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ワシントン会議(1922年9月10日)

ここまで連続更新です。

1922年9月15日


「千代子が作ったご飯が食べたいなぁー。」


「あのー、藤伊大佐、部下に示しがつきません。真面目に仕事をしてください。」


藤本喜久雄海軍造船少佐が言った。藤本喜久雄は平賀譲海軍造船担当と激しく対立した人物だ。藤本は先進的で柔軟な考え持ち、反対に平賀は保守的な考えの持ち主だった。


二人とも大日本帝国海軍を影から支えた人物であることに間違いはない。ただ、藤本喜久雄は上官で年上の平賀に負けてしまうことから、藤伊が支えてやろうと思っていた。


藤伊の3歳年下だから藤伊の年上である平賀より扱いやすいと感じていたことも事実である。


「わかっているよ。ここ横須賀海軍工廠で建造中の長門型2番艦について上層部に説明することだろう。」


藤伊は建造中の長門型2番艦陸奥を指差して言った。


「そうですよ。ちゃんと上層部がわかりやすい報告書を書いてください。」


藤伊は建造中の陸奥について報告書を書くため横須賀にきていたからだ。藤本は補佐役として随伴していた。


「ふーん。1年以内に進水予定だよね。」


「正確には1年1ヶ月以内ですが。それがどうかしましたか?」


「なんでもない。」


【1年1ヶ月以内に完成か......。震災で大破しないかね。今のところ、伊勢型戦艦2番艦日向がないから、維持費と人件費は、史実より多少減っただろう。陸奥より大和でしょ。】


藤伊は、素っ気ない返答した。


「でも、よく暴動化しませんね。新聞では結構騒いでいるじゃないですか軍部の軍縮。」


藤本が疑問を口にした。


ワシントン会議により、太平洋平和のための四ヶ国により日英同盟消滅、五大国の海軍軍縮条約調印、中国のための九ヶ国条約調印があった。


アメリカ、イギリス、日本、イタリア、フランスで海軍軍縮条約が調印された。


日本全権代表土屋保海軍大将による、一部の大日本帝国本国海軍上層部の意向を無視した内容で条約調印された。


1、戦艦は、合計排水量30万トン。

2、空母は、合計排水量8万1千トン。


ただし、長門型戦艦2番艦陸奥は、建造中だったが、アメリカに3隻、イギリスに2隻、41cm砲搭載戦艦の保有が例外として認められたので陸奥の存続に賛成した。


その為、加賀戦艦3隻が航空母艦に改造されることも許可された。3隻の合計排水量は書類上で7万3千トンになる。書類上の空母鳳翔の排水量、7千5百トン。


総合計排水量8万1千トンを書類上は上回っていない為、3隻の許可されたのも理由の一つだ。


対価として薩摩型戦艦2隻、戦艦摂津、香取型戦艦2隻、敷島型戦艦3隻、富士型戦艦1隻は、廃艦及び練習艦などになる。


条約で新たに大型艦艇建造が禁止されたので天城型巡洋戦艦は計画段階で廃案となった。


1万トン以下の巡洋艦なら建造可能のため各国は巡洋艦建造にシフトしていく。


この会議で日本がロシア革命中に占領した北樺太とウラジオストクの領有が承認された。しかし、山東半島の返還させられ、中国に対する21か条要求が却下された。


保有艦

戦艦、扶桑、山城、伊勢、長門

巡洋戦艦、金剛、比叡、榛名、霧島

空母、鳳翔


建造中

戦艦、陸奥

空母、加賀、土佐、紀伊


「親父が、警察をフル動員してなんとか、抑えている感じだよ。」


「抑えているより、潜在的危険分子を処分されているのでは?軍事関係企業には定期的な監査を行っていると新聞に書いてありましたよ。」


徹底した潜在危険分子の処分をする警察に恐れ、新聞社、軍部関係者も縮こまっていた。


特に新聞社や出版社に対する対応が徹底していた。毎日、警察官が記事の内容について監査を行うからだ。監査に引っかかると1週間営業停止にさせられた。


政府の重鎮達には護衛の武装警官がいつも彼らを護衛していた。先走った者による暗殺は出来なかったのである。


議員の大多数が軍備縮小を唱えた事で陸軍も軍縮を行う必要があった。陸軍もこの議会の決定に反対する者もいたが、でっち上げた罪により問答無用で逮捕されていた。


軍人の逮捕者は軍内部の裁判でなく、一般の裁判所が行っていた。軍内部の裁判では罪の軽減を行う可能性を考えられていた。裁判所と警察が裏で繋がっている裁判を行う方が強固な態度で事に当たれるからだ。


