日独外交(1936年7月10日)
スペイン内戦に介入する為の前哨戦(?)です。
殆どさわりの部分しかないです(-。-;
1936年7月10日
『我が国とドイツとの対ソ連軍事協定の締結は不可能です。』
『ですが、西と東から共産主義を抑えることは重要であり、もし締結できれば貴国の海軍をわざわざヨーロッパまで派遣する手間が省けます。派遣費用を他に利用することが可能になるでしょう。』
ドイツ外務省のある部屋では日独外交が行われている。日本の海軍力、イタリアの陸空軍力、ノルウェー、スウェーデンの外交力のパワーにより、4か国に有利な欧州体制の構築が始まっていた。中でも、日本が今回派遣している戦艦長門が所属する過剰な戦力である第五艦隊の影響でより一層、この体制が現実を帯びてきた。
イギリス、フランス以外の国々の選択肢は、英仏、4ヶ国、ソ連、ドイツであった。どこの勢力の仲間になるかで各国は連日議論が行われている。選択を誤ると国の未来がWWⅠ後の敗戦国の状態となり、徹底的に潰されるからだ。
そんな中、ドイツから日本にある提案が持ち掛けられた。軍事協定を結ばないかと。現在、多くの国から見放されて若干孤立中のドイツは何としてでも味方を得ようと必死であったので、日本に軍事協定の話をしてきたのだ。この軍事協定は日本に大きなメリットがある。それは先ほど述べたようにソ連の西側、つまりヨーロッパ川をドイツが全面的に受け持つことで艦隊派遣をする必要がなくなり、予算の節約に繋がることだ。
『外務省としては全くのあなた方の意見に大変賛成していますが、生憎のところ、外交に関する最終的な決定は海軍省が行いますから。その為、外務省の独断で調印したらその一件に関わっていた者は刑務所行、決定です。』
日本側の代表団は頷いたり、苦笑いしていた。聞いたことはないが、内務省と海軍情報局によって粛清されることは強ち間違いと言い切れないだろうと、彼らは思っていたからだ。
『日本の海軍省か。そもそも、日本海軍は我が国ドイツを嫌うのだ?今回の艦隊派遣もそうだ。あれは牽制する為の戦力でなく、戦うための戦力であることは一目瞭然だ。すまない、言い方が悪かった、なぜそこまでナチスを嫌うのだ?』
ドイツ外務省でも日本海軍がドイツと言う国を嫌っているのでなく、ナチスを嫌っていることに気付き始める者が多くいた。日本海軍とドイツ海軍は技術交流がたいへん盛んであり、軍備制限期間中でも日本海軍の予算を利用して、ドイツ海軍の研究開発は継続されていた。むろん、研究成果などは日本海軍が利用していた。ドイツ海軍にとっても軍事技術の衰退を防げるし、大型艦艇を多数配備している日本海軍のノウハウも得られることから今でも続いている。
ドイツ陸軍はフランクフルト四ヶ国委員会設立後から委員会構成国のスウェーデンと交流が盛んであった。スウェーデンが強大化しつつあるソ連に対抗するためドイツ陸軍のノウハウを得て、自国の陸軍強化をしようと考えたからだ。
国際関係から見ても今のスウェーデンはドイツより立場が上であるからWWⅠで英仏と互角に戦ったノウハウや技術を得るには今しかないと考え動いたのだろう。それにより、スウェーデン陸軍力は数年前と比べても明らかに強力となっており、ドイツ陸軍は寒さの恐怖を体験していた。スウェーデン陸軍に配備され始めたドイツの技術と寒冷地対策が施された二ヶ国共同開発兵器はドイツ陸軍にも少数だが配備されることになっている。
ドイツの軍事産業はイタリア軍が最大の取引相手である。軍備が制限されている小規模になってしまったドイツ軍と取引を続けようとしても売り上げは右肩下がりだろう。そんな時イタリア軍が近代化と技術研究向上の為にドイツの企業をイタリアに移転要請をしたのだ。これには賛否両論とわかれた。
が、結局ドイツに留まっていても、活路は見いだせないとなり、多くの企業がイタリアへ進出した。リビア石油開発資金が世界中から集められていたイタリアは、その資金で国内インフラ及び軍隊の近代化を徹底的に推進し、五大国の一つとして堂々としている。
ノルウェーはドイツと特別な関わりを持っていない。それはどうしようもないことであった。ノルウェーは日本、イタリア、スウェーデンが自国の事で夢中な為、英仏米などをはじめとする国々との外交で手いっぱいだった。
