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戦後のドイツ(1919年1月28日)

ドイツです

1919年1月28日


1918年11月11日にドイツと連合国が休戦協定を結んだ。これにより、膨大な戦死者をだした第一次世界大戦が事実上終了した。


「やっと、ベルリンに着いた!」


「藤伊中佐、大きな声を出さないでください。我々は、連合国ですからドイツ人の敵ですよ。」


角田中尉が周りを気にしながら言った。一応、戦争は終わっているが戦勝国の軍人が敗戦国の首都で歩いていて民間人に襲われないとも限らない。


「心配し過ぎ。ストレスで将来禿げるぞ!」


「ストレスの元凶である藤伊中佐に言われたくありません。」


角田中尉の顔には疲れが出ていた。藤伊と角田は休戦協定が結ばれた数日後、連合国軍人視察員となってドイツ首都ベルリンへ向かった。


連合国軍人視察員とは降伏したドイツへ真っ先に乗り込むことが出来る肩書きだ。この役は土屋が英国政府と交渉して出来るものである。


名目上は敗戦国ドイツの都市に連合国の役人を送り込んでも問題ないか見てくる役である。


「それって、ツンデレ?男のツンデレほど醜いものは、ないぞ!」


藤伊は頭を抱える真似して言った。


「藤伊中佐の独特な言い回しはやめてください。理解出来ません。」


『日本軍人さんが、ドイツ帝国海軍本部に何の御用ですかな?』


ドイツ帝国海軍の軍服を着た若い士官が言った。

藤伊と角田はドイツ帝国海軍本部の建物の前で騒いでいたのであった。


「「え!」」


藤伊と角田は驚いた顔をしていた。二人はドイツ帝国海軍本部の建物の前にいると思っていなかったからだ。


『私はエーリッヒ・レーダードイツ帝国海軍中佐です。』


エーリッヒ・レーダー、ナチス第三帝国海軍のトップになる人物だ。


『えーと、自分は大日本帝国海軍中佐の藤伊栄一です。こっちは部下の角田覚治海軍中尉です。』


藤伊は焦って自己紹介した。割りかし後の世では、有名なエーリッヒ・レーダーだったからだ。


『ユトランドにいたのか?』


『ああ、そうだ。』


『そうか......。』


レーダーは藤伊の顔を見て苦笑いした。


『何がおかしい?』


【なんだ!こいつ馬鹿にしてんのか?お前、敗戦国の軍人だろう!ちょっとは、態度を改めろよ。】


レーダーの態度は全く藤伊に敬意を払っていなかった。藤伊はそれにムカついていたのだ。


『サムライは、伊達でなかったようだな。』


『大日本帝国海軍が陸軍国家のドイツ帝国海軍に負けるはずがない。』


藤伊はドイツ人のレーダーがいる前でも、堂々断言した。


『英国海軍、米国海軍でも、勝てるのか?』


『勝てるかだと?違う!勝つんだ!!俺の道を阻まむ者は、潰すだけだ。』


藤伊は若干レーダーを睨んでいた。角田は藤伊とレーダーが直接行為まで発展したら止めるつもりだった。そのため、藤伊の後ろでソワソワしていた。


『策はあるのか?』


『ある。だが、足りない物もある。だからここまで、Uボートを貰いにきた。』


『予約か。なるほどね。』


敗戦国ドイツ帝国海軍の軍艦などの連合国各国への引き渡しは始まっていた。だが、イギリス、アメリカが優先となるため日本には欧州の最新技術が手に入れられない可能性があった。


『せめて、1隻は最新艦が欲しいからね。』


『いいぞ。ついでに色々と買い取ってくれ。日本海軍には、キールの件で何かと礼があるからな。』


休戦協定が連合国と結ばれたドイツでは、革命が発生していた。社会主義国家になろうとする革命だ。史実では、軍と政府が結託して革命派を鎮圧した。


今回は休戦協定後すぐに英国で待機中だった第二派遣艦隊をキール軍港に向かわせた。キール軍港では休戦協定後でも市民と兵士達が暴徒と化して軍上層部や政府も手の打ちようがない状態だった。


