本当に始めましょう。」
そう言って1人指名して奥に行った。もうすでに見えない。他人の試合は見れないようだ。
一人、また一人と女神に挑むがダメだったのか顔が浮かない。千羽は何か女神と仲良く話しながら帰って来た。クラスメイトの誰かが結果を聞いたところやはり負けていた。俺の知る限り、このクラスの最強は鈴木だが、やはり悔しそうにしている。
「次で最後ですね。あなたです。」
どうやら俺の番のようだ。
俺は女神について行った。
目的の場所に着いたのか女神が止まったかと思うと、女神に瓜二つの人が急に現れた。
「これは私の分身です。これに勝てばあなたの勝ちです。ちなみに分身とはいえ、実力は私と同等ですからね。」
「そうですか。」
「・・・あなたには本気で行かせてもらいます。」
「嬉しいね。特別扱いされるのも。」
今俺は嬉しい。神のような存在と闘えることが嬉しい。地球から来たばかりだから武器もない。
というより服を着た状態で転移させられたのだが、バックとかは転移されなかったのだ。
だが、関係ない。武器がない?なら素手で闘え。
俺は手をブラリと下げた。自然体だ。余計な力は抜きリラックスした状態を心掛ける。剣、刀、素手、何を使うにも本気を出すとき、俺は自然体に構える。
「流石ですね。隙があるようで無い構え。感服します。」
「あなたは武器を使わないんですか?」
「あなた方がこれから召喚される場所は魔法が中心です。そこの神である私も必然的に魔法中心の戦い方になるんですよ。」
魔法が中心か。未知の技ほど厄介なものはないな。
頭ではそう思っているが、心では興奮している。未知の力に挑むことの楽しみ。与えられた力を試す楽しみ。神に挑む楽しみ。楽しみが多い。これで興奮するなというのか?無理だ。
「ああ、最高だ。俺は今日のために今まで努力してきたのかもしれない。そう思えるほど、興奮している。」
「そう言っていただけると嬉しいです。では始めましょう。」
女神がそう言うと、分身が手を掲げた。その手から白い靄が出ているのに気づいた。嫌な予感がしたから避けると白い靄の場所にカマイタチのようなものが通った。
「初見で魔法を避けるとは。では、これでどうですか?」
また、白い靄が出てきた。今度は俺の足元のようだ。サイドステップをしてその領域から逃れた。すると今度は白い靄の部分が凍った。
このままでは防戦一方になると考え、次に白い靄が出たら仕掛けようと考えた。
そして白い靄が今までより速く広がった。俺は素早く範囲外に出て相手に近づき肘鉄を加える。
「かはっ。ハァハァ、やりますね。」
「分身が話すと本物の区別が難しいな。」
「ハァハァ、そんなに誉めないでください。」
「そうです。照れちゃうじゃないですか。」
本当に見分けがつかないのだ。まぁ、どうでもいいのだが。分身も今の肘鉄は効いたのか、息が荒い。
そんなことを考えていると今度はさっきまでより白い靄の範囲が広い。
「本気を出すみたいだから気をつけてくださいね。下手したら死んじゃうかもしれないけどね。」
どうやらこれが本気のようだ。これだけ広いと範囲外に逃げる前に魔法を放たれるだろう。残された選択肢は一つしか無かった。
俺は全力で分身の前に走った。ただの走りではない。それは一歩目から全力を出せる走り。裏闘技場に出る奴なら必須の技術であり、当然俺も使える。
これを使って間合いを一瞬で詰め、俺の鉄さえ薄ければ斬り裂く手刀を首に放った。流石に吹っ飛ばなかったが首の骨が折れた感覚はあった。
分身は、まるで幻だったと言うかのように消えていった。
「これで俺の勝ちかな?」
ぎりぎりの勝負だった。魔法の発動がもう少し速かったり、距離がもっと開いていたりしたら、負けたのは俺だっただろう。だが、今回は俺が勝った。それが素直に嬉しい。
そう思って女神に声をかけたのだが女神は俯いている。どうしたのか心配になり声をかけようとしたらいきなり跪いた。
「これが、神の習性というものなのですね。こんな気持ちは初めてです。」
「えっと、どうした?女神。」
「女神なんて他人行儀な呼び方やめて下さい。私の名前はファムです。是非ともファムと呼んでください。」
「えっと、分かったよファム。これでいいか?」
俺がファムと呼ぶと顔が赤くなり、ボーっとしだした。本気で心配になってしまった。
「大丈夫か、ファム?」
「は、はい!大丈夫です!」
女神こと、ファムはハッとして返事をした。そして続けてこう言った。
「是非、私の夫になって欲しいのですが。」
「・・・・・・・はい?」
今なんと言った?夫?俺が?ファムの?もしかして告白されたのか?そういえば、さっき顔を赤くしてたな。確かに恋する乙女に見えないこともない。・・・じゃなくて、そう告白されたのだ。どうするべきか。
「別にあなたを縛るつもりはありません。ただ情けを頂いて、捨てないでくれて、仲良くしてくれればそれで良いです。ハーレムを作っても構いません。だからお願いします!」
「・・・・・お前は本当に俺に惚れているのか?」
「はい!」
「お前の期待を裏切ってしまうかもしれないぞ?」
「私はあなたを束縛しません。さっき言ったことは守ってくださるなら。」
「・・・・・・・・・本当にいいのか?」
「はい。」
ここまで言われて悪い気にはならなかった。それどころか、これほどの美人に、これほど思って貰っているのだ。断る理由がない。
俺はそっとファムを抱き寄せると、無理やりキスをした。
ファムは目を見開いたがすぐに目を閉じ涙を流した。1度口を離すともう1度、今度は無理やりではなく、お互いが求め合うようにキスをした、舌も使って。
それが5分ほど続いた。