深刻なこと気づいてしまった
沢山の人に読んでいただき感激です。3話目投稿しました。
1906年1月
「東郷平八郎閣下は我が大日本帝国海軍が欧米諸国の海軍と互角に戦えることを世界に知らしめてくれた。尊敬に値する武人だ。皆もそう思うだろう。」
金魚のフンの事、嶋田繁太郎がまるで自分の功績の様な口調で言った。
「ほー。」
【なに堂々と話してやがる嶋田。互角に戦ってねーよ。日本+イギリスVSロシアだろうが。】
嶋田繁太郎を絶対に自分の部下にしない藤伊は心に決めた。上司である藤伊の輝かしい功績の横取りをする可能性が高いと感じたからだ。
「うむ。嶋田は良いことを言う。海軍軍人なら皆閣下を尊敬する。」
「マニュアル通りの答えか。」
【同意するなよ、堀君。山本、塩沢、吉田もうなずくな。まあ、若手だから興奮してしまうのも仕方ないか。】
マニュアル通りの答えを本気で正しいと思っている彼らに愕然としていた。マニュアル通りの答えが正しいと教えられてきたから仕方ないかもしれない。
でも、まだ50年の歴史もない大日本帝国海軍のマニュアルが当てになるはずがない。イギリスからマニュアルを輸入したかもしれないが、それはイギリスが様々な経験から出来上がったイギリス専用マニュアルである。日本専用ではない。
「それよりロシア大丈夫かな。赤化しないかな、心配だなあ。ロマノフ朝時代の歴史的作品、資料が失われたら、マジで困るし。」
一人ごとにようにぼそぼそつぶやく藤伊の言葉は誰にも聞こえなかった。聞かれていたら・・・なぜそんなことを思う・・・など質問されていなだろう。
【でも、いつになったら外国行けるのわからん。日英同盟してるから・・イギリスにじゃんじゃん留学生を・・みたいなキャンペンでもやれよ。貧乏でもやる価値はあるのになんらかの行動をしない。上層部はアホか。どうせ若手と同じように浮かれているだろう……。】
【上層部奴らは皆、第二次世界大戦を経験しないからいいよ。俺はこのまま順調にいくとそのヤバイ時上層部メンバーになる可能性が高い。負けたらトウジョウ首相のように処刑だぞ。馬鹿騒ぎしてるエリートたち兼友達も死ぬのか……。】
ヤバイ時代とは第二次世界大戦である。敗戦後の日本の指導者の多くが処刑された。もし、敗戦後まで生き残っていたら処刑者リストに載ると考えられる。
「あ、良いこと思いついた。俺をいれて六人を第二次世界大戦中、中立国の大使館付き武官になればいい。そうだよ。Nice ideaだ、俺。」
勝手に一人で言い出して喜んでいる姿は猿がえさをもらって喜ぶ様子のようであった。
【1907年にハーグ平和会議があるはずだから、雑用係としてでも連れってくれないか。いかん、ハーグ密使事件しかピンとこない。日本側の代表の名前さえ分ればいいのだが、分からないからどうしようもない。中学時代の日本史の授業まじめに受けるべきだった。】
そんなことを今頃思っていたってしかたがないのである。勉強をまじめにやっても意味がない、役に立たないと思っていてもどこかで役にたつ時がくるからしっかりやるべきだ。
「何をそんなに悩んでいる。相談に乗ろうか。」
「ありがと、堀君。海外に行く手段教えて。」
調子のいい奴である。散々心の中で批判しておいて使える時だけ使う。海軍兵学校で主席を取れるくらいだからなんでも知っているだろうと考えたのだろう。
「大使館付き武官になるか、遠洋航海など方法はいくつかあるが。そもそも、どうして海外に行きたいのだ。」
当然の疑問である。
「歴史的建造物や資料をみるためさ。それと、進んだ技術を生で見て、体験したいからだよ。」
【エーーーー。海外に行きたい理由を尋ねるだと。堀君、あなた海外に行きたくないの。俺の理由は答えるまでもないでしょ。21世紀レベルの生活をもう一度体験したいからだよ。】
21世紀の生活がどれ程豊かで便利な世の中だったことを思い知らされたからだ。ゲームも携帯もない生活はそれに依存していたので幼い頃から欧州に行くことが夢になっていた。動機は結構最悪だが。勉強しに行くなんてこれポッチも考えていなかった。
この時代は欧州に行くことが困難だった。飛行機がないから船で行く。そのため旅費は高い。一個人では旅費が出せない為、政府が旅費の負担して優秀な人物を欧米に送っていた。帰国後に彼の地で手に入れた知識を日本の為に使って欲しいと考えていたからである。
「成るほど。」
自分と別の視点から物事を捉える藤伊であっても自分と共通な部分があってホッとしている海軍兵学校主席の堀であった。欧米の進んだ技術を学ぶことだけ一致していた。
藤伊の考えを知ったらたまげるかもしれない。
「う、そうだよ。」
【 堀君、真剣な顔をしたまま俺の顔を見ながら言うの止めてほしいけど。】
堀からしてみれば藤伊が海外に行きたい理由は勉強のためかと一人で納得して尊敬の目で見ていたのだが藤伊からしてみればただじっと見られていて気持ち悪かった。
「なにこのエスカレーター組織。」
【最近よく思うけど軍人では年功序列制がしっかりしすぎているから失態さえ起こさなければ中尉に昇格できる。】
藤伊は中高一貫教育校のようなエスカレーターみたいに階級が上がっていくこと海軍という組織は自分にピッタリの職業だと感じていた。
「給料アップは嬉しいですなぁ。」
【あー驚いた。】
でも、大尉は30歳までになれるのがほとんどだ。人によってすぐなる人もいれば、全然なれない人もいる。大尉に昇格できないと海軍大学校に入学もできないことができない。
ここを卒業できたら、スーパーエリートとして海軍中枢で働くことができるようになれる。しかし、その後のキャリアアップは自分で磨いてやるしかないのであった。
藤伊は海軍大学校に入学できたとしても入学しないつもりだった。そんな事してたら第一次世界大戦開始してしまう。堀君(海軍兵学校首席)みたいな奴らが入学するべき所。エリートはエリートの道を歩くべきである。
「ああ、Very Goodだ。1年半ぐらい海の上での勤務の中でやっぱり戦闘艦よりも練習艦「宗谷」の勤務がいいわ。」
なぜなら、ガチの戦闘をしなくてもいいからだ。そ、れ、に、藤伊は今海軍中尉だから練習艦「宗谷」の分隊長心得である。つまり、部下が勝手に色々やってくれるからほとんどすることなしのだ。
「サイコーーーーー。」
【海軍兵学校卒業してから一番うれしい転属先かも。邪魔者が来ませんように。】
まあ、人生そんな簡単にいかないものであることをまだこのときの藤伊は知らなかった。