キール軍港周辺海域に到着した第二派遣艦隊はキール軍港及び市街地に向けて巡洋戦艦3隻の主砲による空砲を連日のように打った。精神攻撃であった。


表向きはドイツ海軍上層部からの協力要請としていた。


この行為により暴徒化していた市民達もことの重大さに気づいて次第に沈静化した。


『貧乏海軍に買い取る金はないよ。譲渡なら喜んで同意するがね。』












「おい、角田中尉。彼処にいるのは我らの害虫である松本大将と伏見宮少将だな?」


藤伊は角田の後ろで言った。


「あのー、藤伊中佐。自分の背中に隠れながら言うことをやめてください。周りの子供達が指をさして笑っていますよ。」


角田はうんざりしていた。上官であるけど、上官らしい行動をしない藤伊の世話に疲れていた。


それにドイツ人の子供達が指をさして笑っていたからだ。恥ずかしさを全く感じない藤伊と違い角田は心が折れそうだった。


「うん。やはり、松本大将と伏見宮少将だ。......軍服着るなよ、ドイツ国民が怯えるだろう。」


藤伊は海軍軍服姿の二人の行動が気になった。イギリス海軍からの情報では大日本帝国海軍派遣艦隊との作戦調整が土屋大将によって行われていると聞いたからだ。


職務怠慢状態になっているのには理由があると考えていた。戦勝国の一国である日本の軍人はドイツで好き放題出来るからである。


問題を起こされては講話会議で不利となることが目に見えている。


「なぜ中佐は、役人が着るようなスーツを着ているのですか?」


でも、角田は軍服のままだった。軍服に誇りを感じない藤伊が不思議だった。海軍中佐であれば軍服は、大切にするのが当然であった。


「軍服は嫌いでね。ラフな服装が好きだよ。スーツは、ここドイツで軍服以外で唯一着れる服装だと思う。」


「え!えー!藤伊中佐!どこに行くんですか?」


角田は勝手にどこかへ行こうとする藤伊を見て慌てて追いかけた。









「奇遇ですね。こんな異国の土地で会うなんて。」


藤伊は皮肉交じりに言った。藤伊の前には伏見宮少将が座っていた。伏見宮少将はレストランのテラス席に座っていた。


藤伊は伏見宮の目の前の空いているイスに座った。


「中佐が後をつけて来たの間違いではないか?」


伏見宮少将も皮肉を言った。


「いいえ、いいえ。私は、ドイツ視察という任務があります。暇を持て余している訳でございません。」


「ほー、自分の位にあった働く真似は、覚えたようで感心したぞ。」


伏見宮と藤伊の皮肉の言い合いになっていた。


『そこの可愛いお嬢さん。俺にパンとビールをくれ。あー、こっちの人には、度数の一番高いビールをくれ。』


藤伊は店内に隠れていたウエイトレスを呼んで注文した。


『あ、はい。......わかりました。』


ウエイトレスは逃げるように店内へ戻った。


「ビールを奢ります。」


「いらん。アルコール度数の高いビールを飲ませるつもりだろう。」


伏見宮少将は席を立って街中に消えていった。









「あ、藤伊中佐。やっと追いつきました。」


角田が走ってこちらに向かって来た。


「何してたの?」


「ドイツ海軍の士官たちに囲まれていました。」


角田は疲れた様に言った。肩で息をしていた。相当探し回ったようだった。


「おい、角田中尉。なんだ、後ろにいる奴は?」


藤伊は角田の後ろにいるドイツ人士官の見て言った。


『こちらは、ドイツ海軍大尉のカール・デーニッツです。第一次世界大戦中は、潜水艦に乗艦していたそうです。』


『はじめまして、藤伊中佐。私はカール・デーニッツ大尉です。』


カール・デーニッツはナチスドイツ海軍潜水艦部隊総司令だ。英国首相チャーチルからは灰色の狼と恐れられた人物である。


『......、藤伊栄一中佐です。』


【おーい!第二次世界大戦の名将ばかりと知り合いになるなんて許せんぞ!】


藤伊は角田の凄さを目の当たりにしていた。


『藤伊中佐。終戦条約により軍隊が縮小されるとは、本当ですか?』


デーニッツは藤伊の顔色を伺いながら聞いた。階級が上であり、戦勝国の五大国と言われる大日本帝国の軍人だからだ。


藤伊はユトランドの名将、アドミラル・ツチヤの頭脳と言われていた。ドイツ海軍内部では有名な事であった。


藤伊と知り合いになれば、軍隊に残れるとさえ言われていたくらいだ。


『それは連合国の上層部が決めることだから、わからんね。でも、君を軍隊に残せる方法はあるよ。』


『......交換条件ですか?』


