歴史は繰り返す
ストック切れ状態なので次回の更新は遅くなるかもしれません。
少し改善してみました
1911年7月6日
藤伊は山本にも不正入札の間で協力してもらうため学校視察という名目で会いにまた横須賀に来ていた。
海軍砲術学校内でゆっくりとはなす場所がなかったためグランドの端の日陰に二人で座って話していた。
「なあ、山本。イギリスで建造中の日本海軍の最新艦の話は知っているか?」
「ああ、知っている。それがどうした?」
周りに誰もいないかを確認してから藤伊は話し始めた。
「現在イギリスで建造中の日本海軍最新巡洋戦艦の不正入札の情報を俺が知ってしまったことだ。」
「なんだ。そんなことか。期待して損した。賄賂なら高官達はいつもやっているのではないのか?そんなにも驚くことでもなかろう。」
山本は期待はずれだったと言う顔をしていた。藤伊はため息をして
「注目するところが違うぞ。艦政関係とは無縁の海軍人事局長秘書兼海軍大尉の・オ・レ・が・知っていることが問題だろう!おれが俺が知っているということは陸軍高官の何人かも知っているはずだ。そして、この情報は海軍を批判するのにもってこいの材料だ。」
【陸軍の付け入る隙を与えるのは絶対にダメだ。海軍は薩摩閥、陸軍は長州閥互いに対立している。陸軍は海軍の発言力を削ろうとしているからこの情報は危険すぎる。
なんとか海軍内部で穏便に済ませるように努力するしかない。俺一人だけの力ではできないから信頼できる人達と協力してやるしかないのだよ。早く俺のいとに気づけよ、山本。】
腕を組み、横目で藤伊を見ながら
「知り合いの者に色々聞いてこちらもなるべく多くの情報を集めてみる。藤伊もはっきりとした証拠をつかんではいないのだろう?できるだけ協力するよ。」
「Thank you 山本。」
山本は立ち上がって呆れたように
「まったく、いつの時代になっても組織の足を引っ張るバカ野郎はいるのだな。現在イギリスで建造中の日本海軍最新巡洋戦艦の不正入札のことが公にされるのは何としてでも避けないと海軍の発言力が小さくなり、陸軍勢力の削減の改革ができなくなってしまう。
陸軍の勢力を今のうちから削っておかないと陸軍の発言力がさらに大きくなってしまい改革ができなくなる危険性があるな。藤伊は陸軍についてどう思う?」
「俺も陸軍には今のうちから手を打っておく必要があると思う。議会でも最近横暴な態度をする長州閥、陸軍関係者たちが多くなってきたからな。奴らは陸軍が旧幕府軍との戦いで勝利したから今の日本があると思っている。それで、陸軍の意見(陸軍の予算増額)は認められるのが当然だと思っているから困る。」
ゴーン、ゴーン
「おっと、授業始まる時間になるから教室に戻る。藤伊、くれぐれも無茶はするなよ。」
「博打好きが言える台詞かよ。バーカ。」
山本の後ろ姿を見ながら小声で藤伊は呟いていた。
【でも、協力者が海軍大尉クラスばかりでは政界の大物や軍部の幹部クラス(少佐、中佐、大佐、少将)に接触するのは難しい。うーん。大物の協力者が必要だけど......。自分の利益になる行動しか彼らはしないから迷う。
誰かいないかな。一応候補に挙がっているのは山本権兵衛海軍大将。この人は陸軍嫌いだから、、(陸軍の発言力を削る策があるから協力させてください)、、とか言えば積極的に協力してくれると思う。けど、俺自身、彼を協力者にするのは微妙なところだな。】
藤伊が人事局の土屋局長から、、(山本権兵衛は海軍増強の八・八計画を強固に推し進めている)、、と聞いていたので結構迷っていたのだった。山本権兵衛は政党政治家たちにあまり嫌悪感を抱いておらず、協力して政権をつくってもよいと考えていた。それは海軍増強予算案を議会でスムーズに通過させるためであった。
藤伊は海軍増強の八・八計画に賛成していなかった。この計画により新たな戦艦が建造され新しく艦長、参謀など幹部(少佐、中佐、大佐、少将)のポストが増える。現在海軍大尉の藤伊が昇格し少佐になり、新型艦勤務になってしまうと観戦武官としてヨーロッパに行けなくなってしまう。
そうすると第一次世界大戦で失われてしまう歴史的な建造物や資料を永遠に見る機会がなくなってしまうからである。こんなアホな理由で八・八計画に賛成していなかったのであった。
他人から見れば、どうでもいいことかもしれないが藤伊にとってはこのことだけは譲れなかった。それだけヨーロッパの文化財を一目見てみたかったのである。
1911年7月23日
コンコン
「どうぞ」
ガチャ
「失礼します。今日付けで海軍人事局長秘書補佐になりました、角田覚治少尉候補生です。」