イギリスからはソ連を抑えてくれるなら、不干渉とする。フランスからは、ドイツを抑えて、序にイタリアの強大化も牽制してくれ。アメリカからは、モンロー主義で何もできないから色々な批判が言われた。その他の国々からも、色々な注文やら批判があった。特に危機感を覚えるデンマークからの注文が多かった。周りの国々からは他の三ヶ国と比べてたら話が分かると思われていたのだろう。
その影響でノルウェー政府内部には巨大なストレスが溜まっていることにほとんどの国が気が付かなかったが、三ヶ国だけは気付いていた。それで、打開策としてノルウェー政府の要求をほとんど容認することになった。
10年以内にデンマークからユトランド半島北部(北ユラン地域)を取り上げ、ノルウェー領とすること。ドイツが暴走したら、真っ先にオランダ、ベルギーを潰すこと。前者は容認しなければ、ノルウェーが委員会構成国にドイツを入れると言い出したから、仕方がない。ドイツが入れば、めちゃくちゃに荒らされることが目に見えているから他に選択肢がなかったのだ。後者は希望的なことだった。
『意味もなく、その民族を排除する思想が容認できないだけです。それに国防軍とナチスの派閥争いが鮮明化し始めているのでは?ドイツ外務省は中立のようですが、いつまでその状態が維持できるでしょうか?』
ドイツ国防軍とナチスは様々な分野で衝突が発生している。特に民族問題で激しい対立があった。最近では国防軍上層部がナチスの政策や方針を真っ向から批判することも多々ある。
しかし、ナチスは国防軍上層部の者を罷免する事が出来なかった。軍部が四ヶ国の何れかの国と密接な関係にある為、不祥事が生じると何らかの問題が発生すると考えられていたからだ。
国防軍派閥にはドイツの多くの省庁がいる。暴力的な手段で政権を奪ったナチスに好印象が持てなかったからだ。支持できる政策もあったが、上から目線で指示してくるナチスの輩にウンザリしていた事が大きい。
特にナチスの私設武装集団、親衛隊と突撃隊の所属メンバーの多くは学がない為、自分達の意見が通らないと暴力的な方法で解決する事が多い。軍隊並みの教育が末端の者まで行き届いていないから、目に余る行動となってしまうのだろう。
国防軍は軍隊であるから、末端の兵士まで教育が行き届いており、暴力的な手段で解決しようとせず、話し合いで解決する手段を用いる為、必然的に多くの省庁が国防軍寄りになった。
『いずれ決断しますよ。それにしても不思議ですなぁ。四ヶ国の力を持ってすれば、ナチス政権なんて潰せるに関わらず、何もしない。』
『操りやすいからですね。護衛にも多くの人材を投入しますから、こちらは監視が疎かになって動きやすいです。ああ、此れだけは言っておきます。貴国、ドイツの軍事的な戦略には大日本帝国は一切反対していません。』
『ふむ。ノルウェーいる日本海軍の艦隊の一部も我が国の牽制ではなく、ソ連とデンマークへの威嚇か......。』
ノルウェーの海軍基地に停泊中の妙高型重巡2隻、長良型軽巡2隻、駆逐艦5隻は北ヨーロッパの国々に緊張感を与えている。イギリスを除く国々には対独用の貧弱な海軍戦力しか無く、これ程戦力を保有していなかった。
共同で対応すれば、抑え込めることは出来るかもしれないが、あまり刺激を与えてしまうとイタリア海軍基地に停泊中の戦艦長門、妙高型重巡2隻、駆逐艦5隻をノルウェーに招く恐れがある為、何も出来ずにいた。
唯一対応出来るイギリスは在英日本大使と会談後、自国への不干渉と対ソ牽制を条件にドーバー海峡とジブラルタル海峡の通過を許可した。表向きは対ソ牽制の為に日本海軍を動かした事になっており、イギリス国民から多くの支持が得られていた。
寄港地をノルウェーにしたのも理由がある。デンマークから10年以内にユトランド半島北部を割譲し、ノルウェーに譲渡しなければならないからだ。デンマークを始めとする小国への軍事的な圧力によって、彼らの口を閉じさせるためでもあった。
『日独防共協定の締結は不可能ですが、個々での交流は積極的に行いたいと考えています。』
『その言葉だけでも十分です。今回はありがとうございます。』
日独代表者が握手を交わして会談は事実上終了した。ここから、個々での日独交流が活発化し始めるのである。