デーニッツは考えるように言った。メチャクチャな条件を言われると思ったからだ。


『あ、簡単な条件だから大丈夫。なーに、日本に来て潜水艦運用のノウハウを教えるだけでだよ。』


【潜水艦については南雲忠一大尉に押し付ければ、いいだろう。あいつも、角田と宇垣の様に俺を直属上司にさせよう。】


藤伊は南雲忠一大尉に押し付けるつもりだった。後世に名前が残る人物であるから優秀な人材だと判断していた。


『わかりました。ですが、どのようにして自分を軍隊に残らせるのですか?』


デーニッツは軍隊に残れる事が出来なければ、意味がないと感じていた。その為、軍人でなくなる事が不安だった。


『はい?デーニッツ大尉を在日ドイツ大使館付き武官にするだけだよ。ユトランドの名将土屋長官の推薦であれば、孤立状態のドイツに断る術がないし、日本政府も、長官に恩を売るため許可するはずだ。』


藤伊は土屋大将が協力してくれる事が前提で勝手に話を進めていた。まあ、土屋大将もそれくらいのことなら普通に協力するだろう。


『は、はい。ありがとうございます。』


『じゃねー。』


【スゲー。名将が、俺を尊敬の眼差しで見ている。】


藤伊はデーニッツ大尉の言葉に内心感動していた。でも、他人から見れば、藤伊はまるで未来が見えている様な行動をする戦略眼の持ち主だった。










『角田中尉。藤伊中佐に紹介してくれてありがとう。』


デーニッツ大尉は角田中尉と握手をした。


『大尉が潜水艦に乗艦していたと聞いて、中佐に紹介したいと思いました。藤伊中佐はドイツ海軍が行った無制限潜水艦作戦を一回も批判しませんでしたから。』


角田は藤伊が非人道的作戦を一切批判しない理由に気づいていた。戦争は勝てばいい。藤伊はこう思っているに違いないと推測していた。


『あの作戦を一切批判しないとはなんとも肝のすわった人ですね。角田中尉は反対ですか?』


デーニッツ大尉は藤伊が自分を受け入れた理由がわかった気がしていた。敵国であったドイツ軍人にも、対等の立場で接してくれたことに感謝していた。


『大日本帝国が貴国ドイツ帝国と同じ様な立場であり、自分が将校なら作戦実行を命じます。次の戦争では、批判されないと思います。』


『次の戦争ですか......。ドイツがUボートで他国を圧倒するには、200隻以上の数が必要です。無理でしょうがね。』


『ドイツでの建造はほとんど出来なくなると考えられます。では、海軍国家である我が大日本帝国で建造すればよいのでは?』


角田は話していながら藤伊が先ほど言ったことの意味を理解し始めていた。


Uボートの建造を大日本帝国が請け負うことは可能である。経済協定などをして、ドイツの優れた技術の輸入して建造する。


しかし、運用のノウハウが全くない大日本帝国海軍には、宝の持ち腐れである。だから、潜水艦運用ノウハウを持つドイツ軍人に教えてもらう。


ドイツは技術継承ができて、終戦条約の制限を受けない五大国の日本で大量に建造が出来る。日本は潜水艦運用ノウハウが入手でき、ドイツの優れた技術を輸入出来る。


Win-Winな関係である。


『しかし、イギリス、アメリカが潜水艦建造の制限する国際条約を制定するかもしれない。それに日本で建造しても、ドイツまで大量に持ってこれるかどうか......。』


ドイツと日本は直線距離でも約1万kmある。基本海でしか行動が不可能な潜水艦が日本からドイツまで向かう航海は、とても長くなる。


航路は日本本土、日本領台湾、英領シンガポール、英領セイロン島、インド洋の横断、英領スエズ運河、英領ジブラルタル、ドイツキール軍港となる。


一応、経由地に英国の植民地が含まれているのは現在、日本と英国が同盟関係だからだ。


『大尉の言うことに反論するわけではないが、日本が建造しなければ、ドイツ海軍の潜水艦の保有数が短期間で莫大に増加することが不可能だ。』


『そうだな。でも、ドイツ海軍の本音としては、日本の強力な艦隊を派遣してもらえれば、潜水艦なんていらないが......。』


ドイツ海軍が水上艦艇の保有数を大幅に減らされことは目に見えていた。


戦艦や巡洋艦を大量に保有することには時間がかかる。短期間で大量に保有することはできない。


戦勝国である日本がこれから大規模な艦隊を保有するとしたら、ドイツに派遣してもらった方がドイツ本国で建造からするよりも良いと考えられる。


『こちらも努力するよ。』


角田は笑顔で言った。

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