「べーつに俺らが、迷惑を受けていないから、関係ないでしょ。早く家に帰りたいなぁ。」


「そうですが......。はぁー。だらしないから、しっかりとしてください。どんだけ彼女のことが好きなんですか......。」


藤本は、藤伊の上の空の顔に呆れていた。


「あー、でも、結婚はまだ2〜3年先だよ。学校を卒業するまで待つからね。ちゃんと勉強する必要があるし。」


「表向きはそうかもしれませんね。でも本音は、新興貴族である藤伊子爵家が山田伯爵家に釣り合うまで待ってもらうのことですよね?」


「なにそれ......?」


【えーと、勝手に変な解釈されているけど......。何者こいつ?】


藤伊の顔は宇宙人を初めて見た人の様な顔だった。


「私は、藤伊子爵家が十分良家と釣り合うと考えています。」


「あー、そうですか......。でも、教育は大事だぞ。知は力だ。それはお前が一番わかっていると思うがね?造船に関する知識がなければ、ここにいないだろう?」


「そうですね。知は力です。」


藤本は納得したように何度も頷いていた。


「藤伊大佐、メモが終わりました。」


横から宇垣纏海軍少佐が言った。


「おう!ありがとう!」


「事務的な仕事は藤伊大佐がやったところを見たことないですよ。」


「藤本少佐が俺に連絡せず、宇垣少佐に連絡するからだろう。だから、俺にやる事務作業なんて何にもないよ。」


藤伊は勝手に自分のいいように解釈していた。事務作業をやりたくない自分の言い訳でもあった。


「藤伊大佐に言ってもやらないから、宇垣少佐に連絡しているのです。」


「大佐に言っても何も意味がないですよ。」


「宇垣少佐はなぜ面倒ごとを引き受けているのですか?」


藤本は前から疑問に思っていることを言った。


「字を書くことが好きですし、報告書に自分なりの意見の反映が出来ます。一応、大佐は出世街道を走っている人物ですかね。」


宇垣は藤伊を全く尊敬していない素振りで言った。


「まあ、藤伊大佐は海軍大将の土屋海軍兵学校長の懐刀だからね。天皇陛下の絶大な信頼を寄せる土屋大将が中心の近代派にいれば、出世出来るからな。」


藤本少佐は何となくだが自分に声をかけてくれた藤伊に感謝していた。藤伊の知り合いになった瞬間海軍造船少佐になれたからだ。


土屋大将はワシントン会議後から若手人材育成のため海軍兵学校の校長になっていた。


これも天皇陛下から、、(海外駐在経験があり、ユトランド沖海戦に勝利した艦隊の提督を退役させるのは、国益に反する)、、と言われたからだ。


土屋の年齢は74歳だった。その代わり、就任期間中の海軍兵学校の全権を一任されていた。就任期間は6年間だった。


角田海軍少佐も海軍兵学校の教員として広島にいた。


「あー、宇垣少佐。俺が前から言っておいた技術者や労働者の労働環境改善は実行されていたか?」


「はい、されていました。呉工廠も労働環境改善は、されていたと報告を角田少佐からもらっています。」


藤伊は海軍造船関係者の労働環境改善が行わなければ、艦政本部所属の自分の命令を実行してくないと思っていた。


将来、艦政本部長になっても現場から支持があれば、何かと色々やりやすいと思っていた。


「藤伊大佐。労働環境改善のために呉工廠では大規模工事を行っていると聞きますが、よく予算が下りましたね。」


「藤本少佐、それは私がお答えします。理由は、予算がたくさんあることです。ワシントン会議で計画段階で廃案となった新型巡洋戦艦1隻分の予算がありますから。」


宇垣が割り込むように言った。藤伊がさり気なく藤本から距離を置いていたからだ。答える気がなくことを態度で示していた。


「1隻分?計画では、4隻だったのでは?」


「2隻分の予算は、政府のインフラ整備費にあてました。1隻分の予算は、金剛型巡洋戦艦4隻の改装費となりました。」


宇垣は淡々と言った。信じられないことをさっらと言ったのだが......。


天城型巡洋戦艦の予算は1隻だけの建造費が国会を通過して認められていた。政府から建造費返還や、来年度の海軍予算削減を避ける為の行為だった。


対価として海軍は政府に天城型巡洋戦艦2隻の建造予算を譲渡することにしていた。


海軍の反対もなく、2隻分の巡洋戦艦建造費をインフラ整備費にあてれることに政府は満足していた。海軍の反ワシントン体制達も金剛型巡洋戦艦4隻の改装費として1隻分の予算を得ることで納得していた。