まだ20歳〜22歳ほどの若い士官が新しい海軍士官の服を着て藤伊に見事な敬礼し、立っていた。人事局長秘書室に入ってきたその士官を鳩が豆鉄砲をくらったみたいに見ている藤伊がいた。
【え!なんでこんなに若いの?なんで少尉もしくは中尉じゃないの?俺の補佐の仕事できるの?仕事量が増えたため人事局外から俺の補佐役を手配してくれるように土屋局長に頼んだのに....。完全にお荷物だよ、どういうこと?】
自分の聞き間違いかもしれないと思い藤伊は耳に全神経を集中させて
「すまないが復唱してくれないか。」
「わかりました。今日付けで海軍人事局長秘書補佐になりました、角田覚治少尉候補生です。」
角田は困惑しながらも大きな声で復唱した。
「やはり少尉候補生か。なぜだ?誰の横槍だ。角田少尉候補生、君はこの人事について何か聞いていないか?」
「いえ、何も聞いていません。ですが、土屋海軍少将閣下からお手紙を預かっています。」
、、(藤伊よ、すまん。人事局外からお前に合う優秀な人材を見つけることができなかった。だから彼で我慢してくれ。儂が元々補佐役に任命しようとしていた者が松本海軍中将の横槍によって却下されてしまったのだ。ほんとうにすまないと思っている。
角田少尉候補生はまだ若いから精神論主義者でないはずだ。だが、12月までしか彼を人事局内に置けない。彼は練習艦隊に配属される予定だった。それを儂が人事局長の立場を利用して補佐役に任命したからだ。
彼はお前に合う優秀な人材だと思っている。それと思ってもいなかった部署に飛ばされて戸惑っている彼を気遣ってくれ)、、と手紙に書いてあった。
そこには藤伊の知りたい人事について書かれいたが土屋に前から頼んでいたもっと重要な情報が書かれていなかった。何か他人に見られないようにカモフラージュされていると思っていた藤伊はさっきまで自分が飲んでいたお茶がまだ入っているコップの中に指を入れて、その指で手紙を濡らしてみたり色々試してが何も手紙に変化はなかった。
色々試して疲れている藤伊は何か知っているかもしれないと思い角田に聞くことにした。
「他に伝言や手紙か何かなかったか、角田少尉候補生?」
「あ、すいません。伝言なら聞いております。伝言は・・・本日天気晴郎ナレドモ浪高シ・・・です。」
「わかった。ありがとう。ああ、それと君もこの手紙を読んでいいよ。人事移動の理由がわかるから。」
すっかり伝言のことを忘れてしまっている様子だったので藤伊は昔の自分にもこんな時期があったと思いながら、怒ったりしないで角田に手紙を渡した。
「は、はい。ありがとうございます。」
角田はまさか手紙の内容を見せてくれることに驚きながら返事をし、手紙を受け取った。
【局長、優先順位がわかってますね。駐日ドイツ大使と非公式での会食ができるから、カール・リヒテルに何があっても駐日ドイツ大使館が介入してこないようにできるな。ヤッターーー。
まあ、シーメンス事件を公にしない最も簡単な方法はシーメンス社の日本支社員カール・リヒテルを暗殺して重りつけて海に沈めればいいな。いや、それは最後の手段だ。理想はカール・リヒテルがシーメンス社の機密書類を盗み出したところを俺らが捕まえてシーメンス社の機密書類だけ奪い、その場で彼を殺す。それで海に死体をポイっと重りをつけて捨てればいい。
後はその機密書類に少し手を加えてマスコミにリークして海軍内部の高官で精神論主義者たちを犯罪者にし、海軍から追放できれば上出来だ。俺は海軍大尉だからここまでが限界だろう。
ただ機密書類が手に入れば多くの海軍高官たちの弱みを握ることが出来るかもしれないから計画を練って実行することは自分の将来にとってもプラスになるからいいだろう。おっと、顔に出てるかもしれない。いけない、いけない。まだ角田君がいたからな。】
「急な人事移動で混乱しているかもしれないがよろしく頼む。わからないことがあったら遠慮なく言ってくれ。わからないままにしておくことが一番いけないことだよ。あと誰にもこれから君が関わる俺との仕事内容を話しては絶対にいけないから。」
藤伊は手紙を角田が読み終えたので一応注意点だけは少し大きめ声で言った。
「はい。」
角田は暴力的な上司でないことに安堵し返事をした。
「ああ、言い忘れていたね。最後になってしまったが俺は君の直属の上司になる海軍人事局長秘書で海軍大尉の藤伊栄一だ。よろしく。ようこそ海軍人事局へ。では、人事局内を案内しよう。ついてきたまえ。」
人事局を案内するために藤伊は角田を連れて秘書室を出て行った。