『ヤマグチ大佐、この艦隊でデンマークの奴らを吹き飛ばしてくれんか?』
ノルウェー海軍基地に停泊中の第五艦隊第二群の旗艦重巡妙高の主砲を手で触れながら、じっくりと見ているノルウェー人の老人が言った。この基地には妙高型重巡2隻、長良型軽巡2隻、駆逐艦5隻が停泊している。いつもは小型艦艇ばかりで閑散としているこの基地は日本艦隊が停泊している事もあって、大変賑わっている。
『首相、主砲の砲身に頭を突っ込む事は危険です。誤って暴発しては目も開けられません。』
『ぬはっはは!いいのだよ。今、私は大変機嫌が良いのだ。』
こんな奴が一国の首相でいいのか、と周りの日本軍人達は思っていた。日本艦隊が寄港した事により、周りの国々の小賢しい対応が極端に減ったからだ。これはノルウェー政府全体に言えることでもあった。それで、ノルウェー政府としても1日でも長く滞在してもらう事が当面の目標にすり替わっていた。
ノルウェー軍人達はここぞとばかりに艦艇の観察を行っている。21世紀のノルウェー海軍はミニイージス艦と潜水艦を数隻配備している。ノルウェーは北海と大西洋に面しており、海軍戦力を強化することが当然とも言える。
第一次世界大戦による技術革新、現在の海軍休日の影響でアメリカ、イギリス、日本の三大海軍と他国の海軍とではあまりにも差が開き過ぎており、到底ゼロから追いつく事が困難を極めると誰もが知っている。だから、ノルウェーは協力体制によって海軍強化を努めようと考えたのだ。
『はぁ。それと確認なのですが、海上演習を行ってよろしいのですか?』
『問題ない。イギリス、スウェーデンには事前連絡しているし、その他の小国に連絡する必要性を感じないから大丈夫だ。それに、私も乗艦できるのだろう?ワクワクするぞ。』
ノルウェー近海で艦隊は海上演習を行う事になっていた。海上演習といっても実弾射撃を殆ど行わず、航行をメインにするつもりである。重巡にノルウェー政府関係者を乗艦させて、彼らの御機嫌を取ることも忘れてはいない。
藤伊と言う人物を知らない山口なら御機嫌を取るなんてしないだろう。だが、政府上層部とコネクションを個人的に持つことがどれ程大切か知っているから、部下達の反対を押し退けて、ノルウェー政府関係者と約束したのだ。なぜなら、藤伊が個人的な日本政府関係者とコネクションを利用し、好き勝手に行っている事を知っているからだ。
『もちろん、首相にも乗艦してもらいます。』
『がはっははは!楽しみにしておるぞ!』
首相は呑気にステップをしながら、見ている此方がヒヤヒヤする脚取りで首相専用車に向かっていた。
「栄一さん、何か悪巧みが思いついたのですか?」
「うん?なんで?」
「すごくうれしそうな顔をしていますよ。」
「大金が手に入る準備が整ったからね。スペインには同情するがフランクフルトが自治を保つためにも仕方がないしね。」
千代子は藤伊が見ている地図を覗き込んだ。イベリア半島南部で地中海に面している街カルタヘナにチェックがされていた。現在、スペインは内戦状態に陥り、ドイツ、イタリアが直接支援する反政府軍とソ連と国際義勇軍に支援される共和国軍にわかれていた。カルタヘナは共和国軍が支配する唯一の海軍基地であった。そしてそこには、スペイン銀行が保有する大量の金が保管されている。
フランス銀行を経由して武器調達が行われていた。しかし、中立のイギリスがこの取引を批判したり、武器調達が思うように進まなくなったりで、ソ連から援助を得ようと考えた。が、ここで思わぬ提案を日本が持ちかけてきた。
スペイン銀行の保有する金を日本、スウェーデン、ノルウェー、の三つの中央銀行に分散して内戦終結まで保管する、提案だった。むろん、護衛は欧州に派遣中である日本海軍第五艦隊が行う。反政府軍に渡されることだけは避けたかったスペイン銀行の目論みに漬け込んだ提案である。
三ヶ国とも、元からスペインに返還するつもりなんて更々なかった。そんな魂胆が見えかけているのにも係わらず、スペイン銀行は了承した。カルタヘナの近海がイタリア海軍によって航海する船を海上検閲していた為、イタリアの同盟国に頼らなければ、輸送困難と思ったのだろう。
スペイン内戦に介入です!
お金の為に〜
欧州派遣費の元は余裕で取れそうですね。
藤伊千代子とエヴァ・ブラウンの話はスペイン内戦後になります。