それで、労働環境改善費に浮いた元建造費を勝手にあっててもどこらも文句は出なかった。海軍が労働者の環境改善をしたことにより、陸軍でも技術者や労働者の労働環境改善が必要となってしまうのだが......。










「お前の結婚相手はよくわからん人物だな。藤伊子爵からも変わった息子だと聞いていたが......。まあ、ともあれ政界と経済界に影響力を持つ藤伊子爵家と関係が持ててよかった。」


山田伯爵は何時度となく笑顔だった。二人は和室で机を挟んで向かい合うように座っていた。


「はい、父上。良い縁談を見つけてくださりありがとうございます。」


千代子は座りながら腰を折って言った。


「学校に行けて嬉しいのか?嬉しくないならば、藤伊子爵に言って式を今すぐ挙げることも出来るぞ。藤伊子爵は、早く結婚してほしいと言っていたからな。」


「いえ、学校は楽しいです。それに学費は全て藤伊子爵家が出してくれますから、それに答えるためにも行くべきだと思います。」


千代子は15歳になっていた。宮内省が運営するある官立学校に在学していた。学費は藤伊子爵家が全額持ち。藤伊栄一自身が教育をお願いした立場であっても、全額負担は山田伯爵家を驚かした。


藤伊子爵家は大戦景気で儲けた金が大量にある為、気に留めないことであった。官立学校は授業料が高く、私立学校は授業料が安かった。


「それもそうだ。2、3年先には嫡男を納得させる人物になれ。彼も偶にお前の手料理を食べに来るし、好感は持たれておるな。」


藤伊栄一は山田伯爵の家に千代子の手料理を食べに1ヶ月に2回ペースで訪れていた。手料理と言いつつも、千代子とのコミュニケーションをとるために来ていた。


栄一は妻の不倫防止にコミュニケーションが欠かせないと判断したからだ。案外、以前、山本が言ったことを気にしていた。


今の栄一にとって千代子は自分の娘の様に思えて可愛かった。37歳になれば娘の1人いてもおかしくない年頃である。


実際は自分の奥さんになるのだが......。


「......はい。」


千代子は小さい返事をした。


「なんだ、歯切れが悪いな?思い人でも出来たのか?誰だ?そいつの名を言え!懲らしめてやる!」


山田伯爵は娘の千代子を睨み付けて怒鳴った。


「そうではありません!ただ、不安なだけです。私を大切にしてくれる事に大変感謝しています。私が、あの人と釣り合うのかどうか不安なのです。」


千代子は切実に思う気持ちを言った。


「知は力なり。彼の知らない知を身に付ければ、彼と釣り合うのではないか?彼にだって知らんことの一つくらいある。要は自分が知らない分野でお前に支えてほしいと考えているのだろう。」


「知は力なり。あの人が言っていた言葉ですね。ありがとうございます、父上。これで、不安は無くなりました。」


「うむ。不安がなくなったようでなによりだ。」


娘の千代子の反応を見るからに不安がなくなっていたようだったので、山田伯爵は満足気に言った。


山田伯爵は娘の千代子が不倫しないかが心配であった。貴族の娘が一般男性と駆け落ちする事件があったからだ。


「あの、父上。新婚旅行先が欧州とは、本当なのですか?」


千代子はモジモジしがらボソッと言った。


「まったく、儂も信じられんがな。そう言えば、彼が、、(英語、フランス語、ドイツ語を完璧にマスターしてほしい)、、と言っておったなぁ。」


「本当ですか!偶に二人しかいない時は英語で話しかけてきますから。」


千代子は声を張り上げて言った。


戦前の女性は島国である日本から欧州に行くことがあまりなかった。


「何を浮かれておるのだ。向こうで何年か暮らすんだぞ。」


「へ!」


千代子は一瞬頭の中が真っ白になった。


「何だ聞いておらんのか?彼が欧州の駐在武官となるから、妻であるお前をついて行くという意味だぞ。」


山田伯爵は呆れ顔で言った。



次回は不定期の更新になります

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